現在Bloodborne進めてます。大幅に更新遅れた理由は完全にゲームっす。さーせん(血涙)
そして投下します。
ハジメと一緒に落下させて、物語を進めよう!
というわけで、駄文ですが頑張って描写していきたいとおーもいまーす!(とみっく感)
橋の両サイドに赤黒く輝く魔法陣が現れる。
通路側のものは十メートル近い大きさで、階段側のものは一メートル位だが数が夥しい。
小さな無数の魔法陣からは、骨のみの体に剣を持った“トラウムソルジャー”が溢れ出るように出現した。
空洞の瞳から赤黒い輝きが洩れ、その光が辺りを見渡すかのように蠢く。
その数は既に百を越え、尚も増え続けているようだ。
でも、それよりも通路側の魔物の方がよほど危険だと直感が感じとる。
魔法陣の大きさと同じように、十メートル近い巨躯の魔物。
見た目はさながら、恐竜時代のトリケラトプス。
しかし、その魔物の目は赤黒い光を放ち、牙や爪は肉食竜のように鋭く、甲殻は鎧のように重厚で、角からは炎が放たれている。
メルド団長の言っていた“ベヒモス”というらしい魔物。
ソレは大きく息を吸うと、凄まじい轟咆を上げた。
「グルァァァァァアアア!!」
「ッ!?」
その咆哮に正気を取り戻したメルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「アラン!生徒達を率いて“トラウムソルジャー”を突破しろ!カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」
「待って下さい、メルドさん!俺達も残ってやります!あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイのでしょう!?俺達も……」
「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では絶対に無理だ!ヤツは六十五層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった本当の化け物だ!!さっさと行け!私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」
メルド団長の必死な表情に一瞬怯む天之河。しかし、「見捨ててなど行けない!」と持ち直す。いや、持ち直してしまう。
そんな天之河を撤退させようと再度説得をしようとするメルド団長。
その瞬間、ベヒモスは再度強烈な咆哮を上げ突進してくる。
このままでは騎士団や生徒もろとも轢き殺されて、ただの肉片へと変わって逝くだろう。
「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず、“聖絶”!!」」」
二メートル四方の最高級の紙に記された魔法陣と、四節詠唱からなる三人同時発動の魔法。
たった一分、一回きりのその魔法が絶対の守りとなり、ベヒモスの突進を受け止める。
衝突の瞬間、凄まじい衝撃が橋に走りベヒモスの足元が砕け散る。
その衝撃は橋全体に大きな揺れをもたらし、転倒してしまう者が相次ぐ。
そして、転倒してしまった一人の女子生徒の前に“トラウムソルジャー”が進み出る。それは本来は三十八層に現れる高い戦闘力を持つ魔物で、その骨の手に握られた剣を振り上げる。
「あ……」
と呟いた瞬間、剣が頭部に向けて降り下ろされる。
死ぬッ―――と女子生徒が感じた瞬間、トラウムソルジャーの足元の地面が隆起し、振り上げられた剣の狙いが逸れる。
そして、剣はただ地面を叩くのみとなる。
そのまま隆起した地面は波立ち、トラウムソルジャーを橋の縁に追いやり、奈落へと落とす。
その橋の縁には、ハジメが息を乱しながら座り込んでいた。
ハジメは錬成の練度が上がり、錬成の効果範囲が上がり、錬成の連続使用が可能となっていた。
もっとも、錬成は触れた場所から一定範囲にしか効果がなく、トラウムソルジャーの剣の間合いでしゃがまなければならず、ハジメは内心恐怖で一杯一杯だったが。
魔力回復薬を飲みながら倒れたままの女子生徒の下へ駆け寄るハジメは錬成用の魔法陣が組み込まれた手袋越しに女子生徒の手を引っ張り立ち上がらせ、呆然としながら、為されるがままの彼女に、ハジメが笑顔で声をかけた。
「早く、前へ。大丈夫、冷静になればあんな骨塊どうってことないよ。うちのクラスは僕を除いて全員チートなんだから!」
そのハジメの言葉に女子生徒は「うん!ありがとう!」と元気に返事をして駆け出した。
それをハジメは見送って、辺りを見渡した。
皆は完全にパニックに陥っており、無闇やたらに武器や魔法を振り回している。
騎士アランが纏めようとするも、上手くいっていない。
その間にも、魔法陣からわらわらと、いや、がらがらと増援が送られてくる。
「何とかしないと……必要なのは……強力なリーダー……道を切り開く火力……天之河くん!」
ハジメは駆け出した。天之河達のいるベヒモスの方へ向かって。
ベヒモスは依然、障壁の結界に向かって突進をひたすらに繰り返していた。結界に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。結界も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。既にメルド団長も、
「ええい、くそ!もうもたんぞ!光輝、早く撤退しろ!お前達も早く行け!」
「嫌です!メルドさん達を置いていくわけには行きません!絶対、皆で生き残るんです!」
「くっ、こんな時にわがままを……」
メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情になる。この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは不可能に近い。それ故に、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。しかし、その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだからこそ出来るのであって、今の天之河達には難しいと言っていい注文だ。
その辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているだが、天之河は“置いていく”という事がどうしても納得できないらしい。また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのだのうか目の輝きが明らかに攻撃色を放っている。
まだ、若いから仕方ないとは言え、少し自分の力を過信してしまっていた。戦闘素人の天之河達に自信を持たせようと、まずは褒めて伸ばす方針が裏目に出てしまったようだ。
「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」
「……流石、に――キツ、い……」
一応、私も結界構築に力を貸している。その上に【
その上、両親達の正体はまだ明かせない。一部には知られてるとは言え、広まれば間違いなく周囲が混乱に陥る。
そして何よりの弊害。使っていて気付いたが――――
――――私の武装出力はお母さんよりも、低い。
それは、お父さんが人である証。
そして、私がハーフであることによる弊害。
疎ましくは思わない。何故なら、これが私が両親の子供である証なのだから。
でも、だからこそ、ここで
時間があれば、もっと上手く使えたかもしれない。
お母さんのように、
そんな私の心情を他所に、この
「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」
「龍太郎……ありがとな」
―――使えないけど、その内【
「状況に酔ってんじゃないわよ!この馬鹿ども!」
「雫ちゃん……」
「……ばかやってる、暇あった、ら―――手伝、え……ッ」
正直もう絶え絶えで、今にも【
【
この状況とは相性が悪すぎる。
周りの状況に軽くキレそうになるもこらえて防御に力を回す。
その時、突撃をかまそうとする天之河の前にハジメが飛び込む。
「天之河くん!」
「なっ、南雲!?」
「南雲くん!?」
驚く皆にハジメは必死の形相でまくし立てる。
「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」
「いきなり何だ? それより、何でこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」
「そんなこと言っている場合かっ!」
「……ホント、向こうを――手伝って、こい……ッ」
本当に今はハジメの言う通り、向こうを手伝って撤退の準備をして欲しいッ!!
「あれが見えないの!? みんなパニックになってる! リーダーがいないからだ!」
天之河の胸ぐらを掴みながら指を差すハジメ。
その方向には、トラウムソルジャーに囲まれて右往左往しているクラスメイト達がいた。訓練の事など完全に頭から抜け落ちたように誰も彼もが好き勝手に戦っている。効率的に倒せていない故に敵の増援により未だ突破できないでいた。スペックの高さが命を守っているが、それも時間の問題だろう。
そう、だからこそ―――
「一撃で切り抜ける力が必要なんだ! 皆の恐怖を吹き飛ばす力が! それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ! 前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」
流石にハジメのその必死さに感化されたのか、クラスメイトのほうを見て頭をぶんぶん振ってから一度頷き、
「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ――」
「下がれぇーー!」
天之河の台詞を遮り、障壁が砕け散る音と強烈な暴風が私達を襲う。
ハジメが壁を錬成し、その奔流を止めようとするが、あっさり砕かれ吹き飛ばされる私達。
私達はともかく、メルド団長達は衝撃波の影響で動けそうにない。
メルド団長達とハジメの壁に守られていた私達は立ち上がる。
「ぐっ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」
天之河が問いかける。それに、苦しそうではあるが確かな足取りで前へ出る
「やるしかねぇだろ!」
「……何とかしてみるわ!」
二人がベヒモスに突貫する。
「香織はメルドさん達の治癒を!」
「うん!」
天之河の指示で白崎さんが走り出し、ハジメと私は既にメルド団長達の所にいる。
ハジメが壁を作り、私も【
天之河は、今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を開始した。
「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ!全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ!神の慈悲よ!この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!“神威”ッ!!」
詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸り、眼前を貫く。
このタイミングまで耐えていた八重樫さんと坂上。
二人ともなかなか限界が近かったのかボロボロになっていた。
放たれた光属性の、文字どおりの砲撃は、轟音と共にベヒモスに直撃した。光が辺りを満たし白く塗りつぶし、激震する橋に大きく亀裂が入っていく。
「これなら……はぁはぁ」
「はぁはぁ、流石にやったよな?」
「だといいけど……」
―――ハジメも同じことを思ったかも知れない。心が読めるわけではないから分からないけど……
治療を終えたメルド団長達が立ち上がろうとする。
それと並んで、光の砲撃で撒き散らされた粉塵がだんだん晴れていく。
そこには……
無傷のベヒモスが立っていた。
―――さっきの台詞、完全に、ふらぐ……だよ……?
♛♛♛♛♛♛♛♛♛♛
無傷のベヒモス。ソレは低い唸り声を上げ、天之河を射殺さんばかりに睨んでいる。と、直後、スっと頭を掲げた。頭の角がキィーーーンという甲高い音を立てながら赤熱化していく。そして、頭部の兜全体がマグマのように燃えたぎったり、ベヒモスは突進の構えをとる。
「ボケっとするんじゃない!逃げろ!」
メルド団長の叫び声に、ようやく無傷というショックから正気に戻った天之河達が身構えた瞬間、ベヒモスが突進を始める。そして、天之河達のかなり手前で跳躍し、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下した。
天之河達は、咄嗟に横っ飛びで回避するも、その一撃の着弾時の衝撃波をモロに浴びて吹き飛ぶ。ゴロゴロと地面を転がりようやく止まった頃には、既に満身創痍の状態だった。
どうにか動けるまでに回復したメルド団長が駆け寄ってくる。他の騎士団員は、まだ白崎さんによる治療の最中だ。ベヒモスはめり込んだ頭を抜き出そうと踏ん張っている。
「お前等、動けるか!」
メルド団長が叫ぶように尋ねるも返事は呻き声だ。当然だ、先ほどの団長達と同じく衝撃波で体が麻痺しているからだ。内臓へのダメージも相当キツい。
メルド団長が白崎さんを呼ぼうと振り返る。その視界に、駆け込んでくるハジメの姿を捉えた。
「坊主!香織を連れて、光輝を担いで下がれ!」
ハジメにそう指示するメルド団長。
天之河を、天之河だけを担いで下がれ。その指示は、すなわち、もう一人くらいしか逃げることも叶わないということなのだろう。メルド団長は唇を噛み切るほど食いしばり盾を構えた。ここを死地と定め、命を賭けて食い止めるつもりだ。
そんなメルド団長に、ハジメは必死の形相で、とある無謀な提案をする。それは、この場の全員が助かるかもしれない唯一の方法。ただし、あまりに馬鹿げている上に成功の可能性も少なく、ハジメが一番危険を請け負う方法だ。
メルドは逡巡するが、ベヒモスは既に頭を抜き放ち、突進の構えを整えている。再び頭部の兜が赤熱化を開始する。時間はない。
「……やれるんだな?」
「やります」
「……まって……」
「リリィ?」
「……私、も―――手伝う、よ……?」
「……危険だよ、それでもいいんだよね?」
「……親友を、助けるのに―――理由は、ひつよう……?」
「ううん、有難う。心強いよ、リリィ。じゃあ、僕達でやろうか!!」
その私達の覚悟を見たメルド団長は、「くっ」と笑みを溢す。
「まさか、お前達に命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」
「はい!」
「……ばっち、ぐー……」
メルド団長はそう言うとベヒモスの前に出た。そして、簡易の魔法を放ち挑発する。ベヒモスは、先ほど天之河を狙ったように自分に歯向かおうとする者を標的にする習性があるようで、しっかりとその視線がメルド団長に向いている。
そして、完全な赤熱化を果たした兜を掲げ、突撃、跳躍する。メルド団長はギリギリまで引き付けるつもりなのか目を見開いて構えている。そして、小さく詠唱をした。
「吹き散らせ“風壁”ッ!」
その詠唱と共にバックステップで離脱する。
その直後、ベヒモスの頭部が一瞬前までメルド団長がいた場所に着弾した。発生した衝撃波や石礫は“風壁”でどうにか逸らす。大雑把な攻撃なので避けるだけならなんとかなる。ただし、倒れたままの天之河達を守りながらでは全滅していただろうが。
再び、頭部をめり込ませるベヒモスに、ハジメが飛びついた。赤熱化の影響が残っておりハジメの肌を焼く。しかし、そんな痛みは無視してハジメも詠唱した。名称だけの詠唱。最も簡易で、ハジメの唯一の魔法。
「“錬成”!」
石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、ハジメが錬成して直しているからだ。
ベヒモスは足を踏ん張り力づくで頭部を抜こうとするが、今度はその足元が錬成される。ずぶりと一メートル以上沈み込む。更にダメ押しと、ハジメは、その埋まった足元を錬成して固めていく。
そこに畳み掛けるように、私も武装を展開する――ッ!!
「《
武装の歪曲作用を利用して、ベヒモスの抵抗をさらに規制する。
展開範囲は出来るだけ狭く。この後行われるであろう総攻撃を邪魔しないように。
そこまで制限しても、ベヒモスの力は凄まじく、気を抜けば武装、ハジメ共々吹き飛ばされそうになる。
その間に、メルド団長は、回復した騎士団員と香織を呼び集め、光輝達を担ぎ離脱しようとする。トラウムソルジャーの方は、どうにか数人かの生徒が冷静さを取り戻したようで、周囲に声を掛け連携を取って対応し始めているようだ。立ち直りの原因が、実は先ほどハジメが助けた女子生徒だったりする。地味に貢献しているハジメでった。
「待って下さい!まだ、リリィちゃんと南雲くんがっ!」
撤退を促すメルド団長に香織が猛抗議する。
「坊主の作戦だ!それに、もう一人もそれに乗って作戦の遂行を手伝っている!ソルジャーどもを突破して安全地帯を作ったら魔法で一斉攻撃を開始する!もちろん坊主達がある程度離脱してからだ!魔法で足止めしている間に坊主達二人が帰還したら、上階に撤退だ!」
「なら私も残ります!」
「ダメだ!撤退しながら、香織には光輝を治癒してもらわにゃならん!」
「でも!」
なお、言い募る香織にメルド団長の怒鳴り声が叩きつけられる。
「坊主達の思いを無駄にする気かッ!!」
「ッ―――!」
メルド団長を含めて、メンバーの中で最大の攻撃力を持っているのは間違いなく光輝である。少しでも早く治癒魔法を掛け回復させなければ、ベヒモスを足止めするには火力不足に陥るかもしれない。そんな事態を避けるには、香織が移動しながら光輝を回復させる必要があるのだ。ベヒモスはハジメの魔力が尽きて錬成ができなくなった時点で動き出す。
「天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん、“天恵”」
香織は泣きそうな顔で、けれどもしっかりと詠唱を紡いだ。淡い光が光輝を包む。体の傷と同時に魔力をも回復させる治癒魔法である。
メルド団長は、香織の肩をグッと掴んで頷いた。香織も頷き、もう一度、必死の形相で錬成を続けるハジメと、武装を出力限界まで振り絞って使用するリリィを振り返った。そして、光輝を担いだメルド団長と、雫と龍太郎を担いだ騎士団員達と共に撤退を開始する。
トラウムソルジャーは依然増加を続けていた。既にその数は二百体はいるであろう。階段側へと続く橋を完全に埋め尽くしている。
だが、ある意味で、それでよかったのかもしれない。もし、もっと隙間だらけだったなら、無闇に突貫した生徒が包囲され、抵抗する間もなく惨殺されていただろう。実際、最初の百体くらいの時に、それでさえ窮地に陥っていた生徒は結構な数いたのだ。
それでも、未だ死人が出ていないのは、ただ騎士団員達のおかげだろう。彼等の必死のカバーが生徒達を生かしていたのだといっても過言ではない。その代償に、彼等はもう満身創痍となっていたが。
騎士団員達のサポートがなくなり、続々と増え続ける魔物にパニックを起こし、魔法を使いもせずに剣やら槍やら武器をただ振り回すだけの生徒が殆どである以上、もう数分もすれば完全に瓦解し、壊滅するだろう。
生徒達もそれを何となく悟っているのか表情には絶望が張り付いている。先ほどハジメが助けた女子生徒の呼びかけで少ないながらも連携をとり奮戦していた者達も限界が近く、皆泣きそうな表情だった。
誰もが、もうダメなのかもしれないと思ったとき――
「“天翔閃”!」
純白の光の斬撃がトラウムソルジャー達のド真ん中を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂した。
橋の両側にいたソルジャー達も、その勢いに押し流されて奈落へと落ちていく。斬撃の後は、直ぐに雪崩れ込むように集まったトラウムソルジャー達で埋まってしまったが、生徒達は確かに、一瞬空いた隙間から上階へと続く階段を見た。今までどんなに渇望し、どれだけ剣を振るっても見えなかった希望が見えたのだ。
「皆!諦めるな!道は俺が切り開く!!」
そんな台詞と共に、再び“天翔閃”が敵を切り裂いていく。光輝が発する強いカリスマに、生徒達が活気づいていく。
「お前達!今まで何をやってきた!訓練を思い出せ!さっさと連携をとらんか!馬鹿者共がァ!」
皆の頼れる団長が“天翔閃”に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒していく。いつも通りの頼もしい声に、沈んでいた気持ちが復活する。手足に力が入り、頭がクリアになっていく。実は、それは香織の魔法の効果も加わっている。精神を鎮める魔法である。リラックスできる程度の魔法だが、光輝達の活躍と相まって効果は抜群に発揮されている。
治癒魔法に適性のある者が皆こぞって負傷者を癒し、魔法適性の高い者が後衛に下がって強力な魔法の詠唱を開始する。前衛職はしっかりと隊列を組み、倒す事より後衛の方の守りを重視し堅実な動きを心がける。
治癒が終わり復活を果たした騎士団員達も加わり、反撃の狼煙が上がった。チートな皆の強力な魔法と武技の波状攻撃が、怒涛の如く敵目掛けて襲いかかる。凄まじい速度でトラウムソルジャーの軍勢を殲滅していき、その速度は、遂に魔法陣による魔物の召喚速度を超えた。
そして、階段への道が開ける。
「皆!続け!階段前を確保するぞ!」
光輝が掛け声と同時に走り出した。
ある程度回復した龍太郎と雫がそれに続き、バターを切り取るようにトラウムソルジャーの包囲網を瞬く間に切り裂いていく。
そうして、遂に全員が包囲網を突破した。背後で再び橋との通路が肉壁ならぬ骨壁により閉じようとするが、そうはさせないと光輝が魔法を放ち蹴散らしていく。
クラスメイトが訝しそうな表情をする。それもそうだろう。目の前に階段があるのだ。さっさと安全地帯に行きたいと思うのは当然である。
「皆、待って! リリィちゃんと南雲くんを助けなきゃ!リリィちゃんと南雲くんが二人であの怪物を抑えてるの!」
香織のその言葉に何を言っているんだという顔をするクラスメイト達。そう思うのも仕方ない。何せ、ハジメは“無能”で通っているのだから。
それに、リリィはいたって“普通”。特に特化することもなく、平凡を地で行く男の娘という印象だったからだ。
だが、困惑するクラスメイト達が、数の減ったトラウムソルジャー越しに橋の方を見ると、そこには確かにリリィとハジメの姿があった。
「何だよあれ、何してんだ?」
「あの魔物、上半身が埋まってる?」
「何だ?あの青い円盤?」
次々と疑問の声を漏らす生徒達にメルド団長が指示を飛ばす。
「そうだ!坊主達がたった二人であの化け物を抑えているから俺達は撤退できたんだ!前衛組!ソルジャーどもを寄せ付けるな!後衛組は遠距離魔法準備!もうすぐ坊主達の魔力が尽きる。アイツらが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」
ビリビリと腹の底まで響くような鋭い声に気を引き締め直す生徒達。中には階段の方向を未練がましい表情で見ている者もいる。無理もないだろう。ついさっきまで死にかけていたのだ。一秒でも早く安全を確保したいと思うのは当然である。しかし、団長の「早くしろ!」という怒声に未練を断ち切るように戦場へと戻っていった。
その中には檜山大介もいた。自分の仕出かした事とはいえ、本気で死の恐怖を感じていた檜山は、直ぐにでもこの場から逃げ出したかった。
しかし、ふと脳裏にあの日の、屈辱的な光景が浮かび上がった。
それは、迷宮に入る前日、ホルアドの町で宿泊していた時のこと。緊張のせいか中々寝付けずにいた檜山は、トイレついでに外の風を浴びに行った。涼やかな風に気持ちが落ち着いたのを感じ部屋に戻ったのだが、その途中、ネグリジェ姿の香織を見かけたのだ。初めて見る香織の寝間着姿に思わず物陰に隠れて息を潜めて見惚れていると、香織は檜山に気がつかずに通り過ぎて行ったのだ。
気になってしまい後を追うと、香織は、とある部屋の前で立ち止まりノックをした。その扉から出てきたのは……リリィとハジメだった。
檜山は頭が真っ白になった。檜山は香織に好意を持っている。今もなお。しかし、自分とでは釣り合わないと思っていて、光輝のような相手なら、所詮住む世界が違うのだと諦められた。
しかし、ハジメとリリィは違う。自分より劣った存在(檜山は割と本気でそう思っている)が香織の傍にいるのは可笑しいことだと。有り得てはならないと。それなら自分でもいいじゃないか、と端から聞けば「頭大丈夫か?」と言われそうな考えを檜山は本気で持っていた。
唯でさえ溜まっていた不満は、すでに憎悪にまで膨れ上がっていた。香織が見蕩れていたグランツ鉱石を手に入れようとしたのも、その気持ちが焦りとなって表へ出たからだ。
その時のことを思い出した檜山は、たった二人でベヒモスを抑えるハジメを見て、今も祈るようにリリィとハジメを案じる香織を視界に捉えて……仄暗い、どこまでも歪ん笑みを浮かべた。
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その頃、ハジメはもう直ぐ自分の魔力が尽きるのを、リリィは自身の武装の限界が訪れることを感じていた。既に回復薬はないし、予備の武装も、使える武装もない。チラリと後ろを見るとどうやら全員撤退できたようである。隊列を組んで詠唱の準備に入っているのがわかる。
ベヒモスは相変わらずもがいているが、この分なら錬成を止めても数秒は時間を稼げるだろう。ハジメ達はその間に少しでも距離を取らなければならない。額の汗が目に入る。極度の緊張で心臓がバクバクと今まで聞いたことがないくらい大きな音を立てているのがわかる。
ハジメとリリィはタイミングを見計らった。
そして、数十度目の亀裂が走ると同時に最後の錬成でベヒモスを拘束する。同時に、一気に駆け出した。
ハジメとリリィが猛然と駆け出した五秒後、地面が破裂するように粉砕され、押さえつけていた円盤をも粉砕してベヒモスが咆哮と共に起き上がる。その眼に、憤怒の色が宿っていると感じるのは勘違いではないのだろう。鋭い眼光が己に無様を晒させた怨敵を探し……ハジメとリリィを捉えた。再度、怒りの咆哮を上げるベヒモス。ハジメ達を追いかけようと四肢に力を溜めた。
だが、次の瞬間、ありとあらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。
夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法の閃光がベヒモスを打ち据える。ダメージはやはり無いようだが、しっかりと足止めになっている!
いける!と確信し、転ばないよう注意しながら、頭を下げて全力で走るハジメとリリィ。すぐ頭上を致死性の魔法が次々と通っていく感覚は正直生きた心地が全くしないが、チート集団がそんなヘマをするはずないと信じて駆け抜ける。ベヒモスとの距離は既に三十メートルは広がっていた。
思わず、頬が緩んでしまうのがわかる。
しかし、その直後、ハジメとリリィの表情は凍りついた。
無数に飛び交う魔法の中で、一つの火球がクイッと軌道を僅かに曲げたのだ。……ハジメの方に向かって。明らかにハジメを狙い誘導されたものだ。
さらに続いて飛んでくる火球。それも軌道を曲げ、リリィに狙いを定める。
(なんで!?)
(……え?)
疑問や困惑、驚愕が一瞬で脳内を駆け巡り、ハジメ達は愕然とする。
咄嗟に踏ん張り、止まろうと地を滑るハジメとリリィの眼前に、その火球は突き刺さった。着弾の衝撃波をモロに浴び、来た道を引き返すように吹き飛ぶ。直撃は避けたし、内臓などへのダメージもないが、三半規管をやられ平衡感覚が狂ってしまった。
リリィも同じく吹き飛ばされ、額が少し裂けて温いものが顔を伝う。
フラフラしながら少しでも前に進もうと立ち上がるが……
ベヒモスも何時までも一方的にやられている訳ではなかった。ハジメが立ち上がった直後、背後で咆哮が鳴り響く。思わず振り返ると三度の赤熱化をしたベヒモスの眼光がしっかりハジメ達を捉えていた。
そして、赤熱化した頭部を盾のようにかざしながらハジメに向かって突進する!
フラつく頭、霞み、血で赭く染まる視界、迫り来るベヒモス、遠くで焦りの表情を浮かべ悲鳴と怒号を上げるクラスメイト達。
ハジメとリリィは、なけなしの力を振り絞り、必死にその場を飛び退いた。直後、怒りの全てを集束したような激烈な衝撃が橋全体を襲った。ベヒモスの攻撃で橋全体が震動する。着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走る。メキメキと橋が悲鳴を上げる。
そして遂に……橋が崩壊を始めた。
度重なる強大な攻撃にさらされ続けた石造りの橋は、遂に耐久限度を超え、崩落しだしたのだ。
「グウァアアア!?」
悲鳴を上げながら崩壊し傾く石畳を爪で必死に引っ掻くベヒモス。しかし、引っ掛けた場所すら崩壊し、抵抗も虚しく奈落へと消えていった。ベヒモスの断末魔が木霊する。
ハジメとリリィも何とか脱出しようと這いずるが、しがみつく場所も次々と崩壊していく。
(ああ、ダメだ……)
(……もう、無理かな……?―――でも……)
「……まだ、死ねない―――まだッ!死ねないのぉッ!!」
そう思い、心の底から叫ぶ。対岸のクラスメイト達が視界に入る。白崎さんが哭いて飛び出そうとして八重樫さんや天之川に羽交い絞めにされているのが見えた。他のクラスメイトは青褪めたり、目や口元を手で覆ったりしている。メルド達騎士団の面々も悔しそうな表情でハジメ達を見ていた。
そして、ハジメとリリィの足場も完全に崩壊し、ハジメとリリィは仰向けになりながら奈落へと落ちていった。徐々に小さくなる光に、最後まで手を伸ばしながら……
難産、そして初の一万文字突破ッ!!
遅くなり誠に申し訳ございません!
ところで耐久無限なのに脆くない?
と思う方も多いと思います。
安心してください、仕様です。
修復能力で耐久力マシマシにしているだけであり、表面上の防御力は人間と変わりありません。
でも、ここからが本番となります。
ハジメとの成長、無双の始まりがこの先に待っているんだッ!!(深夜テンション)
今後も私の妄想劇にお付き合いくださって頂ければ嬉しいです!