その先の物語   作:人間性の苗床マン

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『無双のその先へ』を久しぶりに更新!
そして、帆楼の概念名を間違えていたので直しました!
請希じゃなくて誇戯でした。8巻を見直して、あ”、ってなりました。

今回は蠍擬きさんがダイナミック調理されます。では、どうぞ!


焼き尽くす蒼き天蓋

 

向かい合う蠍擬きと私達。

戦いの先手を切ったのは蠍擬きの尻尾の針から射出された紫色の液体だった。

それぞれ飛び退いて避ける。さっきまでいた地面が音をたてて融解していく。融解性の毒液のようだ。

 

その光景を横目に視認しつつ、ハジメは何時ものようにドンナーで、私は【偽典・森空囁(ラウヴアポクリフェン)】で迎撃する。

 

ドパンッ―――

―――シャラン―――

 

激しい音をたてて炸裂するドンナーと、静かな刃を撫でるような音をたてて目標を裂かんと放たれる真空の刃。

 

身長があまり変わらないので背中に抱き付く形で背負っているユエの驚愕が、背中を通して伝わってくる。

 

詠唱なしの真空の刃。見たことのない形の鉄塊から放たれる閃光。

伝えてこそいなかったけれど、ユエも気づいたのだろう。私達もユエと同じように魔力に直接干渉できることに。

 

ハジメは“空力”を使っての跳躍で空中に浮かび、私も機械の翼を広げて空中に浮かぶ。

先ほどから蠍擬きは微動だにしていない。それは、私達の技能である“気配感知”と“魔力感知”で確認したものだ。

 

尻尾が此方を向き、膨らむ。瞬間、毒針が凄まじい速度で放たれる。

それは空中で幾重にも分裂し、散弾のように襲いかかってくる。

 

「……みんな!離れて……!」

 

頷いた帆楼が障壁を張り、その中にハジメも入ったのを確認して

 

「……しっかり、捕まってて……!」

「わかった」

「【制速違反(オーヴァ・ブースト)】ッ!」

 

翼から霊骸を勢いよく射出する。

噴射した霊骸により、針が溶け落ちる。

原型を一応ながら留め向かってくるものは機械の足甲で蹴り飛ばす。

そして、即座に除染液を散布し、霊骸を取り除く。

 

「リリィ!離れろ!」

 

ハジメの方を向くと、道中で作った特殊な手榴弾のピンを抜いて投げたところだった。

すぐさま帆楼の張った障壁内に入る。

 

瞬間、起爆。

爆発と同時に黒いタール状のものが飛び散った。

そして爆炎がそれに引火する。

そう、焼夷手榴弾である。タール鮫のいた所にあったフラム鉱石と呼ばれるらしい鉱石の発する液体が摂氏三千度で燃え盛る。

 

つんざくような蠍擬きの悲鳴が轟く。流石にこれは効いたようだ。精霊の刃をも弾く甲殻は炎にはあまり強くないらしく、暴れまわり、必死に火を消そうとする。

 

ハジメがドンナーをリロードする。

その時には殆どの炎が鎮火され、あちこちから煙を上げている蠍擬きがそこにいた。

 

「キシャァァァァアア!!」

 

咆哮を轟かせ、怒りを露にする蠍擬き。

体全体を使った攻撃方法にしたらしく、四本ある鋏を伸長させ、風を切る音を響かせながら此方に迫る。

 

翼のスラスターを駆り避ける。

その過激な機動にユエが顔を歪めたが、どうにか堪えたらしい。

 

そして、ドンナーの反動で攻撃を避け終えたハジメとともに跳躍し、背中の甲殻に張り付く。

ハジメと共にゼロ距離で攻撃を放つ。

 

スガンッ―――

ドガンッ―――

 

甲殻こそ剥がせなかったが、その巨体を地面に叩きつけることに成功する。

全く傷の入らない甲殻に向けてハジメとともにありったけの砲撃を放つも、皹すら入らない。

 

蠍擬きもやられたままではない、尻尾を掲げ、針の散弾を自らの背甲に放った。

それぞれ脇への跳躍で避ける。

そして、無防備な尻尾へ砲撃を放つも、やはり堅い甲殻に阻まれてしまう。火力が……足りないッ―――

 

ハジメが再び焼夷手榴弾を投げ放つ。

 

どうするべきか、そう思考した瞬間だった―――

 

「キィィィィイイ!」

 

不気味な甲高い咆哮を放つ。

地面が粟立ち、周囲に円錐形の棘が無数に突き出した。

 

「ッ!?―――【進入禁止(カイン・エンターク)】!!」

 

碧光を放つ円状の盾を出現させ、突き出した棘を防ぐ。

が、ハジメは避けきれず、帆楼が張った障壁のお陰でダメージこそないが、大きく吹き飛ばされる。

 

「うぅ、ん」

 

流石にユエも連続した過激な機動に堪えることができなくなり始めたようだ。

 

ハジメが閃光手榴弾を蠍擬きの眼前に投げる。

 

「キィシャァァァァアア!?」

 

此方の動きを目視で把握していた蠍擬きには効果があったようだ。

 

「……堅すぎ、でしょ……っ」

「う、ぅ、何で、逃げないの?」

 

辛そうに顔を歪めるユエが聞いてくる。

 

「……一回、助けるって決めた。ただ強いのが出てきたところで見捨てるほど―――」

 

ユエの目をまっすぐ見つめて言う。

 

「―――この覚悟は、安くない……ッ!!」

 

勝つためなら、どんな手でも使おう。けれど、そこに人の命を天秤にかけるほど、私の心は強くないから……

……助けたいって心は、本物だから!

 

そんな私を見て、ユエは頷いて私に抱きついて―――

 

「リリィ……信じて」

 

そして、私の首もとに噛みついた。でも、私の表皮は現在は金属なので……

 

「……噛めない……堅い」

「……再構築[体]――これで、大丈夫……?」

「ん……」

「……帆楼、障壁頼める……?」

「うむ!がってんしょうち、じゃ!」

 

蒼い輝きを放つ障壁が展開される。

再びユエが首もとに噛みついて、血を吸い始めた。

さっきの“信じて”は、吸血行為に対して、受け入れて逃げないで欲しいということだったのだろう。

安心させるように優しく力を込めて抱き締めると、ピクッと肩を揺らしてユエもさらに強く抱きつき、首に顔を埋める。

 

「キィシャァァァァアア!!」

 

閃光やられから回復したらしい蠍擬きが咆哮を上げ、また地面から無数の棘が突き出してくる。

 

そして、私たちと蠍擬きの間に体を滑り込ましたハジメが―――

 

「仕掛けがわかればこっちのもんだ!」

 

帆楼の障壁を上書きするように石の壁を錬成する。

砕かれようとも再生し続け、その攻撃を帆楼の障壁にすら届かせない。

 

皆が防御に専念していると、首に噛みついていたユエがその口を離す。

熱に浮かされたような表情でペロリと唇を舐めとる。

どういうわけか、血を吸う前より肌が艶々している気がする。

頬は薔薇色に紅潮していて、瞳は暖かい紅色を放っている。

 

そして、私の頬っぺたを撫でて一言。

 

「……ごちそうさま」

「……お粗末さまでした……?」

 

そして、ユエの体から黄金色の魔力が立ち上る。

その輝きが周囲の暗闇を切り裂くように照らし出す。

その神秘の輝きに包まれたユエが、その魔力と同じ黄金色の髪の毛をたなびかせ―――

 

「“蒼天”」

 

瞬間、蠍擬きの頭上に蒼白い炎を湛えた巨大な球体が顕れる。

 

当たってもいないのに、その熱量に悲鳴をあげ、逃げようとする蠍擬き。

けれど、その逃亡は意味をなさなかった。

 

ユエがその白魚のような指が、指揮するように振られる。

すると、その蒼炎の球体は逃げ惑う蠍擬きへと向かい、直撃する。

 

「グゥギィヤァァァアアア!?」

 

断末魔のような悲鳴をあげ、その厄介だった甲殻は殆どを赤熱させ、さらにはドロドロに融解させていた。

 

「……疲れた」

「……お疲れ―――あとは任せて……?」

 

肩で息をしているユエが体を私に預けてきた。

そのユエに労いの言葉をかける。

後は、私で終わらせられる。これだけの隙があれば―――アレ(・・)が使える……っ!

 

「……みんな、下がって―――帆楼、障壁お願い……」

「任せるのじゃ!」

 

ハジメとユエが展開された障壁の中に入るのを確認して……

 

「……再構築[体]……」

 

再び体を機凱種(エクスマキナ)へと変質させる。

 

そして、ソレ(・・)を使えば蠍擬き消しとんでしまう。というより熔け落ちる。

なので、瞬時に加速、四本の鋏のうち二つを掴み引き千切り、眼前に衝撃に備え【進入禁止(カイン・エンターク)】を展開する。

 

そして……

 

「……《典開(レーゼン)》【偽典・天撃(ヒーメアポクリフェン)】……ッ!」

 

収束する精霊、光ごと搾取された精霊は闇色を超え、光を映さぬ夜色へと変わってゆく。

 

「ぬ!?これは不味いぞ!?」

 

その異様な精霊の密度に焦った様子で帆楼が部屋全体へ障壁を展開する。

 

「おいおい……一体なんだってんだッ」

「お主も手伝ってくれないかの!?アレは不味いぞ!今から放たれるのは【偽典・天撃(ヒーメアポクリフェン)】という模倣武装じゃが……威力が全くもって桁違い(・・・・・・・・・・・)なのじゃ!」

 

その言葉に事の重大さを理解したハジメが帆楼の生成した障壁に魔力を込め、支援を行う。

 

そして、黒の暴力が放たれた。

 

 

 

 

――崩壊――

 

 

 

 

まさにその言葉が当てはまる、圧倒的破壊。

黒と紫の暴風が視界を裂き、砕き、悉くを消失させる。

ありとあらゆる天賦の才、強者の傲り、その一切合財を嘲笑い、無へと還す無双の一欠片。

舞い狂う粉塵さえも暴れ狂う精霊の嵐が素粒子へと還す。

その暴威に曝された障壁が悲鳴のような音をたてる。

 

偽典・天撃(ヒーメアポクリフェン)天翼種(フリューゲル)の全力の一撃“天撃”を模倣した武装。

ただ、その模倣の原典はあくまで大戦中期の天翼種(・・・・・・・・)である。

しかし、今リリィから放たれたソレ(・・)はそれを遥かに凌駕する、それこそ天翼種最強個体(ジブリール)の天撃に匹敵する威力であった。

 

その神霊種(オールドデウス)の障壁さえも突破せんと奔る破壊の嵐が晴れ、視界に広がった光景にハジメとユエ、帆楼さえも目を見開いた。

 

豪奢な装飾の施された部屋は最早その面影も、其処に部屋があったという事実さえ疑ってしまうような完全な無。

 

部屋全体に張り巡らされていた障壁は悉く破壊し尽くされ、ただ岩盤が球状に広がっていた。

 

その惨状に固まっている三人に―――

 

「……状況、終了……」

 

そう呟き、こちらに振り向いて微笑む。

 

その微笑みでハッと正気を取り戻したハジメたちは、二本の蠍擬きの鋏を掲げ、こちらにピースサインを向けるリリィに駆け寄って勝利の喜びを分かち合った。

 

 

 

その時、小さく胎動するように輝いていたステータスプレートの文字に気づかずに―――

 

 

 

 

―――技能:戦■(ア⬛ト⬛◼)ノ加護―――

 

 

 

 

 

 

―――――クハッ、戦い(研鑽)の刻は近い―――――

 

―――――さぁ、余に魅せてみよ―――――

 

―――――貴様のその生き様(真髄)を―――――

 

 

 

 




以上です!

いやぁ、まさか書いている途中に私の第二作の『無双のその先へ』がデイリートップ3にランクインするとは……
本当に感無量です。

皆様、ご評価本当にありがとうございます!

さて、どんどんあの神霊種の片鱗が見え隠れ。
本領発揮まであと少し!
天撃の描写は上手くいったでしょうか?お気に召されると嬉しいです!

それでは、また次回に会いましょー!

偽典・天撃の威力低くね? と思った上で指摘もされましたので一部編集いたしました。
【機凱種】さん、ご意見ありがとうございます!

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