転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

(ムスビ)=マルス尖山基地人工知能。
瑠奈(ルナ)=地球観測人工天体管理人工知能。小学校で社会勉強中。
名取=航空・宇宙自衛隊強襲揚陸護衛艦「ホワイトピース」艦長。
ゼイエス=マルス人科学者。
澁澤真知子=瑠奈が通う小学校の担任。
リア=マルス人。マルスアカデミー支援船団隊長。


霧中宙域

2022年12月13日【太陽系第5惑星 大赤斑(だいせきはん)周辺】

 

この星系で5番目の存在は、自分の近くで3番目の子供達が小石を集めているのを眼を見開いて注意深く見続けていた。

この子供達は突然4番目の存在上に現れて眠りについていた4番目を無理やり醒まさせたのだ。おかげで自分の身体があちこち火傷(やけど)して現在も傷は拡がりつつある。この傷は致命的ではないが次があると流石に危ない。

4番目が目覚めてからずっと3番目の子供達に注意してきた5番目の存在は、子供達が小石を集めて何をしているのか気になった。

 

そして5番目の存在は3番目の子供達にコンタクトを試みるべく自らの一部をその小石が散らばる場所に伸ばし始めた。

 

 

2022年12月13日【火星と木星の中間地点 アステロイドベルト】

 

ズワイガニの脚みたいなパーツを何本もはやした大型シャトルが直径5㎞程の小惑星が点在する宙域から幾つも連結して集結地点に運んでいた。

 

SF映画やアニメでは、アステロイドベルトを小惑星が密集する場所と描写しているが、実際にはその宙域に存在する小惑星の数は密集する程ではない。確かに惑星の成れの果てか、なり損ねたデブリが太陽を中心に公転する軌道に存在しているが、広大な軌道故に惑星の欠片(かけら)は分散している。

 

建設船団の指揮艦「ホワイトピース」のブリッジでは様々な作業報告と指示が慌ただしく飛びかっていた。

東松(とうまつ)JV(ジョイントベンチャー)、間もなくオブジェクト東北の建設に入ります」

盾中工務店(たてなかこうむてん)JV、オブジェクト九州の建設進捗38パーセント」

「ミツル商事チームはオブジェクト中部地殻部分フォッサマグナマグマ溜まりの製作に取り掛かってください。---富士山の仕上げがまだ?---そちらは最後で結構ですから、今から()り過ぎないでくださいっ!地殻と地球マグマの通り道を作る作業を優先させてください」

 

「プレアデス支援船団から報告、本州西部基盤となる小惑星260個の結合作業に入ります」

「P-パワープラント船からの結合レーザー照射準備!」

 

「ミツル商事チーム!マグマ溜まりに大使の秘密基地は標準装備ではありません!怪獣の巣穴も不要です!くれぐれもノーマルな建設をお願いしますっ!」

作業は一部芸術肌個性派アンドロイドを除き、順調に推移しているようだった。

 

「・・・最初はどうなるものかと疑ったが、なかなか様(さま)になるものですね」

三姉妹謹製ミツル商事アンドロイドへの指示に四苦八苦するオペレーターを華麗(かれい)にスルーしながら、名取艦長が(かたわ)らに立つマルスアカデミーのゼイエスに声をかけた。

 

「おおむね想定内の事です。技術上なんの問題もありません。日本列島オブジェクト地殻部分の形成に成功したら上層部の建設に入ります」

 

淡々とゼイエスが名取艦長に作業スケジュールを説明していると、突然甲高い警報音がブリッジに響き渡った。

「艦長!空母「サラトガ」から緊急通信。「哨戒機の観測によると、木星方面から異様なガス雲らしき物が急速接近中」との事です」

「サラトガとデータリンク!正面モニターに出せ!」

 

ホワイトピースのブリッジ正面のメインスクリーンに巨大な木星の大赤斑(だいせきはん)からモクモクと黒灰色や茶色のガスらしき物が勢いよく吹きあがってこちらに迫っているのが哨戒機の最大望遠カメラで確認できた。

「プレアデス支援隊より緊急通信!正体不明のガス雲が亜高速で船団に接近中!」

「亜高速!?」

名取は絶句した。

 

「ゼイエスさん。これはいったい?」

「ちょっと普通ではお目にかかれない光景であることは確かです。このような現象は私がマルスに居た時代にも無かった。明らかな異常事態です」

ゼイエスが滅多(めった)に出さない冷や汗と、うろたえた表情をしながらやや固い声で応えた。

 

「作業中止!哨戒機含む全作業ユニット乗員は速やかに各自の母船に戻れ!全艦隊輪形陣!オウムアムル艦と護衛艦は外側で建設船団を(まも)れ!」

「マルス支援隊リア艦長から通信!画像乱れ、音声だけです!」

オペレーターが音声通信をスピーカーに(つな)いだ。

 

「名取艦長、第5惑星の大気は水素とーーーが大半です。通常、真空では気体は拡散してしまうのにこのガス雲はーーーだけではないようです。まるでーーー明らかに我々を指向(しこう)---警戒ーーー」

「プレアデス支援隊との通信途絶!」

「ダイモスに緊急通信!」

「ダメです!通信反射されています!センサー、電波の(たぐい)はガス雲を透過出来ません!」

「サラトガとのデータリンク切れました!艦隊通信システムに異常!」

「状況ガス!総員宇宙服着用!急げっ!」

「ガス雲接触まで55分」

 

約1時間後、臨戦態勢を取りながら輪形陣(りんけいじん)で固まった船団を木星からのガス雲が(おお))いかぶさるように包み隠して拡散し、アステロイドベルト宙域の半分近くが木星からの謎のガスに覆われた。

ガス雲の中からは救難信号も電波も何も発信されなかった。

 

ーーーーーーーーーー

 

12月14日午前9時【東京都渋谷区 神聖女子学院付属小学校4年A組】

 

「はい。それでは宿題のスケッチをみんな持って来てください」

真知子先生が「夜の天体観測」をスケッチさせた宿題の提出を生徒に(うなが)した。

 

「なるほど。さすが名取さんですね。綺麗(きれい)な地球ですね」

「本当は灰色だとお父様が言われていたのですが・・・」

名取優美子が照れながら応える。

 

「星を視るとき、人はいろいろな事を想像してきました。だから星座も考え付いたのです。こういうのも良いと思いますよ。それに、綺麗だった頃の地球を記憶に留めることも大事だと先生は思いますよ」

真知子先生が優しく感想を言う。

 

「次は、瑠奈さんね。一枚だけ?」

 

地球のアジア・アフリカ地域に出張していた瑠奈は「どこへもドア」で久しぶりに登校していた。もっとも、宿題を提出したら地球にとんぼ返りだが・・・。

「真実は1枚に凝縮(ぎょうしゅく)されるッス!」

 

「面倒くさかったと言うことでいいのかしら?」

「そうっス!」

元気よく瑠奈が認めてしまう。

瑠奈の白状は裏表がなくて美点とも言えるが、真知子先生はやはりガッカリしてしまう。

 

真知子先生がため息をつきながら瑠奈のスケッチを見ると、眉を吊り上げて何とも言えない顔をした。

「瑠奈さん。これは「どこの星」かしら?」

「木星っすよ!昨晩はご機嫌ななめでしたっスよ!」

「木星の模様を顔文字で表現するとは、流石にクリエイティブ過ぎないかしら?」

 

真知子が手に持つ瑠奈の「木星」スケッチに描かれた「第5惑星」は惑星表面を覆うガスの渦が

「(-_-メ)」と確かにご機嫌斜めな顔文字になっていた。

 

「瑠奈さん。地球へ戻る前に補習一緒に頑張りましょうね?」

「ぐはっ!何でっ!」

瑠奈は床にorzと(ひざ)をつくのだった。

 

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2022年12月14日午前10時【航空・宇宙自衛隊「ダイモス宇宙基地」司令部】

 

「定時通信の時刻から6時間以上経過していますがアステロイド派遣船団からの通信が来ません」

オペレーターが鷹匠(たかじょう)准将に報告した。

 

「太陽嵐か、木星周辺で起きる何らかの自然現象か?1時間ごとに再度の通信を試みるんだ」

鷹匠が指示を出した。

その日、十数回にわたり火星からアステロイドベルトに向け各国派遣部隊の緊急コードを使ってあらゆる周波数帯で通信が送られたが、誰からも、プレアデスコロニー支援船団からも返信は無かった。

 

鷹匠は市ヶ谷の防衛省総合指令センターに異常事態を報告した。

防衛省はこの異常事態を内閣官房を通じて澁澤総理大臣に報告するとともに、プレアデス星団のマルスアカデミー本部と各国首脳にも第一報を入れ、三鷹にある国立天文台に周辺宙域の観測を依頼した。

 

国立天文台の空良(そら)所長は、木星から噴出した大規模なガス雲のようなものが異常な高スピードでアステロイドベルトに到達して半ば包み込んだ状態になっており、また、木星自体も大赤斑(だいせきはん)と似た大気の逆流現象が木星各地に多数出現して拡大しつつあり、何らかの原因で木星に異常が起きている事をダイモス基地の宇宙望遠鏡で確認した。

 

ダイモス基地の観測設備はガス雲の解析を試みたが、ガス雲は電波を吸収して透過(とうか)させなかった。また、X線でもその宙域に拡がる存在を(つか)むことは出来なかった。しかしながらガス雲と思われる存在は宇宙望遠鏡での「目視(もくし)」で確認出来るのだった。

空良は、該当宙域に(おもむ)いてガスの採取をしない限りこれ以上の分析は困難だと判断した。

 

美衣子(ミーコ)(ムスビ)、はダイモス基地の司令部が異常を察知する直前、マルスアカデミーのリアルタイムデータリンクが切断された段階で、イワフネハウスの地下研究室からマルスアカデミープレアデス支援船団のゼイエスにプラーベート通信を送ったり、心身同調システムを作動させて(マスター)の生死を確かめようとしたが応答は無かった。

 

美衣子は瑠奈の小学校クラスメイト天草 華子(はな)子に、大月の結婚式で引き当てた1等賞品のオウムアムル型宇宙船の発進準備を依頼した。

華子は失神寸前に陥ったが根性で踏みとどまって美衣子に事態の説明を求めた。

説明を受けた華子は狼狽(ろうばい)しながらも美衣子に発進準備方法を教えてもらうことにした。

 

真知子先生は給食後の掃除時間に天草華子から必死な形相(ぎょうそう)で早退したい旨を告げられて怪訝(けげん)に思ったが、彼女の鬼気迫る表情に何らかの緊急事態が到来したと感じて早退を許可した。真知子先生は直ぐに護衛も兼ねる同僚SPに夫への緊急連絡を依頼した。

 

午後1時、澁澤首相は各国首脳とマルスアカデミーのアマトハも加えた緊急電話会議を開催し、アステロイドベルトと木星の異変を報告、調査・救援部隊を航空・宇宙自衛隊から派遣する事を伝えた。

調査・救援部隊にはJAXAの空良(そら)、ミツル商事の(ムスビ)、機動部隊隊長の高瀬中佐達が宇宙装備に換装(かんそう)した多目的宇宙護衛艦「そうりゅう」に搭乗してアステロイドベルトへ向かうこととなった。

 

2022年12月15日午後6時、徹夜の換装作業で宇宙装備を整えた多目的宇宙護衛艦「そうりゅう」が、種子島宇宙センター軍用電磁カタパルトから射出された。

搭乗員は強力な推進Gに対応するために全員が冷凍睡眠カプセルで仮死状態に入っており、ダイモス宇宙基地からの遠隔航行制御で木星との中間地点であるアステロイドベルトへ向かった。

 

同午後7時、日本政府と各国は、アステロイドベルトで作業中のオブジェクト建設船団からの通信が突然途絶えたこと、通信途絶前に木星で原因不明の異変が発生し現在も続いている事を公表した。

また、既に原因調査・救出部隊が火星から発進した事も伝えられた。

 

同時刻【神奈川県横浜市神奈川区 NEWイワフネハウス】

 

「本当は華子(はなこ)の船を向かわせたかったのだけど」

美衣子はため息をついた。

 

「流石に船の操縦が出来る人はまだ居ないなぁ」

大月が残念そうに言った。

華子は確かに準備に奔走(ほんそう)したが、よく考えるとオウムアムル型恒星間宇宙船の操縦に熟練した人類はまだ居なかったのだ。結に操縦を任せても良かったのだが、不測の事態に対応するためには艦の操縦が二人以外にも必要であり、現状ではそれを埋め合わせる人材が居なかった。

 

結局、急いで操船可能な者を養成することにしたのだが、安心できるレベルに達するまでは今しばらく時間が必要だった。

 

調査隊が種子島から発進する様子を自宅のテレビで()ていた大月は、ひかりと美衣子(ミーコ)、の手を握りしめて結と名取達の無事を祈るのだった。




ここまで読んでいただきありがとうございましたm(__)m
次話は8月5日㈰に投稿予定です。
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