転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

ジョーンズ=ユニオンシティ地上軍総司令官。中将。
サザーランド=ジョーンズの副官。
ケビン=英国連邦極東首相。
名取=航空宇宙自衛隊 強襲宇宙揚陸護衛艦「ホワイトピース」艦長。
ダグラス・マッカーサー三世=地球復興局局長兼統合作戦事務部長。


理想と現実

2022年11月10日【火星衛星軌道上 航空・宇宙自衛隊「ダイモス宇宙基地」】

 

ダイモス宇宙基地から次々と宇宙戦闘艦や大型シャトルが発進していた。

目的地は火星と太陽系第5惑星である木星の中間点、『アステロイドベルト(小惑星帯)』である。

 

5機のマルス文明大型シャトルにはアステロイドベルトで「日本列島オブジェクト」を建設する宇宙建築士と技術者500人、ミツル商事から「派遣された」アンドロイド作業員5,000個体が搭乗していた。

大型シャトルを護衛するように航空宇宙自衛隊の強襲揚陸護衛艦「ホワイトピース」や宇宙護衛艦「ひりゅう」、ユーロピア宇宙軍の「ドゥ・リシュリュー」、英国連邦宇宙軍の「ヴェンジェンス」、ユニオンシティ宇宙軍の宇宙空母「サラトガ」が展開していた。

 

「全艦隊基地から発進しました」

ホワイトピースCICのオペレーターが報告する。

 

「長旅だな」

ブリッジで名取艦長が(つぶや)いた。

 

第二次アルテミュア大陸上陸作戦からアースガルディアとの一連の戦闘まで着実に実績を積んだ名取は、「ホワイトピース」艦長のまま、准将(じゅんしょう)に昇進していた。

「これよりアステロイドベルトに向かう。全艦第一宇宙戦速。パルスエンジン始動!」

名取准将が命令した。

 

大型シャトルや各国の宇宙戦艦がブースターとして付けられたパルスエンジンを稼働させると、船団は蒼白い推進炎を放ちながら急速に火星から遠ざかっていった。

 

日本列島オブジェクト建設船団は順調に航行し、約1か月後にアステロイドベルトに達した。

アステロイドベルト宙域には、マルスアカデミープレアデスコロニーからのオウムアムル型支援船団が既に到着していた。

 

マルス 文明側(アカデミー)からの支援船団には、技術責任者としてゼイエス、支援船団隊長に以前イワフネの部下とゼイエスやアマトハを救出した救難艦の「から揚げ好きな」リア艦長が()いており、名取は久しぶりの再会に安堵(あんど)した。

 

建設船団はマルス側の支援隊と合流したのち、直ちに作業を開始した。日本列島オブジェクト完成までは約3か月かかる予定である。

 

 

2022年11月24日【地球 南米大陸旧ブラジル沖400㎞の大西洋 ユニオンシティ国海上都市「マリーンシティ1」】

 

約10キロ四方に広がるメガフロートで構成された海上都市にあるユニオンシティ軍基地司令部でジョーンズ中将は、地球復興計画に必要な火山灰中和剤としての石灰回収状況についての報告を受けていた。

 

「旧フランスアルザス地域と大地震で崩壊したアルプス山脈西部、ドーバー海峡海底での石灰石採掘は今のところ予定通りです。石油タンカーを改造した石灰石運搬船は30隻に達し、北海油田掘削プラントを改造、移動させた採掘ポイントは10か所になりました。採掘した石灰石を旧グラスゴーに集積させ、日本マルス航空の電磁カタパルト便で衛星軌道上へ輸送しています」

 

「電磁カタパルトを利用したコンテナ便か。時代が変わったことを実感するな」

ジョーンズ中将が呟いた。

 

「火山灰の影響で地球の飛行機は使えませんからやむを得ないでしょう。我々も月面基地で日々利用しているではありませんか。今は技術文明の過渡期(かとき)なのかも知れませんね」

副官のサザーランド大佐がやんわりとなぐさめるように言った。

 

サザーランド大佐はユニオンシティ海軍原子力潜水艦「ルイビル」艦長の任務をこなす(かたわ)ら、マリーンシティに寄港した際はジョーンズの副官的な役割をしていた。

 

海兵隊からの(たたき)き上げで長年沖縄に赴任(ふにん)していたジョーンズは、北米大陸救出作戦以降は火星に戻る事無く、日々生き残った米軍部隊を他(まと)めるべく地球各地と月面都市を奔走(ほんそう)しているためにユニオンシティ地上軍総司令官としての事務が殆(ほとん)ど手つかずで地球復興局統合作戦事務部からマリーンシティ基地司令部に度々苦情が寄せられていたのである。

 

たまたまマリーンシティを新たな母港としていた「ルイビル」はジョーンズ中将が地球各地に向かう交通手段として度々利用されており、その縁も有って見かねたサザーランドが自発的にジョーンズ中将の事務を手伝ったのが始まりとなっている。

 

火星諸国に劣らず、地球や月面でも文武に(たずさ)わる事の出来るプロ軍人の不足は深刻な問題なのだ。

 

「中将。ところで一つ気がかりな情報があります」

「沢山有り過ぎてわからんが、どの地域かね?」

「アジア・アフリカ封鎖地帯です」

サザーランドが答えた。

 

「封鎖地帯 外縁部(がいえんぶ)哨戒(しょうかい)しているわが軍の艦艇がしばしば「統一された大規模な」武装集団のものと(おぼ)しき通信を傍受(ぼうじゅ)しています」

「ふむ。続けたまえ」

 

「武装集団の名称は『PTF』と名乗るアジア・アフリカ地域の独裁国家連合のようです」

「ペルシャ・チンギス・フビライか。なるほど、「分かりやすい」旧時代の名称だ」

ジョーンズが即座(そくざ)に名称を言い当てた。

 

肯定(こうてい)です。文明レベルが現代から中世にまで退行してしまえば自然とそのような行動原理と思考になるのかも知れませんね。PTFは閉鎖されたアジア・アフリカ地域で武装勢力を糾合(きゅうごう)し、放置されていた各国の軍事物資や設備を活用して域内を移動しているようです」

「移動?定住しないのかね?」

「軒並み大噴火や大津波、放射能汚染が蔓延(はびこ)る地域ですから定住のメリットよりもデメリットの方が大きいのでしょう」

「どういうことかね?」

「彼らは所詮(しょせん)武装「盗賊」集団なのです。各地の都市で避難民から物資や女性を奪い、消費しているに過ぎません」

「生産的な事は何もしていないのかね?」

「彼らにはマルス文明の恩恵(おんけい)が及んでいません。火山灰に閉ざされ、酸性化した土壌で水も放射能や化学物質で汚染されています。定住したところで何も育てようが有りません」

「それは我々が放置した責任だな」

「ええ。復興計画の影の部分です」

「火山灰中和作業が完全実行されると環境も少しは好転するだろう。そして2年後の日本列島オブジェクト到来で激変し続ける環境も元に戻る、かもしれん。それまでは、我々自身が生き残るのに精一杯だ」

「存じております」

「閉鎖地帯はそれまで持つと思うかね?」

「大変動前はあのエリア人口は35億人居ました。今はおそらく1億未満に激減しているでしょう。それでも数百万人は生存していますが現状を見る限り、自立は無理でしょう。我々が随時物資支援をしないことには閉鎖地帯内の人類は(ゆる)やかに滅んでしまうでしょう」

「せめてもう少しこちらが豊かならばな」

 

「火星には開拓できる場所が無限にあるという(うわさ)が軍と地球復興局末端で広まっています」

ジョーンズは怪訝(けげん)そうに(まゆ)を跳ね上げた。

 

「そんな上手い話など無いよ。開拓とて何も支援がなければ豊かになれんのだ。私が知る限り、火星は、日本列島諸国は、今も物資に不自由している(はず)だ」

 

「地球復興局末端の現地採用組で、地球しか知らない避難民職員から見れば火星は「天国」に見えるのでしょうね」

「愚かな。私にはどちらが良いとも言えんな」

ジョーンズは嘆息(たんそく)した。

 

「まさか地球避難民の大量受け入れなど今の火星諸国には無理難題以外の何物でもないだろうな」

「そこまで愚かな申し入れを復興局がするとは思えませんが、少々不安ですね」

「もし強行に受け入れを迫れば火星と地球の戦争になりかねんだろうな」

「上層部がそんなヘマをしないことを祈りましょう」

 

サザーランドの発言は多分に事実をかなり的確に突いていたが、厳密には地球復興局「統合作戦事務部」は火星諸国が失点を上げることで'ユニオンシティ国が推す'難民受け入れを強要できる環境を待ち望んでいた、とも言えるだろう。

11月末に地球復興局は日本国民間企業「ミツル商事」に地球マリーンシティ海上都市における警備委託をした。

 

ミツル商事の大月社長から相談を受けた日本政府とイスラエル連邦は、両国の軍人をミツル商事警備保障部門に出向させ、イスラエル連邦軍のマリーンシティ駐留を条件として要請を受託する交渉を地球復興局局長ダグラス・マッカーサー三世と行った。

 

マッカーサー三世はイスラエル連邦軍の駐留に難色を示したが、ミツル商事のアンドロイド傭兵制御に連邦軍は不可欠とのニタニエフ首相の強い主張を受け入れてミツル商事はマリーンシティに大規模な水陸軍団を派遣することとなった。

美衣子は日本列島から離れる事が困難なため、瑠奈がイスラエル軍事顧問のワイズマン中佐と共に「マリーンシティ警備部隊長」として現地に向かう事となった。

 

12月8日、瑠奈が率いるミツル商事の水陸軍団とワイズマン中佐が指揮するイスラエル連邦陸軍部隊が大型シャトルでマリーンシティに到着した翌日、マッカーサー三世は秘かに放棄されたはずのインド亜大陸沖のサンゴ礁で出来た小島、ディエゴガルシアに極秘通信を送っていた。

 

大変動直前まで、ディエゴガルシア基地は旧フランス南太平洋方面軍と旧米国インド・太平洋軍のアジアと中東地域を(つな)ぐ唯一の戦略拠点であった。

大変動で発生した幾度にもわたるインド沖巨大津波で基地の地上部分はほとんど流失してしまったが、地下深くの核兵器貯蔵エリアは無傷で残っていた。

マッカーサー三世が待ち望む火星側の失点材料として活用出来そうだった。

 

同時期、2022年12月初旬【長崎県佐世保市 英国連邦極東首都 ダウニングタウン 首相官邸】

 

「首相、やはり復興局は我が国に20万人規模の難民受け入れ要請を検討しているようです」

極東MI6(対外諜報6課)を統括する内務大臣がケビン首相に調査結果を報告していた。

 

「地球復興局には頭がお花畑の人間しか居ないのかね?」

葉巻をくゆらせながら(あき)れた表情のケビンが言った。

 

「月面都市で昔の青い地球を未だに夢想(むそう)して生きているような連中ですからな」

内務大臣が応えた。

「同様の要請をユーロピア共和国にも行うようです。ユーロピア(彼ら)共和国には10万人の受け入れ要請です」

 

「馬鹿馬鹿しい。奴ら、だれの支援で生き延びていると思っているのだね」

「自分たちの「実力」だと勘違いしているのでしょう」

 

「現実を知るソーンダイクも大変だな」

「宇宙飛行士あがりと地球の官僚達からは()められているようですね」

 

「日本にはどれくらい要請するのだ?」

「1,000万人です」

 

ケビンは一瞬 唖然(あぜん)として

「正気なのか?」

と内務大臣に聞き返した。

 

「残念ながら。ダグラス・マッカーサー三世が強硬に主張しているようですね。彼はボレアリフから月面に逃れて役人として再起に成功したようですな」

内務大臣が肩を(すく)めて応えた。

 

「それだけ人材がどの国も足らんのだ」

憮然(ぶぜん)とケビンが言った。

 

「日本は受けますかね?」

「無謀すぎるだろう。日本国内世論が一気に沸騰してどこかに「転移」してしまうぞ?」

 

「ありそうですね」

「日本列島が転移したら火星はまた死の星になるな」

「我々は日本と共に居るのですか?」

「火星に残りたいかね?」

「開拓が趣味ではありませんので遠慮させていただきます」

 

ケビンは軽くため息をつくと、

「ま、ともあれこの情報はタロウに伝えてやるか。地球を今のうちに牽制(けんせい)した方が良さそうだ」

「かしこまりました。明日、ジャンヌ首相や美衣子殿とのお茶会がありますから澁澤首相も招待します」

「頼む」

 

翌日、ケビンから地球復興局の計画を聴かされた澁澤は激怒してその場でソーンダイク代表とホットライン会談を行い、事実関係を(ただ)した上で、地球から日本列島諸国の全支援を撤収させると通告した。

 

ソーンダイク代表にとっても復興局の計画は寝耳に水だったようで、計画の撤回を強く働き掛けると澁澤に約束した。

こうして地球復興局の大規模火星植民計画は各国への要請に至る前に阻止(そし)された。

 

ソーンダイクからの通告で計画を断念した地球復興局局長のマッカーサー三世は怒り心頭だったが、マルス文明三姉妹を擁(よう)する日本陣営との正面衝突はアースガルディアの二の舞になる事を身に染みて理解していたので次の「復讐」の機会を準備しながら待つことにしたのである。




ここまで読んでいただきありがとうございましたm(__)m

次話は7月29日㈰に投稿予定です。
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