元プロのおしごと!   作:フルシチョフ

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第6局 選択

 八柳太一二冠、B級1組。

 小学生5年生の時プロになり、怒濤の勢いで『帝位』と『玉将』の二冠を達成。

 その後、二冠を維持したまま棋士として活動する。

 戦った棋士はこう述べる。

 『まるで長年将棋をやって来たような手筋だった』と。

 そして、八柳太一の一番恐ろしいところは新しい戦術を沢山作り出したということ。

 何故そのような戦術を作れたのか?という問いに本人は『先人たちのお陰』というなんとも謙虚な回答が出たのは記憶に新しい。

 その2年後、升田幸三賞を授与される。

 升田幸三賞とは妙手や新手を産み出した棋士に受賞されるというもの、そして破竹の勢いで進んでいく。

 ファンの方々はいつも史上最強名人との戦いを待ち望んでいるが一向にそれは実現しない。 というのも、太一二冠が勝てば名人が負け、太一二冠が負ければ名人が勝ちというなんとも形容しがたい展開になっているからだ。

 だが、太一二冠がA級に上がればそれも実現するということで皆その日を楽しみにしている。

 

 携帯に書かれている記事をあいちゃんに見せた銀子ちゃんは俺のことを熱心に説明してくれている。

 なんというか……孫が「お爺ちゃんすごいんだよ!」といってほかの子に自慢しているように見えて……とても…可愛いです…。

 あいちゃんは未だによくわかっていないようである。話に聞くにまだ9歳、致し方無し。

 

 「そういえば、兄弟子。今日はどういった用件で?」

 

 歩きながら八一君が聞いてくる。

 

 「いや、竜王就位したからお祝いにと思ってね」

 「す、すみません!わざわざ!!」

 「別にいいさ、銀子ちゃんにも会えたし、可愛らしい孫も出来そうだし」

 「まご?」

 

 あいちゃんがその言葉に首を傾けると目的の家に辿り着いた。

 随分久しぶりな気がするな……。しかし、よく耐えたぞ俺。危うくあいちゃんの手を繋ぎ何でも買ってあげるといいかけた。この子、孫力……高すぎ……!!

 

 「お久しぶりです、師匠」

 

 居間に勝手に入ると師匠がお茶を飲んでゆったりとしていた。

 俺と八一君と銀子ちゃんはここが二つ目の『家族』なので何も気にすることなく入れるのは有りがたい。

 

 座布団の上に正座で座り、八一君が事情を説明する。

 

 「そうか、この子があいちゃんか…。実はさっき将棋連盟から連絡があってな。旅館雛鶴の娘が家出したらしい言うんや」

 「家出……?」

 「八一の竜王戦以来、あいちゃんが将棋にはまっとったのは親御さんも知っておったらしい。そんでもしかしたらと……。あいちゃん、なんで御両親に相談せんかったんや?」

 「言っても絶対に反対されるから……」

 「石川県にもいい先生はいっぱいおるやろうに」

 「嫌です!」

 

 うわっ、突然大声出すからびっくりしてもうた……。

 あいちゃんが言うにどうやら八一君の将棋に魅了され、あんな風になりたいと強く思ったらしい。

 ぞっこんじゃないですか、羨ましい。

 

 「……わかった。なら、八一、あいちゃんを内弟子にしてあげなさい。家族の方にはわしが言っといてやるから」

 

 師匠、あんた最高だよ……ほんと……。

 内弟子になれば俺は合法的にお爺ちゃんと呼ばれる、あとは八一君が合意すればの話だが……。

 

 「……わかりました。俺の弟子として研修会試験に申し込みます」

 「そう、それでいいんだ八一君」

 

 やばい、つい本音が……。

 八一君は俺を申し訳なさそうな目でみて決意に秘めた表情をする。

 

 「ただし、春休みの間だけです」

 「内弟子(仮)というわけやな。これでわしにも孫弟子が出来たということだな。桂香ぁー!赤飯を炊けぇ!!」

 

 「今日はお好み焼きよ」

 「そうか…お好み焼きか……」

 「あいちゃんね、私は清滝桂香。この叔父さんの娘よ」

 「始めまして、雛鶴あいです!」

 「私も女流棋士を目指して勉強中なの。一緒に頑張りましょうね」

 「はい!」

 

 一通り自己紹介をし、桂香さんが切り出す。

 

 「でも、これで銀子ちゃんと私は叔母さん、太一君は叔父さんになっちゃったわねー……」

 「おばさん……おじさん……?」

 「一門の関係は親戚と同じなんだよ、師匠と弟子は親子、弟子同士は兄弟、あいにとって姉弟子と桂香さんは叔母、兄弟子は叔父に当たるわけだ」

 「おばさん?」

 「誰が叔母さんじゃこら!」

 「なんですか、おばさん!」

 

 銀子ちゃん、それぐらい別にいいじゃないか。と思うがやはりその年で叔母さんと言われるのは辛いものがあるんだな。

 だが!この流れにのって俺は言ってやる!大丈夫だ、この流れによって俺の今からの発言は不自然ではない……はず!

 

 「あいちゃん、僕のことはお爺ちゃんって呼んでくれてかまわないよ」

 「……お爺ちゃん?」

 

 はいいいいい!!お爺ちゃんですよおおおおおお!ずるいぞ、その傾げた首と上目使い!!!!昔の銀子ちゃんといい勝負じゃないか!!

 口の中で下を思いっきり噛み、にやけそうになる口許を静止する。

 だが、一人だけこの事に異を唱える人がいることを俺は見越していた。

 

 「おい、太一。それはわしに対しての呼び名だろ」

 「……師匠。それはどういうことでしょうか?」

 「わしの孫弟子だ。だから、わしに対してお爺ちゃんと呼ぶのは普通。太一は精々さん付けが妥当だろうに」

 

 そう師匠は弟子にたいそう甘い。それが孫弟子になれば尚更だ。

 だがしかし、俺とて譲れないものはある。

 

 「ししょー、なんか嫌な空気ですけどいいんですか?」

 「……多分、大丈夫だと思う。というか、兄弟子って呼び名とか気にするタイプだったか……?」

 「八岐大蛇……ふふっ……」

 

 こら銀子ちゃん、聞こえているぞ。あの不名誉な渾名はなんとか取り払った。

 だが、師匠とこう意見が違えるなんて珍しくもない、その時は決まってあることで勝負を決めるーーー将棋だ。

 二人はそそくさと食事を済ませ、盤を挟む。あいちゃんと八一君、銀子ちゃんが観戦者だ。

 桂香さんはお片付け、あの人本当に女子力高い……。

 

 「あい見ておきなさい。俺のようになるということはこの二人に追い付かなければいけないということを」

 「はいっ!」

 

 降り駒の結果俺が先手番だ。

 お爺ちゃんと呼ばれるため俺は…俺は……!!

 

 力強い一指し、▲3六歩。

 師匠もまた相掛かりの形にしていく。今回使う戦法は矢倉左美濃急戦、この戦法は作戦の幅が広いので対応しにくい。

 数十手進むと明らかに此方側が優勢だとわかる。

 

 「すごい……」

 

 あいちゃんがポツリとそう溢した。

 だが、師匠も負けず劣らずと行った感じに食らいついてくる。

 ▲4五桂馬打つ、△4四銀、▲3三金、……

 

 「……負けました」

 「ありがとうございました」

 

 

 102手で俺が勝った。律儀に棋譜をとってくれた銀子ちゃんに感謝だな。

 

 太一はお爺ちゃんの称号を手に入れた!とファンファーレがなりそうだったがあいちゃんが俺を太一おじちゃん、師匠をお爺ちゃんと区別して言います!と言って俺らの戦いは無意味なものへと化してしまった。

 けれど、おじちゃん……いい響きだ……。

 

 *

 

 『そう、それでいいんだ八一君』

 

 俺は師匠の家から帰る途中兄弟子のその言葉をずっと反芻させていた。

 あいは笑顔で俺の隣を歩いている、姉弟子と兄弟子はあの後すぐに帰ってしまった。 

 小学生の頃、兄弟子から『地下鉄飛車』を教えてもらったときあの人は弟子ができたら導けと言ってくれた。

 つまり、あのとき俺が弟子にしなかったら少なくない失望を与えていたのかもしれない……。

 

 「けど、これでよかったんだよな……」

 「ししょー?どうかしましたか?」

 「ううん、なんでもない」

 

 可愛い弟子の頭を撫で、俺は、俺たちは家に向かって歩き出す。

 

 

 九頭竜八一と雛鶴あいの物語はそこから始まったのだ。

 

 




孫力;JSや幼い子がもつ秘めたる力。主に八柳太一特効属性をもつ。

八柳太一;すごく子供が大好き。子供が好きすぎる。やばい。
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