元プロのおしごと!   作:フルシチョフ

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第7局 才能

 現在、将棋界のタイトルを持つのは3人のみ。

 『竜王』九頭竜八一

 『帝位』『玉将』八柳太一 

 『名人』『玉座』『盤王』そして、つい最近奪取した『棋帝』を合わせた四冠を持つ史上最強、神とまで呼ばれる棋士、名人。

 そして、そのタイトルの一つ『帝位』を巡ってリーグ戦が開催される。

 九頭竜竜王は幼いころのライバルかつ親友の神鍋歩夢と戦うことになっている。

 

 「ししょー、その人強いですか?」

 「神鍋歩夢六段、今期勝率一位だからね、かなり強いよ」

 

 朝、俺こと九頭竜八一は女子小学生が作ったご飯を口に入れて対戦する相手の棋譜を眺めていた。 

 女子小学生が作ったご飯…!食べ物のすばらしさを感じる…っ!

 

 「太一おじちゃん、おかわりは?」

 「あぁ、お願いするよあいちゃん」

 「…それで兄弟子。今日はどういった要件で」

 「あぁ、ほら今日八一君、リーグ戦でしょ?だから応援に来てね」

 「あなたが帝位ですよね!?」

 

 この人が持つタイトルを争ってのリーグ戦なのになんでこんなに余裕そうなんだ…、いや兄弟子だから、っていう理由で片付けても駄目か。

 けれど、兄弟子はA級の方とも遜色がないほどの力を持っている。だからなのだろか…?

 

 「って、もうこんな時間か。二人ともそろそろ行かなくちゃまずいよ」

 

 兄弟子が時計を指さしそういう。少し早いがあいを案内しなくてはいけないため程よい時間帯だった。

 

 「兄弟子、今日対局は?」

 「あぁ、今日対局ないんだよね…。だから、あいちゃんのことは任せてくれて構わないよ」

 「いいんですか!? よかったな、あい」

 「はいっ!」

 

 いやぁ、実は対局中ずっとあいのことが気がかりになると思ったからな…、本当にありがたい。

 外に出て、3人で歩いているとあいが楽しみなのか「にへー♡」といった感じで笑いかけてくる…!くそっ、可愛いなおい!!

 けれど、兄弟子の前でみっともない姿を見せれない!

 

 「こら、あい。気を付けろよ」

 「はーい♡」

 「元気があっていいじゃないか。将棋会館ももうすぐ着くだろうし、八一君も気合入れなきゃね」

 「兄弟子、あいのことお願いします」

 「泥船に乗った気持ちで任せてよ」

 

 不安しかないぞそれは。

 

 *

 

 「うわー!本物の竜王と太一二冠だ!」「握手!握手してください!!」「やべー!」

 

 研修会室に入ると子供たちに群がられる…!ここが天国か…!

 俺は一人一人握手をする、このやわらかい手、にやけずにはいられない…!

 八一君にはみっともない姿を見せられないから早くいくよう促さなければ…!!

 

 「じゃあ、頑張ってきてね八一君」

 「はい、あいも頑張るんだぞ」

 「はいっ!ししょー、ご武運を!!」

 

 くっそう…ナチュラルに頭を撫でやがって…。前世では孫の頭を撫でようとして逃げられた苦い思い出がフラッシュバックする。

 八一君が対局場に向かう、俺はまずは…どうすればいいんだ?ここで子供たちを眺める?うんそれが最善手だ、俺の頭の中のPonanza先生もそれでいいと言っている。

 子供たちが準備を始め、机に置いた簡易な将棋盤を挟む。あいちゃんの相手は…同じぐらいの女の子か。

 

 「うっひゃあ!太一二冠!?」

 

 近くに寄ったらびっくりされた、流石は二冠だ。ただ、前世で永世七冠取ったあの人はもっとすごかったよな…。国民栄誉賞まで受賞されてたし。

 

 「こんにちわ、えっと…」

 「貞任綾乃って言いますです!」

 「綾乃ちゃんね、頑張ってね、あいちゃんも」

 「うわわわ…二冠と竜王の知り合いと私が今から対局を…っ!」

 

 綾乃ちゃん…見た感じ孫力は上の下といったあたりか…!末恐ろしい…!!

 

 振り駒の結果、あいちゃんが先手番だ。そういえば、あいちゃんの将棋は初めて見るな。

 ▲2六歩か…。八一君から聞くに棋譜は八一君のやつしか見ないで本とかでしか勉強していないと言っていた。つまるところ居飛車か。

 綾乃ちゃんは、恐る恐る△8四歩、二人とも飛車先の歩を付いてきた。けど、これは…。

 

 竜王九頭竜八一の得意戦法は居飛車、そして相掛りを最も得意としている。そして、あいちゃんの才能は八一君から力説されていた。――綾乃ちゃんが相掛りで受けてしまったその時点で勝敗は決してしまっていた。

 

 23手目、小学生とは思えない力強い攻めをするあいちゃんに綾乃ちゃんは防戦一方だった。

 あいちゃんの体が揺れ始める。

 

 「こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、――――うんっ!」

 

 △6四金打つ、その一手は明らかに寄せの一手。つまり、詰ましにきたということ。

 

 この子は一体何手先まで読んでるんだ…?

 

 俺は彼女の溢れんばかりの才能に驚愕する。そう、才能だけならあの銀子ちゃんにも上回り、下手したらあの名人のように…!

 確かに八一君が力説するだけがあるな…。

 

 32手目、綾乃ちゃんが投了した

 

 「負けました」

 「ありがとうございました!」

 

 わずか32手で投了させる。その実力は遥かに小学生という枠を逸脱していた。

 前世のあの中学生棋士もそうだった、彼もまた前人未到の大記録を達成し中学生ながらタイトルホルダーさえ倒していた、それに通じる何かがある…。

 

 「うぅ…悔しい…」

 「太一おじちゃん、どうでした!?」

 「うん二人ともいい将棋だったよ。けど、綾乃ちゃんはもう少し頑張れたかな?ほら、ここでこう打つ変化を入れてみると…」

 

 俺が最も気になった局面を再現し、綾乃ちゃんが打った一打とは別の動きをする。二人はその変化に口をそろえてあっと言う。

 そうその一手は見たら明らかにわかる逆転の一手、だが今それに気付けなくてもしょうがないだろう。

 俺が二人にいろいろとアドバイスしているとほかの子たちからもいろいろとお願いされてしまった。

 しかし、頼られて悪い気は一切しない。ので、丁寧に一人一人教えてあげる。

 数時間後八一君がお昼休憩でやってきた。3人であいちゃんが作った弁当を口にし、八一君の状況を聞く。あまり芳しくないようだ。

 神鍋歩夢六段、話には聞いたことがある。新手を作り出し、なおかつ今の時点で連勝賞と勝率一位賞が確定している棋士だ。

 八一君も元の状態に戻れれば勝機はあるんだけどそれに気付くのは教えられてではなく自分で気が付かなければいけない。

 

 「それじゃあ、いってくるよあい」

 

 八一君がそう言って対局室に戻っていく。

 それからあいちゃんのほうが終わり、八一君の状況を見に対局室に来たのだが―――。

 

 「形作りか…」

 「かたちづくり?」

 「この試合はね、ネットで放送とかされているんだよ。だから、一般の方にもわかりやすくなるように盤面を整理しているんだね。それが形作り」

 「じゃ、じゃあ、ししょーは!?」

 「まぁ、そういうことだろうね。あいちゃん、僕が話を通しておくからあそこにいる記録係と観戦記者の所に行きなさい」

 

 俺が促すと笑顔でそう返事をする。連盟のほうには師匠を通して連絡するとして…。あいちゃんのことだ、最後までいることだろう。八一君もあいちゃんが来たことによって吹っ切れたみたいだし。

 俺は…帰るか。

 

 俺が将棋会館から出ると、日傘をさしている女の子がいた。

 『浪速の白雪姫』と言われている俺の妹弟子。俺はそこへ駆け足で駆け寄って話しかける。

 

 「銀子ちゃん」

 「あっ、お兄ちゃん」

 

 

 

 数瞬の間、銀子ちゃんは自身の発言を思い返し盛大に顔を赤らめる。

 ああああああああああっ!!久しぶりにお兄ちゃんと呼ばれた!!と心の奥底から叫びたがっているがここは我慢だ!!

 銀子ちゃんは赤く染まった顔を見せまいと傘で隠す。

 

 「最近、おいしいスイーツ店見つけたんだ。一緒に行かない?」

 「……うん」

 

 小さく、か細く紡がれた返事を聞き俺は笑顔で隣に立つ。銀子ちゃんは昔からスイーツが好きだったからね、この前おいしい店をみつけておいて正解だった。

 

 二人は、久しぶりに他愛もない話をしながら夕日をバックに一軒のスイーツ店へと姿を消していった。

 




スイーツ大好き銀子ちゃん、可愛い。

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