とある夏の暑い日。
俺は庭で植物たちに水をやりながら精霊たちと話をしていた。
「わかったって。 根元だけじゃなく全体にかかるように撒けばいいんだろ」
モモのように植物たちと心を通わすことができるわけではないが、精霊を通じて意思疎通はできる。
俺は肩や頭に乗っている精霊に言われるがまま、植物に水をやっているのである。
「ん? セリーヌが?」
そんなとき、慌ててコチラへ飛んできた精霊にセリーヌの様子がおかしいと教えて貰った。
ちなみにセリーヌは『俺』の誕生日にララから貰った宇宙の植物の名前だ。
「っ!? おい、セリーヌ! 大丈夫か!?」
言われた通り、セリーヌのもとへ向かうといつもは元気に立っているセリーヌが元気のない様子で倒れていたのだ。
「いや、大丈夫って、全然大丈夫じゃないだろ」
「トシアキさん、私が診ます」
俺の声が聞こえたのか、家の中からモモがナナやララと共にやってきた。
そういえば、モモは植物と心を通わすことが出来るって言ってたな。
「どうしたの? 私に教えて・・・・・・」
モモがセリーヌの傍に近づき、そう言いながら話しかける。
「ちょっと疲れているだけだから心配しないで、と言ってます」
さっき聞いたような答えと同じく、俺にもそう聞こえた。
だが、見るからにちょっと疲れただけとは言いにくい様子だった。
「この症状的にカレカレ病の可能性があります」
「カレカレ病?」
「はい。 放っておくと数日で枯れ果て、死に至る植物特有の病です」
とは言ってもここは地球だ。
本来、地球には存在しない種のセリーヌが宇宙の病気にかかるのだろうか。
「モモ! 治す方法はないの!?」
「その前に御門先生に連絡してみる」
『ふぁあい。 誰よ、こんな時間に電話なんて・・・・・・』
「・・・・・・こんな時間ってもう昼前だ」
まさかの寝ぼけた状態で電話に出られるとは思わなかった俺は素の状態で話してしまう。
『あら? ご主人様じゃない、どうしたの?』
俺の声を聞いて目が覚めたのか、いつもと同じ声のトーンに戻ったようだ。
せっかくの専属医師なので、普段では使わない口調でそのまま話すことにした。
「緊急だ。 カレカレ病を治せるか?」
『申し訳ありませんが、私は医者です。 人間と宇宙人ならなんとかできますが、植物は専門外です』
「そうか、邪魔して悪かったな」
そこまで言って俺は相手の返事も待たずに電話を切った。
「御門では無理らしい。 モモ、何か知っているか?」
「は、はい、危険が伴いますが一つ方法が・・・・・・」
何やら頬を赤くしたモモが俺から視線を外し、どもりながら答える。
「危険でもいい、教えろ」
「惑星ミストアという地球から離れた所にある星にラックベリーという果実があると聞きます」
「惑星ミストアは私のデータでは危険指定Sランクの星だったはずです」
ララの頭からペケの声がそう教えてくれた。
だが、俺には特に関係のない話だ。
「ラックベリーがあれば治るのだな。 あとはどうやってその星に行くかだが・・・・・・」
「私に任せてください」
俺が頭を悩ませていると、いつから話を聞いていたのか、ヤミが傍に降り立つ。
「ヤミか。 お前も来るのか?」
「私はアナタの守護者。 アナタに行く所なら私も行くに決まっています。」
「・・・・・・そうか」
俺の返事を聞いた後にヤミはリモコンを取り出し、スイッチを押した。
すると頭上に黒く輝く宇宙船がどこからともなく現れた。
「よし、行くぞ。 惑星ミストアに」
「「「「・・・・・・」」」」
俺がそう言って身を翻したが、誰からの反応もない。
「何してんだ?」
「えっ!? あ、ううん。 何でもないよ!」
「そ、そうだぞ。 姉上の言うとおりだ! 何でもない!」
そう言いながら俺の横を通り過ぎ、ヤミの宇宙船のもとへ向かっていくララとナナ。
「ふふふ、さっきのトシアキさん、カッコ良かったですよ」
「流石、私のマスターですね」
モモは微笑みながら、ヤミも嬉しそうに微笑んで俺の横を通り過ぎて行った。
「ったく、なんなんだよ」
そんな四人の後を追いかけ、俺もヤミの宇宙船に乗り込もうと足を踏み出したところでふと気付く。
「ヤミの奴、俺のことマスターって呼ばなかったか?」
喫茶店の店長や何かを極めた人のことをそう呼ぶが、俺にはどちらも当てはまらない。
主という意味のマスターということなのか。
「・・・・・・どうりで最近、依頼料の請求が来ないと思ったぜ」
しかし、どのタイミングであいつはそう決めたのだろうか。
最近はそんな機会があったわけではないのだが。
「トシアキ、早く行かないと!」
「あ、あぁ。 直ぐ行く」
宇宙船に乗り込んだララにそう言われ、考えを途中で放棄して俺は止めていた足を進めるのであった。
***
久しぶりに宇宙の景色を見ることが出来た俺はどこかにあいつらがいるのかと考えてしまう。
宇宙は広く、まだまだ俺が知らないことがたくさんあるのだから。
「・・・・・・いや、今はセリーヌのことが大事だな」
「大切なんですね、セリーヌさんのこと」
そんなことを呟いた俺のもとにモモがやって来てそう言った。
確かに大切と言えば大切な存在であり、長い付き合いになった植物である。
「俺はモモのように直接心を通わすことが出来ないが、伝え聞くような感じで話しはできるからな」
「やはりそうだったのですね」
「話してるうちにそう言う存在になっていったのかもな。 変か?」
俺の問いにモモはフルフルと首を静かに振ったあと、俺の隣にゆっくり腰を下ろす。
若干距離が近いような気がするが、気のせいだろうか。
「そんなことありませんよ。 植物も動物も一緒に居れば家族と同じです」
「そうか、なら良かった」
「・・・・・・お姉様がモタモタしているようなら私、頑張っちゃおうかしら」
顔を赤くしたモモが俺から顔を背けて呟いた最後の言葉は聞かなかったことにする。
『マスター!』
そんな会話をしていると、ヤミの宇宙船についている人工知能――ルナティークの声が聞こえてきた。
「どうしました?」
『進行上のミストアの大気から異常なレベルの磁気の乱れを観測!』
そんなことも出来るのか、俺が知っている宇宙船には人工知能がついていなかったのでこの船はなかなか優秀な宇宙船のようだ。
『船体に影響を及ぼす恐れがあるんで予定軌道を変更して侵入するぜ!』
「・・・・・・了解」
そして、軌道を修正しつつ惑星ミストアへと進んでいく俺たち。
「そう言えば、ルナティーク」
『何です?』
そんな緊張感が漂う中、ヤミがふと思い出したかのようにルナティークに呼びかける。
「私のマスターである結城トシアキです。 アナタのデータベースに登録しておいてください」
『マスターのマスターと言うことはグランドマスターってことだな!』
「そうですね」
『了解! よろしく頼むぜ、グランドマスター!』
「・・・・・・あぁ」
こうして俺は宇宙船ルナティークのグランドマスターになったのである。
「って、おかしいよな!? なんでいきなりそんな話しになってんだ!?」
「いいじゃん、気にしなくても」
「そうだぜ、細かいことは気にすんなよ」
ララもナナの関係ないことだと思って気楽に言ってくれる。
俺の情報がデータベースに登録されたらいつかこの世界から消えるときに痕跡が残ってしまう。
それが世界の崩壊の原因になる可能性があるのだ。
『到着だぜ、マスター』
「よし、ラックベリーを探しに行こう!」
そう言ってララはさっさと惑星ミストアへ降り立ってしまう。
ナナとモモもララを追ってルナティークから下りてしまった。
「早く行きましょう。 ルナティークはこの場で待機しておいてください」
『了解だぜ、マスター』
ヤミに手を引かれ、俺もルナティークから惑星ミストアへと降り立った。
「ここが危険指定Sランクって星かぁ」
「デカい樹が多いな。 歩くのに苦労しそうだ」
そう言いながら辺りを見渡すが、霧が濃くて先まではよく見えない。
「モモ、ラックベリーの実ってのはどこにあるんだ?」
「わからないわ。 図鑑でしか見たことのない希少種だし・・・・・・」
この惑星にあるらしいが、どこにあるかまではモモもわからないらしい。
とりあえず、ここの精霊たちに話を聞いて早く持って帰る必要があるな。
「私がその辺の植物たちに話を聞いて・・・・・・っ!?」
「どうしたの? モモ」
ララがそう尋ねるが聞こえていないのか、モモは驚いた表情のままだ。
もっとも、モモが驚いたのも無理はない。
俺は精霊を通してだからニュアンスが違うのだろう。
だけどもモモは直接聞こえるのだ、ここの植物たちの悪意の声が。
「わっぷ!? ケホケホッ」
そんなことを考えている内にララが植物の花粉を顔に撒かれ苦しんでいた。
「えっ? きゃあぁあぁ!!」
その隙に植物のツタがララの足に絡みつき、そのまま遠くへ投げ飛ばされてしまった。
「姉上!?」
「俺が行く! ヤミは二人を頼んだ!」
俺は素早く飛び立ち、ララが地面にぶつけられる前に空中で受け止めることに成功した。
「あ、ありがと、トシアキ」
しかし、受け止めたララは先ほどまで着ていたはずの服が消えていた。
「おい、ペケ。 お前、一体・・・・・・」
ペケは目を回しながらララに抱えられており、返事すらしない。
ルナティークが言っていた異常なレベルの磁気の乱れが機械であるペケに影響しているのだろうか。
「チッ、霧が濃くなってきてヤミたちがどこに居るのかわからなくなった」
ヤミがついているなら大丈夫だろうが、二人を守りながらだと上手く戦えないかもしれない。
「早く合流した方がいいだろうが、とりあえず降りるか」
俺はララを抱えたまま、ゆっくりと地面へと降り立つ。
回りの安全を確認したあとにララをソッと降ろしたのだが、そのままペタンと座りこんでしまった。
「あ、あれ? おかしいな、力が入んない」
「この霧の所為か、それともあの時の花粉の所為か」
どちらにしろ、ララは立つこともままならないようであるため、俺が抱えて行くことにする。
「が、その前に」
俺は着ていた上着をララの肩にかけてやる。
いつまでも生まれたままの姿というわけにもいかないしな。
「ありがとう」
「じゃあ、皆と合流するか。 しっかり掴まってろよ」
俺の上着を着たララを再び抱え、あてもなく歩きながら他の三人を探しに行く。
とにかく、早く三人と合流してラックベリーを見つけ出して地球に戻らないとな。
ここへ来る前のセリーヌの様子を思い浮かべながら俺は足を進めるのであった。
~おまけ~
「姉上!?」
「俺が行く! ヤミは二人を頼んだ!」
そう言って飛び出していったマスターの背中を視線で追っていると急に霧が濃くなり始めました。
「とにかく追いかけよう!」
「えぇ、そうね。 トシアキさんが一緒なら大丈夫だと思うのだけれど」
私はマスターの指示通り、この二人の安全を確保しなければなりません。
ですので、本来ならここから動かない方が得策なのですが。
「そうですね。 ですが早く合流した方が良いでしょう」
口からでた言葉は頭で考えているのは逆の案。
どうやら私自身もマスターの安全な姿を確認したいと思ってしまっているようです。
「姉上ーーー!」
「トシアキさーん!」
マスターとプリンセスの名前を呼びながらどんどんと森の奥へ進んでいく。
その彼女たちの背中を追いながら私は当たりの気配を探る。
「―――助けにいかなきゃ!!」
「そう簡単にはいかないようです」
プリンセスの妹の発言が終わると同時に今まで様子を窺っていた植物たちが動き始めました。
「っ!?」
使おうと思っていた変身能力がかき消されてしまったのに少々驚いてしまいましたが。
「ギャッ!?」
先日マスターと修行した体術の成果が早々に出せようで良かったです。
何としても、マスターと合流するまでは彼女たちの安全を確保しなければなりません。
「・・・・・・また、褒めて貰いましょう」
幸いにも、その言葉が口から漏れたときには二人とも襲ってくる植物の迎撃で聞こえていなかったようです。
私も頑張って暴れん坊な植物たちを退治するとしましょう。