転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

大月(おおつき) (みつる)= 40代。一応主人公。ミツル商事社長。
・西野 ひかり= 20代後半。一応ヒロイン。総合商社角紅役員。
西野美衣子(ミーコ)=日本列島生物育成環境保護システム。
鷹見結(タカミムスビ)=マルス尖山基地管理人工知能。クローンに移植された。
大月瑠奈(ルナ)=マルス地球観測天体人工知能。日本社会勉強中。
似志野(にしの) 清嗣(きよつぐ)=総合商社角紅社長。ひかりの祖父。阪神大震災で両親を失ったひかりを育てた。


門出

2022年1月15日(大安)午後12時30分【東京都港区赤坂 ホテルニューオタニ】

 

総合商社角紅社内で誕生した大月が社長を務める海洋産業商社「ミツル商事」起業の忙しい合間をぬって、大月とひかりの結婚披露宴が満を持して盛大に行われた。

 

会場は祖父の似志野(にしの)が確保し、企画演出は三姉妹が担当するらしい。

招待客は澁澤総理に岩崎官房長官、ケビン首相、ジャンヌ首相、ロイド提督、天草に岬、琴乃羽、春日、東山、地球からユーロピアに避難してきた北欧の養父母と多彩な顔ぶりが出そろった。

日本列島諸国の政財界要人が集まって結婚披露宴でなければここで臨時サミットが開かれたことだろう。

 

当然この異常な要人の集中ぶりは内外マスコミの知るところになり、ホテルには取材陣が殺到した。

ホテル側は「ごくごく普通のお客様の人生の門出にどうかご配慮お願いします」とのコメントを出し、また日本政府総務省は火星協力機構内記者クラブに対し、一般人のプライバシー保護を尊重するように異例の要請を行った。

 

にもかかわらず、スクープを狙う大手マスコミの下請けや売り込みを狙うフリーランス記者やパパラッチが変装や出入り業者などを装ってホテルへ潜入した。

潜入した彼らが目にしたのはごく一般的な日常のホテル内であった。

唯一、ロビーの案内画面に「2階「海神の間-大月家 似志野家-」」と表示がされていた。

ロビーや2階のフロアーに物々しい警備は敷かれておらず、SPや私服警官も見当たらない様だった。

 

2階「海神の間」の入り口には披露宴招待客向けのこじんまりとした受付があり、招待客は受付を済ませると室内に入っていった。

マスコミ関係者は中に入れないため、受付付近で待機していたが室内からは披露宴開始前の浮ついた喧騒(けんそう)は聞こえず、静かなピアノ演奏が流されているだけだった。

しかしマスコミ関係者はすぐに異常な状況に気付く。

 

すでに200人以上が入っているが「海神の間」の収容人数は80人までである。

マスコミ関係者は首をひねった

 

海神の間の奥には美衣子が設置した「どこへもドア」があり、火星シドニア地区地下研究施設「ヘル・シティ」に接続されていた。

「ヘル・シティ」の一角にゼイエスの研究室跡があり、美衣子達三姉妹はそこを披露宴会場「八百万(やおよろず)の間」として改装、利用したのである。もちろん内装はホテルニューオタニに合わせたシックなデザインで広々としたダンスホールの様な広さがあった。

 

八百万の間には丸いテーブルがずらりと並んでおり、部屋の奥には高砂(たかさご)があり、新郎新婦席があった。

広大な披露宴会場には瑠奈(ルナ)特製の衣装を(まと)った美男美女風執事&メイド風アンドロイドとホテル側から派遣された人間の給仕(きゅうじ)優雅(ゆうが)にテーブルの間を()うように移動して来賓(らいひん)の案内誘導と飲食物の提供を行っていた。

 

八百万の間の招待客テーブルが満席になったところで

「これより大月家と仁志野家の結婚披露宴を始めます」

とアナウンスが流れた。

 

NHK日曜昼に放送されるのど自慢でお馴染みのチャイムとアコーディオン演奏が出席者の手拍子付きで流れる中、高砂とは反対側の場所にある「どこへもドア」が開くと和装の婚姻衣装を着た大月とひかりが現れて八百万の間の真ん中をゆっくりと腕を組みながら歩いて高砂に向かった。

 

のど自慢で司会を務めるアナウンサーが、

「ご入場される新郎新婦を拍手でお迎えください」

と告げると各テーブルの招待客から盛大な拍手が沸き起こった。

盛大な拍手に照れながらも幸せそうに腕を組んで高砂に向かう大月とひかりであった。

 

高砂の檀上は大月とひかりだけが座り、両家の親族は高砂に近いテーブルに座っている。これは、母親が入院中で出席できない大月家への配慮である。

 

大月の母親は2年前、彼がワーム襲撃を受けて重態となった知らせを聴いてショックを受け、脳溢血(のういっけつ)で倒れて以降、自衛隊中央病院で治療を続けていた。脳溢血に伴う痴呆症(ちほうしょう)も同時に発症(はっしょう)し、重態は脱したもののリハビリは困難を極めていた。

 

「それでは乾杯の音頭を澁澤太郎様に頂きたいと思います」

と司会が敬称を省略して言うと招待客がざわめいた。

「本日は新郎新婦及びご来賓の皆さまからの強いお申し出により、ご来賓の皆さまのお名前に付随する肩書等は大変恐縮ながら省略させていただいております。私自身戸惑っているくらいですので、皆さまどうかご理解、ご容赦(ようしゃ)のほどよろしくお願いします」

 

と冷や汗を額に浮かべた困惑気味のNHK司会が告げると、澁澤のテーブルに座っていた岩崎官房長官が立ち上がって拍手をした。

呼応するように、英国連邦極東のケビン首相、ユーロピア共和国のジャンヌ首相、宇宙軍提督のロイド中将などが次々と立ち上がって拍手をした。

 

八百万(やおよろず)の間に賛同の拍手が鳴り響いた。

 

拍手が鳴りやむと澁澤がシャンパンのグラス片手に高砂前(たかさごまえ)にあるマイクの前に移動して、

「それでは、大月満君と仁志野ひかりさんのご結婚を祝して、乾杯!」

 

招待客全員が乾杯と唱和した。

「澁澤様大変ありがとうございました。新郎新婦はここでお色直(いろなお)しのため一時退席いたします。皆様拍手で送りだしましょう!」

 

出席者の温かい拍手に包まれて新郎新婦が高砂席の背後に出現した「どこへもドア」の向こうに消えるとドアも自然に空気に溶け込むように消えていった。

 

「それでは皆様、しばしご歓談ください」

司会が告げると、高砂前の床がゆっくりとせりあがって高砂よりもやや低い位置で止まった。

せりあがった床の上には、7人組+1名の和装をした老若男女が楽器を手に木造の船に乗っていた。

 

「今、日本列島八百万(やおよろず)の神々で有名な新時代エンターテイナー「SITIFUKUJINN」の皆さまです!」

棒読みな司会の紹介の後に、

 

弁財天(べんざいてん)でございます」

恵比寿(えびす)やで」

大黒天(だいこくてん)です」

布袋(ほてい)です」

毘沙門天(びしゃもんてん)だっちゃ!」

寿老人(じゅろうじん)じゃ」

福禄寿(ふくろくじゅ)・・・」

「・・・ゼイエスだっちゃ!」

「8人かよっ!」ほかの七福神にハリセンで突っ込みを受けるゼイエスに会場が爆笑した。

 

「皆の衆!乗ってるかい?それじゃあ、めでたい日にふさわしい1曲目っ!「泳げタイヤキくん」!!」

・・・素晴らしい演奏なのにどうかと突っ込みを入れたくなる曲の数々が演奏される。

 

テーブル席にはマルス人御用達コース料理「火星づくし」がふるまわれていた。料理の監修はイワフネと宮内庁料理人、ニューオタニ総料理長だった。

火星車エビ、火星伊勢海老、火星アワビにウニ、江戸前のアナゴ等、火星海洋と東京湾で獲れた新鮮な海の幸が振る舞われた。

 

ちなみに素材の一部は瑠奈の一本釣りや「素潜りの達人」であるイワフネが夜中の漁で収穫している。

先日、イワフネも神奈川県漁業協同組合に加入した。

 

SITIFUKUJINNのミニライブが盛況な(騒然な?)うちに終わると、次の新郎新婦友人たちのスピーチまではのど自慢ではなく、結のコネで呼び寄せた大物歌手やアイドルグループによる「出し物(歌と踊り)」が過密スケジュールで決行され、招待客は思わぬ豪華老若男女キャスト達の登場に歓喜した。

 

各テーブルの招待者席には結婚披露宴のパンフレットが各人ごとに「ホログラム(立体映像)」で用意されており、ホログラムに触れるだけで式次第が表示される仕組みとなっていた。

 

出席者の一人が「おい、この式次第・・・」と隣の出席者に声をかける

「なんで広告が載っているの?しかも広告は動画だぞ!!」

「連絡先はテーブルNo.で表示されている!?」

「うちのお得意先がテーブルNO.7に座っている・・・あれは三石銀行の頭取だよ。新郎新婦の会社のメインバンクだ!間違いない!あとでビール()ぎにいくぞっ!」

と、思わぬビジネスチャンスがもたらされていたりする。

 

テーブルのあちらこちらで驚嘆と出会いの(ささや)きが起こる。

 

列島諸国要人を招待したテーブルでは、

「ケビン、君は日本で最も成功した人物としていずれ「極東TIME誌」に載るぞ!」

「何をつまらんことを言っているんだ外務大臣」

「ケビン?」

「すまない。ソールズベリー卿」

「日本のケッコンヒロウエンとは我々とは全く異質だな」

「ああ。ダウニングタウンの結婚式場は日本人の予約が殺到して大儲けらしいが、日本独特の習慣に苦労しているようだ」

「まあ、ここぐらいに異質なら苦労するだろうが、まだ可愛いものじゃないか」

「そうだな。今でも自分がジョークの世界にいるような感覚だよ」

「同感だ」

 

二人は「30分前」に長崎県ダウニングタウンの首相官邸から特設された「どこへもドア」で到着していた。

隣接するユーロピア共和国のジャンヌ首相も同じだった。

 

「異質な文明さえ平気な顔で日常に取り込む日本人が恐ろしいよ」

ソールズベリー卿が感嘆のため息をつく。

 

現在新郎新婦が座る高砂前の空中では「大月家」三姉妹の一人である瑠奈が命綱無しの一輪車で綱渡りをしていた。両手でバランスを巧みに取りながら両手に持った扇子(せんす)で水芸をアドリブで披露している。水芸の水が間欠泉(かんけつせん)のように天井高くまで噴き上げてきたが大丈夫だろうか?

 

瑠奈の居る前後の空間だけ電磁シールドが展開されていて瑠奈だけが空間いっぱいに溢れた水に溺れながら空間ごと会場から退席(移動回収)していった。

司会が顔を苦笑しながら、

「可愛いお嬢さんの体を張った出し物に皆様盛大な拍手をお送りください」

と言うと、会場からどっと大きな拍手が沸き起こった。

 

近隣の()れたテーブル席に三姉妹の美衣子と結はいそいそとお詫びのタオルを配っていた。

タオルには「ミツル商事」とプリントされていた。火星人は商売上手だな。我が国の旅行者もあれくらいの環境適応を期待したいのだが・・・無理はやめておこう。

 

お色直しが終わった新郎新婦が黒タキシードと純白のウエディングドレスで現れると、英国連邦極東やユーロピアの招待客テーブルから「ビューティフォー!!」「プリティウエディングドレス!」

等と歓声が沸きおこる。

 

「ここでダウニングタウン管轄極東ウェストミンスター教会の司祭様による「(ちか)いの儀式」、続いて神田明神(かんだみょうじん)七福神様による「祝福の儀」が執り行われます」

 

会場のホテルから派遣されてきた給仕が同僚に小声で語り掛ける。

「なあ、確か「一般人の普通の人生の門出」とうちの支配人は言っていたよな?」

「そうだな」

「どこが普通?」

「・・・そうだな」

 

二人の給仕の視線の先では「本物の」七福神達が大月とひかりに「祝福」の「御神酒(おみき)シャンパンかけ」をして周囲のテーブルにもシャンパンがぶちまけられていた。

二人は慌ててタオルを手に取ると阿鼻叫喚(あびきょうかん)祝宴(しゅくえん)に突入していった。

 

その後も出席者を熱狂させるイベントが続いたが、最大の出し物は三姉妹主催の「大ビンゴ大会(三姉妹お小遣いの大半はここに(つい)やされた)」だった。

 

「一等はマルスアカデミー所属オウムアムル型恒星間宇宙船1隻。全長2㎞、幅500m、速度は秒速2キロよ」

DJ?の美衣子によるアナウンスに会場がどよめいた。

 

「二等は「どこへもドア」」

会場が沸く。科学者や流通業界参加者の歓声が熱烈だ。

 

「三等はターミネイター型万能アンドロイド。戦闘ももちろん可能よ」

会場がヒートアップしてきた。軍関係者が写メを取りはじめる。介護サービス業界や警備会社の経営者も動画を取っている。

 

「四等は私の肩たたき券よ」

大きいお友達紳士の招待客が数名興奮して失神した。

 

「五等は風雲ムスビ城の「1日城主権」よ」

マスコミ、テレビ業界関係者が数名興奮して失神した。

 

「残念賞は瑠奈と夜の東京湾アナゴ釣りツアーよ」

「私が残念みたいな言い方傷つくっス!!」

全員が爆笑した。

 

人生の波乱を短時間で演出した大ビンゴ大会の結果は、瑠奈のクラスメイトである天草華子(あまくさはなこ)が一等を引き当てた。

華子は父親のJAXA理事長に連れられて部屋の片隅で何やら打ち合わせをしていた。

JAXAは一気に外宇宙探索に乗り出すつもりだろうか?艦長は華子らしい。華子は急な人生大転換に興奮して過呼吸になり、クラス担任の真知子(まちこ)先生から応急処置を受けていた。

 

二等の「どこへもドア」は、角紅の得意先である流通宅配大手のヤマテ運輸社長が引き当てた。

ヤマテ運輸社長は宅配便の価格破壊を実現させそうな(ノリ)いだった。

 

三等の「ターミネイター型アンドロイド」は英国連邦極東のソールズベリー外務大臣が引き当てた。

翌日、ソールズベリー外務大臣はケビン首相に辞表を提出して警備保障会社を立ち上げた。ケビンはこの警備保障会社を国防省の傘下(さんか)に収めるつもりだった。

 

四等以下は・・・個人の名誉に係わるので省略したいが、全員が満足した事は確かだった。

こうして一般からかけ離れた大月家の「普通な」結婚披露宴は大盛会のままお開きとなった。

 

二人の新婚旅行は、かねてから美衣子達三姉妹に対する各国の招待を受ける形で、英国連邦極東とユーロピア共和国、月面都市ユニオンシティの各地をお忍で三か月かけて廻(まわ)ることとなった。

三姉妹と「ミツル商事」の面々がこの機を逃さずビジネス目的で随行したのは言うまでもない。

また、大月とひかりがいろいろと励んだ事も言わずもがなであった。

 

ちなみに、招待客は帰り(ぎわ)(むすび)手作りの引き出物である「玉手箱(改)」が配られた。

この「玉手箱(改)」は1回限りだが、箱から噴出する白い細胞活性化パウダーにより、パウダーに触れた身体の部分が2年程度「若返る」という驚きの効能だったが、厚生労働省から「頼むから商品化は待って!マジでっ!」と泣き落としが入って製品化を断念したものである。

 

そうとは知らず、披露宴の出席者全員が次々と箱を開けてしまい、毛髪が豊かになったり、肌の艶が良くなったりと一部で喜びの声が挙がったが、内閣官房から他言無用の要請があり、大月家への問い合わせは無かった。

数年後、厚生労働省管轄のNIID(国立感染症研究所)とミツル商事の共同研究として特許申請が行われ、待ち()がれた化粧品会社や製薬業界から業務提携の申し出が殺到したのはまた別の話となる。




ここまで読んでいただきありがとうございましたm(__)m
次話から「第八章 混沌のはじまり」となります。
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