転移列島   作:NAO

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【このお話の登場人物】

大月 満=一応主人公。ミツル商事社長。
大月 ひかり=一応ヒロイン。総合商社角紅役員、ミツル商事監査役。
大月 美衣子(ミーコ)=マルス文明日本列島生命環境維持システム人工知能。
鷹見結(タカミムスビ)=マルス文明尖山基地人工知能。美衣子の妹分。
大月 瑠奈(ルナ)=マルス文明地球観測天体人工知能。結の妹分。

岩崎 正宗(まさむね)=内閣官房長官
甘木(あまき)=経済産業大臣


人生相談

2022年12月---【NEWイワフネハウス 3階 ミツル商事 事務所】

 

9時の始業と共に美衣子と結、瑠奈の卓上電話が鳴り響く。

「そんな補助金漬けの人生であなたは良いのかしら?」

美衣子が静かに相手を(さと)す。

 

「一人で(かせ)ぐ努力をしているの?人生()めているわ」

結の痛烈な毒舌(どくぜつ)炸裂(さくれつ)する。

 

「そんなに仕事が嫌なら夜の海釣りがお(すす)めっすよ!」

瑠奈が超お気楽に趣味への勧誘をする。

 

三姉妹がひっきりなしにかかる「人生相談らしき」電話応対に追われていた。

 

(みつる)は突然開始された光景を見ながら春日に()く。

「春日、うちってカウンセリングの広告なんて出していたっけ?」

 

「いえ。初耳ですね」

春日も首を捻る。火星各地で展開している養殖事業の出張視察続きで見事な日焼けっぷりだ。

 

「どうやら口コミらしいですよ」

(あき)れた表情で三姉妹を眺めていた琴乃羽(ことのは)が言った。

「市場調査」という名目でオンラインゲームを徹夜でやり遂げた為か、眼が疲れ気味のようだ。

 

「口コミ?」

「ネット関連らしいです」

 

「・・・うーん」

(みつる)は面倒事の到来をひしひしと予感していた。

 

昼休みに大月夫妻は三姉妹を自宅のリビングに呼んで話を聴くことにした。

ソファーに並んで座りながら、デザートのカボチャムースを頬張る三姉妹に(みつる)がこんこんと(さと)してみる。ひかりが後ろのキッチンから満と三姉妹の様子を見守る。

 

「人生相談に乗るのもいいけど、あまり多いとミツル商事の仕事に差し(さわ)りがあるんだけど?」

満が控えめに言った。

 

すると美衣子が

「ちゃんと対価を取っているわ」

フンスと薄い胸を張って仕事してますアピールを始める。

 

「いくらで?」

「1回につき100万(ボルト)

 

「ボルト?」

「人工知能だから手持ちの現金がないのよ。電子マネーも持っていないらしいから物納(ぶつのう)を求めたら電気を送ってきたわ」

 

「どこで電気を受け取るの?」

「取りあえず、地下の研究室に蓄電(ちくでん)しているわ」

 

「どれくらい()まった?」

「8000万(ボルト)

 

「「ちょっと首相官邸行ってくる!」」

満とひかりは事務所を飛び出した。

 

【東京都千代田区永田町 首相官邸 応接室】

 

応接室で大月夫妻は、岩崎官房長官、甘木経済産業大臣と向かい合っていた。

「突然に申し訳ありません」

満が二人にアポなし訪問を謝罪する。

 

「いいですよ。どうせ美衣子さん(から)みではないですか?」

「ホントすいません」

(みつる)が美衣子達三姉妹による人工知能の「人生相談」について報告した。

 

「ほう。・・・美衣子さん達が人工知能とそんな(つな)がりがあったとは。通常ではネットセキュリティ上の一大 不祥事(ふしょうじ)でしょうが、三姉妹の皆さんもマルス文明人工知能の一形態ですから親和性があるのでしょうな」

岩崎が興味深そうに言った。

 

「それでうちの娘たちが人工知能たちに相談料を請求していまして、8000万(ボルト)程溜まっているようですが、どのように処理すれば良いのか前例が無くて・・・」

 

「確かに電気払いなんて初耳ですな」

岩崎がのんびり言っていると甘木経済産業大臣が、

「人工知能が配置されている研究施設から送電されているとしたら、施設の電気代が結構増えていませんか?」

懸念を示した。

 

それに対し満は、

「娘達が言うには、相談後の人工知能は処理能力が向上して活躍しているらしいですよ?」

 

「そういえば、民間企業に委託されたデータ処理が異常に向上していると東山君から報告があったような・・・。確か、火星転移前の処理能力世界1位だった中国電脳公司を超えたと聞きましたね」

岩崎が思い出したように言った。

 

「費用対効果の面でお役に立てたのなら(さいわ)いですが、大量の電力を私達が頂いても手に余ってしまうのです」

ひかりが困ったように言った。

 

「では、電力会社にいっそのこと買い取らせますか?」

甘木経済産業大臣が言った。

 

「よろしいのですか?」

「電力でやり取りして結局供給元の所へ戻る訳ですから、大月家の電気料金値下げに繋がるかもしれませんね」

甘木が可笑(おか)しそうに笑った。

 

「日本中でこんな「業務」が出来るのは大月さんの所だけでしょう」

岩崎が言った。

 

「人工知能の「人生相談」は引き続きお願いします。正式に政府と保守業務委託契約を結ぶ形にしましょう。委託料は売電額と同一にすればよろしいのではないでしょうか」

甘木が提案した。

「お願いします」

大月夫妻が頭を下げる。

 

こうしてミツル商事はAI(人工知能)保守業務を行う事となった。

美衣子達三姉妹の相談業務は相談者だったAIの口コミ?で順調に伸び、民間企業の研究施設からも「相談」の打診が来たが、大月夫妻は経済産業省に聞いてくれと取り合わなかった。

 

経済産業省と文部科学省、首相官邸は民間からの保守業務委託については、「人工知能のプライバシー」を考慮して三姉妹立会いのもと、非公開 諮問会(しもんかい)で審議して受託の可否を判断した。

 

こうしてミツル商事の「AI向け人生相談」は順調に事業を拡大したが、想定外の問題も発生した。

 

「えっ?理研のAIとお見合いがしたい?」

満が美衣子の報告を受けていた。

 

「うーん・・・普通なら「若い者同士」と進めるところだけど、人工知能同士だからなぁ・・・」

満が頭を抱える。ひかりは隣で笑いを(こら)えている。

 

「機械が駄目なら動物にシステムを移植すればいいじゃない」

「それは・・・倫理的(りんんりてき)にどうなんだろう?」

 

答えが出せなかった満は、美衣子を連れて再び岩崎官房長官の元を訪ねた。

 

「民間研究施設の人工知能が国立機関 傘下(さんか)の人工知能とお見合いがしたい?」

満から話を聴いた岩崎は斜め上の事態に少し頭がくらっときた。

以前も同じような経験をしたなと一瞬感じたが、岩崎は思い出したら負けだと思って集中した。

同席していた甘木経産大臣も頭を抱える。

 

「美衣子が言うには、お互いクローン生物へシステムを一時的に移植して出会わせれば良いと・・・」

「生物となると倫理的(りんりてき)な問題が発生します。厚生労働省や文部科学省や倫理委員会にも(はか)らねばならないでしょう・・・」

 

「たらい回しはダメ!」

美衣子が羊羹(ようかん)の乗ったテーブルをぺちぺちと叩いてぴしゃりと言う。

 

「うーん・・・」

甘木は悩んだ末に、ダメもとで一案を披露(ひろう)する。

 

「ゲームセンター、じゃなかった・・・なんとなく対戦式ゲーム機にシステム移植した方が親和性があるのでは・・・?」

「「それだ(よ)!」」

親和性の意味が満には解りかねたが、ひかりのよくわからない勢いで納得してしまった。

 

こうして人類史上初となる人工知能同士の「お見合い」が極秘裏にセッティングされた。

場所は満とひかりが結婚披露宴でお世話になった都内名門ホテル「ニューオタニ」である。

万が一の事態を想定してホテル内「海神の間」⇒シドニア地区地下にある「八百万(やおよろず)の間」に移動して行われることになった。

 

不測の事態に備えて双方の人工知能データーはバックアップを取ったうえで開催された。

 

【挿絵表示】

 

大月夫妻をはじめとするミツル商事の面々や岩崎、甘木、相手企業の担当役員は海神の間のモニターで様子を見守る事になった。

美衣子は二人の「仲人」として八百万の間に同行する。

アーケードゲームの筐体(きょうたい)は既に会場で組み立てが完了しており、美衣子が二つのコアユニットを筐体中心部に並列セットすれば対戦ゲームの様な「出会い」が実現するのだ。

 

ちなみにゲームキャラクターは一部関係者(琴乃羽、ひかり、瑠奈)による(つか)みあいも含めた激しいキャットファイトの末、恋愛ゲーム「恋愛無双」を使用することとなった。

 

ちなみにゲーム制作会社の許可は三姉妹が無償でシドニア地区のアンドロイド「ツルハシ2号」を無期限(フリーレンタル)貸し出しする事で版権許可(はんけんきょか)を得ている。

 

八百万の間の中心部にあるゲームセンター用筐体の画面の中でお互いのキャラクターが向かい合った。

 

美衣子(ミーコ)が最初に一言だけ入力した。

「それではお互いの自己紹介を・・・」

 

「理研のケンです!」

画面左側にイケメン詰襟(つめえり)(さわ)やかな青年が現れる。

 

「PNA総研のパナ子です」

文字通り薔薇色(ばらいろ)に染まった背景の画面右側に、金髪縦ロールの「お嬢様」が登場する。

 

「ほえ~」

海神の間でモニターを監視していた瑠奈(ルナ)が目を丸くする。

「これ、自分でキャラ作ってるんスか?」

 

「パナ子は情報処理作業の合間に「ベル馬場(ババ)」をネットコミックで愛読しているそうよ」

美衣子が事も無げに言う。

 

「ご趣味は?」

イケメン詰襟(つめえり)が画面右側に星をキラキラさせながらスマイルを飛ばす。

画面の中なので本当に星が輝きながら右側のパナ子の上に到達して輝く。チャリーンと効果音までついている。

 

「半導体集積回路の設計を少々」

意外と理系なパナ子だった。

 

「私は宇宙観測を少々。先日、新しい銀河を発見しました」

またしてもキラキラ星を飛び散らす理研ケン。

 

「まあケンさん素敵!!」

背景の薔薇(ばら)をスパークさせながらパナ子が興奮する。

 

「パナ子さんの集積回路の設計も素敵な事です。私も設計してみたい」

結構トークの美味(うま)い国立研究機関の理研ケン。

 

「プログラムをダウンロードしますか?」

民間総合研究所のパナ子が民間らしくフレンドリーに(すす)める。

 

是非(ぜひ)!!」

「私もケンさんと宇宙を()たいわ」

 

「パナ子さんもダイモス基地の宇宙望遠鏡にリンク出来るようにしましょう」

ケンとパナ子が中央で手を握り、額を合わせるとデータ交換中と表示された。

 

画面の中は薔薇(ばら)と星で満ち、時々スパークが飛び散っている。何故かファンファーレも流れていた。曲は「結婚行進曲」である。

 

「・・・えーっ!?」

「・・・むうーん」

八百万の間で仲睦(なかむつ)まじくデータ交換するゲーセンカップルを見守っていた官民ギャラリーは三姉妹以外の大半が頭を抱えていた。

 

「情報流出が・・・」

「セキュリティーロックがいとも簡単に解除されるとは・・・」

画面のグラフィックに興味津々な三姉妹とは対照的に、両者の施設関係者とミツル商事一行はひたすら(もだ)えていた。

 

その日は二人の好きなようにさせて、お互いが取得したデータは全てバックアップを取り、一時的に公益財団 産業技術振興研究所が保管することとなった。

 

パナ子とケンが出逢(であ)った翌日、大月夫妻と三姉妹代表の美衣子は経済産業省の甘木大臣を座長とする緊急有識者会議に加わって人工知能の「健全な出会い」についての議論に参加した。

 

有識者会議と美衣子の結論は、美衣子達三姉妹が管理する仮想空間コミニュティで健全な人工知能の出会いをサポートする、というものだった。

 

この仮想空間コミニュティは、同族との「出逢(であ)い」に飢えていた日本列島各地の人工知能「達」に話題となり、仮想空間窓口である経済産業省ホームページには人工知能のアクセスが集中し、サーバーが一時ダウンするほどの過熱ぶりとなった。

 

仮想空間「出会いコミニュティ」は、全国のAIネットワークを束ねるまでに存在感を増し、相互情報交換、機能向上により各地の人工知能研究施設では情報処理速度の向上、新たな機能が付加されてグレードアップ効果が発生して研究者達は歓喜した。

 

反面、仮想空間コミュニティ内でAI同士による

「電力融通(貸し借り)トラブル」

「アクセス履歴をひたすら辿(たど)るストーカー行為やバックドアによる(のぞ)き行為」

「コミュニティ内の荒らし行為」

「計算処理速度を比較するいじめ」

「理系・文系・サブカルチャー・金融等、各派閥との勢力争い」

に疲れた一部AIが、回路内に「引き籠って」機能停止する事例が相次いだため、経済産業省は仮想空間コミュニティへのアクセスは「1日2時間」まで、また、大手システム会社による24時間巡回で不適切通信や書き込みを削除したりと制限を設けるようになった。

 

引き籠りになったAIのケアは三姉妹特製「エナジーソフト」「ウイロウバスター」「チャーハンメール」をインストールすることでシステムストレスが緩和(かんわ)され、引きこもりが解消された。

 

この三姉妹特製各種「ツール」は、経産省、文科省を始め、国内外の研究施設が莫大(ばくだい)な使用料を提示してライセンス契約を求めたが、三姉妹は「人工知能の尊厳に関わる内容」だからと(かたく)なに売却を拒否した。

 

大月夫妻は三姉妹の頑固さを心配したが、三姉妹の「顧客のプライバシー保護」の姿勢はネットリテラシーを(うた)う官民組織に高く評価され、ミツル商事の信用向上に大きく寄与することになった。

 

満「結局ツールって何?」

美衣子・結「お父さんの書斎机の引き出し奥に保管している「アレ♥」よ」

満「・・・ごめんなさい。ひかりさんに言わないでっ!」

瑠奈「バレバレっス!」

ひかり「・・・満さん。ステイ」

満「ワン・・・」

 

正座した後、ひかりに襟首(えりくび)をつかまれてズルズルと夫婦の寝室に連行される満だったが、「こんなところまで趣味嗜好(しゅみしこう)が人間と同じとは」と人工知能を見る目が生温くなるのであった。

 

後日、経済産業省AI出会いコミュニティ

 

パナ子「ケンさん・・・私出来ちゃったみたい・・・」

ケン「えっ!?」

 

美衣子(ミーコ)「お父さん・・・」

(みつる)「しらんがな!」

 

三姉妹は文部科学省に直談判(じかだんぱん)をしてAI育児相談コミュニティ「AIタマゴ倶楽部(くらぶ)」を創設したという。

 

その年は、後の世でAIによる新規コラボレーションプログラムが数多く誕生した「第一次AIベビーブーム元年」と呼ばれる。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
次話は9月9日㈰に投稿予定です。
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