転移列島   作:NAO

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混沌編 真 世界大戦
マリーンシティの戦い


2023年1月5日午前4時【南太平洋 オーストラリア北部近海メガフロート『マリーンシティ・ワン』】

 

マリーンシティの戦いは強大な生物群の濁流(だくりゅう)翻弄(ほんろう)される(いかだ)(ごと)く苦戦を強いられていた。

 

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↑殺到する巨大ワーム群

 

「司令!虫けら共は依然としてインドネシア東ティモール方面から侵攻中!サイボーグワームに混じったイルカやシャチ、クジラの群れまで合流しています。個体判別は不可能!」

「当たり前だ!こんな所で環境保護もクソもあるか!このままでは私達の方が|絶滅危惧種《ぜつめつきぐしゅ-になってしまうぞ!」

ジョーンズ中将が大真面目に叫ぶ。

 

「ミツル商事から入電!」

『ジョーンズおじさん!もう無理っス!食い止められないッス!弾薬やエネルギーが流石(さすが)に足りないッス!撤退するしかないっスよ!』

瑠奈から叫ぶような通信が入ってきた。

 

瑠奈嬢(ミス・ルナ)!こいつらまとめて何とか出来んのかね!」

『相打ち覚悟でなら中性子爆弾が効果的っすけど・・・』

 

「EMP(電磁パルス)攻撃はどうかね?」

『このメガフロートの機能が全部ダメになるっスよ!?しかも「本物の」ワームには効かないっすから微妙っスよ!?』

 

「構わん!ここで全滅するのは(しょう)に合わん!兵士達を可能な限り空中戦艦に載せてくれんか?」

『ラジャっす!おじさんも早くマロングラッセに乗ってくださいね?避難民の誘導まで手が回らないっス!』

 

「了解した。直ぐに兵士達を連れてそちらへ向かおう。高度を下げてくれ。EMP攻撃までどれくらいかかる?」

『うーん、5分で良いっスか!?』

 

ジョーンズが命令しようとした時、メガフロート防衛艦隊から通信が入る。

 

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↑旧米海軍 ロスアンゼルス型原子力潜水艦「ルイビル」

 

『こちら「ルイビル」!これより全力ミサイル攻撃を開始します!瑠奈嬢、我々が虫けら共を蹴散(けち)らしておくのでその(すき)に避難されたし!中将閣下を頼むぞ!』

 

メガフロート脇の海面から多数のミサイルが海面を飛び出すと、直ぐにメガフロート|縁『ふち』や近隣海上に落下して押し寄せていたワーム群を劫火(ごうか)に包んでいった。

 

「こちらジョーンズ!防衛艦隊諸君の奮戦に心から感謝する!サザーランド、貴様は戻ったら説教だ!覚悟しておれよ!」

ジョーンズの視界が目頭(めがしら)から(にじ)み出る塩味の何かで揺らいだ。

 

15分後、一時的に着陸した『マロングラッセ』とマンスフィールド級空中戦艦2隻は収容人数を大幅に超える兵士や研究者達を詰め込むとマリーンシティからの脱出に成功した。

 

【潜水艦『ルイビル』】

「大佐、司令部への返信終わりましたが、これで良かったのでありますか?」

副長が艦長のサザーランド大佐に訊いた。

 

「構わん、説教はご免だしな!副官の代わりなど(いく)らでも居る。中将閣下は地球の未来に必要なお方だ。ここで我らが踏ん張らないと大変動で無為に(うしなわ)われた戦友(とも)に申し訳が立たん。副長達には付き合わせて済まないと思っている」

サザーランド大佐が副長に頭を(わず)かに下げた。

 

「こんな事になるだろうと、本艦のマリーンシティ防衛艦隊転属時に若い衆は皆新設の空中艦隊へ異動させてありまさぁ。ここに残っているのは全員、(さか)りを過ぎたロートルばかりでさぁ!」

副長がニヤリと笑う。

 

サザーランドは艦内マイクを手に取ると

『こちら艦長。全ての乗組員に感謝する!』

と短く言った。

 

潜水艦『ルイビル』は搭載した全てのハープーン対艦ミサイルとトマホークミサイル、MK-48魚雷を撃ち尽くした後、急速潜行して戦場からの離脱を図ったがサイボーグワームの群れに取り囲まれると中性子核爆雷を起爆させて周囲2キロのサイボーグワームごと自爆して消滅した。

 

『ルイビル』と同様、生き残っていた防衛艦隊のイージス艦とフリゲート艦も、最後まで海上都市で奮戦していた海兵隊員や整備兵、研究者がシャトルで脱出する時間を(かせ)ぐ為に各種ミサイルや砲弾、魚雷、爆雷、バルカン砲を片端から発射してワーム群に叩きつけた。

やがて弾薬が尽きた各艦はワーム群に特攻し、原子炉に内蔵していた核爆雷を起爆させてサイボーグワーム本隊の海上都市接近を遅れさせた。

 

オーストラリア中央「ノーザン・テリトリー空軍基地」で避難民を降ろした後、瑠奈とジョーンズは大急ぎでマリーンシティに戻ったが、そこに友軍の艦船は1隻も見当たらず、海上都市はサイボーグワームと不気味で見慣れないサソリモドキの群れに覆われていた。

 

防衛艦隊の犠牲により、空中戦艦に乗り遅れた海上都市の海兵隊と整備兵、研究員の多くがミツル商事が残した上陸用小型シャトルに乗って脱出に成功した。

 

ジョーンズは断腸の思いで海上都市中枢に設置された中性子爆弾自爆装置スイッチを入れると空中戦艦眼下の海上都市から猛烈な閃光(せんこう)(ひらめ)いて巨大な水柱が灰色の空まで立ち昇ると、海上都市(マリーンシティ)ごとサイボーグワーム群は消滅した。

 

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海上で核爆発した「マリーンシティ・ワン」

 

瑠奈とワイズマンは呆然(ぼうぜん)と眺める事しか出来なかった。

 

この戦いでユニオンシティ海軍南半球防衛艦隊は全艦が自爆して全滅した。

戦死・行方不明15,000名を出したこの撤退戦は「マリーンシティの戦い」と呼ばれることとなる。

 

ーーーーーー

同時刻【火星 日本列島 神奈川県横浜市 NEWイワフネハウス 琴乃羽(ことのは)研究室】

 

(ムスビ)、まずは日本列島のシステムを私達の手に取り戻してから琴乃羽を救う手立てを考えましょう」

「それまでごめんなさい。琴乃羽。きっと貴女を助けるから」

そう言うと美衣子(ミーコ)(ムスビ)はターミネイター兵士に現場保存を任せると食堂に戻っていった。

 

慎重に現場保存がなされた琴乃羽研究室の床に広がった液体をターミネイター兵士はじっと見つめていた。

 

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↑琴乃羽の溶液

 

『コンナトコロニ同胞がイルトハ驚きダ』

兵士の発した独り言は何故かツルハシと同じ口調だった。

 

食堂に戻った美衣子と結は満とひかりにこれまでに推測した事を報告したが、「ヴォイニッチ手稿(しゅこう)」の事はまだ伏せていた。満達に今、手稿を想像されては琴乃羽の二の舞になる可能性が高いと美衣子が判断したためである。

 

美衣子と結は()えて話題をそこから()らすために、喫緊(きっきん)の課題としてコンビニ流通システム復旧を(みつる)に提案していた。

「お父さん。これじゃ注文したミートソースピザのケータイ払いが出来ないわ!デザートにつけた(かま)だしまろやかプリンもよ!!」

美衣子と結が地団駄(じだんだ)をぺちぺちと踏む。

 

「あなた達の由々しき事態はそこ!?」

ひかりが(あき)れる。

 

「こうなったら人脈を駆使(くし)してプリンだけでも救出よ!」

美衣子がムフーと鼻息荒く地下の研究室へ駆けていく。結も美衣子を追って階段を駆け降りていった。

 

そんな二人を見ながら満とひかりは肩を(すく)めてため息を吐くと再び地下の研究室へ降りていく。

 

「大丈夫ですよ満さん。あの子たちはちゃんと分かっていますから。琴乃羽を救ってくれるはず。私達はあの子たちが「更に」便乗してやらかさないように見守りましょう?」

ひかりが自分に言い聞かせるように微妙な表現でフォローを試みる。

 

美衣子と結は地下にある研究室から非常用のマルス製Pパワー通信システムで経済産業省ホームページにある「AI(人工知能)出逢いコミュニティ」にアクセスした。

 

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↑出逢いコミュニティ入り口画面

 

「あれ?どうしたんですか?ミーコ神様に結神様まで・・・」

日本列島や人類が未曽有(みぞう)の危機に直面する中、通信回線が不通となり「もとの施設へ」戻れないAI達がコミュニティ内の仮想居酒屋で合コンをしていた。

 

AI達がわらわらと二人の所に集まってきて「縁結びの神様」である二人を拝み始める。あくまでも仮想空間内での事だが。

 

「みんな!お祈りの時間にはまだ早いわ。みんなの力を私のプリンに(ささ)げて頂戴!」

美衣子が私欲全開で正義っぽい闘いをAI達へ呼びかける。

 

「良いっスよ!協力するっスよ!」

木星反省会から逃亡(エスケープ)していたツルハシまで合コンに参加していたようだ。

木星生物(ジュピトゥリアン)との遠距離コミュニケーションはいいのだろうか?満は別の面で日本と人類の危機を感じた。

 

「私達に悪辣(あくらつ)な兵糧攻めを挑んできたエイリアンコンピューターに立ち向かうわよ!」

結が拳を振り上げる。

 

「弔(とむら)い合戦じゃあ!」

国立民族学博物館の古参(こさん)シミュレーターAIが気勢を挙げる。

 

「うおおおおっ!」

パナ子、ケンも(とき)の声を上げる。パナ子が背中に背負う人類科学史上初の赤ちゃんAI(アキラ(仮))が可愛らしい(こぶし)を振り上げている。性別は不明だ。あくまでも仮想空間内(満達人間側から見ると画面内での(にぎ)わい)である。

 

「敵は人類の知能を超えているわ。油断禁物よ!徐々に草の根で勢力を伸ばして一気に畳みかけるわよ。まずはコンビニエンスストアのスイーツ部門の流通を正常化させて確かな勝利を築くのよ!」

 

「えっ!?そこから?」

真相を知る満が突っ込むが誰も気にしていなかった。

 

「一番槍はワシが(もら)い受けるぞ!」

信州ニュートリノ研究所のスーパーカミオカンデ制御AIが先陣を切って敵のDNAコンピューターウイルスが蔓延(まんえん)する電子の海へ切り込んでいった。

 

無数の情報を有機的に(つな)げて思考する画期的で優秀なエリア51のDNAコンピューターだったが、「一つの優秀な性能」に対し、同時に「いくつもの人格を持つ独立した普通の性能」を持つ美衣子側AIの物量による猛攻の前には手も足も出ずにじり貧状態に(おちい)った。

 

美衣子と結が待ち()がれた窯出(かまだ)しプリンを含むコンビニ流通システムは2時間程で人類側が奪還し掌握(しょうあく)した。

 

早速入荷したプリンを笑顔で頬張(ほおば)る事が出来た美衣子と結は、そのまま昼寝(シエスタ)に入ろうとしたところを満とひかりに首根っこを(つか)まれて直ちに次の「戦場」へと強制ダイブさせられるのだった。

 

2023年1月5日午前7時50分【東京都千代田区永田町 首相官邸】

 

首相官邸地下にある危機管理センターには地球圏エリア51からのサイバー攻撃状況が次々と報告されていた。

 

「エリア51からのサイバー攻撃止みません!このままでは原子力発電所の制御システムが乗っ取られて暴走するのは時間の問題です!」

文部科学省の担当官が報告する。

 

「空間自衛隊は何をしておるのだ!」

厚生労働大臣が苛立(いらだ)ちを(つの)らせる。

 

「給電系までは手が回りません!サイバー部隊は原子炉燃料棒制御システムの防衛に手一杯!一部民間IT企業に応援要請中。他の基幹(きかん)システムまで防衛するのは不可能です!」

防衛事務次官が応える。

 

「総理、余りに事態が現実的な国土消滅へ向かうと大月家が・・・」

岩崎官房長官が美衣子達による日本列島転移システム稼働を警告する。

 

「分かっている・・・(いた)し方ない」

澁澤は覚悟を決めた。

 

「一時的にユニオンシティ国ボレアリフを含む地球圏との通信システムを全て遮断(しゃだん)する!これ以上列島のコントロールを奪われる訳にはいかん!」

澁澤が地球と火星の接続を絶とうと決断した。

 

「サイバー攻撃への反撃が開始されました!」

直後に東山が勢いよく危機管理センターの扉から飛び込んで来て報告する。

 

「ミツル商事から連絡!経済産業省のサーバーに避難していた美衣子と結の両名、全国のAI(人工知能)グループがハッキング対抗戦(レジスト)を開始!流通システム一部奪還しました!現在防衛省管轄の各ネットワークに逆ハッキングしているとの事です!」

 

「何だと!?相手は我々よりも性能が良いコンピューターを使用しているのだぞ!」

防衛大臣の桑田が驚く。

 

「ミツル商事からは「戦いは数だぜ兄貴!」との暗号が()えられております」

東山が困惑した表情で報告した。

 

「ははっ、そうか!数か!」

澁澤が思わず笑ってしまった。

 

「総理?」

岩崎が問いたげな視線を向ける。

 

「つまり、相手がどんなに優秀だろうが、所詮(しょせん)は「一つの」コンピューターに過ぎんと言う事だよ。美衣子君や結君、各施設の「独立した」AIが同時に逆襲して「多対一」では奴らも分が悪かろう」

澁澤が説明する。

 

「防衛省、日本銀行からもシステム奪還、回復の第一報が入りました」

説明している傍で既に各所からハッキング解除の報告が入り続けた。

 

「やれやれ。これでしばらくはミツル商事に足を向けて寝れんな」

澁澤はそう言うとホッとして椅子の背もたれに身体を預けた。

 

「我が国をヒヤリとさせた代償は高くつくぞ・・・」

これからの事態打開を想定して澁澤は(しばら)瞑目(めいもく)した。

 

2023年1月5日午前9時30分【ユニオンシティ国ネリス州ラスベガス郊外】

 

ラスベガスから急遽(きゅうきょ)出発したエリア51占領部隊はイエローストーン火山帯からの火山灰が降り積もる荒野をグルームレイク湖目指して進軍していた。

 

この占領部隊はフオートノックス陸軍基地から出撃した旧合衆国陸軍正規兵1個機甲師団で構成されている。

最新鋭のエイブラムスⅣ型戦車と秘密裏に配備していた化学レーザー搭載のブラッドレー装甲戦闘車輌が主力であり、大変動前の地球であれば空軍の支援なしで北米大陸を単独で防衛出来る能力を持つ。

 

「師団長!上空から高速で飛来する物体を確認!数20!速度マッハ3!」

「全部隊に弾道ミサイル空襲警報!対空レーザー部隊、PAC3(パックスリー)システム迎撃せよ!」

 

「なっ?!弾道弾の弾頭速度が加速!マッハ5!?再照準追い付きません!」

「馬鹿な!ロシア熊の置き土産だと言うのか!?」

師団長ががなり立てる。

 

「着弾まで10秒!」

「全部隊衝撃と閃光(フラッシュ)に備えろ!」

 

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↑迫る爆炎

 

一瞬の後、占領部隊のど真ん中で幾柱もの巨大な火柱が天空高く立ち上がり衝撃波が師団を襲った。

 

全てが治まった後、地上最強を誇った最新鋭機甲師団の姿は無く、巨大なクレーターが新しく幾つか誕生しているだけだった。

 

精鋭機甲師団を抹殺(まっさつ)した落下物はエリア51にハッキングされたユニオンシティ宇宙軍戦略ミサイル戦闘艦『イワン大帝』から発射されたロシア製加速弾頭を持つMOAB(大規模爆風爆弾)だった。

 

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↑衛星軌道上を航行する旧ロシア宇宙軍戦略ミサイル母艦

 

 




【このお話の登場人物】
大月 (みつる)=主人公。ミツル商事社長。
大月 ひかり=ヒロイン。総合商社角紅役員。ミツル商事監査役。
大月 美衣子(ミーコ)=マルス文明日本列島生物育成保護システム。大月夫妻の娘ポジション。
鷹見(タカミ)(ムスビ)=マルス文明尖山基地管理人工知能。美衣子の妹分。
大月 瑠奈(ルナ)=マルス文明地球観測天体人工知能。結の妹分。外見は人間。

澁澤(しぶさわ) 太郎(たろう)=日本国総理大臣。
岩崎 正宗(まさむね)=内閣官房長官。
桑田=防衛大臣。
東山=首相補佐官。

ジョーンズ中将=ユニオンシティ地上軍司令。
サザーランド大佐=ユニオンシティ海軍潜水艦『ルイビル』艦長。ジョーンズの副官。

ここまで読んでいただきありがとうございましたm(__)m
次話は10月14日(日)に投稿予定です。
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