転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

大月(おおつき) (みつる) = 40代。一応主人公。総合商社角紅社員。
・西野 ひかり= 20代後半。一応ヒロイン。総合商社角紅役員。実は社長の孫娘。
西野美衣子(ミーコ)=マルス文明日本列島生物育成環境保護システム。
鷹見結(タカミムスビ)=マルス尖山基地管理人工知能。クローンに移植された。
大月瑠奈(ルナ)=マルス文明地球観測天体人工知能。日本社会勉強中。
似志野(にしの)清嗣(きよつぐ)=総合商社角紅社長。ひかりの祖父。阪神大震災で両親を失ったひかりを育てた。


起業

火星協力機構の前身は2019年に東京都市ヶ谷の防衛省敷地内で発生した巨大ワームとの交戦で撃破した巨大ワームの生態研究を目的として、日本と英国連邦極東が合同で設立した火星生物研究所である。

 

その後、2020年年初におけるアルテミュア大陸上陸作戦においては火星生物との戦いでアドバイザーとして活躍、人類都市ボレアリフの拡大発展と当時の極東アメリカ合衆国、極東ロシア連邦の加盟により組織の役割が増加したため、火星生物研究所は発展解消され、火星協力機構となったのである。

 

巨大ワームとの戦いや、アースガルディアとの戦争では決して表舞台に出てこなかったが、火星生物への対抗策研究、列島各国部隊への後方支援業務や避難民の受け入れ、地球海洋上メガフロート都市の管理運営等活動内容は多岐(たき)にわたり、従事する職員も各国の文官派遣では間に合わず、避難民を「現地採用」して対応したため、組織規模では日本政府に次ぐ官僚の多さとなった。

財務省の幹部らは多国籍職員の多い協力機構の事を「新国連」等と表現するほどに肥大(ひだい)した組織となった。

 

平時に組織が肥大化して発生する問題は、官僚組織硬直化による情報伝達速度の低下、組織の複雑化に伴う意思決定の遅延である。

 

大月家のような、マルス文明と日常的に共存している特殊な存在は、協力機構の官僚から見れば見習うべき存在ではなく、単なる異物(いぶつ)に過ぎなかった。

 

大月家=マルス文明から数々の高度技術や乗り物・設備利用の便宜をただ与えられるだけの協力機構官僚達は、それらの便宜を自らに対する「奉仕(ほうし)」と無意識のうちに錯覚(さっかく)して傲慢(ごうまん)な姿勢に出ることが多くなった。

 

大月家の人類に対する安易な協力姿勢が拍車(はくしゃ)をかけたとも言えるが、大月家は善意で異常事態の改善に(つと)めただけであり、見返りを決して求めなかった。

このような状況が火星協力機構の官僚達に、「大月家が機構に奉仕するのは当然」との誤った認識を助長させたのは当然の成り行きである。

 

2021年11月某日【NEWイワフネハウス 地下研究室(美衣子)】

 

「だめよ。惑星間国際機関なんだから今月分のシャトル利用料はきちんと払いなさい。そうしないとシャトルは出さないわ」

美衣子がモニター先の相手に通告していた。

 

「っ!しかし、地球上の難民はまだ危険な地上に数えられないほど居るんです!一刻も早く救出しないと!」

「救出した後の物資は誰が供給するの?」

 

「ユニオンシティの需給はひっ(ぱく)しています。一刻も早くボレアリフ大陸の小麦を収穫して大型シャトルで輸送しないと難民と共倒れになってしまいます」

火星協力機構の難民高等弁務官事務所の担当者が美衣子にとにかく頼み込もうとする。

 

「仕方ないわ。物納(ぶつのう)で手を打ちましょう」

美衣子が提案した。

 

「物納?火星協力機構の資産と、ですか?」

「そうよ。宇宙軍の戦闘艦でも良いのよ?」

 

「そこまでいくと私の権限では・・・」

「なら私もシャトルの所有者として貸し出しを認めるわけにいかないわ」

美衣子は強気だった。

 

あの準備の費用から差し引いたら今月のお小遣(こづ)いが残り少ないのだ。これではマクドナルドのイワシパイバーガーが食べれなくなってしまうのだ。稼がねばならなかった。

 

ー隣の研究室でもー

「今月はスケジュールが埋まっているの。神奈川区から外には出れないわ。ええ、もう少し(はず)んでもらわないと番組のロケはキャンセルさせてもらうわ」

結が芸能プロダクションの社長にギャラの増額をふっかけていた。

 

あの準備の費用を差し引いた残りの蓄えで、今月は攻略参加者をより効率的に撃退するため、「風雲ムスビ城」の防御設備一式を更新すると手持ちのお金がほとんどない結だった。

 

ーさらに隣の研究室ではー

「・・・zzz」

 

小学校から下校途中にコンビニコロッケの買い食いを重ねて金欠(きんけつ)な瑠奈は、夜中に金沢区の海に出てアナゴ漁で一(もう)けすべく体力の温存を(はか)るため昼寝に忙しかった。もちろんあの費用も出している。

 

宿題は同級生の天草 華子(はなこ)と名取 優美子(ゆみこ)に丸投げしていた。対価は瑠奈が釣り上げるアナゴのかば焼きである。同級生の家庭では「高級食材」として珍重されているらしかった。

 

夜、就寝前の夫婦の部屋(仮)で大月とひかりが向かい合って相談していた。

「最近三姉妹が「がめつい」」と。

 

「東山を通じて協力機構から泣きつかれたよ。シャトルぐらい貸してやれって」

大月がぼやいた。

 

「私は最近瑠奈ちゃんがアナゴのかば焼きばかりせがんできて・・・」

「結もレギュラー番組に出るのを渋っているらしい。NHKの報道局長が何とかしてくれと言ってきたよ」

 

原因はなんだろう?

二人は首を(ひね)るのだった。

 

翌日、理由が判明した。

大月とひかりは出社するなり社長室に呼び出された。

 

「大月君!最近あの子たちに満足なお菓子も食べさせていないとはどういうことなんや!」

ひかりの祖父であり、社長の仁志野(にしの)が激怒していた。

 

「そんなことはないわよおじいちゃん!」

ひかりがなだめる。

 

「嘘ついたらアカンで!三姉妹の嬢ちゃんたちが昨日の晩にワシのうちまで来て「最近お菓子が食べられない」と泣きついてきたんや!」

 

「「ええーっ!!」」

大月とひかりは頭を抱えた。

 

「そんな甲斐性(かいしょう)のない男に孫を嫁になぞ出さへんで!」

仁志野が大月にダメ出しをする。

 

「お小遣いは毎月一人2万円渡していますよ?ちなみに私も2万円ひかりから貰って残りの給料は管理してもらっています」

大月が正直に申告する。

 

「むぅ。お嬢ちゃんたちに月二万は子供として結構な額なんとちゃうか・・・」

仁志野が(うな)る。

 

「ちゃんと三人の通帳に振り込んでいますよ?」

大月がタブレット端末で過去三か月間、大月の口座から三人への振り込み履歴を似志野に見せた。

 

「嘘は言ってへんな」

「当然です。お義父(とう)さんに嘘は言えませんよ」

思わず大月は言ってしまい、横でひかりが赤くなってデレていた。

 

「でも(みつる)君。どうして三姉妹はお小遣いを使い果たしたんやろか?」

似志野が不思議そうに言った。

 

「おそらくーーー」

ひかりが三姉妹の行動をかなり的確に推測して似志野に説明した。

 

「「それだ(や)!」」

大月と似志野が納得した。

 

「さすがひかりが面倒を見るだけあってフリーダムなお嬢ちゃん達やな」

似志野がため息をつく。

 

「そろそろ手綱(たづな)()める時でしょうか?」

大月が似志野に教育方針のアドバイスを()う。

 

「いや。そもそも人間社会での節制(せっせい)自重(じちょう)を理解していなければ同じことの繰り返しになるやろな」

似志野が言った。

 

「ここはトライ&エラーでしょうか」

「それが満君達にとって自然やと思うんやけどな」

 

「そやなぁ」

ひかりが納得した。

 

「ところで満君。わしのところにもお嬢ちゃんたちの事で国ともめてるちゅう話が聞こえてくるんやけど、その辺相談に乗るで?」

「おおきにお祖父ちゃん」「ありがとうございます。お義父さん」

 

大月とひかりが徐々に要求を強める火星協力機構の官僚的対応に日本政府と共に苦慮し、秘かに独自の打開策を進めることで首相官邸と合意していることを説明した。

 

「そうやったんか」

似志野は合点(がてん)がいったというように頷いた。

 

「日本が生き残るために作り上げた組織やけど、今はいろんな国と人種が入り混じって組織が巨大化しすぎや。いずれ、ほかの面でも面倒ごとが起こりそうやな」

 

「私は美衣子達を守るために、ひかりさんが政府に提案した独自策に注力したいと思っています。ですから、内閣官房への出向を取り消していただき、社内起業させていただきたくお願い申し上げます」

大月とひかりが似志野に頭を下げた。

 

「わかった。好きにしてええよ」

似志野が了承した。

 

「ひかりはどないするんや?一応今度の株主総会で役員に推薦するけどやめとくか?」

「役員は引き受けさせていただきたいと思います。そのうえで大月さんの事業をサポートしたいと思います」

 

「わかった。ひかりは満君の社内起業担当執行役員にしとこか」

 

「おおきにお祖父ちゃん」

「火星に転移してから、なんだかんだと角紅(うち)は澁澤さんとことの取引が増えて儲けさせてもろてるからな。少しやけど、手助けするで?」

「ありがとうございます、社長」

大月が頭を下げる。

 

「ええ男になってきたな。きばるんやで?」

「はい」

 

「それと式の方も任せてもらおうか?」

「「はい?」」

 

「これから起業で忙しくなるのに式の準備なんかできへんで?ワシがお嬢ちゃんたちを暴走せんように宥めながら使わせてもらうで」

「お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」

ひかりと大月がそろって頭を下げた。

 

2021年12月24日、大月満は総合商社角紅社内に海洋産業商社「ミツル商事」を起業した。

社員に春日、イワフネ、岬、琴乃羽を採用した。ちなみに岬と琴乃羽は大月自らヘッドハンティングした。ダメもとでアタックしたら二つ返事でOKをもらえた。彼女達も協力機構の硬直性に薄々気付いて自由な研究活動がしたかったらしい。

大月は岬渚紗(みさきなぎさ)の海洋生物研究、琴乃羽美鶴(ことのはみつる)のマルス文明応用研究が事業として成功すると確信していたのでそれらの研究推進を加速して欲しかったのだ。

 

ちなみに美衣子、結、瑠奈をパートタイマーとして雇用することになり、大月家内でのお小遣い制を廃止した。

 

社長になった大月はひかりのバックアップのもと、連日角紅の人脈を生かして取引先開拓に自ら奔走(ほんそう)した。

そして最初の事業を同業者とのコンペ合戦の末、経済産業省から受注した。この事業では政府が三姉妹の資産利用料の振込先として設立した「イワフネファンド」投資案件第一号として資金が出ることになった。

 

事業とは、「日本列島太平洋側の火星海洋上」における自給自足型メガフロート都市の建設と管理運営である。

50歳直前の大月は初めて自ら立ち上げた事業に挑戦することになったのである。

こうして2021年が過ぎようとしていた。




ここまで読んでいただきありがとうございましたm(__)m

次話は6月10日㈰に投稿予定です。
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