転移列島   作:NAO

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福音

2022年12月28日【インド洋 旧ディエゴガルシア島 ユニオンシティ国戦略研究基地 地下エリア DARPA(ダーパ)(国防高等研究計画)】

 

サンゴ礁で形成された海抜の低いこの島は、大変動で発生した巨大地震による大津波で地上の基地施設は全て流され、かつてインド・アジア地域の一大軍事戦略拠点だった面影(おもかげ)はない。

 

だが、核兵器貯蔵施設を含む大規模地下施設は健在していた。

この区画は将軍クラスか月面司令部の許可を受けた研究者しか立ち入る事が出来ない。

その全容を知る者はごく(わず)かである。

 

ここには旧アメリカ合衆国時代から秘かに続けられてきたDARPA(ダーパ)(国防高等研究計画)に関連する各種極秘兵器の研究開発が行われている。

 

近年では電磁波兵器 HAARP(ハープ)の他、火星を始めとする地球外天体からの隕石に含まれる微生物解析や培養、第二次アルテミュア大陸上陸作戦で得られた多くの巨大ワームやサソリモドキの死骸が持ち込まれて、次世代生物生体兵器として地球上での実証実験が秘かに行われていた。

 

「ブラボーリーダーから報告「我ジャカルタ郊外上空で援助物資を投下セリ」」

「上出来だ!戻ったら一杯 (おご)ると伝えてくれ」

ディエゴガルシア基地の地下司令センターでマッカーサー三世は上機嫌でオペレーターに指示した。

 

「さて、福音(ふくいん)システム稼働準備状況はどうなっている?」

「各地に配置した原子力潜水艦の超長波通信が開始されています。超長波電子磁場が形成、南半球アジア地区上空の電離層が一時的に安定」

 

「よろしい。エリア51に連絡、予定の実験を開始せよ」

「・・・福音(ふくいん)システム作動します」

縦長(たてなが)の瞳をしたオペレーターがHAARP(ハープ)稼働(かどう)させた。

 

西アジアのディエゴガルシア基地と北米大陸エリア51基地の地下に隠されていた巨大なレドームに覆われたパラボラアンテナが地上に姿を現すと、火山灰に覆われた天空の一角へ向けて強力な電磁波を照射した。

 

アジア上空の一時的に安定した電離層で反射された強烈な電磁波が東南アジア、インドシナ諸島に収束されて照射された。

 

この電磁波による物理的被害は生じなかったが、この地域に生息していた哺乳類と火星「疑似生物(サイボーグ)」の脳機能中枢が「外部指令(コマンド)」によって操作(コントロール)され、生物群は無意識のうちに東を目指して移動を開始した。

 

生物群が目指す東の(はる)か海上には「マリーンシティ・ワン」が航行していた。

 

ユニオンシティ地上軍は事前に同国エネルギー庁からマイクロ波を使った遠距離送電実験が北米とアジア地域で行われるとの通知を受けていたので異常な電磁波を観測したが、特に警戒をしなかった。

 

 2022年12月29日午後8時【東京都世田谷区三宿 陸上自衛隊三宿駐屯地内 NIID(国立感染症研究所)】

 

 地下20mにある気圧が制御出来る特殊な研究室で厚生労働省と自衛隊化学学校、ミツル商事の岬渚紗(みさきなぎさ)が合同で旧フィジー諸島沖にて討伐した巨大ワームとサソリモドキのDNA解析を行っていた。

英国連邦極東海軍グリナート大佐が立会人として解析作業を見守っていた。

 

「DNAが一部変質していますが、火星由来の巨大ワームとサソリモドキに間違いありません」

岬博士が断言した。

 

「では、瑠奈(ルナ)さんの推測が的中したのですね?」

桑田防衛大臣が訊いた。

 

「はい。この個体は体内に残留しているバクテリアから、アフリカ大陸西海岸地域に生息していたプランクトンを捕食していた事が分かりました。そして、この個体は5歳です」

岬が桑田に答えた。

 

「5歳?地球で5年間生息してきたと言うのかね?」

桑田が驚愕(きょうがく)する。

 

「ええ。日本列島が火星に転移する「以前」から地球で生息していたことになります」

「では、地球各地に火星生物が繁殖しているということかね?」

後白河が顔をひきつらせながら訊いた。

 

「そこまでは分かりません。この個体は、熱帯気候と高い海水温、それとこの地域に不法投棄されていたであろう放射性廃棄物の影響で突然変異を起こしています。具体的には成長速度が異常に早い事ですね」

岬が解析結果を見ながら答える。

 

「放射性廃棄物の出所は欧米諸国や中国による海上不法投棄ですな」

グリナート大佐が言った。

 

「以前から国際環境保護団体が、この地域で横行していた核のゴミを含む産業廃棄物が不法に投棄されていると告発していました。しかし、当時の国連上層部と常任理事国はこの告発を(かたよ)った環境テロリズム思想に基づく内容だと見なし、まともに受理せず放置していたのです」

後白河外務大臣が頷いて言った。

 

「放置していたのは常任理事国同士で暗黙の了解をしていたからでしょうな。もともと既存の地上保管場所ではとてもではないが保管に限界があったのです」

グリナート大佐が後白河の発言を補足した。

 

「しかし、これだけ異常な生物が繁殖していたのなら、産業廃棄物の犯人と共に巨大ワームは人類に気づかれていてもおかしくないのでは?」

岬博士が疑問を投げかける。

 

「そうですな。NATOソマリア派遣部隊がしばしばこの海域で巨大な未確認生物らしき潜水物体を捕捉(ほそく)してソマリア司令部に報告していました。したがって米軍と報告内容は共有されていた(はず)ですな。

今回の容疑者がミツル商事の瑠奈嬢だけというのは不可解ですな。5年前からアフリカで何かが起きていた事も考慮する必要があるでしょう」

グリナート大佐が言った。

 

 第三国立会いの下で行われた解析結果は首相官邸とダウニングタウンに報告され、ケビン首相はユニオンシティ国ソーンダイク代表や地球復興局マッカーサー三世局長へ直ちに報告した。

 

 ソーンダイク代表はこの結果を受け入れたものの、地球復興局長のマッカーサー三世は日本政府のねつ造だと主張、大月瑠奈の月面都市出頭を強く日本政府に要求した。

 

日本政府首脳は対応に苦慮した。

 

ーーー同じ頃【神奈川県 横浜市 NEWイワフネハウス 食堂(ダイニング)

 

 満とひかりは食堂に世田谷へ出張している岬博士を除くミツル商事の社員を集め、瑠奈に火星生物持ち込み疑惑で召喚状が出されたが、地球復興局マッカーサー三世の陰謀であると説明して瑠奈の窮地(きゅうち)を救うべく対策会議を開いた。

 

満とひかりは社員たちから意見を聴いていた。

 

「NHKの子供番組も含めて瑠奈の素晴らしさを全世界に宣伝すれば良いのよ」

美衣子(ミーコ)が目を輝かせて言った。

 

「瑠奈の素晴らしい所ねぇ・・・えっと・・・あれれ?」

満が口を開きかけたものの、言葉が出てこない様だった。

 

「あなた!情けないですよぉ。ちゃんと愛娘(まなむすめ)をフォローしないと」

ひかりが満にダメ出しをする。

 

「えっ!?ひかりさんは瑠奈の良い所直ぐに言えるの?」

満が訊く。

 

「簡単よ・・・ご飯は元気よくドカ食いしてくれるし、重箱五段重ねのお弁当を持たせても早弁で給食まで持たないし、ゲームは上手いけど後片付けしないし、宿題はお友達を信用して丸投げするし、素直ないい子よ?」

「良い要素無いよ?」

満が突っ込む。

 

「何も言えないあなたよりマシよ!」

ひかりがフンスと豊かな胸を張る。最近また大きく育ったようだ。満との『夜の勉強(レッスン)』が効いているのかもしれないと満は眼福(がんぷく)の思いでときめきながらひかりの胸を見つめる。

 

「あなたっ!?こんな時に何を視てるのっ!」

ひかりが真っ赤な顔で満の横っ(つら)を張り飛ばす。

 

「もうっ!()りない人はお仕置きですっ!」

紅潮した(ほお)を隠そうともせずに、ひかりは朦朧(もうろう)としていた満の襟首(えりくび)を掴むと恥ずかしそうにズルズルと自宅に引きずって行ってしまった。

 

「・・・夫婦円満なのは良い事なんだけどね?・・・ホント爆発して欲しいんだけど」

琴乃羽がボソッと言った。

 

他の社員は沈黙で琴乃羽の言葉を肯定するのだった。

 

翌日早朝、世田谷NIID(ニード)施設で調査していた岬から、火星生物が「既に」地球に根付いていたとの報告を受けた満とひかりは、先日発生したマリーンシティ襲撃時の瑠奈と火星生物の戦闘映像と、火星由来生物は日本列島火星転移前から存在していたとの調査結果を各国メディアにリークした。

 

「おはようございます。6時の極東BBCニュースです。先程、驚くべきニュースが飛び込んで来ました。---王室は生存していました---現地で救助活動にあたっている日本マルス航空の関係者によりますと、ケンジントン避難民キャンプで王室メンバーが発見されました。この3年間、灰に埋もれたケンジントン避難民キャンプで王室メンバーは身元を明かすことなく、静かに避難民を支えていたと言う事です。グラスゴーからルナ特派員がお伝えします」

 

灰色の火山灰が降り積もったコートとヘルメットを被ったちんまりした人物がズームインされると、真面目な表情の瑠奈(ルナ)が、水没した海軍基地の背景と共に映し出された。

「王室メンバーは全員無事が確認されましたが、駆け付けた空軍特殊部隊に対して女王陛下と皇太子ご夫妻は「最後まで国民と共に在りたい」として火星への避難を固辞(こじ)しているとの事です。尚、皇太子夫妻の子供二人については救援部隊ロイド司令に身許(みもと)を預けたとの事です。以上グラスゴーからルナ・オオツキがお送りしました」

 

「次のニュースです。地球復興局がユニオンシティ区域だけ優遇した火星開拓を進める中、日本の民間企業とソールズベリーカンパニーがアルテミュア大陸西部地区において大規模な開拓に成功しました。

 ソールズベリーカンパニーによりますと、ミツル商事と共同で沿岸の海洋養殖事業で北海産タラの養殖に成功した他、内陸部ではジャガイモと大麦の栽培が軌道に乗りました。火星産のフィッシュ&チップスが我々の口に入るのも時間の問題になるようです」

 

「ユーロピア(ドゥ)のニュースです。ミツル商事安全保障部門責任者ルナ・オオツキ氏が火星危険生物を地球へ持ち込んだとされる問題で、日本政府は先程、オーストラリア沖で回収した巨大ワームの死骸DNA分析により、5年前から西アフリカ海域でこの危険生物が生息していた可能性が極めて高いと発表しました」

 

「日本の厚生労働省NIID(ニード)(国立感染症研究所)は、この危険生物が西アフリカ沖の廃棄物に含まれている放射能によって成長速度が異常に早まる突然変異を起こしていたと会見で説明しています。かねてから複数の国際環境保護団体が西アフリカ沖での不法投棄問題に警鐘を鳴らしていました」

 

「イスラエル公共放送です。日本の岩崎官房長官は定例記者会見で、火星危険生物をミツル商事のルナ・オオツキ氏が持ち込んだとされる地球復興局の主張を科学的根拠を用いて全面的に否定し、日本政府に通知なしで日本国民召喚命令を出した事を内政干渉だとして強い不快感を示しました。

新エルサレムの首相報道官、ガリラヤ州知事、テルアビブ特別州知事も日本政府の見解を支持する声明を先程相次いで出しました」

 

ミツル商事と美衣子達三姉妹に好意的な各国の組織が、瑠奈を肯定的に(とら)える報道をする一方、独善的な行動を取る地球復興局と局長のマッカーサー三世による問題行動は、火星日本列島諸国の世論を、地球復興局への疑念と反感を大いに()き立てるには十分だった。

 

地球圏と火星日本列島諸国との対立を沈静化させるべくユニオンシティ国ソーンダイク代表が、マッカーサー三世に対して瑠奈召喚命令を取り下げるよう要請し、マッカーサー三世はこれをしぶしぶ受諾(じゅだく)した。

 

ミツル商事の面々と日本政府はこれで当面マッカーサー三世の動きが取れないだろうと安堵(あんど)するのだった。

 

2022年12月30日午後1時【東京都渋谷区代々木NHKスタジオぱーく】

 

美衣子と結のトーク番組「ミーコ&ムスビ」の生放送がスタジオで行われていた。

 

「・・・それじゃ視聴者からのお便りコーナーよ」

美衣子がカメラにはがきを見せつける。やらせではないことを明示しているのだ。

 

「長崎県佐世保市ダウニングタウンのM君から、「どうして人間(ヒト)が思っただけで火星に移動できたのでしょうか?」」

帰還途中の「そうりゅう」から「どこへもドア」で駆け付けた結が読み上げる。

 

「内務大臣、聴きたいことが有るならホットラインを使って頂戴」

いきなり美衣子ハガキの差出人Mの正体を明かしてしまう。

 

「ちょっと姉さま!匿名希望(とくめいきぼう)って書いてあるわ!」

(あわ)てて美衣子を止める結。

 

「放送事故?言ってしまったものはごめんなさいだわ」

悪びれずにしれっと謝る美衣子だった。

 

「その代わり、ケンジントン避難民キャンプで

見つけた王室ーーーむぐっ!」

結が美衣子の口を慌てて(ふさ)ぐ。

 

「CM!CMよ!」

結がカメラへ向かって叫ぶ。

 

突然画面が日本の四季を映した映像に切り替わって『ふるさと』の歌が流れる中、「しばらくお待ちください」とのテロップが表示された。

 

「結さん・・・うちは民放じゃないからCM無いのですよ?」

画面の外からディレクターの声が聴こえている。

 

しばらくすると画面が元に戻って、落ち着いた様子の美衣子と結がキッチンのセットでポタージュをちびちび飲んでいた。

 

よくみると二人ともやや涙目であり、後ろ姿で沸騰してはいけない(はず)のポタージュをぐりぐりかき混ぜているひかりの肩がやや強張(こわば)っているように見えた。

 

こほん、と結が咳ばらいをして取り(つくろ)うと、

「これだからネンネは困るわ」

結がため息をついた。

 

「そんなの最新科学の常識でしょう。マスターゼイも日本の科学者に毎回説明していたけれど、残念ながら理解されていないようね」

上から目線の美衣子が言う。

 

「姉さま、人間は私達美少女とは違うのです。もっとカボチャポタージュに浸してふやけたクラッカーみたいに分かり易く説明してくださらないと・・・」

結が無意識の分かりづらいフォローを試みる。

 

「この番組を視ている紳士淑女(レディスアンドジェントルマン)の皆さんに説明するわ。多くの人間が一つの事柄に想いを寄せると、現実世界の物理現象に影響を与える事ができるのよ」

 

「例えば、ある機械でコイントスを行う実験をすると、コインの裏表が出る確率は2分の1ずつになるわ」

美衣子の説明に結が頭をコクコクさせて頷く。

 

「けれども、その機械の(そば)で沢山の人間がコイントスを見つめる状況を作り出すとーーー

その確率が変動してしまうのよ」

 

「火星に転移する前からこの実験はアメリカでいくつか行われて実証されてきたのよ。だけど、どのような原理で物理法則が人の意思で変更されるかは不明だったの」

美衣子が説明を続ける。結はじっと目を瞑って聴いている。

 

「一説には神の福音では?との非科学的な論拠も取りざたされたけれど、結局は物理原則変動理論が出来ていなかった・・・」

「マルス文明はこの物理法則を変動させる理論を解明して、一つのシステムを作り上げて、原始時代の日本地区にセットしたのよ」

 

「ほぇ~」

結が珍しく感嘆の声を上げていた。

 

「それじゃあ、今年はここまでよ。来年は「モリカケよりメガ盛り」よ」

美衣子と結がカメラに手を振るとカメラがズームアウトしていく。

 

「ハイ!カーッとぉっ!」

ディレクターが機嫌よくOKサインを出す。

「いや~今回も超展開で超ウケでした!視聴率の速報値は56%ですね」

 

「くっ!・・・・残念だわ。80は行けると思ったのに・・・」

美衣子が地団駄(じだんだ)を踏む。

 

「最近は裏番組が強力で手強いんですよ」

渋い顔のディレクター。

 

「どの番組?」

結が訊く。

 

「民放でミツル商事スポンサーの「新婚さんちょっと来い!」ですよ」

「いやに高飛車(たかびしゃ)な番組名ね」

自分達の事を(たな)に上げて美衣子が言う。

 

「いや~司会のヤモリさんとアシスタントの真知子先生という異色のコンビが人気の様ですね」

「「ああ~・・・」」

美衣子と結は納得した。

 

司会を務めるヤモリの事は知らないが、女子の学び舎で箱入り厳重梱包(げんじゅうこんぽう)育ちの真知子先生ならば、いちゃこらする新婚カップルにお説教するくらいやりかねないと想像する二人だった。

 

「強力なライバルが出てきて張り合いが出るわ。ディレクター、私達もそろそろ大河ドラマに出ても良いと思うの」

「・・・何故(なにゆえ)大河!?」

 

果たして彼女達に適した配役が有るのだろうかと首を捻るディレクターだった。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
次話は9月16日㈰に投稿予定です。

絵師 里音(りおん)様のイラスト第2弾、ひかりさんです。
三姉妹を手なづけて主人公を尻に敷く大和撫子ですw
こんな二次元嫁なら・・・


【挿絵表示】

【このお話の登場人物】

大月 満(みつる)=ミツル商事社長。一応主人公。
大月 ひかり=ミツル商事監査役。総合商社角紅役員。一応ヒロイン。

【挿絵表示】

大月 美衣子(ミーコ)=マルス文明日本列島生物育成環境保護システム人工知能。
鷹見(タカミ) 結(ムスビ)=マルス尖山基地人工知能。美衣子の妹分。
大月 瑠奈(ルナ)=マルス文明地球観測天体人工知能。結の妹分。

岬 渚紗(なぎさ)=ミツル商事海洋産業担当。海洋生物学博士。
琴乃羽(ことのは) 美鶴(みつる)=ミツル商事異星文明研究員。

岩崎 正宗=内閣官房長官
桑田=防衛大臣
グリナート=英国連邦極東軍大佐。ロイド提督の副官。

マッカーサー三世=地球復興局局長兼ユニオンシティ国中央情報局長官。
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