今日は学校が休みの日なので街まで出てきました。
「なによ、どいつもこいつもイチャイチャしちゃって」
でも、街まで来てみると周りはカップルばかり。
これが世に言う『バカップル』ってやつなのかな。
「はぁ、学校が休みだとトシアキ君に会えないし、もう帰ろっかな」
「キミ!」
そう思って街から離れようとした時に後ろから声をかけられた。
ホントはトシアキ君以外の男なんて興味ないけど、とりあえず暇なので話を聞いてみることにした。
「えぇ!? アイドル!!?」
話を聞いてみるとアイドルのスカウトだったようで私はその話を受け入れた。
それで、翌日に学校で皆に報告しているというわけ。
「すごいじゃん、ルンルン!」
「アイドルなんて女の子の憧れじゃん!」
クラスメイトの未央や里紗がそう言ってくれているが、一番聞きたい相手は別にいる。
「トシアキ君!」
「ん?」
たまたま話していた廊下を通り掛ったトシアキ君を見つけたので、私は傍に駆け寄る。
「私、頑張って宇宙一のアイドルになるからね! トシアキ君の為に!!」
「・・・・・・俺の為じゃなくて、自分のために頑張れよ」
トシアキ君が呆れたような表情で私を見つめてくる。
私、何か間違ったこと言ったのかな。
「いいか。 アイドルなんて言うのは知らない奴から見られるんだ。 好意的なものなら良いが、嫉妬や逆恨みだってあるかもしれない」
真剣な表情でそう言われて私は思わず聴き入ってしまう。
先ほどまで一緒に喜んでいてくれた未央や里紗も一緒にトシアキ君の話を聞いていた。
「自分の為で本当にやりたいことなら頑張れるだろう。 だが、俺の為にってことは逃げ道を作ってるのと一緒だ」
「そ、そんなこと・・・・・・」
思っても、考えてもいないと否定しようとした私の言葉を遮りながらトシアキ君は話を続ける。
「今はまだわからなくていい。 ただ、頑張るんなら自分のために頑張りな」
泣きそうになっていた私の頭をポンポンと撫でて、トシアキ君はその場から去って行った。
「ゆるせねぇぜ、トシアキの奴! せっかくルンちゃんがああ言ってくれてたのに!」
一緒に話を聞いていた猿山がそう言って、去って行ったトシアキ君を追いかけて行った。
「でも、結城の言う意味もわかるかな。 他の誰かの為に頑張って、挫けそうになったらそれを理由に辞めてしまうかもしれない」
「そうだよね。 確かにそうかも・・・・・・」
私の後ろではトシアキ君の言葉を聞いて納得している里紗と未央。
「自分の為に・・・・・・」
そう小さく呟いて私は、トシアキ君から聞いた言葉の意味を考えながらアイドルの仕事を続けていくことになった。
「今日は私の為に集まってくれてありがとー!」
「「「わぁあぁあぁ!!!」」」
駅前の特設ステージで歌うことになった私はマイクを片手に笑顔で挨拶をする。
いつもに比べて集まっている人が多いけど、それは人気があるってことだから特に気にしなかった。
「RUNは宇宙一の幸せ者でーす!!」
ちなみに学校に居る時とか、プライベートでは『ルン』で、アイドルの時は『RUN』と名乗っている。
発音とかは一緒だけど、仕事とプライベートでは分けておきたかったのだ。
「うひょぉ!! RUNちゃーん!!」
「結婚してくれ!!」
いつもより多いお客さんに特設で作ったステージ、私と見に来てくれた人との壁が無くなってしまった。
「えっ? きゃーーー!!」
全然知らない男の人たちが目の色を変えて私に向かって走って来る。
トシアキ君以外に興味がなかった私は、男の人たちの怖さもあって裏の方へ走る。
「な、なんでこうなっちゃうのよーーー!」
特設ステージの裏は備品やスタッフの荷物でゴチャゴチャした感じだった。
道もわからず逃げていると出口のない行き止まりにたどり着く。
「う、嘘。 行き止まり?」
前は壁、右も左も進める所がない。
唯一の進める道は私が走ってきた道、つまり追いかけてきた男の人たちがいる場所だった。
「アイドルも楽じゃないなぁ・・・・・・」
確かに人気が出てからは楽しかった。
男の人たちが自分に向けるメロメロになっていく視線。
女の人たちからの羨望や嫉妬の視線を感じながら優越感に浸っていた時。
「でも・・・・・・」
何人もの男の人たちがこっちに向かって走って来るのを見つめながら思う。
本当に振り向いて欲しい人には届かなかった。
教室で会うたびに『頑張れ』とは言ってくれるが、それ以上の会話もない。
「仕事が忙しくなってからは全然会えてない・・・・・・」
それが悔しくて仕事をもっともっと増やしてみたが、会う機会が減るだけで余計に悲しくなった。
そう考えた後に、走って来る人たちに何をされるか、そう思うだけで涙が出てきた。
「会いたいよ、トシアキ君・・・・・・」
「呼んだか?」
涙で濡れた視線を上げるとそこには宙に浮いているトシアキ君がいた。
「えっ、どうして・・・・・・」
「たまたま駅前を通り掛ったらルンが頑張ってたから見てたんだよ。 後ろの方だったけどな」
そのまま私の前に降り立ち、走って来る男の人たちから私を守るように背を向ける。
「前に言った意味、わかったか?」
「えっ?」
確か、『俺の為に頑張るんじゃなく、頑張るなら自分の為に頑張れ』ってことだったかな。
わからないまま今日まできてしまったけど、今でもよくわからない。
「そもそもお前がアイドルになった理由はなんだ?」
「私がアイドルになった理由・・・・・・」
トシアキ君に言われて考えてみたけど、トシアキ君に振り向いて貰うために私はアイドルになったのだ。
「それはトシアキ君の為に・・・・・・」
「違うだろ? 俺がいつ、お前にアイドルになってくれって頼んだ?」
「あっ・・・・・・」
そうだ、私がアイドルになったのはトシアキ君の為じゃなくてトシアキ君に振り向いてもらうために、自分の為になったんだ。
「わかったみたいだな」
「うん! 私、自分の為にアイドルになったの!」
「良い答えだ。 風よ」
「きゃっ!?」
私の答えに満足そうに微笑んだトシアキ君がそう言った途端、もの凄い風が私たちを取り巻く。
突然の風で思わず私はギュッと目を閉じてしまう。
「目を開けてみろよ、綺麗だぜ?」
トシアキ君の声が近くで聴こえ、恐る恐る目を開けてみると、夕陽に染まった街が綺麗に見えた。
「わぁあぁあぁ・・・・・・って、空!? 私、飛んでるの!?」
「俺の魔法でな。 あそこから脱出するにはそれしかなかった」
別に走って来ていたアイツらを吹き飛ばしてもよかったけど、と小さい声で言っていたが気にしないことにする。
「トシアキ君って、地球人よね? なんでこんなこと・・・・・・」
「俺は『魔法使い』なんだ。 だからこれくらいのこと朝飯前だ」
そう言いながらトシアキ君は私と手を繋いだまま、ゆっくりと山にあるひと気のない神社に降り立った。
「まぁ、ここなら大丈夫だろ。 俺は帰るから後は自分で何とかしな」
「トシアキ君! 私・・・・・・」
ここから去って行こうとするトシアキ君の背に私は呼びかける。
「私、トシアキ君を振り向かせるような凄いアイドルになるから頑張るね!」
少し離れた位置で振り返ったトシアキ君は私の言葉を聞いた後、微笑みながら手を振ってくれた。
きっと気持ちが伝わったんだと、私は嬉しくなりアイドル事務所への道を進んでいく。
「私、頑張る!」
誰もいない神社だったけど、私は自分に言い聞かせるために大きな声で気合を入れた。
これからも大変だろうけど、彼を振り向かせるために頑張ろうと新たに決意するのであった。
~おまけ~
神社から事務所に戻ることになった私だけど、その足取りはいつもより軽い。
「えへへ・・・・・・」
別れ際に微笑んでくれたトシアキ君の顔を思い浮かべるとつい、頬を緩んでしまう。
「最初のトシアキ君もカッコ良かったけど、さっきのも良かったなぁ」
最初のはレンの中から見ていた怒ったときのトシアキ君だった。
『魔法使い』っていうのは少し驚いたけど、私たち宇宙人もいるくらいだし、別に不思議ではない。
「はぁ・・・・・・」
でも、そんな彼だからこそライバルは多いだろう。
ララや同じクラスの生徒、あと金色の闇も怪しい感じだし。
「でも私、負けない!」
アイドル事務所に帰りながら私はそう誓うのであった。