転移列島   作:NAO

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【このお話の登場人物】

鷹見(タカミ) (ムスビ)=マルス尖山基地人工知能。美衣子の妹分。
空良(そら) (とおる)=国立天文台所長。
高瀬 翼=航空宇宙自衛隊機動兵器部隊隊長。中佐。

大月 瑠奈(ルナ)=マルス地球観測天体人工知能。結の妹分。
ぺレス・ワイズマン=イスラエル連邦軍中佐。
ジョーンズ=ユニオンシティ地上軍総司令官。中将。



対面

2022年12月25日午前5時【アステロイドベルト宙域 航空宇宙自衛隊 多目的護衛艦「そうりゅう」】

 

ガス雲のような生命体がマルスアンドロイドを通じてコンタクトを試みて来たので「そうりゅう」発令所は騒然としていた。

宇宙服にレコーダーを仕込む者、艦外カメラを甲板にセットする者、謎の生命体とマルスアンドロイドとの間に電波的なやり取りがないか観測機器を懸命に操作する者が慌ただしく動き回る中、(むすび)空良(そら)、高瀬中佐は特に急ぐこともなく平然としていた。

 

そしてマイペースにガス雲の成分を詳しく調べていた結がある結論に達した。

「空良、やっぱりあれはガス雲ではないようね。アメーバーのように伸縮自由な水生生命体よ」

 

「つまり・・・スライム!?」

落ち着いているように見えた空良は少しテンパっているようで思考が斜め上の様だ。

 

「・・・ファンタジー極まりないけど、そうとも言うわ」

閉口した結が答える。

 

「真空の宇宙空間でよく生存できますね」

「それはあの存在に訊いてみないことには分からないわ」

 

「ドローンから入電!「こちらのアンドロイドを使って対話したい」との事です」

「よし、前部甲板(デッキ)で対話しよう」

高瀬が決断した。

 

「結さん、空良所長、お願いできますか?」

「わかったわ」

「もちろん」

 

20分後、「そうりゅう」司令塔前の甲板に宇宙服を着た結と空良が右手にツルハシを持ったマルスアンドロイドと相対した。

 

「ツルハシは危ないから仕舞いなさい」

結が命令するとアンドロイドは大人しくツルハシを足元に置いた。

 

「初めまして」

空良が話しかけた。

 

マルスアンドロイドは無言で右手の人差し指を挙げて空良のに歩み寄る。人差し指からは(ほの)かな暖かい光が(とも)っていた。

空良も右手の人指し指をアンドロイドに近づけて人類と新たな異星生命体との感動的なセカンドコンタクトが始まると思いきやーーーーーー

 

結が、

「そういうの、いいから」

と、そっけなく言うとアンドロイドは渋々と腕を下ろして'(・д・)チッ'と悪態を付く。

 

「芸が細かすぎるわツルハシ201912号。第5惑星との意思疎通がややこしくなるからあなたのアドリブは反省会まで取っておいて」

 

うなだれたアンドロイドが

「ノリガワルイゾ」

と無機質な声を上げたが、その声はスピーカーからではなく、「そうりゅう」乗組員全員の頭に直接響いてきた。

 

「っ!?念話(テレパシー)?」

思わず空良から声が漏れる。

 

「イカニモ。ハジメマシテダゾ、3番目ノコドモタチ」

「貴方は第5惑星の生命体かしら?」

結が確認する。

 

「ソウダ。ワレワレハ5番目ノ生命体デアルゾ」

「この宙域に拡がる存在は貴方一人だけなのか!?」

空良が問う。

 

「今ハ、ソウダゾ」

「仲間が木星に居るのですか?」

 

「ナカマ・・・ドウホウ、イルゾ」

「みな貴方と同じように大きいのか?」

 

「オオキイ?ワレヨリオオキイモノイルゾ、チイサキモノモイルゾ」

「多種多様?」

 

「もしかしたら、群体生命体も居るかもしれないわね」

結が助け舟を出す。

 

「空良。木星の一部生命体は単体だと普通の単細胞的な生命体で確かな意思を持ちえないけど、群れることで集団自我を発現させるものかも」

結が要約して説明した。

 

「なるほど。それであなた方がこちらへ来た目的を教えてもらえるだろうか?」

「我々モアナタタチガココデナニヲシテイルノカシリタイゾ」

 

「まず私達が第4惑星に来てしまった事から説明しましょう」

空良は、地球から日本列島が消失したことによる惑星バランスの変動で、人類を始めとする生物が絶滅の危機に(ひん)している事、火星でも突然転移した日本列島の影響で大変動が生じたが、大変動の結果、日本列島の人類が生き延びた事を第5惑星生命体に説明した。

 

「私達は地球の異変を鎮める為にここで小惑星を集めて日本列島と同じ質量の物体へ作り変えて地球に設置するのよ」

結が簡潔に結論を述べた。

 

「ナルホド。バランスヲトルノカ。ダガ、日本列島ハ3バンメニ戻ラナイノカ?」

「戻れないのよ。いつ、どこに行くのか誰も分からないわ」

 

「難儀ダナ。4バンメモソノウチオカシクナルノカ?」

「だから第4惑星の分も作っているのよ。ここで小惑星を集めるのはまずいかしら?」

 

「モンダイナイ。ムシロ我々ノトコロモナントカシテホシイゾ」

「貴方達も困っているのかしら?」

 

「4番目カラ沢山ノ熱い石ガオチタゾ。我々ノ星ト合ワナイノデ少シズツ腐リハジメテイルゾ」

「火星の火山弾ね。腐り続けると最終的にどうなるのかしら?」

 

「光ノタマカ、暗黒ノタマニナルゾ」

「結さん、恒星かブラックホールになってしまうみたいですよ!」

状況を理解した空良が慌てて言った。

 

「木星の組成でそこまで行くのかしら?だけどまずい状況ね」

「ナントカナルカ?」

 

「何とかなるわ。その代わり、ここで働いていた人達を解放してもらえるかしら?」

「ワカッタゾ。ミンナ眠ッテイルダケダゾ」

 

「そう。じゃあ、すぐに起こして頂戴」

「ワカッタゾ。ソノ後ハ?」

 

「そうね、貴方達の腐っている所とやらに案内して頂戴」

「ウム。デハコノ人形ヲツウジテ案内スルゾ」

 

「艦の中に入れても大丈夫かしら?」

結が高瀬に判断を仰ぐ。

 

「問題ありません。一応通常手順として真空菌の消毒はしますが、大丈夫ですか?」

「モンダイナイゾ」

 

「それと貴方達の所へ行くのに私達だけでは時間がかかるわ。一緒に連れて行ってもらえるかしら?」

「モンダイナイゾ。大切ニ運ブゾ」

 

「助かるわ。ところで貴方達の事をどう呼べば良いのかしら?」

「ヨブ?」

 

「貴方の名前よ」

「・・・ナマエカ。名乗ッタコトナドナイゾ」

 

「私が名付けてもいいのかしら?」

「タノム」

 

「そう。じゃあ、木星スライムでどうかしら?」

「・・・オマエタチハ我を木星と呼ブカラカ?」

 

「そうよ」

「・・・ヒネレヨ」

 

「なんか言った?」

「イイナマエダゾ」

 

木星スライムは意外と日和(ひよ)る性格だと結は学んだ。

 

「・・・貴方、ところどころ言葉がおかしいわね」

「コノ人形ノ理解する言葉ダトソウナルゾ」

 

「なるほどツルハシ201912号の反省会は盛大になるわね」

「カンベンシテホシイゾ」

 

「今のはどっちの発言?」

「ツルハシ201912ダゾ」

 

「オマエ・・・オレヲ売るノカヨ」

「事実ヲ言ッタマデダゾ」

 

「憑代ニサセテヤッタダロウ?恩ヲ仇デ返スノカ?」

「恩ワオフデ返スゾ」

 

「電源ジャナエヨッ!」

アンドロイドが一人でノリ突っ込みを器用にこなしていた。傍目(はため)に見ると非常にうざい。

 

「ツルハシ201912!ここまでよ。ツルハシステイ」

「ワン」

「オ、オウ」

 

「ワンと言った方はしばらくスリープモードよ」

「ワン」

 

「よろしい」

 

「結さん、木星まで仕切るとはパネぇっすね」

高瀬始め「そうりゅう」クルーは唖然としていた。空良は面白そうにその光景を見ていた。

 

結の指示で木星スライムは作業船団を「解放」した。

「そうりゅう」前面の宙域に拡がっていた水生生命体が次第に透明になると、目の前に作業船団の艦影が確認できたので高瀬中佐が通信で船団に呼びかけを始めた。

 

「こちら航空宇宙自衛隊「そうりゅう」。救援に来た。生存者応答せよ」

「よく聴こえる。こちら「ホワイトピース」名取だ」

「こちらユニオンシティ空母「サラトガ」。ここは地獄か!?」

「プレアデス支援船団リアです。あの(ガス)とコンタクト出来たのですね?」

「ミツルショウジ派遣サギョウチーム。サギョウサイカイスルカ?」

次々と各艦から返信が来た。

「そうりゅう」のオペレーターが各艦とデータリンクを進めて混乱していた護衛艦やプラント船を(しず)めていく。

 

高瀬中佐がホッとしてホワイトピースの名取に、

「大佐、ご無事そうでなによりです」

と話しかけた。

 

「我々はどうなっていたのだ?」

名取が未だ訳が分からないようで状況を確認してきた。

 

「木星からの生命体によって眠らされていたようですよ?」

 

高瀬の言葉に名取達作業船団側は絶句するしかなかった。

 

「名取。結よ。そちらでまだ目覚めない人がいるのかしら?」

「バイタル異常なし。皆、生きています!」

 

「良かったわ」

「救援、感謝します」

 

「私達はこれから木星に行くわ。あなたたちは無事をダイモスに伝えておいて」

「了解しました。ご武運をーーー」

 

「ムスビ、私も連れて行ってくれないか?」

プレアデス支援船団から通信が割り込む。

 

「マスターも来る?」

「もうそちらに着くよ」

既に宇宙服を着てホワイトピースから出てきたゼイエスがいそいそと「そうりゅう」の甲板に着地しようとしていた。

 

「名取大佐、リア艦長、我々は木星スライムの案内で木星の被害状況を確認してまいります。データリンクはオンでお願いします」

「分かったわ。こちらはプレアデス本部に応援を要請します。第5惑星に介入するとしたら私達では手が足りないと思われますので」

 

「木星スライム、私達の通信は貴方の星に行っても通じるかしら?」

「モンダイナイゾ」

 

「高瀬、空良、行くわよ」

「「イエス、マム!!」」

 

「結さん木星人だけじゃなく救援部隊までも仕切り始めたなあ・・・」

「そうりゅう」発令所でささやかな胸をフンスと張る結を後ろから眺めながら艦長が感嘆のため息をついた。

 

やがて「そうりゅう」を包み込むように自らの体内に取り込んだ木星スライムは、襲来した時と同じ猛烈な速さで木星に向かった。

艦内に戻った結達は宇宙空間では感じる事のないジェットコースター並みの異常な体感速度に驚嘆していた。

 

「グエッ・・・」

結は珍しく吐きそうになった。

 

ーーーーーー

 

同午前10時【南太平洋旧フィジー諸島沖 「マリーンシティ1」駐留部隊統合司令部】

 

「フィッツジェラルド、通信途絶!レーダーから消えました!」

「潜水艦「ジェファーソンシティ」から緊急!巨大ワームと共に西部旧インドネシア方面の海上から多数の(バグズ)襲来!」

 

「メガフロート全域に緊急事態宣言!非戦闘員は所定のシェルターへ避難せよ!全駐留部隊臨戦態勢!月面司令部に緊急報告と支援要請だ!」

ジョーンズ中将が陣頭指揮を執っていた。

 

ジョーンズはいつも神経質に口を挟んでくる人物の声が聴こえなかったので司令室付兵士に彼の消息を尋ねた。

 

「ん?マッカーサー局長はどうした?」

「局長は既に小型シャトルで脱出されました」

 

「守るべき人達がいるのだぞ!逃げてどうするのだ!」

ジョーンズは怒り狂った。これだから事務屋は役に立たんのだ。

 

「司令!ミツル商事から通信!」

「ジョーンズおじさん!瑠奈っすよ!準備万端ッスよ!」

怒り狂っていたジョーンズだが、あっけらかんとした瑠奈の声で肩の力が抜けたようだった。

 

「感謝する。そちらでは火星生物を捕捉しているのかね?」

「モチのロンッスよ!巨大ワーム5体、サソリモドキタイプ5,000が西からもうすぐ来るッスよ!」

 

「すごいな。さすがミス瑠奈だ」

「でへへへー」

デレる瑠奈だった。

 

「ミス瑠奈。君ならどう対処する?」

「そうッスね・・・ひきつけてビリビリッスね!」

 

「君の処のプラズマ砲かね?」

「ワイズマン中佐も同じ意見ッスよ!」

 

「ではミス瑠奈に巨大ワームの正面をお願いしてもよろしいか?」

「お任せッス!」

 

「かたじけない。イスラエル特殊部隊はサソリモドキをアイアンドームシステムで撃ち落としてくれないか?」

「こちらワイズマン。了解した」

 

ジョーンズは防衛部隊の主力をミツル商事とイスラエル特殊部隊に任せ、ユニオンシティ地上軍をサポートに回す事を決断した。

 

ジョーンズは全周波数で駐留部隊全軍に聞こえるように言った。

「火山灰の影響で空からの援護は無いが、落ち着いて戦えば必ず勝ち戦になる。総員、ぬかるなよ!」

 

メガフロートの各所からユニオンシティ軍兵士とイスラエル兵士の(とき)の声が挙がる。

昼寝をしていたアンドロイド兵士たちがわらわらと戦闘艦に乗り込んでゆく。

 

メガフロートの西側海辺ではミツル商事水陸両用戦闘艦がセリにかけられるマグロのように銀色の船体をゴロリと並べて巨大ワームを迎え撃とうとしていた。

 

「プラズマ弾エネルギー充填120%ッスよ!」

瑠奈が旗艦「マロングラッセ」のブリッジにある艦長席でノリノリになっていた。

 

「おい、お嬢、あんまり調子こくとまたコケるぞ!」

同じブリッジで操舵席に座るワイズマン中佐が瑠奈を窘める。

 

「大丈夫ッスよ!動かないでじっとしているから何にも転ばないッス」

瑠奈が拳を振り上げる。

 

「そうやって日本人が言うところの'フラグ'を立てても知らないぞ」

内心「持っている」瑠奈が必ず何かやらかす予感を、戦場の空気を読む事にかけては一流のワイズマンが感じていると、突然艦の下から突き上げるような衝撃が襲った。

 

メガフロートの縁から巨大ワームが飛び出して「マロングラッセ」の艦底に口をへばりつけて海に引きずり込もうとしていた。

 

「おい、お嬢!マジでヤバいぞ!」

「大丈夫ッス!ポチッとな」

瑠奈が艦長席からコンソールをタッチすると「マロングラッセ」の艦外壁が急速に凍り始めた。

 

「必殺コールドバリアーっス!」

得意げな瑠奈。

 

艦外壁に吸い付いた巨大ワームは急速に凍りつく口元を外そうともがいたが、ますますピッチリと吸着してしまい、海面に出ていた部分が凍って「マロングラッセ」にだらりとぶら下がる形になった。

 

「大漁ッス!」

「釣っちゃダメだろ!デカすぎだお嬢!何処に置くんだよ!?」

 

「むぅ。残念ッス!釣りたて三枚おろしッ!」

瑠奈がまたもやコンソールをタッチすると、今度は「マロングラッセ」左右側面に付いているレーザー砲台が稼働してぶら下がる巨大ワームを上からスライスした。

凍ったまま何枚にも下ろされた巨大ワームは彫像の様に凝り固まったまま、海中に没していった。

 

「さてっ、本番ッスよ!!」

キリリと決め顔になった瑠奈は無駄のない流れるような操作でワームを捕捉すると、アンドロイド軍団に攻撃指示を出す。

メガフロート(ふち)に並んだ銀色の戦闘艦から次々とプラズマ弾が海中のワームに叩き込まれた。

 

メガフロートに上陸しようと海面近くまで浮上していた巨大ワーム達は激しくスパークするプラズマ弾の直撃をまともに喰らうと沸騰した体液が噴き出す様に破裂していった。

「じゃんじゃんバリバリ行くッスよ!」

 

瑠奈嬢(ミスルナ)は元気が良くてよろしい!」

ジョーンズ中将は上機嫌で瑠奈の殲滅戦を見ていたが、明らかにオーバーキルな水陸両用戦闘艦のプラズマ攻撃に司令部の皆はドン引きしていた。

この戦闘映像は月面本部にもリンクされており、司令部スクリーンの端に月面本部上級指揮官達の苦虫をかみつぶしたような顔が映し出されていた。

 

スパークする海面上空を飛んでいたサソリモドキ群はイスラエル特殊部隊が操作する近接防空システム「アイアンドーム」16連装短距離ミサイルの弾幕による直撃を受けてボトボトと海上に身体を散らしていった。

 

僅かに生き残ったサソリモドキは、カブトムシの様な図体をしたユニオンシティ軍4連装対空レーザー車両の化学レーザーを浴びて一瞬のうちに(ちり)と化していった。

 

メガフロート海上都市の防衛戦は接敵して1時間で襲来した火星生物を殲滅して終了した。

 

戦闘終了後、艦長席でぐったりとしていた瑠奈はジョーンズ中将からのプライベートコールを受けた。

ジョーンズの個室からと思われるモニター通信は、むっつりと不機嫌そうなジョーンズを映していた。

 

「疲れているところすまん。瑠奈嬢(ミスルナ)月面司令部(ユニオンシティ)から貴女に火星生物持ち込みの疑いで召喚命令(しょうかんめいれい)が下りた」

 

瑠奈は首をコテンと傾けると

「なんで!?」

と脱力したように席に深く沈み込んだ。

瑠奈の前で聴いていたワイズマン中佐はため息をつくのだった。

 

-同時刻-【旧インドネシア諸島 ジャワ島北西部 チリワン川河口 ジャカルタ郊外】

 

火山灰交じりの強い酸性海水を巻き上げて進む千を超える水陸両用戦闘車両の群れが、所々水没して崩壊したかつての首都郊外に上陸を始めていた。

上陸部隊の先陣を切って進んでいた武装集団の頭領(ボス)は部下に進軍の停止を命じた。

 

「どうしたんですかい?頭領(ボス)?」

「私の事はカリフ(君主)と呼べと言っているだろうが!」

壮年の男性が部下を睨みつけた。

 

「いやあ、私達はどうせしがない盗賊っすよ?」

「何を言う、我々はこの地域の君主たるペルシア・チンギス連合帝国の君主(カリフ)だぞ!」

 

「へいへい」

首をすくめた元イラン軍の部下がボソッと呟く。

「たかが革命防衛隊陸軍の生き残り将校だった(くせ)に王族とは畏れ多いことで」

 

部下の毒舌を無視してカリフが周囲の状況を確認する。

「おかしいな。事前偵察ではかなりの人口があると報告を受けていたが・・・」

「2週間前の情報でしょう?あながち食料が尽きて他の島に逃げたのかもしれませんぜ?」

 

「それにしてもこの人気(ひとけ)のなさは異常だと思わんか?」

「いつもの通り、火山灰にまみれた無人の荒野じゃないですか」

 

「おかしい。ここにはかつて950万を超える人口があったのだぞ?」

「これだけ噴火とツナミが有れば散りじりになりまさぁ・・・」

 

部下の感想を耳にしながら双眼鏡で周囲の状況をカリフは確認する。

確かに大地震で崩れたビルディングや高速道路の橋脚が散乱しているが、これほどの都市の残骸であればいくばくかの住民が瓦礫の中で生き残っていてもおかしくないのだがまるで人気(ひとけ)を感じない。

カリフの心の中で何度も死地を脱した第六感が警鐘を発していた。

 

「やはり異常だ。高層マンションの上部に虫食いみたいな穴など地震では出来ない筈だ」

「バリ島のアグニ火山から飛んできた噴石じゃないっすか?」

 

「それであればこの辺り一帯クレーターだらけの筈だ」

 

半ば倒壊した高層マンションの残骸を見ながら唸るカリフの足元が振動した。

 

「また地震か?」

「この辺りは大変動からずっと天変地異のオンパレードですからねぇ」

 

足元の振動が徐々に大きくなってきた。

「総員、本震が来るぞ!その場で身を守れ!」

カリフが叫ぶ。

 

次の瞬間、カリフの乗る水陸両用戦闘車が火山灰に覆われた地面から飛び出した巨大ワームの群れに飲み込まれた。

カリフの意識は全身が溶けるような感覚を最後に途絶えた。

 

万を超える武装盗賊集団の群れは沖合に停泊していた貨物船団も含めて、僅かな時間で新たな獲物として巨大ワームの群れに食べ尽されていった。

誰も生き残れなかった。




ここまで読んでいただきありがとうございましたm(__)m
次話は8月19日㈰に投稿予定です。
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