転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

・大月(おおつき) 満(みちる) = 40代。一応主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向中。
・西野 ひかり= 20代後半。一応ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
・西野美衣子(ミーコ)=日本列島生物育成環境保護人工知能。
・鷹見結(タカミムスビ)=マルス文明尖山基地管理人工知能だったがバージョンアップされた。
・大月瑠奈(るな)=マルス文明地球観測天体(月基地)管理人工知能『ルンナ』。月基地の日本人標本から誕生。
・琴乃羽(ことのは) 美鶴(みつる)=火星協力機構マルス文明解析担当研究員。
・岬 渚紗(なぎさ)=東南海大学海洋学部教授。


恋愛無双

2021年11月22日 [神奈川県横浜市神奈川区 NEWイワフネハウス]

 

地球復興会議の1日目、2日目で討議された内容について人類側がマルス文明のスーパーオーバーハイテクノロジーを「理解」し「整理」するための時間が必要とされたため、会議は1週間中断された。

 

「うーん」

瑠奈(ルナ)がとある大人気恋愛シミュレーションゲーム「恋愛無双」のプレイ画面を見ながら残念そうにため息をついた。

 

「この場面での選択肢が少なすぎるわ」

(ムスビ)が寂し気に言った。

 

「選択肢がなければ作ればいいのよ」

美衣子が事もなげに言い放った。

 

―ーーーーーーーーー

その日の夕食後、大月とひかりが入浴中に三姉妹は地下二階にある結の研究室に集まった。

 

「まずは可能な限りの選択肢を場面ごとに追加した後で余分な選択肢を(はぶ)きましょう」

美衣子がゲームソフトの「改造」を宣言した。

 

「私たちの今日まで蓄積されてきた人類のデーターを使いこなせば多くの素敵なシナリオが誕生するわ」

(うろこ)に覆われた拳をグッと握りしめた美衣子は、既に「にわか」ゲームクリエイターモードの脳内お花畑満開寸前である。

 

美衣子の「改造」宣言に結と瑠奈も「イエス!マイロード!」と叫んで歓声を挙げるのだった。

三姉妹の「恋愛無双」ゲームソフト「改造」は夜明けまで続いた。

 

翌日早朝―ーー

 

火星協力機構の研究室に(こも)って徹夜でマルス文明のスーパーテクノロジーについて分析していた琴乃羽(ことのは)がNEWイワフネハウスに帰宅した。

「ふぅ。面白い技術がたくさん有って面白すぎるけど頭がパンクしそうだわ」

ゲンナリとした独り言を(つぶや)きながら共同のダイニングルームで朝番の宮内庁料理人が作った朝食を一人で摂っていた。

 

目覚まし代わりに食後の紅茶を飲みながら共同ダイニングルームにあるテレビでニュースを視ていた琴乃羽はテレビ近くのビデオデッキにゲームソフトが置かれているのに気づいた。

 

ゲームソフトのパッケージには「恋愛無双 ~参~」と武骨な筆文字がプリントアウトされたラベルが貼られていた。

「あれ?恋愛無双はこの前初回限定販売予告がされていたような?それが一気に三作目?」

 

秋葉原のサブカルチャーに造詣(ぞうけい)が深い琴乃羽は恋愛無双の販売事前告知を当然の事ながら知っていた。しかし、初回販売時から一気に三作目まで連結販売されるとは知らなかった、と「誤解」した。

 

徹夜明けでいつでも寝落ちしそうな琴乃羽だったが、タイトルに()かれて少しだけ、冒頭のチュートリアルだけプレイしようとビデオデッキ脇のゲーム機にソフトをセットするのだった。

 

いかにもルネサンス的な音楽のしらべとともにオープニングムービーが始まり、桜で満開となった(セント)・アトランティス高校の校門でアルマーニ製の真新しい制服に身を包んだ一人の高校生が桜に囲まれた校舎を見上げていた。

「今日からここで新しい高校生活が始まるのかぁ。どんな出会いがあるのかたのしみだなぁ。友達たくさんできるといいな」

 

校舎を見上げながらお上りさんのように校門を過ぎた高校生の耳に後ろからパタパタと駆けてくる音が聞こえた。

やがてその足音はどんどんと近づき―ーー

高校生の背中にドン!とぶつかってしまう。

 

「うわっ!」

「きゃっ!」

二人とも地面に尻餅をつく。

 

そこで選択肢が画面に表示された。

(主人公を選択してください)

1.ぶつかってきた女の子「ヒカリ」

2.ぶつけられた男の子「ミツル」

3.校門で生活指導をしていた風紀委員の「ジャンヌ」

4.風紀委員と一緒にいた生活指導の女性教師「マチコ」

5.校舎の教室から一部始終を見ていた上級生の「リア」

6.生徒会室から校門を見ていた生徒会長の「イザナミ」

7.桜の木の手入れをしていた美化委員の「オトヒメ」

8.運動場で朝練をしていたテニス部部長の「カグヤ」

9.校門前にある電柱の陰から男子高校生を見つめていた家政婦「エツコ」

10.学校上空を通り過ぎた戦闘機パイロットの「サクヤ」

11.学校近くに住むOLで―ーー

「主人公選択、長いわっ!」

琴乃羽が思わず突っ込んだ。

 

「おまけに選択肢の後のほう高校生関係ないよね!?」

「何故か知っている名前が出てくるのはデジャブ?」

 

一人突っ込みを入れながらも隠れゲーマーの(さが)か、琴乃羽は徹夜明けで疲労した身体に(むち)打って

「恋愛無双~参~」にのめり込んでいった。

 

そして、昼―ーー

 

「くわーっ!テニス部の上級生でもフラグが立たないっ!」

琴乃羽が共同ダイニングで頭を抱えていた。

 

正統派恋愛シミレーションの王道に(のっと)ってヒロインを片端(かたはし)からプレイしたが、男子高校生のハートを射止(いと)めることが出来ないのだ。

「もしかして研究室に(こも)っているから女子力低下したのかしら?私」

 

校門でぶつかった女の子「ヒカリ」は尻餅をついたショックで腰を痛めて入院し、治療のために北欧で療養することになり転校してしまい、

風紀委員の「ジャンヌ」はあまりに厳しい取り締まりで同級生からの反感を買って孤立してしまい便所飯の日々を過ごす日陰キャラのままであり、

女性教師「マチコ」は男子高校生に果敢にアプローチしたが高校生の両親に見つかって教頭先生に通報され、ほかの高校に転勤してしまい、

上級生の「リア」は男子高校生との初デートに行ったものの、デート先の遊園地でネズミの着ぐるみをきたイケメンにナンパされて別ルートを延々とループし、

生徒会長の「イザナミ」は生徒会長の仕事に追われて男子高校生と接点すらなく、

美化委員の「オトヒメ」は尻餅をついた男子高校生が危うく桜の木にぶつかりそうになったことで大切な桜の木を危険にさらした「敵」として憎悪を持って敵対してしまい、

テニス部長の「カグヤ」はデートの後にレストランで食事をした際、ぶどうジュースと間違ってワインを飲んだところをたまたま隣のテーブルに居た女性教師「マチコ」に見つかって停学処分を受け、

 

「私は初恋も経験せずに高校生活を終えるのだった。―BAD END―」

 

「あほかーっ!んなわけあるかーっ!」

琴乃羽は自身のキャラも忘れて地団駄(じだんだ)を踏んで悔しがる。

 

「しょうがない。家政婦「エツコ」でいくか。嫌な予感しかしないけど」

 

毎日電柱の陰から男子高校生「ミツル」を見続けながら想いを(つの)らせていく家政婦「エツコ(47)独身」、高校生の自宅に家事代行サービスで入り込み、

「ちょっと待てや―っ!年齢からどう見てもあり得ないわーっ!犯罪臭しかしないわっ!」

突っ込みどころ満載のストーリー展開にダイニングのテーブルをバンバンと叩く琴乃羽。

 

「こうなったら最後の大穴、というかあり得ないけど戦闘機パイロット「サクヤ」に全てをかけるわっ!」

まるで篠沢(しのさわ) 教授に全額を()けるクイズ番組の挑戦者になったような悲壮な気持ちで「サクヤ」ルートを選択する。

 

地面に尻餅をついた男子高校生「ミツル」が空を見上げると空高く飛行機雲を引いて飛ぶ戦闘機がミツルの眼に入った。

 

「かっこいいなあ」

ミツルは羨望(せんぼう)のまなざしで眼を細めていつまでも飛行機雲を引いて飛び去る戦闘機を見つめるのだった。

 

ピコーン―ーーーー(フラグが立ちました)

 

「ミリオタかよっ!」

 

ダイニングに響き渡る琴乃羽の絶叫は地下の研究室で満足げに眠る三姉妹の耳に届くことは無かった。

 

美鶴の絶叫を聞いた入居人の岬や大月家のひかりが駆けつけたが、二人が目にしたのはダイニングテーブルに突っ伏して寝ている琴乃羽と、彼女の(かたわ)らに有ったゲームソフトだった。

 

「!?」

二人がゲームソフトを取ったことで、二人にとっての悪夢の(とき)が開幕した。

 

3時間後―――

 

「「くわーっ!!」」

自称乙女の悲鳴がNEWイワフネハウスに響き渡るのだった。

 

その日の晩御飯は大月とひかりの二人きりでゆっくりと楽しむことが出来た。

 

横浜市沖の深海お仕置きルームから泣き疲れた顔の美衣子達三姉妹が戻ったのはその日の夜遅くになった。

 

―続く―

 

その日夕刻、横浜地方気象台は3日連続で横浜市沖を震源とするマグニチュード3の地震を検知した。

流石に地上にも揺れが伝わり、横浜市で震度2を記録した。

 

直ちに首相官邸が官房長官談話を発表し、この地震はマルス文明の日本列島維持システムによる地殻(ちかく)バランス調整の揺れであり、巨大地震などにつながる可能性は無いとコメントした。




ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
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