転移列島   作:NAO

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バトル・オブ・ブリテンⅡ/オセアニアの戦い【後編】

2023年1月7日午前7時【NHK臨時ニュース】

 

「・・・NHK月面ユニオンシティ支局に設置しているライブカメラが撮影した現在のユニオンシティの映像です。・・・現在ユニオンシティ支局からの連絡が途絶(とだ)えているため、民間警備会社の協力で渋谷のスタジオから遠隔操作しています」

スタジオで遠隔操作機器を(あつか)う通信部門のミツル商事社員が一瞬映し出される。

 

ライブカメラが映す月面都市居住区に人影は無く、各所で移動用車輌が建物に突っ込んで黒煙を上げていた。

火災発生を(しら)せるサイレンが鳴り響いているにもかかわらず、消火活動に駆け付ける人影は無く、街は不気味に静まり返っていた。

 

画面がズームすると路面に赤みがかった黄色い水溜(みずたま)りがあちらこちらに見え、そこには無造作(むぞうさ)に脱ぎ()てられたと思われる衣類と携帯電話が散乱していた。

 

「・・・この映像で()る限り、居住区で大規模な下水漏れがあったのでしょうか・・・市民の方々はどこへ避難されたのでしょうか?」

キャスターが(いぶか)しがりながら苦心してコメントしていた時、カメラの前に数名の人影が現れた。

 

「っ!?生存者が数名居る様です。紺色(こんいろ)のスーツを着ている方が・・・こちらのカメラに気が付いたのでしょうか?何かを叫びながらゼスチャーをしています。日本人ビジネスマンでしょうか?」

 

共用ダイニングでミツル商事の面々と朝食を食べていたひかりは「日本人」との言葉で壁面テレビに目を向けると、思わず塩シャケの小骨をつついていた(はし)を止めてテレビ画面に釘付けになった。

「東山!?」

 

画面に映っていたのはラグランジュベースに立ち寄って到着したばかりの東山首相補佐官と英国王室一行だった。

 

ひかり以外のミツル商事面々はあんぐりと口を開けて固まっていた。

 

我に返った満と美衣子(ミーコ)はひかりと共に首相官邸へ急行して月面救助部隊への協力を申し出た。

既に準備に取り掛かっていた岩崎官房長官はミツル商事の申し出を受け入れ、日本マルス航空と英国連邦極東軍協力のもと、多目的護衛艦『そうりゅう』をその日の午後に月面へ派遣した。

 

2週間後、月面都市に駆け付けた(ムスビ)と『そうりゅう』クルーが目にしたのは、月面地下施設一面に生い(しげ)る新しい「密林達」であった。

 

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↑密林と化したユニオンシティ大通り

 

 

2023年1月21日午後3時【地球 英国 スコットランド ニューグラスゴー(旧英国海軍基地)UNEDF(地球連合防衛軍)司令部】

 

「提督!国防義勇軍大隊防衛線が地下から現れた巨大ワームの奇襲により崩壊、突破されました!」

「火力の不足を人力で補う方策が裏目に出たか・・・」

 

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↑苦戦する防衛線

 

やはり本土防衛のノウハウが足りないな、とロイドは痛感(つうかん)した。

 

『提督!防衛線の見直しを提案します』

最前線に居るNATO機械化歩兵大隊のドイツ軍指揮官が地中回線を使ってロイドに意見具申した。

 

「ご教授願いたい」

ロイドがモニターの向こうに居るドイツ人大佐に頭を下げた。

 

ドイツ軍大佐は常々プライドが高いと言われるイギリス軍将校が頭を下げるという行為に驚いたが、直ぐに気を取り直して新しい防衛線の説明を始めた。

『バグズ共のやり方はロシア熊よりも単純です。単に物量と力で相手を押し流すだけと思われます。奴らの知能が乏(とぼ)しいならば、防衛線をこちらがより打撃を与えやすい地形へ誘導すれば良いと本職は判断します」

 

「うむ・・・」

ロイドが腕を組んで黙考(もくこう)する。

バグズ共の親玉は我々よりも優秀な人工知能を有している(はず)だ。彼らの力押しはより広い戦域で見た場合、戦術の一つではないのか?

 

「奴らの狙いは何だ・・・」

不意にロイドが呟(つぶや)く。

 

『ロンドンの占領でしょうな。人類にとって歴史的価値を持つ都市を陥落せしめることで生き残った人類にショックを与えるのでは?』

ドイツ軍大佐も思考した。

 

「『シャドウ』はそんな「政治的に敏感な」生き物ではない。人類の殲滅が目的だ。だとすれば、こちらの抵抗力を()ぐ為のダメージを与えるはずだ。つまり、司令部の急襲か・・・」

ロイドの思考が想定外の悪夢を導き出す。

 

「敵は並外れたテクノロジーでこちらを(はる)かに(しの)ぐ手札がある・・・」

 

戦略的思考をさらに深めようとした時、不意に司令部の警報サイレンが鳴り響く。

 

「キネアーズ岬警戒レーダーがバルト海から超高速で飛来する物体を探知。マッハ5、数50!識別は・・・ユニオンシティ戦略空軍B2ステルススターファイターです!」

 

【挿絵表示】

 

↑ブリテン空襲戦況図

 

「ミサイル警報発令!国際宇宙港閉鎖、民間人はシェルターへ避難!エディンバラ対空陣地にミサイル警報!奴ら、司令部(ここ)を直接叩く気だ!」

 

「やむを得ん。ロンドン防衛部隊は市街地まで撤退!鉄道駅を守れ!」

「避難民完全退避まであと1時間!」

 

欧州防衛線は陸と空からの強襲に苦戦を強いられていた。

ーーーーーー

 

2023年1月21日午後4時【オーストラリア ノーザン・テリトリー地球連合防衛軍基地 司令部】

 

【挿絵表示】

 

↑豪州戦線の兵士

 

朝から始まったサイボーグワームを始めとするバグズ軍団との激戦は、人類側の辛勝(しんしょう)で終了したが、防衛陣地の隊員は疲労困憊(ひろうこんぱい)し、司令部は部隊の入れ換えや補給の手配に追われていた。

 

「ダーウィン前線司令部より緊急!インド洋ディエゴガルシア方面から高速飛行物体がこちらへ接近中、数50!」

レーダー担当オペレーターが報告する。

 

「IFF(敵味方識別信号)は?」

「ありません!敵です!」

 

「オセアニア生存圏全域に空襲警報発令!」

東沿岸部ニューシドニー、南部アデレードの人類生存地域では警報サイレンが鳴り響いて人々が核シェルターへ避難した。

 

ノーザン・テリトリー基地からは、瑠奈が乗る『マロングラッセ』、ジョーンズ中将自ら乗る空中戦艦『マンスフィールド』、僚艦『キャロライン・ケネディ』が出撃して西から迫る脅威を迎撃しようとしていた。

 

【空中戦艦『マンスフィールド』CIC(戦闘管制室)】

 

「敵の発進地は判明したか?」

「推定出撃地域、インド洋西部、ディエゴガルシア島!!」

 

「やはりあそこの特務部隊か・・・」

ジョーンズ中将が呟く。

 

『あれっ?それっておじさんとこの友軍じゃないっスか!』

相互通信回線から瑠奈の驚いた声が響く。

 

「大変動以前はインド太平洋軍の指揮下だったが、駐留部隊が大津波で全滅して本土からCIA(ラングレー)直轄(ちょっかつ) 特殊部隊が地下核施設の管理を行っていたはずだが、大規模な部隊では無いはず・・・」

『多分、おじさんの知らない区画に沢山隠し物があったんっスよ!』

 

「ありうるな。あの基地はDARPA(ダーパ)(国防高等研究計画)に基づく極秘兵器の研究をしていたからな。私でさえ立ち入れない区画は確かに有ったな」

『たぶん、あそこはマッカーサーっちの秘密基地だったんじゃないっスかね?』

 

「あちらこちらと(いまいま)々しい施設を造りおって!」

ジョーンズが怒りに肩を震わせながら言った。

 

「先行している『キャロライン・ケネディ』から入電!飛行物体をレーダーが補足!距離2万、高度3万、速度マッハ5、数70!」

 

【挿絵表示】

 

↑B2ステルススターファイター

 

敵味方識別(IFF)信号識別判定、ユニオンシティ戦略宇宙空軍(USSAF)所属B2Sステルスフォートレス!」

 

「奴ら、戦略空軍を乗っ取ったのか!?」

「あの識別(IFF)コードはどの部隊も使われていない未知のコードです!」

 

『敵ならばさっさと迎撃するっスよ!出来るだけ遠くで迎撃して時間を稼ぐっスよ!レーザーバリア展開!プラズマブラスターキャノン撃つッス!』

瑠奈はさっさと判断してマロングラッセを緑色のレーザーバリアで包み込むとプラズバブラスターキャノンやレールガンを次々と発射した。

 

暗闇に包まれた荒野の上空を、蒼白い直線的な稲妻(いなずま)幾筋(いくすじ)も西へ向けて走る。

 

「我々も迎撃に参加するぞ!改フェニックスミサイル発射!レーザーは近接戦まで取っておけ!」

 

『マロングラッセ』左右に展開するマンスフィールド級空中戦艦からアウトレンジ用迎撃ミサイルが発射された。

 

ディエゴガルシア基地から飛来したB2爆撃機編隊は、巡航ミサイルを発射する前に瑠奈のプラズマ砲の直撃を受けて編隊誘導機と共に隊長機が撃墜され、混乱したところをプラズマ砲の後に飛来した改フェニックスミサイルの波状攻撃で半数が撃墜された。

 

撃墜された隊長機から指揮を引き継いだ爬虫類(レプティリアン)の副隊長は頭蓋(ずがい)に埋め込まれたAI(人工知能)チップの指示を受けて、攻撃の継続を決断した。

 

副隊長は生き残りの爆撃機を集めると針路を北に変えてベトナムのカムラン湾上空で中性子爆弾を装備した20基の巡航ミサイルを発射して帰投した。

 

エリア51のDARPA(ダーパ)研究所で開発されたトマホーク改はマッハ7に加速するとダーウイン前線基地やアデレード臨時海軍基地へ向けて飛んでいった。

 

「敵編隊からミサイル飛来!数20、マッハ7、ノーザンテリトリー基地、アデレード海軍基地へ向けて飛行中!」

「将軍!」

 

「ミス瑠奈!我々はノーザンテリトリーを護る。アデレードへ向かう奴を撃ち落としてくれんかね?」

(うけたまわ)りっス!』

 

「全艦対空戦闘用意!レーザーファランクス、SM6で迎撃しろ!」

『ワイズマン中佐!針路南へ転針(てんしん)最大戦速っス!レーザーバリア最大出力!中性子ビームファランクス連打っス!』

 

マロングラッセの鈍色(にびいろ)をした細長い船体が緑色に輝く光の(まく)に包まれると急加速して南下する。

「お嬢!ミサイルを撃ち落とす前に俺たちが加速でダウンしてしまうぞ!?」

ワイズマンが急加速でシートに()い付けられたように身動きできずに悲鳴を上げる。

 

「今は迎撃第一っス!我慢っス!」

瑠奈は平気な顔で艦長席で備え付けの冷蔵庫から出したプリンを頬張(ほおば)っていた。

 

 オーストラリア南部沿岸部上空に到着した『マロングラッセ』は矢の様な速さで殺到する巡航ミサイルを電光石火の(ごと)(ほとばし)るプラズマ砲の連射で全て撃破した。

 ノーザンテリトリー基地も『マンスフィールド』『キャロライン・ケネディ』の2隻が近接対空レーザーを全力斉射してミサイルの迎撃に成功した。

 

オセアニア防衛線は人類側が守り切った。

 

ホッとした顔でノーザンテリトリー基地へ帰投した瑠奈達だったが、宿舎でプリンを堪能していた瑠奈にジョーンズからのプライベート通信が入った。

「もすもす、瑠奈っス!」

 

「私だ、」

「オレオレ詐欺(さぎ)は良いっスよ!」

 

「待てっ!瑠奈嬢!緊急なんだ!」

「ノリが悪いっスね?」

 

「イングランドが核攻撃を受けた・・・被害は甚大(じんだい)だ」

ジョーンズが瑠奈に告げる。

 

「マジっすか!?」

瑠奈が思わずプリンを容器ごと飲み込んでしまうと顔を(しか)めた。

 

「不味いっスね。これはいよいよ月面ラボを再起動して欲しいところっスね・・・」

灰色がかった夕暮れの空を見上げて 瑠奈(ルナ)(つぶや)いた。

 

ーーーーーー

同日午後6時【地球 英国 スコットランド ニューグラスゴー(旧英国海軍基地)UNEDF(地球連合防衛軍)司令部】

 

ロンドン市から避難民が次々と臨時鉄道で脱出してリバプールへ向かっている最中、イングランド各地に多くの巡航ミサイルが着弾して甚大(じんだい)な被害をもたらしていた。

 

【挿絵表示】

 

↑壊滅したロンドン市街

 

ニューグラスゴー司令部周辺の施設の所々が破損し、炎上していた。

少し離れた旧海軍基地ドックでは真新しい港湾施設の燃料タンクが激しく炎上していた。

 

臨時港湾施設に係留(けいりゅう)されていた強襲揚陸艦は、激しく炎上する燃料タンクに隣接していたのだが、火災に駆け付けるはずの消火隊員は一向(いっこう)に姿を現さず、不気味に静まり返っていた。巨大なファイアーストームが沈黙していた強襲揚陸艦を包みこむと弾薬庫が過熱されて激しく爆発した。

 

外部の様子を映すモニターで轟沈(ごうちん)する強襲揚陸艦を視ながらロイドが被害状況を把握(はあく)しようとしていた。

「結局、何処(どこ)に落ちたのかね?」

「飛来した超音速巡航ミサイルは120基、カーディフ、エディンバラ、バルト海防空システムで70基を撃墜しましたが、50基が司令部基地(ここ)とロンドン、中部リバプールに着弾。弾頭は高密度の核爆弾、つまり中性子爆弾でした」

被害状況にショックを受けて顔面蒼白(がんめんそうはく)の若いオペレーターが観測機器を操作しながら報告を続けた。

 

「ロンドン市街南部と郊外のオールダーショット防衛線上空では、20基の中性子爆弾が爆発、展開していたNATO機械化歩兵と国防義勇軍防衛部隊が全滅、ロンドン市南部シェルターの大半と連絡が取れません」

防衛線立て直しを進言したドイツ軍大佐の顔を思い出したロイドは顔を(しか)めた。

 

「リバプールは?」

「そちらにも郊外の避難民キャンプへ少なくとも10基が着弾。地区防衛部隊からの連絡が途絶えております」

 

「ここの被害は?」

「国際宇宙空港は被害を(まぬが)れましたが、郊外の臨時海軍施設と隣接する避難民キャンプに20基が直撃、全滅した模様」

 

「放射能汚染レベルは?」

「今回の中性子爆弾1基あたりの被ばく範囲は約2キロです。ロンドン南部からオールダーショット郊外までの途中区間では40kmにわたって放射能汚染を観測。半減期は暫定(ざんてい)数値で30年」

「チェルノブイリが三か所出来たようなものだな」

 

「バグズ共の攻勢は?」

「不幸中の幸いと言いますか・・・中性子爆弾の影響でロンドンのバグズは全滅しています。スカゲラク海峡から飛来した爆撃機はバルト海の東側へ飛び去りました。こちらの迎撃ミサイルは振り切られて命中しませんでした」

 

「完敗だな。陸上戦力の大半を失って、組み立てたばかりのWB(ワームバスター)空中砲台も失った今、次にバグズが来たらイングランドは蹂躙(じゅうりん)される・・・」

ロイドが絶望した表情でインスタント紅茶を一口飲む。

 

「これ以上、祖国ブリテン島の汚染と人員の損害は容認できん。国際宇宙空港から可能な限りのシャトルを動員して人員と物資を、オセアニア生存圏へ移動させる。ケンジントンキャンプの王室にその旨を伝えて移動への協力を要請してくれ」

「私は殿軍(しんがり)となってニューグラスゴーに留まる。ノーザン・テリトリー基地に着いたらすぐに火星本国とミツル商事に緊急連絡で支援を要請するんだ」

 

ロイド提督はブリテン島からの全軍撤退を決断した。

バトル・オブ・ブリテンⅡは人類の敗北となった。

ーーーーーー

2023年1月21日夜【月面都市ユニオンシティ 行政府庁舎】

 

「やはり駄目ね。此処(ここ)の通信機器は全て『シャドウ』の息がかかっているから暗号を送信してもたちどころに解読されてしまうわ」

「それだと月面都市が外部から孤立してしまうな・・・」

(ムスビ)と高瀬中佐達が腕を組んで考え込んでいた。

 

「ここは研究室(ラボ)の再開しかないのでは?」

東山が提案する。

 

「マルス文明のP通信システムならば、シャドウの通信傍受(つうしんぼうじゅ)から多少は逃れる事が出来るのでは?」

「そうね・・・。ついでにニュートリノビームの封印も解こうかしら」

(ムスビ)は不穏な気配を地球ユーラシア大陸から感じたので、今後の行動を変更してシミュレートするのだった。

 

『そうりゅう』クルーがオーストラリア大陸のノーザン・テリトリー基地からイングランド壊滅によるブリテン島からの全軍撤退報告を受信したのは、結がニュートリノビーム・ラボの封印を解除した1時間後の事だった。

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