転移列島   作:NAO

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【このお話の登場人物】

鷹見(タカミ)(ムスビ)=マルス尖山基地人工知能。美衣子の妹分。
空良(そら)(とおる)=国立天文台所長。
高瀬(たかせ)(つばさ)=航空宇宙自衛隊機動兵器部隊隊長。中佐。
大月 瑠奈(ルナ)=マルス文明地球観測天体人工知能。結の妹分。
ペレス・ワイズマン=ミツル商事に派遣されているイスラエル連邦軍軍事顧問。中佐。

ダグラス・マッカーサー三世=地球復興局局長 兼 ユニオンシティ中央情報局長官。


セカンドコンタクト

2022年12月24日【アステロイドベルトまで2万㎞の宇宙空間 航空宇宙自衛隊多目的宇宙護衛艦「そうりゅう」】

 

「高瀬中佐、建設船団想定作業宙域まであと2時間で到着します」

発令所で艦長が高瀬に報告した。

 

火星を出発した救援部隊は10日ほどで5億2,000万㎞を航行してアステロイドベルトに到着しようとしていた。

「ダイモス基地の遠隔航行操作を解除。パルスエンジン停止、水素エンジンに切り換えろ。速度を落として近づくぞ」

高瀬が艦長に指示する。

 

「作業宙域まで20,000km」

「全周波数で作業船団に通信を」

 

オペレーターが首を横に振る。

「ダメです、応答なし」

「諦めるな。呼びかけを続けるんだ」

 

「結さん。あの雲は何だと思いますか?」

発令所のスクリーン一杯に拡大されたアステロイドベルトを覆い隠すガス雲を指して空良(そら)が尋ねる。

 

「分からないわ。でも普通のガスや星間物質ではないようね。どちらかと言うと生き物の様な気がするわ」

結がスペクトル分析を行う計器を操作しながら応えた。

 

「生き物ですか・・・、生き物ねぇ」

(あご)(さす)りながらガス雲を見つめる空良だった。

 

【アステロイドベルト 日本列島オブジェクト 中部糸魚川地殻形成作業区域 M-87】

 

ミツル商事チームの派遣アンドロイドは、作業中に第5惑星からのガス雲でコントロール船のメインサーバーからの指令コマンドが中断されたため、自動的にその場でスリープモードに入っていた。

ツルハシを振り上げた格好で静止していた1体のアンドロイドは、スリープモードにもかかわらず、外部からの干渉を受けてとある行動を始めようとしていた。

 

3番目の子供達が居る宙域に手を伸ばしたその存在は、さらにこちらに接近してくる3番目の子供達を見つけた。

5番目の存在は、3番目と4番目の子供達から情報を収集したが、どうやら3番目の住人が予期せず突然4番目に移ったらしい。また、4番目の子供達は既に他の家族へ旅立ったらしい。

太陽系(このかぞく)形成以来、「幾度となく」繰り返された歩みである。

 

しかし、何故アステロイドベルト(そこに)子供達がいるのかはよく分からなかった。

5番目の存在は、新たに接近してきた3番目の子供達に答えを見出そうとして4番目の「人形」を憑代(よりしろ)に使うことにした。

 

-「そうりゅう」発令所-

 

「アステロイド作業宙域まであと12,000km」

 

「機関停止、慣性航行」

「アイ。慣性航行」

 

「ドローンを出せ」

「ドローン出します!」

 

高瀬の指示で艦首宇宙魚雷発射管からドローンが射出された。

ドローンはアステロイドベルトに近づくと減速してガス雲に近づく。

 

「ガスと接触!」

「操縦を替わるわ」

結がドローンの操縦と調査機器の操作を始めた。

 

「まずは、ドップラーレーダーね」

「・・・反応なし」

 

「次は赤外線センサーでガスの温度を測るわ」

「サーチ。温度分布、表面部35.5度、内部は15度から3度、湿度99%以上?水?ぬるま湯が拡がって冷める感じかしら?」

 

首を(ひね)る結の後ろでモニターを(のぞ)き込む空良(そら)は驚きを隠せなかった。

真空での温度は絶対零度、-270度であるというのが今までの通説だった。

 

「宇宙空間で液体がなぜ存在できるのでしょうか?」

「ただの物質ならそうでしょうね。でも生命体として分子同士の繋がりが有機的に保たれているのなら、(ある)いは」

 

「マジですか!?」

「マジよ」

 

「ドローンをもう少し中に進めるわ」

 

ドローンはゆっくりとガス雲改めアメーバの様な水性体の内部に進んでいく。

 

その時、ドローンの先端に突然何かが飛び出して来て取り付いた。

「ドローン、ガス雲内部で物体と衝突!」

「デブリか!?」

 

「デブリ解析、セラミック純度98%、マルスアカデミーコードを識別。ミツル商事派遣アンドロイド ツルハシ201912号だわ」

結が応えた。

「作業場所から流されてきたのか?」

 

「アンドロイドから緊急コール。コネクトしますか?」

「許可する」

 

「アンドロイドからメッセージ受信「我々5番目は3番目に興味がある」との事です」

 

「空良さん!」

高瀬が空良に対応を相談する。

 

「おそらく太陽系第5惑星の何らかの存在でしょう。こんなところでジョークを仕掛ける存在など何処にもいないでしょう。人類がマルス文明以外の存在にコンタクトする機会です!」

空良が対話に応じようと判断した。

 

「メッセージ返信。「こちら第3惑星地球人類。そちらの存在と対話を希望する。どうしたらいい?」」

高瀬が率直な返信を指示した。

 

人類にとってセカンドコンタクトが始まろうとしていた。

 

ーーーーーー

その頃地球ーーー【南太平洋旧フィジー諸島沖 ユニオンシティ国メガフロート「マリーンシティ1」 地球復興局会議室】

 

マリーンシティ海上都市にある地球復興局では、地球復興計画に(たずさ)わる科学者や各地域の官僚代表が集まって復興計画のスケジュール確認を行っていた。

 

「石灰石の衛星軌道ジャンクションへの輸送は順調です」

「ラグランジュポイントで建設中のハイパーループ貨物システムの進捗状況30%です」

 

「北米・ヨーロッパ方面避難民キャンプの食糧事情が悪化しています」

「軌道上からの物資投下で辛うじて飢餓状態を(まぬが)れている状態です」

 

「現地調達出来んのかね?」

「大地は火山灰で覆われて強酸性の土壌に変質しています。どうしろと?」

 

「海があるではないか?まだいくばくかの魚かクジラでも居るのではないかね?」

マッカーサー三世が言った。

 

「クジラやイルカは高い知能を持つ高等生物です。捕鯨(ほげい)をするなど前時代的です!!」

かつて環境保護団体に参加したこともあるヨーロッパ避難民キャンプ代表が反発した。

 

「我々人類がこれから地球を再生させるのだ。その為には生きるための(かて)が必要なのだ。クジラやイルカに地球の再生が出来るのかね?」

冷徹(れいてつ)にマッカーサー三世が言った。

 

「今は綺麗事を言って誰かが助けに来るのを待つ状況じゃないんだ。自分たちでどうにかするしかあるまい」

マッカーサーの言葉に避難民代表は反論できなかった。

 

「局長。ミツル商事海洋養殖部門の(みさき)と申します。わが社が火星海洋上で養殖している海老や貝、マグロ等を地球(こちら)でも試してみてはいかがでしょうか?」

「おお。日本の著名な海洋生物学者殿か。火星での養殖は成功しましたか?」

 

「ええ。おかげさまで。今は規模を拡大して食料プラントとして生産量を上げるように試行錯誤中ですね」

「ふむ。・・・いいだろう。だが我々の物資不足は慢性的でサポート出来ないのだ。貴女(あなた)の所ですべて手配できるならば構わない」

 

「ありがとうございます。わが社と提携している宇宙貨物便で手配します」

「すまんな。ああ、それとくれぐれも火星の生物(モノ)は持ち込んでくれるなよ?」

まったく済まなそうな顔をせずにマッカーサーが言い放つ。

 

岬は思わず

「は?」

と訊き返してしまった。

 

「ワームとか小さいのが居るではないか。火星の海老や貝に混じっていたらどうするのかね?」

何となくいちゃもんを付ける小姑(こじゅうと)みたいな事をマッカーサーが言う。

 

「魚の餌として地球産ワームを飼育していますがそれもだめでしょうか?」

「地球産であれば問題なかろう」

 

「いやー局長。でもそれは遅いっスよ!」

岬の隣に座っていた瑠奈(ルナ)がマッカーサーに言った。

 

「どういう意味かね」

「地球には大昔から火星からの隕石が落下してるっすよ?確か旧NASA(ナサ)も知っている筈ッスよ」

 

「隕石は大気圏で大部分が燃えている。あの高温を切り抜けられる訳がない」

「そうっスかねぇ?火星の生き物は逆境に超強いっスよ!局長も最初のアルテミュア大陸上陸作戦で学んだのではないッスか?」

 

「ワームが隕石に(まぎ)れ込んでいるというのかね」

マッカーサー三世が眼を細めてわざとらしく首を捻る。

 

「第二次アルテミュア上陸作戦以降、火星では巨大ワームが極小(ごくしょう)ワームの詰まった岩石をICBMのように遠距離から発射するようになりました」

岬が応えた。

 

「そのような生物の詰まった岩石(カプセル)が極地などに落下して生きたまま凍結されていたら?ポールシフトで溶解した氷床(ひょうしょう)の中にその岩石が有るとすれば、永い眠りから醒めて成長しているかもしれませんね」

「・・・」

岬の指摘にマッカーサー三世は考え込んでしまった。

 

局長が沈黙したので議論が収束したと判断した局員が次の議題に移った。

「では食糧問題はミツル商事の方々に期待しましょう。次に、アジア・アフリカ閉鎖地域における武装勢力掃討作戦ですがーーー」

 

岬と瑠奈はため息をついて議論だけしかしない長丁場を耐えるのだった。この会議場にいるユニオンシティ国関係者は誰一人として自らの発言を行動で示すことはしていなかったのだ。

 

【南太平洋マーシャル諸島沖 旧ビキニ環礁跡 ユニオンシティ海軍アーレイバーグ級駆逐艦「フィッツジェラルド」】

 

「地磁気異常と海底に沈む放射能汚染された船の残骸(ざんがい)からの放射線で従来の航法システムが乱れています」

「現在地点の推測は出来んのか?」

艦長が航海士に()く。

 

「パトロールコース通りに航行したとして、ビキニ環礁至近(しきん)です」

「核実験の名残(なごり)か?」

 

「おそらくは。実験で沈没した多くの標的艦が散在しているはずです。座礁(ざしょう)を避けるために微速前進(びそくぜんしん)します」

「オーケー。進めてくれ」

 

この旧アメリカ海軍イージス駆逐艦は、メガフロート海上都市が行く航路の安全を確認するため、事前に哨戒(しょうかい)していた。

 

慎重に(ふね)を進めると唐突(とうとつ)に駆逐艦のソナーが反応した。

「ピン、ヒット!距離150、深度70、大きいぞ!識別艦該当なし!アンノウン!」

「総員臨戦態勢!爆雷戦用意!シーホークを出せ!」

 

「スクリュー音解析まだか?」

「解析不能!」

 

「何だと!?」

「目標はスクリューを使っていません!」

 

「電磁推進システムか?」

火星人(マルス)以外に実用化した国は聞いた事がありません」

 

「シャチかクジラか?」

「大きすぎます。全長200m、航跡はジグザグです。くねりながら進んでいる?」

 

「信じられん。海蛇(シーサーペイント)でもあるまいし」

「アンノウン深度上昇、本艦に接近」

 

「CIC!艦長だ。シーホークから曳航ソナーで探知、迎撃せよ。全艦オールウェポン・フリー(武器使用自由)!」

 

フィッツジェラルドの近くからソナーを吊り下げたシーホークヘリが駆逐艦の右舷を前進していく。

次の瞬間、艦橋(ブリッジ)で海面を警戒していた艦長以下は信じがたい光景を目撃した。

 

シーホークヘリの真下からピンク色の巨大な筒が海面を突き破ってシーホークヘリを一飲みして直ぐに海中に沈んだ。瞬きする間の出来事だった。

「マイゴット!何だ、今のは!!」

「落ち着け!マリーンシティに緊急連絡!我巨大生物の襲撃を受けつつあり!我ーーー」

 

再び巨大なピンク色のワームが海面を突き破るとフィッツジェラルドの艦橋(ブリッジ)に突き刺さってCIC(戦闘管制室)に移動が遅れた艦長以下の将兵を体内に吸い込んだ。

 

艦橋を喪失(そうしつ)して艦のコントロールまで(うしな)ったフィッツジェラルドは、CICの将兵が救命ボートに乗り込む前に、破損したブリッジ残骸からショートした火花が上甲板格納ミサイルに引火して爆発、轟沈(ごうちん)した。

生存者は居なかった。

 

【南太平洋旧フィジー諸島沖 ユニオンシティ国メガフロート「マリーンシティ1」】

 

「あれ?おかしいっス!」

瑠奈(ルナ)がメガフロートに上陸して整備中の水陸両用戦闘艦「マロングラッセ」のブリッジで計器の異常に気付いた。

瑠奈の習性を習得したアンドロイド軍団は訓練に励むイスラエル兵士を尻目(しりめ)に昼寝をしている。

 

「どうした瑠奈?」

一緒にブリッジのパネルを点検していた相棒のワイズマン中佐が訊き返す。

 

「いやー、ワーム探知システムがさっきからビンビン反応してるんスけど?」

「女の子が変な言い方するんじゃない。どうせ瑠奈が会議で余計な事を言ったからだろう?」

 

「あんまりッス!」

「マジになるなよ。どうせ、コンソールにポタージュでもこぼしたんだろう?」

 

「違うっスよ!ペカ・コーラッスよ!」

「やっぱりダメじゃないか!」

 

二人がいつもの漫才(じゃれあい)をしていると、司令部付き将校が二人を呼びに来た。

 

「ミス瑠奈、ワイズマン中佐。ジョーンズ司令官がお呼びです。緊急事態です」

「何があった?」

 

「海上都市の航路を先行していた駆逐艦がワームに襲われました」

「なっ!?」

二人とも絶句した。

 

二人が急いで司令部の建物に入る時、メガフロート都市全体に非常事態を知らせるサイレンが鳴り響いた。

 

人類は地球において再び巨大ワームの襲撃を受けようとしていた。




ここまで読んでいただきありがとうございますm(__)m
次話は8月12日㈰に投稿予定です。
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