転移列島   作:NAO

92 / 121
解き放たれたもの

 

【挿絵表示】

 

2023年1月3日午前8時【地球 南太平洋ニューカレドニア沖 ユニオンシティ国メガフロート「マリーンシティ・ワン」】

<i324218|25956>

瑠奈がメガフロート外縁部の一角にジョーンズ司令官を呼び出していた。

 

「これが瑠奈をマッカーサーっちのお仕置きから救ってくれたジョーンズおじさんへのお礼っス!」

アンドロイド軍団軍楽隊のエレクトリカルファンファーレが鳴り響く中、巨大セラミックブルーシートが取り除かれた港湾ドックに全長90m程のずんぐりした黒炭色の装甲を持つ戦艦が姿を現した。

 

【挿絵表示】

 

「どうっスか?!C-17Aグローブスター輸送機&B-52ストラトフォートレス戦略爆撃機の航空機の素材を惜しみなく贅沢(ぜいたく)に使った瑠奈特製『マンスフィールド級空中戦闘艦』っス!」

ジョーンズ司令官の背後に群がるユニオンシティ守備隊とイスラエル軍特殊部隊隊員からどよめきにも似た歓声が沸きあがる。

 

「この戦闘艦の特徴は何と言っても、空中に浮上しながら作戦行動が取れるんっスよ!」

「艦首、中央、艦尾底面に備え付けられたハイブリッドロケットエンジンで垂直上昇可能な上に、イオン電気推進システムで火山灰の中でも高速空中航行可能ときたっスよ!」

 

「武装は三連装レールガン砲台4基、長距離ミサイル垂直発射筒(VLS)16基、アイアンドームシステム対応、8連装短距離対空ミサイルランチャー4基、20㎜CIWSバルカン砲8基の重武装!まさに空飛ぶ要塞(フォートレス)ッスよ!」

瑠奈がっス!っス!と興奮しながら説明するとジョーンズは思わず顔をほころばせる。

 

「素晴らしい。火山灰の中で使えぬ航空機をアレンジしてこんな物を作り上げるとは・・・我々地球の兵士に扱えるものなのかね?」

「大丈夫ッスよ!操縦や航法装置はC-17AやB-52と同じ大型航空機仕様っスよ!武器系統の火器管制もイージス艦と同じ様にしているっスよ!」

 

「素晴らしい!完璧じゃないか!」

ジョーンズが瑠奈を両手で抱き上げてクルクル回りながら高い高いをした。瑠奈はドヤ顔で万歳して喜ぶ。

 

「お嬢!これと同じものをIUDF(イスラエル連邦国防軍)にも売ってもらえないか!?」

後ろでワイズマン中佐が玩具(おもちゃ)を見つけた子供のように目をキラキラさせて瑠奈に(すが)りつこうとしていた。

 

「いいっスよ!ライセンス販売で良ければ1隻当たりメルカバMK-Ⅳ(マークフォー)戦車400台と交換ッスよ!」

「わが軍のクフィール戦闘機1個中隊分でどうだ?」

 

「えー!?・・・火山灰で飛べない飛行機は要らないッス!」

「くっ・・・、手強いな。国防大臣に相談するからミツル社長によろしく言ってくれよお嬢!」

 

(うけたまわ)りッス」

 

「ミス瑠奈!私へのプレゼントは大変光栄なのだが、あと2~3隻我が国で買えないか?」

ジョーンズがモジモジしながら瑠奈に申し出る。彼は商売が苦手なのだ。

 

「良いっスよ!でもおじさんの所で限定っスけど?」

「オーケー。約束しよう。私の直属部隊(デルタフォース)が使用する。月面(ユニオンシティ)の馬鹿共には使わせんよ」

 

「じゃあ、物々交換で良いっスよ!」

「わが軍のエイブラムス戦車かね?それともニミッツ級航空母艦(カールビンソン)かね?」

 

「うーん惜しいっス!・・・オーロラ戦闘機1個小隊3機でどうっスか?」

「・・・あれは数が少ないのだ」

「足りない分はオハイオ級原子力潜水艦3隻で手を打つッスよ!」

 

「むっ!やるなぁ。ええいっ!私の指揮下にあるオーロラ2個小隊6機と整備施設を譲渡しようじゃないか!」

「ジョーンズおじさん太っ腹っス!契約成立ッス!」

瑠奈が万歳をしてジョーンズに飛びつく。苦笑するジョーンズ中将も空中艦隊が編成できるので満更(まんざら)でもなさそうだ。

 

「なんで小学校の宿題が出来ないのに最新軍事兵器の取引で商才が炸裂(さくれつ)するんだ?」

ワイズマンはジョーンズへ巧みに揉み手する瑠奈を見ながら首を傾げるのだった。

 

ワイズマン中佐の要望通りに新テルアビブ国防省からメルカバ・マークⅣ型戦車400両の譲渡は承認されたが、火星新大陸で新たにミツル商事が製造工場を建設したならばライセンス生産で取得出来るとの条件が付いた。

 

瑠奈はすぐに(みつる)へ連絡して内諾(ないだく)を得ると、ヘルシティ地下区画の一角で陸上戦車製造許可を姉の美衣子(ミーコ)(ムスビ)から取るのだった。

 

ミツル商事が取得した一連の最新兵器は、名取大佐や石原准将ら現場指揮官を歓喜させたが、岩崎官房長官、桑田防衛大臣は国会で左派系野党から「専守防衛」とは異なる性能ではないかと厳しく追及された。

 

対馬事変以来、国内での政治的存在感が限りなく(かすみ)に近かった左派系野党は水を得た魚の(ごと)く嬉々として国会の各委員会で澁澤政権の「軍事的拡張主義」を非難した。

そしてミツル商事の(みつる)社長と瑠奈を''国会証人喚問''に招致した。

 

澁澤総理と岩崎官房長官、(みつる)は瑠奈の’’恐らく確実にやらかす’’であろう答弁を想像して胃が重くなるのだった。

 

しかし、ミツル商事と瑠奈の地球での活躍ぶりを最近のニュース報道や大月家の家族的経営手法を好意的に紹介したテレビのワイドショーを通じて知っていた国民世論は、瑠奈の月面召喚命令に批判的だった。

 

瑠奈に先駆けて行われた非公開の証人喚問における桑田大臣、石原准将や名取大佐の答弁も、

「防衛的な運用でも十分に費用対効果がある」

と軍事機密を開示する形で詳しい説明が行われた。

 

そしてマスコミ各社の取材が許された大月瑠奈の証人喚問では、

「『火星生物対策として』、攻撃は最大の防御っス!皆さんはセラミックの盾とスタンガンを持って巨大ワームやサソリモドキに挑むんスか!?そんな事したら死んじゃうっスよ!?」

と反論して左派系野党を沈黙させた。

 

満は滅多(めった)に見ない瑠奈の雄姿に沈黙した。

美衣子と結はレア映像に感動して妹の証人喚問映像をNEWイワフネハウス庭にある桜の木の下にタイムカプセルとして埋めた。

 

瑠奈が発明した『マンスフィールド級空中戦艦』は防衛省航空宇宙自衛隊が2024年度予算で取得が計上される予定となった。

 

2023年1月14日午前2時【ユニオンシティ国ネリス州グルームレイク 戦略秘密基地エリア51 】

 

「局長、お世話になりました!」

副操縦席に座る副官がマッカーサー三世に最後の挨拶をしていた。

 

『なに、直ぐに()えるよ。ケビンによろしく伝えてくれたまえ』

マッカーサー三世がさり気なくMI6の協力者に向けて餞(はなむけ)の言葉を送る。

 

「っ?!・・・お待ちしております」

元副官はびくりと一瞬身体を強張らせたが、平静を装ってモニターの向こうに居るマッカーサーへ敬礼した。

 

 火山灰が降り積もる滑走路から後任の司令部要員への引継ぎを終えた将兵の乗るイオンロケットブースターを装着したX-34軍用シャトルが月面に向かって飛び立った。

 

 真っすぐに上昇するシャトルに乗る搭乗員の大半が「大変動」以前から秘密軍事基地の地下司令部要員として勤務していた。

 

 後任の司令部要員はマッカーサー三世長官が「外部からスカウト」してきた無口で勤勉そうな特殊ウエットスーツに身を包んだ集団であり、司令部の最新式DNAコンピューターからの指令(コマンド)を受けて指定された任務を引き継ぐ事になっていた。

 

「これで忌々(いまいま)しい火山灰と穴倉生活からおさらばだな!」

マッカーサーの不吉な一言を忘れようと、気分転換がてら眼下(がんか)に見える灰色で埋め尽くされた北米大陸を見下ろしながら、マッカーサー三世の元副官が言った。

 

「そうだな。この歳で月面宇宙基地に住めるなんてSF映画の世界に飛び込むようなものだな」

隣で操縦桿を握る機長が応じる。

 

「あの穴倉に留まる事は今の人類にとって過酷すぎると長官がソーンダイク代表に直談判したらしい」

機長は宇宙への脱出に気分を良くしているのか上機嫌だった。

 

「何を考えているのか分からない所がたまにあったが、ちゃんと俺らの事を考えてくれていたんだな!」

笑顔で仲間と談笑する搭乗員を乗せた軍用シャトルが衛星軌道上に到達した途端、航法装置から警戒アラームが鳴り響く。

 

「このシャトルがロックオンされているぞ!」

二人の背後で空域警戒をしていた航空機関士が警告する。

 

「こちらのIFF(敵味方識別信号)は出しているのだろうな?」

機長がクルーに確認する。

 

「出しています!方位04から自動照準射撃レーダーが照射!」

「どこの機体(バカ)だ!?」

 

「わが軍のB-2S高空宇宙爆撃機(ステルススターファイター)です!向こうからのIFFシグナル有りません!」

航空機関士が驚きの声を上げる。

 

所属不明(アンノウン)のB-2へ告げる。こちらエリア51X-34B!月面司令部帰投途中だ!ロックオン解除せよ!直ちにロックオンを解除せよ!」

しかし、機長からの通信に応えることなく、B-2S高空宇宙爆撃機はASAT(衛星破壊弾頭)を唐突(とうとつ)にX-34Bシャトルに向けて発射した。

 

突然の友軍機攻撃に意表を突かれた軍用シャトルは回避する間もなく、衛星軌道上に無数の耐熱タイルと搭乗員の破片をまき散らして爆散した。元副官を含めて生存者は皆無だった

B-2S高空宇宙爆撃機の操縦士は「縦長の瞳」を細めて人体の痕跡(こんせき)が残っていない事を確認すると、何事も無かったように大気圏に再突入すると静かにエリア51に帰投した。

 

その日のユニオンシティ国ニュース(UNN)は宇宙でも作戦行動可能な新型ステルス爆撃機による宇宙デブリ迎撃実験に成功したと報道した。

 

 特殊なウエットスーツに身を包んだターミネーター型アンドロイド兵士と、爬虫類型クローンオペレーターに囲まれて地下司令部のメインスクリーンでUNN放送を視ていたマッカーサー三世は無言で口の端を吊り上げて人類とは異なる縦長の瞳を細めるのだった。

<i32417725956>

 司令部機能を|司(つかさど)る最新鋭DNAコンピューターが有機的連携で周囲のアンドロイドやチップを頭蓋(ずがい)に埋め込んだ爬虫類型人類クローンと連携してマッカーサー三世に従属していた。

 

(ダグリウス)にとって雌伏(しふく)の時代は終わろうとしていた。

 

人ならざる縦長の瞳を隠していたサングラスをようやく外したマッカーサー三世---ダグリウスは、

「さあ、新世界の創造を始めようじゃないか!」

 

と高らかにシャドウマルス世界の創造を宣言した。

 

2023年1月14日午後1時【南太平洋 ニュージーランド東方沖 ユニオンシティ国メガフロート海上都市『マリーンシティ・ワン』】

<i324165|25956>

「なんだろう?この激しく怪しいこれじゃない感・・・。ワームな様でワームでは無いような予感がするッス!」

火星での証人喚問を終えた瑠奈が『マロングラッセ』艦長席に表示された火星生物探知センサーの反応を見て困惑していた。

 

「何を謎かけみたいな事言っているんだ、お嬢?」

ワイズマン中佐が戦闘管制席から瑠奈の方を振り向く。

 

「いつものワームならバッチリと反応するのに、今日は反応が薄い・・・というか迷っているというか・・・何だろ?」

困惑して首を捻る瑠奈。

 

「そんなに悩むならドローンでも飛ばせば良いじゃないか?」

「そうっスね!」

瑠奈がささっと決断してお手製の水中ドローン「お魚くん」を艦首から(はな)つ。

 

「念のため、ジョーンズおじさんに報告頼むッス!中佐の特殊部隊はマロングラッセに全員収容するッス!」

「アイアイサーお嬢!」

ワイズマン中佐が手際(てぎわ)よく各所に連絡と警報サイレンを鳴らす。

 

メガフロート司令部でも瑠奈からのアンノウン探知報告を受けて迎撃準備に取り掛かっていた。

 

「イスラエル特殊部隊からアイアンドームシステム操作権限を一時的に承継しました!」

「システム迎撃態勢!マンスフィールド級は発進準備急げ!空中哨戒と援護が有れば守備隊の負担が減るんだ!」

ジョーンズが迎撃態勢を敷こうと部隊配備を急ぐ。

 

「お嬢!ドローン映像来たぞ!」

ワイズマンがメインスクリーンに投影する。

 

その巨大ワームは金属色の光沢(こうたく)をしており、ミジンコのように身体全体をバネにして小刻(こきざ)みに収縮しながら水中を泳いでいた。

 

「なんすか?この生き物・・・いやいやっ!?これは生き物じゃないッス!サイボーグっスか!?」

瑠奈が異様な動きのワームを視て茫然(ぼうぜん)とする。

 

「お嬢。これ、ヤバくないっすか?」

最近瑠奈の口癖が感染しつつあるワイズマンが冷や汗を流しながら話しかける。

 

「火星の姉さま達に緊急連絡っス!コード『ヴォルデモート』!」

瑠奈が名前を言っちゃいけない級の最悪時緊急連絡を指示した。

 

「これは人類が作り出せるものでは無いっスよ!どういうことっスか!!」

人ならざる者が生み出した生物の動きを視た嫌悪感で顔を(ゆが)めた瑠奈が叫ぶ。

 

「ミツル商事より入電!ドローンがメガフロート西側1500mにてアンノウン探知!巨大ワームに似た何かが多数接近中。数200!映像出しますっ!」

 

司令部のスクリーンに薄暗い海中を無数の茶色い巨大ワームが巨体を小刻(こきざ)みに収縮させながらひしめき合って泳ぐ姿が映し出されると、司令部の全員が戦慄(せんりつ)した表情で映像に釘付けになった。中には吐き気を感じて()()()者も居た。

 

「馬鹿!しっかりしろっ!コンタクトまで残りは!?」

ジョーンズが怒声(どせい)を上げて司令部の将兵を叱咤(しった)する。

 

「45秒!!速過ぎますっ!」

想像以上に素早い敵の接近にオペレーターが悲鳴を上げる。

 

「落ち着け!メガフロート全域に緊急避難警報発令!武器を持たない者はシェルターへ急げ!」

ジョーンズが間髪入れずに非常警戒システムのボタンを押す。

 

メガフロート全域に耳障(みみざわ)りなサイレンが響き渡り、建物の外で作業をしていた作業員や警備兵が慌てて最寄りのシェルターへ飛び込んで行く。

 

「『マロングラッセ』から入電!流します!」

オペレーターがそのまま瑠奈からの音声をスピーカーに(つな)ぐ。

 

「おじさん!これは生き物じゃないッス!サイボーグワームっス!普通の武器では通用しないッスよ!」

瑠奈が早口で注意を(うなが)す。

 

「M16(自動小銃)やジャベリン(対戦車誘導弾)ではダメか!?」

「ダメっす!超硬いっス!対艦ミサイルか120㎜戦車砲、それに近いデカイ威力の武器で応戦するしかないッス!」

いきなり出現した「新種」の対応に瑠奈も動揺していた。

 

ダグリウスの()き放った異様な機械生命体が復興途上の世界を侵食しようとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。