転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

・大月(おおつき) 満(みちる) = 40代。一応主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向中。
・西野 ひかり= 20代後半。一応ヒロイン。総合商社角紅社員。大月の前ではデレる。社長の孫娘。
・西野美衣子(ミーコ)=日本列島物育成環境保護システムの人工知能。
・鷹見結(タカミムスビ)=マルス文明尖山基地管理人工知能だったがバージョンアップされた。
・大月瑠奈(るな)=マルス文明地球観測天体(月基地)管理人工知能『ルンナ』。月基地に保管されていた日本人標本から誕生。
・澁澤(しぶさわ) 太郎(たろう)=日本国総理大臣。豪胆。
・岩崎(いわさき) 正宗(まさむね)=内閣官房長官。
・岬(みさき) 渚砂(なぎさ)=東南海大学教授。
・天草 士郎=JAXA理事長。
・ロイド・サー・ランカスター=英国連邦極東軍司令官。提督(中将)。
・ソーンダイク=月面都市国家『ユニオンシティ』代表。
・ゼイエス=マルス人。プレアデスコロニーアカデミー特殊宇宙生物理学研究所 所長。
・ケビン=英国連邦極東首相。
・ジャンヌ=ユーロピア共和国首相。


地球復興計画

大月家の朝は家主のウォーキングで始まる。

総合商社角紅が福利厚生の一環で実施する社員定期健康診断において、メタボと高脂血(こうしけつ)症を指摘された大月は、ひかりの熱烈な励ましのもと、毎朝1時間程度自宅周辺を廻る散歩をする。

「ただいま~」

汗まみれの大月が帰宅するとひかりが起きて朝食の準備をしており、寝ぼけ眼の美衣子や結、瑠奈がダイニングにある椅子によじ登ってボーっとしていた。

 

ウォーキングで適度に汗をかいた大月がシャワーを浴びた後には、愛情重視のおむすび満載の愛妻弁当からマルス料理の開発を経て進歩(レベルアップ)したひかりの朝食が食卓に並んでいる。

「ひかり。ありがとう」

「では」

「「「「「いただきます」」」」」」

 

今朝も元気な声が大月家に響く。

 

「お父さん、今日から澁澤達や月の代表と話し合いがあるから結と瑠奈も参加させるわ」

美衣子が今日の予定を大月とひかりに告げる。

 

「学校休めるイエーィ!」

寝ぼけ眼だった瑠奈が刮目(かつもく)して椅子の上に立ち上がってガッツポーズを取る。瑠奈はホントにフリーダムである。

 

「普通は休んだ分澁澤先生の補習だよね?」

ひかりの突っ込みで瑠奈はすぐに椅子の上のフリーダムから転落する。

 

「その話し合いに俺とひかりは付いて居た方が良いかな?」

「お願い。お父さんの膝の上は至高の特等席よ。ねえ、ひかり?」

 

「そうね。私が独占したいくらいだもの」

 

「ひかりは夜の時間を独占しているのだから我慢して」

結が突っ込む。

 

「フアッ!!」

ひかりが真っ赤になるが美衣子は容赦(ようしゃ)しない。

 

「そろそろ弟が欲しいわ」

美衣子の言葉に結と瑠奈も(うなず)く。

 

「そういうことだから、お父さんは馬車馬のように(はげ)みなさい」

「・・・・・・」

 

大月とひかりは朝から三姉妹の攻撃で撃沈してしまった。

大月は「夜の運動時間」を馬車馬的に増やすことを決意しながら、ひかりにちゃんとしたけじめをつけたいと考えていた。

 

大月は次の週になったら入籍と結婚式を挙げたい旨をひかりの祖父 似志野(にしの)に相談しようと決意した。一方、大月の母親は依然として意識不明の重態であるが、容態(ようだい)は安定しており、ひかりとの結婚を大月は考えるようになっていたのである。

 

ーーーーーー

 

2021年11月21日午前9時 地球復興会議二日目【東京都千代田区永田町 首相官邸会議室】

 

会議の議事進行は官房長官の岩崎が行っていた。

「昨日の現状認識を踏まえ、本日から具体案の策定(さくてい)に入りたいと思います」

 

「まず地球上の避難民への支援だが」澁澤首相が話し始めた。

 

「欧州アルプス地方、北米大陸フロリダ、中東エルサレムとアフリカ大陸南端のケープタウン、オーストラリア大陸中央地帯に救助拠点と避難民収容「都市」を設置しましょう」

澁澤が各国首脳に提案した。

「エルサレム(イスラエル)とフロリダは月面国家ユニオンシティ、ケープタウンは英国連邦極東、オーストラリアは我が国が、欧州アルプス孤立都市にはユーロピア共和国が主体となって相互救助・支援ネットワーク作りをお願いしたい」

 

昨晩のうちに港区 飯倉(いいくら)の外務省 公館(こうかん)において、各国実務官僚レベルでの調整は完了しており、各国首脳は了承して次の議題に移っていった。

 

だが、それは暗にアフリカ大陸と南米・アジア地域の封鎖(ふうさ)と放置を意味していた。

会議参加者の誰もが理解していたが、誰も、異議を(とな)えなかった。

残された人類の資源では出来ることに限りがあるからだ。

避難民の支援と並行して地球環境の再生を図らなければならないのだから。

ーーーーーー

 

JAXA天草理事長が発言する。

「地殻変動鎮静化の方法としてアステロイドベルトからの小惑星を日本列島転移跡に設置、まではよろしいかと思います。

次の問題は大気圏の空気中に占める火山灰です。空気中だけではなく、地表や海底に降り積もるガラス質の火山灰は動植物の呼吸器系を(おか)し、地球海洋上や多くの湖沼(こしょう)酸性化を食い止めるために、アルカリ性中和剤の大規模散布が急務です」

 

ソーンダイクが発言を求めた。

「地球上で石灰質が多い地質はいくつか有ります。たとえば欧州のフランス地方、メキシコユカタン半島、トルコのカッパドキアは石灰質の地層が多い。これらの地区から最寄りの河川へ石灰岩を()かして海に流して付近の海水を中和するのが一つです。

大気中の火山灰は長期間とどまるので出来れば旧ISS(国際宇宙ステーション)からの気流操作で数か所に(まと)めてしまうか、雨雲と組み合わせることで地表へ雨と共に落とすことでしょうか?」

 

「気流操作はつまるところ気象操作ですよね?世界規模の気象操作等可能でしょうか?」

岬教授が疑問を感じて言った。

 

福島県沖の養殖カキ生け()視察から戻ったばかりのイワフネが発言を求めた。

何故かイワフネのスーツが海水で()れていたが誰も突っ込まなかった。

「気象「操作」は可能ですが、「制御」は予測不可能な事象が多いので過去の高度人類文明でも成功した(ため)しがありません」

 

「では衛星軌道上から地球規模でのアルカリ中和剤の散布となりますな」

ロイド提督が発言した。

「マルスのシャトルや地球の航空手段をもってしても地球規模の散布には到底(とうてい)数が足りませんな」

 

「地球低軌道から何重にも張り巡らせたハイパーループ路線で断続的に散布、でしょうか?」

イワフネがアイディアを出した。

 

「マスター、出番」

美衣子がゼイエスを呼び出した。

 

「ミーコ、聴こえているよ。イワフネのアイディアは面白いな。まるで銀河鉄道ではないか」

遂に完成したブルートレインのプラレールを背にゼイエスが上機嫌で言った。

 

「地球全域に散布するのではなく、何か所かジェット気流のポイントで散布すれば、後は気流が各地に石灰粉を運んでくれるだろう。だから、赤道上空、両極上空に貨物コンテナターミナルを設置してコンテナを連結して軌道上からジェット気流に触れてコンテナから散布すれば良い。まあ、貨物列車のようなイメージでしょうか」

 

「ハイパーループ路線は人類の技術で設置可能でしょうか?」

天草が質問した。

 

「時間的な余裕も無いので、マルスアカデミーのハイパーループ技術をアレンジします。実際の運用は鉄道運用みたいに組めますから、皆さんでも出来るようになるでしょう」

ゼイエスが答えた。

 

「なるほど。方法はわかりましたがアステロイドベルトの小惑星運搬や、地球衛星軌道上でのハイパー貨物列車運用に必要なエネルギーはどこから調達するのですか?」

岬教授が聞いた。

 

「良い機会だから、マルス文明のエネルギーについて説明するわ」

美衣子(ミーコ)が大月の膝の上に座ったまま、会議室にホログラム映像で立体的な正三角形を出現させた。

 

「この正三角形の中心部には特殊な磁場、ある種のエネルギーが発生するわ」

尖山マルス基地の自動防衛機構が稼働し、東京大停電後に出動した自衛隊と米軍を翻弄(ほんろう)させた一部始終を記録した映像が流された。

 

航空自衛隊のF4戦闘機の背後に複数の光球体(オーブ)が追いすがり、F4戦闘機がミサイルと勘違いしてフレアー(対ミサイル防御発光弾)を射出したり、山頂の空挺特殊部隊が水色の光に包まれて皆神山に転送されてしまう光景が出ると、

「この光球体(オーブ)や地上部隊を余所(よそ)に転送させるエネルギーは尖山中心部で派生したエネルギーを使っている」

なぜか(ムスビ)がフンスと薄い胸を張ってアピールするが皆は敢えて流した。

 

「フロリダ沖の海底にもマヤ文明人類が建設したピラミッドが不完全に稼働していて時々ランダムに近くの飛行機や船をあちらこちらに転送してたっすね!」

瑠奈(ルナ)がサラリと爆弾を投下した。

 

参加者がどよめいた。

 

「その、えっと、転送された飛行機や船はどうなったの?」

ひかりが自分の膝上に座る瑠奈に()いた。

 

「ん~、かつてのマヤ文明、ひいてはアトランティス大陸のどこかへ安全に転送された(はず)っすよ」

 

「アトランティス大陸は沈んでいるんだよね?」

大月が確認した。

 

「そうっすね!たぶん海の底のどこかへ安全に転送されてるっす!」

 

「よし瑠奈。後で「安全に」東京湾の海底へ沈めてもいいかな?」

引き()った顔の大月が人類を代表して瑠奈にお仕置き宣言した。

 

「えーっ!自分関係ないっすよぅ」

 

そんな瑠奈を無視して美衣子は

「正三角形の規模に比例して得られるエネルギーは変化するわ」

 

「だから、アステロイドベルトの小惑星を正三角形に加工して自らの運搬エネルギーを生み出すのが理想ね」

と言った。

 

「ふーむ。このピラミッドから生まれるエネルギーは「どこから」供給されるのでしょうね?」

岬が疑問を口にする。

 

「アカデミーでもそれは完全に突き止め、証明することが出来ていません」

プラレールが走り回る光景を映すモニターからゼイエスが言った。

 

「私達の居る三次元空間ではなく、さらに高い次元空間から得られる自然エネルギーだとマルスアカデミーでは推測しています」

 

未知のエネルギーと多次元空間について説明を受けた人類側の会議参加者達は唖然(あぜん)としながらも「そういうものだ」と納得するしかなかった。

 

こうして地球復興会議二日目が終了した。

 

――――――――――

2021年11月21日午後7時 【 神奈川県横浜市横浜地方気象台】

 

「東京湾直下で地震。マグニチュード1、震源は横浜市沖1キロ以内」

気象庁の観測員が報告する。

 

「珍しいな。首都圏の地震なんて火星転移後初めてじゃないか?」

別の観測員が応えた。

 

――――――――――――

同時刻【神奈川県横浜市神奈川区 NEWイワフネハウス】

 

「瑠奈。深海飯は(うま)いか~?」

大月が思念システムで呼び掛ける。

 

「暗いよー、寒いよー、ぱぱっち~、ごめんなさい~今度は空気読んでしゃべるから許して~、ヴワーン(T0T)」

瑠奈がガチ泣きしていた。

 

横浜市沖水深400mで(たたみ)二畳(にじょう)分あるシールド内海底で瑠奈が夕御飯を一人で食べていた。

 

畳二畳分とは言え、水深400mの海底における水圧は地上より過酷であり、其のような場所に水圧を押し退()けるように出現した「お仕置きルーム」は海底に少なくない地盤変化を起こしていた。

此処(ここ)に瑠奈を送り込んだのは「どこへもドア」を作った美衣子(ミーコ)である。

 

「瑠奈。東京湾名物の巨大アナゴをお土産に帰るなら許してあげるわ」

何故か美衣子がお仕置きの采配(さいはい)をとっていた。

 

翌日の晩御飯はアナゴを使ったちらし寿司だった。

NEWイワフネハウスの入居者が皆、喜んだ。

 

その翌日、大月が横浜漁業協同組合に呼び出されて出頭し、瑠奈がアナゴを無許可で捕獲した事による漁業権侵害の罰金を支払い、瑠奈と美衣子を漁業協同組合に加入させる手続きを行った。

こうして有史以来初のマルス人海女(あま)が誕生した。

 

その日の夕御飯は、美衣子と瑠奈が横浜市沖深海底で()らされた事は言うまでもない。

 

その日も横浜地方気象台の地震計は横浜市沖を震源とするマグニチュード1の微弱な地震を観測した。

 

マルス人初の海女(あま)となった瑠奈は、その後、地球海洋で絶滅の危機に(ひん)していたサンゴ礁を保護して火星海洋で治療、増殖するのに一役買うことになるのだが、それは別の話となる。




ここまで読んでいただきありがとうございましたm(__)m
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