転移列島   作:NAO

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【このお話の登場人物】

鷹見(タカミ)(ムスビ)=マルス尖山基地人工知能。美衣子の妹分。
空良(そら) (とおる)=国立天文台所長。
高瀬 翼=航空・宇宙自衛隊機動部隊隊長。中佐。
ゼイエス=マルス人。マルスプレアデスアカデミー科学者。

アマトハ=マルスアカデミープレアデスコロニー評議員。
リア=マルスアカデミー支援船団隊長。


マルスの責務

2022年12月27日午前6時【木星大赤斑(だいせきはん)地表 宇宙護衛艦『そうりゅう』】

 

長時間に及ぶ超音速降下で搭乗員が全て失神した『そうりゅう』だったが、木星スライムによる手厚いサポートで大赤斑地表へ着陸を果たしていた。

現在は意識を取り戻した搭乗員が着陸地点の観測と艦内の点検を行っている。

木星スライムは今も「そうりゅう」を包み込んで強烈な大気圧と磁場、重力から地球人を(まも)っている。

 

「よし。艦内の状況報告を頼む」

高瀬中佐が艦長に言った。

 

「艦内の計器に異常は有りません。搭乗員は全員無事であります!」

「ご苦労。みんな、よく耐えてくれた。私達が人類の木星一番乗りだ!」

発令所の皆が顔を(ほころ)ばせた。

 

「外の状況を報告するわ」

結が高瀬に呼び掛ける。

「水素80%、ヘリウム15%、酸素1%、アンモニア、メタンと続くわ」

 

(ムスビ)さん、外が明るい気がするのは何故だろうか?」

高瀬が首を捻る。

 

「確かに疑問に思うでしょうね。此処(ここ)は大気圏外層部から5,000㎞下にあるのだから本来は分厚い水素とアンモニア結晶の雲で常闇(とこやみ)の場所でもおかしくないわね」

結が(うなず)く。

 

「大赤斑地表部分から噴きあがる液体水素と、秒速1,000mで反対方向へ流れる硫化水素気体大気の境目で摩擦電子が常に発生している為だろう」

ゼイエスが空中放電効果で空が明るい理由を説明した。

 

「大気と明かりについてはこれでいいわね。次に外の生物だけど、地球生物に酷似(こくじ)したカニ、エビ、イカ、タコ、チューブワームが沢山。まるで地球深海の熱水孔(ねっすいこう)の木星版みたいだわ。マイナス240℃で液体水素を噴き出す噴出孔(ふんしゅつこう)を中心に生態系が形成されている」

一息で結が説明する。

 

「そして最大の特徴だけど、何もかもデカイわ。弟候補が沢山いて嬉しい悲鳴よ」

結の顔が心なしか紅潮しているように見えた。

 

最後の嬉しい悲鳴の部分だけ全員がスルーした。結のデカイ物信奉は止まらないのだ。

 

「最初のスライムだけが木星の知的生命体だと思ったのですが、他にも沢山居たのですね」

空良が結に話しかける。

「少なくとも目の前の巨大チューブワームは此処(ここ)の主みたいなものね。それと途中で出会ったクジラもね。他の生物に個々の意思は薄いわね。だけど群れとしての意識はチューブワームがまとめている感じね。ツルハシ?こんな感じかしら?」

 

「ワン!」

スライムの代弁者が同意を込めた返事をした。

 

「ソロソロ長ガハナシタイミタイダゾ?」

「高瀬、空良。どちらかが対応して頂戴。私がサポートするわ」

 

「では、天体の事に関すると思うので空良所長にお願いしたいですね」

高瀬中佐が空良に依頼した。

 

「分かりました。私がこちら側の代表になりましょう」

空良が結に答えた。

 

「ツルハシ、こちらも準備が完了したわ。先方に伝えて頂戴」

「イエスマム」

 

ーーーーーー

30分後、

甲板には宇宙服を着た空良が「そうりゅう」正面でスペースコロニーのように長大な殻から鎌首をもたげたチューブワームと相対し、結、高瀬が少し離れた所で長との会見を見守ろうとしていた。

 

本来では木星地表部の強烈な重力と猛烈な大気圧で空良達はおろか、「そうりゅう」までもがくしゃりと丸めた紙屑のように潰れて液体になる筈だが、木星スライムが包み込むことでそれらの重圧を大部分緩和している。

 

「初めまして、木星の長。私は日本国文部科学省国立天文台所長の空良です。今回の地球側窓口になります」

「初めまして、三番目の子供達よ。ようこそ、我々の星へ。長のジュピトゥルだ」

長からの返事が全員の頭の中に響く。念話(テレパシー)だ。

 

「よろしくお願いします、ジュピトゥル殿。私達は長の星に困りごとがあると聞いて参りました」

「うむ。四番目の星の熱い石が星を傷つけて困っておるのだ」

 

「火星の隕石は鉄分が多いようですから、長の星の水素と化学反応を起こしてそれが広まっているのでしょう。実際に現場を見ないことには確定出来ませんが」

 

「そうか。我々の星と相容(あいいれ)れん石じゃったか・・・。ともあれ、現場を見てもう一度話を聞かせてもらうとしようかの。クジラ、スライム、引き続き子供達を連れて行ってくれんかの?」

地球側の頭の中に響く声でクジラがクジャ、シュラと聞こえるが無意識のうちにクジラ、スライムと認識するあたり、本当の名称は違うのだろう、と結は秘かに思った。

 

巨大チューブワームの長が長い触覚をクジラと「そうりゅう」近くのスライムに向けて紫電を放ちながらコンタクトをする。

間髪入れずにクジラとスライムから紫電が飛ぶ。

 

「うむ。もうひと働きじゃ。では、空良殿よ、また後で」

そう告げるとチューブワームは殻に引き(こも)る。

周囲に群がる甲殻類は相変わらずワサワサと「そうりゅう」を興味深げに取り囲んでいた。

 

「マスター、スライムカラ弾丸ツアーに出発スルゾト言ッテキタゾ」

「分かったわツルハシ。所でスライムがなんで弾丸ツアーなんて言葉を知っているの?」

 

「・・・ハテナ?」

ツルハシがカクカクと頭を揺らす。本当に分からないらしい。

 

「ツルハシの基本プラグラムは何処でインストールされたの?」

「ウイ。「マロングラッセ」ッス!」

 

「うん、だいたい理解したわ。すっごくね」

結が万感の思いで頷いている。瑠奈の偏った知識の集大成ならばこの小ネタみたいなノリも理解できた。

大月家(我が家)に帰ったらひかりに瑠奈(ルナ)の再教育を頼もうと決意した結である。

 

「スライムにこれから合図する高度までゆっくり上昇して欲しいと伝えてちょうだい」

「ワン」

 

それから結はツルハシを通じて「そうりゅう」の高度を500mに維持したまま、木星各地に点在する火星隕石落下場所を廻った。

 

火星隕石落下場所はどの場所も空良の予想通り赤黒く変色し、変色した区域が(にじ)むように拡がっていた

「明らかに隕石の鉄分が水素分子で劣化(れっか)、酸化鉄と化してボロボロですね。劣化鉄(れっかてつ)という不純物が周囲の大気に拡散している」

艦外センサーを(あやつ)る空良が分析している。

 

「第5惑星にはほとんど鉄は存在しない。中和すべきアルカリ性の物質も地上ではなく大気圏中層から外縁部の氷しか見当たらないから手も足も出ないだろう」

マルス隕石を分析していたゼイエスが言った。

 

「アルカリ性の物ならば、我が国や地球に石灰がありますよ?」

高瀬が言うと、

 

「木星の化学反応を鎮静化するには膨大(ぼうだい)な量の石灰を始めとするアルカリ性物質が必要です。火山灰の中和に使う分だけでも相当な量になりますね」

空良が厳しい顔をする。

 

「それに地球の物質を大量に木星に持ち込むと惑星間の質量バランスに影響が出かねないわ」

結が注意を促す。

 

「このデーターはアステロイドベルトのリア隊長ともデーターリンクしています。プレアデスの方で動きがあるでしょう」

ゼイエスが予言した。

 

「そうりゅう」は2日かけて木星各地を(まわ)り、木星の変質状況を調査した。

ゼイエスによると、木星の劣化反応が全体に及ぶまでは50年足らずであり、仮に今から地球側の作業船団が全力で作業をしても、中和するまでに70年はかかるだろうとシミュレーションを出していた。

 

空良は、ゼイエスの分析結果を緊急通信で東京の澁澤首相に送り、マルスアカデミーの直接介入が必要だとの意見を添えた。

翌日、マルスアカデミーへの援助を求めたいと澁澤首相から返信が来た。

空良はゼイエスに依頼して、プレアデスコロニーのアマトハとアステロイドベルトのリア隊長へ支援要請を行った。

 

その上で、空良はチューブワームの長ジュピトゥルと再度会見し、地球人とマルス人が木星の原状回復を行いたい旨を申し入れ、ジュピトゥルは快諾(かいだく)したのだった。

 

ーーーーーー

 

地球歴2022年(マルス歴第7ケラエノ年)12月27日午後11時30分【プレアデス星団第3惑星エレクトラ 】

 

この惑星には、プレアデスコロニーのマルス人を統括(とうかつ)する行政機関「マルスアカデミー」の評議会が設置されている。もっとも、ほぼすべてのマルス人が日々学究の徒として研究開発に邁進(まいしん)しているので評議員も研究論文を持参しながら行政機構の差配(さはい)を行っている。それでいいのか?と思うのかもしれないが、全マルス人が同じように研究に(いそし)しんでいるので疑問の余地はない、と思われる。

 

この日、アカデミーの評議員であるアマトハは、太陽系第5惑星近傍アステロイドベルトに遠征している派遣船団のリア隊長から緊急連絡を受けていた。

 

「そうか。第5惑星にも知的生命体が居たのだな」

アマトハが感慨深げに言う。さぞかしゼイエスは内心悔しがっているに違いないと思った。

 

「ええ。ゼイエス博士はさぞかし悔しいと思うかもしれません」

リア隊長が苦笑した。

 

「そして、第5惑星の生命体から地球人類に手助けを求めているようです」

「どういう事だ?」

 

リア隊長は、日本列島が火星に転移した際にオリンポス山の大噴火が起こり、多数の火山弾が隕石として第5惑星に降り注ぎ木星環境を悪化させているらしいと報告した。

 

「なるほど。それは我々が解決せねばならない責務だろうな」

アマトハがはっきりと言った。

 

「私も同感です。ですが、地球人も日本列島が原因だと責任を感じているようです」

「それも理解できる。だが、やはりすべての原因を作ったのは我々だ。我々が前面に出て対処すべきだろう。地球人類は第3惑星の復興で手一杯だろう。木星への対処は完全にオーバーワークになる」

アマトハが断言した。それでも彼らはやり遂げるのかも知れないと心の中で思いながら。

 

「ありがとうございます。それでは後続の船団が来ると考えてもよろしいのですか?」

「そうだね。太陽系最大規模の惑星を相手にするからには、オウムアムル母艦クラスが数百隻は必要になるだろう。僅かな数であれば先遣隊として半年で到着するだろうが、本隊は流石(さすが)に準備が必要だ。3年は待って欲しい。第5惑星崩壊までのタイムリミットは?」

 

「概算で50年です。復旧作業が完了するまでは30年に及ぶでしょう」

「準恒星規模の環境操作はガス雲の処理が難しいぞ?過去の事例によると250年から300年はかかる筈だ。随分(ずいぶん)と手際がいいじゃないか。日本人にあてられたのかい?」

 

「まさか。毎日唐揚げ定食をごちそうになっているとは言え、それはあり得ません。せいぜい200年程作業速度を速めただけですわ」

 

唐揚げ定食と聴いてアマトハの目尻(まなじり)がつり上がる。

「リア隊長。プレアデスの研究所は居心地がいいぞ?」

「残念ながら。現場での実践研究が私には合っているようです・・・」

 

「そうか・・・。来年から新開発したワームホールで日本の宮内庁から料理人が来訪して研究所のカフェテリアでマルス風日本料理のアンテナショップを開く事が評議会で決まったよ」

 

「・・・アマトハ評議員。私、プレアデスに置いてきた夫が心配ですわ。育児もありますし・・・」

「リア君・・・」

 

アマトハはジト目で「妻」であるリア隊長を見つめるのだった。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
次話は9月2日㈰に投稿予定です。

【挿絵表示】

絵師 里音様に大月家のイラストを描いて頂きました。
左から瑠奈、ひかりさん、満(後ろ姿)、美衣子(手前トカゲ)、結(右トカゲ)です。
私的にはどストライクでめっちゃ幸せです!
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