アニメだと第四局まで行きかけているのに。
ギギギ。
あとがきのほうにりゅうおうせん第三局について書いてあるのでよかったら見てください。
☗ 女王と竜王
「そ、それで…私に何の用かしら」
姉弟子が何故かもじもじしながら聞いてくる。
場所は姉弟子お気に入りのスイーツ店、俺は姉弟子である空銀子を呼び出していた。
「それがですね最近あいの様子が可笑しくて…」
「…は?」
「家に帰ってもよそよそしいというか何かを隠しているように感じるんです」
「ちょっと待ちなさい八一」
「もしかしたら学校で何か酷いことをされているんじゃ…!ほら、あいって可愛いじゃないですか!だから、獣の塊である男が変なことをし始めたらと考えると恐ろしくて夜も眠れないんです」
「だから、待ちなさいって」
「これって学校に直接出向いて先生に言った―――」
「八一!」
「ひゃい!!」
俺が必死に話している最中に姉弟子が大声を出した。
びっくりしたよ、もう!
周りのお客さんもひそひそと話し込んでるし。俺たちの変装がばれたら大騒ぎだ。
「いきなり大声出さないでくださいよ、カルシウム足りてますか?」
「死ね、じゃあ、私を呼び出したのはこわっぱについてってことね。流石はロリコンじゃない、死ね」
「二回も!二回も『死ね』って言った!!」
「アンタが直接聞けばいいじゃない、あの『女子小学生』は貴方の言葉には『素直に応じる』んだから」
女子小学生や素直に応じるというところだけ大きな声ではっきりといった。
すると、
『女子小学生…?』『素直に応じる…?』『やばいよ、警察警察』『俺はいつでも取り押さえるよう準備しとくわ』『さっすが、店長こいつらにパンケーキ、無論俺の奢りだ』
ほらああああ!変な誤解を生むし謎の友情芽生えてるし!!今の状況完全に俺vs店内の人だよ!!確かに将棋界には名人vs全棋士という風潮があるけども!!俺のは全然嬉しくねぇよ!!
「あ、姉弟子!言葉には気を付けてください!!ただあいは人より少し素直なだけなんですってば!」
「それで?私を呼び出した挙句内容は女子小学生について、通報してくださいと言っているようなものね。で、八一」
「は、はい」
「出頭をお勧めするわ」
「しませんよ!」
「そう、じゃあ首切りね」
「まさかの二択!?」
俺に救いがないじゃないか!
ハァハァと息を切らして、俺は本題に入る。
「それで姉弟子はどう思いますか?」
「そういうのはお兄…兄弟子に聞けばいいじゃない」
「いや、最初はそうしようとしたんだけどなんでも今日は晶さん…天衣の付き人と会う約束があるらしくて。早急に解決したいので姉弟子にしました」
「……私は仕方なくってこと?」
なんでそう辛そうな表情を浮かべるかなぁ…。
「違いますって、姉弟子子供嫌いでしょう?けど、桂香さんは最近忙しいですし師匠も似たような感じだから姉弟子と兄弟子のどちらかになって兄弟子に断られて姉弟子しかいなかったんですよ。仕方なくというか、その…姉弟子しか頼れる人がいなかったんです」
「そ…そう!なら仕方ないわね!私に頼ってくれる弟のために頑張るのも姉の仕事よね!!」
一気に嬉しそうな表情に早変わりだ。
けど、これ見方によっては仕方なくに入るんじゃ…。まぁ、姉弟子が嬉しそうにしてるからいいか。
「ま、結論なんてすぐに出るわ。バレンタインよ」
「バレンタイン」
「こわっぱも女だからね好きな男に渡すんじゃないかしら」
「好きな男」
オウム返しに聞いてしまうがそれも仕方がない。
「すすすすす好きな男っ!?」
「何そんなに焦ってるのよ」
「いや、そりゃ焦るでしょうよ。好きな男ですよ!?」
「……はぁ。こわっぱに同情するわ」
「なんで姉弟子が同情するんですか?」
「べっつにー」
ぷくーと頬を膨らませる姉弟子、くそう…可愛いな…。
人差し指で頬を突いたら殴られた、解せぬ。
☖ 誤解から生まれた誤解
「ただいまー、…ってそういえばあいは今日出掛けてくるって言ってたな」
家に戻ると見慣れた光景が少し寂しいと感じた。
「あいお前もとうとう巣立つ時期か…」
完全に『雛』扱いである。
すると、あいのランドセルから一冊の本の表紙が出ていることに気が付いた。
「なんだこれ、えっと『男を落とすためのチョコの渡し方10選』」
その時俺は考えることをやめた。
躊躇いもなく俺はページをめくる。
『体中にチョコを塗りたくって愛する人にプレゼント♡』
誰だよこんなこと書いたやつは!!あ、書いた人の名前が書いてある。
『本因坊秀埋』
あの人かあああああああああああっっっ!!
本因坊秀埋、女性初の本因坊のタイトルを取った囲碁棋士だ。普段は大人しいけれど酔うと下ネタを連発する女性である。
ちなみにだ。
酔うと、お○んぽおおおおおおおおおおおお!!と叫ぶため多方面の方々が迷惑しているという。
案の定あとがきのほうに『身に覚えはありません』とあり容疑者が言いそうなことが書かれてある。
多分、酔った勢いで書いたんだろうな…。何故書籍化した。
「けど、あいも女の子なんだ…。ここは見守っていこう、うん」
そうだよ!俺にはシャルちゃんっていうお嫁さんもいるんだ…!!
大丈夫だ、心を落ち着かせ…。
「れるわけねえだろおおおおおっっっ!!!」
一体どこの奴だまったく!俺の可愛い弟子を奪おうとする奴は!許さんぞ…絶対に許さん…。
「あいは絶対に渡さないからな…!」
憎らし気にそう呟くとドアのほうから何かが落ちる音がした。
振り返ると、食べ物が入ったタッパーを床に落とし顔を青くしている桂香さんの姿があった。
「おかず作りすぎちゃって…あの…」
「も、もしかして聞いてましたか…!?」
「ううん!いや、別に人の事情にどうこうは言わないわ!!同意の元だったら!そうよ、八一君!!大丈夫よ、お姉さん応援するから!!」
「ち、違うんです!誤解、誤解ですって!!」
「いや…隠さなくてもいいのよ。それじゃ、八一君!」
桂香さんが走って出ていく。
この誤解は解かねばまずいぞ!
俺は昔から桂香さん一筋なんだから!!
階段を下りながら、こう叫ぶ。
「俺は桂香さん一筋ですから!!誤解しないでください!!」
階段を降り終え、辺りを見回すともう既に桂香さんの姿がなかった。
はぁー、とため息をついてどう弁解しようと考えていると不意に声がかかった。
「ししょー♡」
愛らしい声、しかしこの時ばかりは恐怖を感じさせる声。
「今、誰かのことが一筋って聞こえたんですが~」
彼女はゆらゆらと体を左右に揺らしながら一歩一歩、近づいていくる。
「一体、誰のことか詳しく教えてくれますよね―――ししょー♡」
「…はい」
このあいには絶対に逆らえないと俺自身がよく知っている。
☗ 雛鶴あいという女の子
「まったく公共の場でそんなことを口走ってはいけませんよ!」
「すみません…」
あいに全てを話し、母親のように注意された。
しかし、小学生に注意される感じ…。癖になりそうだ。
「めっ!ですからね!」
「はいっ!!」
あいに人差し指で強く注意され自然と声が大きくなった。
あいはそんな様子を見て、かばんから一つの可愛らしいラッピングが施されたものを取り出した。
「あっ、あの…師匠!こ、これ受け取ってください!!」
「これって…」
「少し早いですけど…バレンタインチョコ…です…」
顔を赤らめて徐々に小さくなっていく声を聞き洩らさずに慎重にそれを受け取る。
「本当に俺にくれるのか…?」
「はい!いつもお世話になっている師匠に渡したくて今日天衣ちゃんと作ってきたんです!!」
「う、嬉しいよ!!『義理』でもチョコを貰えるなんて!!バレンタインの日は対局があるから諦めてたんだけど最高のチョコだよ!!」
「ししょー、今なんて…」
「ん?だから『義理』でも貰えて嬉しいなって」
本当によくできた弟子を持ってしまったよ!って、あいさん?なんでそんなプルプルして肩を震わせているんですか?
「ししょーのにぶちん!だら!!」
この日、俺はあいに女心のイロハを叩き込まれた。
「ししょーのだら…」
布団を奥までかぶり、私はそう呟いた。
今日、勇気を振り絞って渡したチョコが不発だったのは悔しいけど、それ以上にししょーの鈍感さに驚いちゃった…。
にぶくて。
ちょっと怒ったりするときもある。
けど。
かっこよくて。
優しくて。
将棋がすごーく強いししょーのことが―――
「大好きです」
雛鶴あいはふすまから除く師匠の横顔を眺めながらゆっくりとその瞼を下ろしていった。
アニメの竜王戦第三局
ここだけみると八一は圧倒的クズに見えるけど、パーティーで記者たちに「小学生の女の子二人を弟子にして、そのうちの一人は内弟子なんだろ」「おままごとして強くなれると思ってるんかね」「名人を見習ってほしいね」「あんな奴は失冠して当然」「銀子と別れてほしい」
など酷いこと言われているのであそこまで荒れてしまうのは当然なんですよね…。勝負の世界って厳しいものだと痛感させられます。
アニメだけだと八一がクズに見えるけど原作を読めば少なからずは理解できると思いますので勝ってない人は是非読んでほしいです。