転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

大月(おおつき) (みつる)= 40代。一応主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室兼務。
・西野 ひかり= 20代後半。一応ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
西野美衣子(ミーコ)=日本列島物育成環境保護システムの人工知能。
鷹見結(タカミムスビ)=マルス尖山基地管理人工知能。クローンに移植された。
大月瑠奈(ルナ)=マルス月基地管理人工知能『ルンナ』。小学四年生として日本社会勉強中。
・春日洋一=総合商社角紅若手社員。海産物に詳しい。
・東山=マルス文明担当内閣官房首相秘書官。
澁澤(しぶさわ) 太郎(たろう)=日本国総理大臣。
岩崎(いわさき) 正宗(まさむね)=内閣官房長官。
(みさき) 渚砂(なぎさ)=東南海大学海洋学部教授。
琴乃羽(ことのは) 美鶴(みつる)=火星協力機構所属研究員。
・イワフネ=マルス人。大月家にホームステイしながら生け簀によく落ちる。
・後白河政徳=財務大臣兼外務大臣。外交は中立派。
似志野(にしの)清嗣(きよつぐ)=総合商社角紅社長。ひかりの祖父。阪神大震災で両親を失ったひかりを育てた。


イワフネファンド

2021年11月27日【神奈川県横浜市金沢区沖の東京湾】

 

「春日さん、この海老を見て欲しいのですが・・・うわっ!」

イワフネがまたしても生け()にドボンとダイブしてしまう。

 

「イワフネさん・・・またですか」

春日がイワフネに手を差し伸べて生け簀の上に()い上がるのを手伝う。

 

「すいません。うっかり足元が・・・」

海水を(したた)らせながらイワフネが恐縮する。スーツの胸元から生け簀の車エビがぴょこんと飛び出して生け簀に戻る。

 

「いよいよ本格的に考えないといけませんね」

春日がつぶやいた。

 

その日の夕食後【NEWイワフネハウス1階 共用ダイニングルーム】

「それでは今からイワフネさん転落防止会議を始めまーす」

春日が開始を宣言する。

 

メンバーは春日の他に、大月とひかり、東山、岬教授、琴乃羽教授、美衣子、結、瑠奈である。

当事者のイワフネは海水でべとべとになった身体を地下の自家温泉浴場で流している最中である。

 

(くつ)が滑りやすいということは?」

岬教授が指摘した。

 

「それはないですねぇ。アルマーニ社製の滑り止め付きの特注品ですから」

ひかりが答える。

 

「もしかしたら身体を張ったギャグとか?よく芸人さんが「絶対押すなよっ!」とか言っておきながら自分から熱湯に落ちるやつみたいな?」

東山がサラリーマンの性質を探求するイワフネを思って言ってみる。

 

「「それはない」」

(むすび)と美衣子が即答した。

 

「イワフネは月面ラボ所属の調査隊長だったからとても責任感が強い。自分からわざとミスはしない」

長年 尖山(とがりやま) 基地でイワフネを見てきた結が言った。美衣子も(うなず)いている。

 

「では生け簀の構造的な問題?」

琴乃羽(ことのは)が言った。

 

「ごくごく一般的な材料で生け簀は作られていますよ。私は落ちないし、もちろん養殖業者(ようしょくぎょうしゃ)の方も落ちません」

春日が答える。

 

「春日はなんだと思う?気になることがあるか?」

大月が()いた。

 

「習性ではないかと」

春日が答えた。

 

「習性?」

「もしかしたら爬虫類(はちゅうるい)は水を見たら違和感なく水中にいる感覚で行動してしまうのではないかと」

「だから私達温泉好きなのかな?」

「それは違うでしょう」

「はっ?!私と結の温泉好きも実は本来の習性!?」

「単なる温泉マニアなだけじゃないっすかね?」

「よろしい瑠奈、表に出なさい」

「なんでっ!?」

 

うーん。一部を除いたダイニングルームに集まった面々が首を捻(ひね)る。

 

「おや?皆さんお(そろ)いで。何かイベントの相談ですか?」

バスローブを着たイワフネがフルーツ牛乳の(びん)を片手に持ちながら現れた。

 

「うーん」

大月は言おうかどうか悩んでいたが、

 

「イワフネ叔父(おじ)さんが生け簀に落ちないための対策会議っす!」

元気よく瑠奈が宣言した。

 

「あはは・・・」

イワフネが苦笑した。

 

「私もよくわからないんですよ。足元は常に注意していますし、養殖(ようしょく)の勉強ですからね。ふざけて生け簀に落ちる(ひま)などありません」

イワフネが言った。

 

「でも・・・気が付いたら生け簀の中で水中の生き物と(たわむ)れる自分に喜びを感じてしまうんです!」

うっとりとした目つきでイワフネが語りだす。

 

「海の中は神秘の世界です。海底で幻想的にゆらゆら揺れる昆布やワカメ、元気に泳ぎ回るハマチや火星車エビ、海は生命のゆりかごとは良く言ったものです!」

 

一同ドン引きする。

 

「イワフネさんは海女(あま)に向いているのでは?」

岬教授がボソッと(つぶや)いた。

 

翌日以降、イワフネは春日と生け簀を訪れる際は必ず海岸でウエットスーツに着替え、生け簀の外側の海中から生け簀の中を見る事になった。

 

後日、イワフネが会社の同僚たちと品川の屋形船(やかたぶね)で歓送迎会をした際、自ら海中にダイブしながら海老の天ぷらを味わっていたのを見た同僚が後輩社員に、

「イワフネさんを見ろ。火星人でさえ、やるときはやるんだぞ!」「イワフネさんぱねぇ!!」

と方向性の違う評価をされていた。

 

そんなイワフネの習性に目を付けた美衣子と瑠奈がイワフネを神奈川県漁業協同組合に勧誘し、「素潜(すもぐ)りの達人」として漁協の一員となったのはもう少し未来の話である。

 

ーーーーーーーーーー

2021年11月30日午前10時【神奈川県横浜市神奈川区 NEWイワフネハウス 大月家】

 

大月家のリビングでソファーに座る大月とひかりの前で三姉妹が自主的に正座をしていた。

 

「話を聴こうか?」

素晴らしい笑顔で大月が三姉妹に勧告した。となりに座るひかりも物凄(ものすご)い笑顔である。二人ともこめかみに青筋を立てていたが。

 

「なんで大月家(うち)の資産が差し押さえられているのかしら?」

財務省から内容証明郵便で送られてきた差し押さえ通知書を手にしたひかりの問いに、

 

「固定資産税」

美衣子が言った。

 

「尖山基地、ダイモス宇宙基地、ヘルシティ地下研究区画、ユニオンシティ研究区画、各種シャトルと連絡艇が対象」

「合計たった年間7000億円くらいよ」

「楽勝っすね」

三姉妹が答える。

 

「よし。じゃあ美衣子達のお小遣いから引いていい?何十万年分か分からないけど」

「「「私達が間違っていました」」」

 

三姉妹の正座が見事な土下座に変化した。

 

「取りあえずシドニア地区のヘルシティから全ターミネイター兵を連れてきて霞が関に直訴(じきそ)しましょう」

「わかった。ドアを使って連れてくる」

「お上と戦争ね」

 

「ちょっと待ったー!」

大月が慌ててひかりと美衣子を止めにかかる。

 

「東山を呼んで話を聴いてからにしようね」

大月はお腹が痛くなっていた。

 

ーーー同日午前11時時頃【神奈川県横浜市神奈川区 NEWイワフネハウス 大月家】

 

大月家のリビングでソファーに座る大月とひかりと三姉妹の前で東山が自主的に正座をしていた。

 

「話を聴こうか?」

素晴らしい笑顔で大月が東山に勧告した。となりに座るひかりも物凄い笑顔である。二人の額に青筋が浮き上がっているのは言うまでもない。

三姉妹はおやつのかぼちゃプリンを食べていた。

 

発端(ほったん)二俣川(ふたまたがわ)の運転免許試験場の券売機(けんばいき)です」

痛むお腹をさすりながら東山が言った。

 

自主的に三姉妹がプリン片手に東山のポジションへ移動して正座する。

 

「券売機に問題が?」

ひかりの問いに、

 

「券売機に問題があるのでは無くて、使える貨幣(かへい)に小判とか貝殻とかあったじゃないですか」

東山が説明を始めた。

 

「口コミで一万円札を入れたら「おつり」で縄文貝殻や慶長小判(けいちょうこばん)が出たと話題に」

「レートの問題は置いておくとして、単に物珍しいだけじゃないですか」

「たまたま神奈川県民の文科省職員が免許更新で二俣川の試験場に行って、このような文化財がおつりとして使われるのはいかがなものかと」

 

「「ちょっと霞が関行ってくる」」

「お上とバトルよ(っす!)」

大月とひかりが三姉妹の手を引いてシドニア地区に向かおうとする。

 

「落ち着いてくださいっ!問題はそこじゃないんです」

「すでに問題じゃん」

「文化財の話から、三姉妹さんの乗り物や設備が資産ではないかとの話になって財務省が・・・」

 

「「やっぱり霞が関に行こう!」」

「いざ霞が関よ(っす!)」

大月とひかりが三姉妹の手を引いて「どこへもドア」をくぐろうとする。

 

「お願い!待ってください!」

二人の脚に器用にしがみつく東山だった。

 

「結局、資産の話は官邸に持ち込まれて首相案件になったんです」

 

「「永田町も殲滅(せんめつ)先に追加ね」」

「霞が関最後の日よ(っす!)」

大月とひかりが三姉妹の手を引いて「どこへもドア」をくぐろうとする。

 

「待って!」

二人の脚に抱き着くようにしがみつく東山。

 

「そこで岩崎官房長官が言ったんです「今までの働きで十分ではないかと」」

「もう少し詳しく」

大月家がソファーに戻る。

三姉妹は正座に戻った。

 

「そこで主計局と会計検査院、国税庁が協議を行いました」

「それで?」

 

東山がごくりと(つば)を飲み込む。

 

「やはり7000億円程不足分が」

「美衣子。ダイモス基地永田町に落として」

「やるわ」

「月も移動させるわ」

「月は勘弁っす!」

 

「ごめんなさい政府が悪いから説得するから助けてっ!」

プライドの高い東山が土下座ガチ泣きしてくる。

 

「東山の説得で効果があるのか?」

大月が疑問を口にする。

 

「そこでご相談です。三姉妹さんの資産を使う政府に使用料を請求してください」

「使用料はいくら?」

「累計3兆円くらいで十分かと」

「「「「「乗った(っす!)」」」」」

 

大月家の全員が賛同した。

 

ーーー同日正午頃【お昼のNHKニュース】

「政府がマルスアカデミー所有のシャトルや施設について、火星転移直後から使用料を支払っていないことが会計検査院の調べで明らかになりました。未払いの使用料は3兆円に達する模様です。日本政府の他にも列島各国とユニオンシティ国も先の欧米救出作戦時のシャトルや月面基地研究施設の利用料が未払いになっている模様です」

 

ニュースを()ながら首相官邸で昼食の盛りかけ蕎麦(そば)をすすっていた岩崎官房長官は思わず口から蕎麦(そば)がピュッと飛び出しそうになった。

 

「財務大臣に連絡を。あと、東山君を直ちに連れてきなさい」

盛りかけそばを汁まで堪能(たんのう)した岩崎が内調(内閣調査室)の担当者に指示した。

 

ーーー同日午後2時【東京都千代田区永田町 首相官邸 総理大臣執務室】

 

応接セットに大月とひかり、三姉妹が座り、お茶うけに出された羊羹(ようかん)を食べていた。

東山はソファーの背後に立つ。

 

大月たちの向かい側には澁澤総理の他に、岩崎官房長官と後白河財務大臣兼外務大臣が座っていた。

 

「差し押さえの件はこちらの計算ミスですいませんでした」

冷や汗をハンカチで()きながら後白河大臣が謝罪した。

 

「ですから、使用料の件はなかったことに・・・」

「美衣子ダイモス基地はどれくらいでここに落ちる?」

「3分もあれば十分よ」

「ごめんなさい年間7000億500万円で固定資産税と相殺(そうさい)して500万円大月さんの口座に振り込みます!」

 

「それぐらいで許してあげるわ」

美衣子が言った。

 

後白河大臣が手続きを急いで進めるために退席した。

 

「やたー!お小遣いアップっす!」

瑠奈がバンザイする。結も拳を握りしめて勝利の感触を味わっていた。

 

「それとは別にご相談が」

澁澤総理が話す。

 

「やっと本題ですか」

大月が疲れた顔で言った。そうでもしないと官邸に一般人を呼べないのだろうか?

 

「まわりくどいやり方だったのは謝罪します。火星協力機構が人類の統一政府となりつつある現在、大月家の皆さんへの処遇が加盟各国政府の官僚たちから問題視されつつあるのです。軍は好意的なのですがね」

岩崎官房長官が説明した。

 

「えっ!?」

大月達には初耳だった。

 

「すなわち、大月家の三姉妹を日本国民としてみるのか、火星人としてマルスアカデミーから「承継、贈与された」人類共有財産として見るのか?水面下で外務省が日本国民であると必死に対抗していますが、決め手に欠けるのです」

澁澤が言った。

 

「美衣子達はモノじゃありませんよ」

大月が憮然(ぶぜん)として言った。

 

「日本政府とケビンやジャンヌの方も大月さんと同じ考えです。ですが、それ以外の最近機構に登用された地球避難民が・・・」

澁澤が苦しそうに言った。

 

「美衣子の日本列島環境維持システムの事は皆さんご存知ですよね?」

大月が確認する。

 

「ゼイエスさんの話を聴いた各国の科学者達から話は伝わっている(はず)です」

澁澤が答えた。

 

「日本列島の物理的な支配権を握っているのは美衣子と結、瑠奈です。全国に散らばっている800万(やおよろず)の端末も彼女たちに従っています」

大月が言った。

 

「しかしシステムの稼働(かどう)には日本国民大多数の意思が必要になりますよね?」

岩崎が言う。

 

「システムは自律進化型ですから必ずしも将来もそうだとは限らない」

大月が決めつけに対抗する。

 

「そうでしょうなぁ」

澁澤と岩崎が思案する。

 

「ここはひとつ、日本国とその国民の立場に戻ってお互い考えるべきでしょうね」

岩崎が言った。

 

「では、私たち日本人と美衣子達が独自に手柄を立てて人類に貢献するのはどうでしょう?」

ひかりが提案した。

 

「火星協力機構の力を借りずに、大月家と日本企業で火星開拓と独自の地球復興策を実行しましょう。「私達」大月家と日本企業、例えば角紅(かどべに)と合弁で火星海洋資源開発と地球の二酸化炭素問題の解決に取り組むのはいかがでしょう?協力機構の方針とはダブらない(はず)です」

 

「悪くない案だ」

澁澤が(つぶや)く。

 

「ええ。開発資金は美衣子さん達へ支払う莫大(ばくだい)な使用料をファンドとして予算に計上することで税務面でも、対外的にも問題ないでしょう」

岩崎が具体的に思考して同意した。

 

こうして「大月家」と日本政府との間でいくつかの非公式協定が結ばれることになった。

火星海洋ファンド(別名イワフネファンド=大月家のNEWイワフネハウスから引用)の立ち上げと地球二酸化炭素削減事業の官民合同プロジェクトである。

日本国と大月家の新たな歴史が始まろうとしていた。




ここまで読んでいただきありがとうございましたm(__)m

次話は6月3日㈰に投稿予定です。
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