「こんなところに呼び出して何のようですか?」
「悪いな、最近身体が鈍ってる気がして、ちょっと相手になってくれよ」
私は護衛対象者である結城トシアキに呼び出され、人がいない神社で向かい合っていました。
「そうですか、確かに最近のアナタはそんな感じがします」
この前の美柑が襲われたときにも止めをさす前に気を抜いていたようですし。
「だろ? ここは昔の感覚を取り戻すために戦いの場に行きたいんだが、この世界は平和でな」
「話はわかりました。 では、どうぞ」
私は変身能力を使い、髪を刃物へと変身させて迎え撃つ準備を整える。
「じゃあ・・・・・・行くぞ!!」
それからしばらく私たちは闘い続けました。
結城トシアキが使う『魔法』というものに慣れていないため手こずりましたが、近接戦闘ならばまだ私の方が上です。
「・・・・・・しかし、結城トシアキ」
「ん?」
今は区切りがついたので、神社の木陰で休息をとっているのですが、私は以前から気になっていたことを聞いてみました。
「アナタの戦闘術はどこで学んだのですか?」
「あぁ、旅をしていた時に色々とな」
その話を聞いて少し興味を覚えます。
彼はこの地球の生まれのはずなのですが、旅をしていた時の話を聞くと地球以外のことを話しているように感じます。
「・・・・・・って聞いてるのか、ヤミ」
「ハッ!? な、なんですか?」
突然、彼の顔が目の前にあって私は驚きながら身体を後ろに下げます。
「だから、前に契約した依頼だよ。 旅に出るときまでは頼むな」
「・・・・・・」
旅に出るときまでと言うことは彼がここからいなくなるということでしょうか。
そう考えるとチクリと胸に微かな痛みを感じます。
「って言っても、いつになるのかわからないけどな」
「・・・・・・そうですか」
結城トシアキのその言葉を聞いて、先ほどの胸の痛みが無くなったことに気付きます。
いったい先ほどの痛みは何だったのでしょうか。
「俺の相棒がいつ迎えにくるかわからないからな」
「相棒・・・・・・」
見たことも聞いたこともなかった彼の相棒の話。
私はその相棒のことが何故か羨ましく感じられました。
「さて、今日はもう帰るか。 ヤミもウチに来るか?」
「いえ、私は・・・・・・」
そこまで言ってから私は気付きました。
少しでも彼の傍にいたいと思ってしまう自分の思考に。
「・・・・・・そうですね。 久しぶりに美柑の料理を食べたくなりました」
「よし、じゃあ行くか」
私の返事を聞いて結城トシアキは背を向けて歩き始めました。
彼は私と同じく飛ぶことができるはずなのですが、歩いて帰るつもりなのでしょう。
「私は一体・・・・・・」
「おーい、ヤミ。 置いてくぞ?」
神社の階段を下りた先にいる彼がコチラに振り返って声を張り上げる。
私はその言葉には返事をせず、そのまま無言で彼のもとへ歩み寄って行きました。
「ただいまー」
「おかえりなさい、トシ兄ぃ」
結城トシアキに続いて家に入った私は彼の妹である美柑と視線を合わせました。
「お邪魔します、美柑」
「あっ、ヤミさん! いらっしゃい、来てくれたんだ」
この前のお祭りのとき以来の再会だったので美柑はとても喜んでいるようです。
「前にも泊まったことあるし、好きにしてくれていいから」
それだけ言い残して彼は階段を上がって行ってしまいました。
「そういえばこの間はありがとうね、ヤミさん」
結城トシアキの姿が見えなくなったあとに、美柑がそう言いながら微笑んでくれました。
恐らく、以前助けたときのことを言っているのでしょう。
「いえ、私は依頼通りに動いただけですので」
護衛対象者である結城トシアキに銃を向けたためにとった行動なので美柑のためというわけではないのです。
「それでも嬉しいの。 だってトシ兄ぃのことを守ってくれたんでしょ?」
「それは・・・・・・」
「私はそれでいいの。 トシ兄ぃってああ見えて結構危ないことに首を突っ込んでたりするし」
妹である美柑にも心配されている彼は普段から危ないことをしているのでしょうか。
「そうなのですか・・・・・・」
「ヤミさんがずっとトシ兄ぃを守ってくれたらいいのになぁ」
小さく呟いた美柑の言葉に私は気付かされました。
依頼を受けるという形ではなく、ずっと結城トシアキの傍にいる方法を。
「・・・・・・契約ではなく主従の誓い」
「ヤミさん、どうしたの?」
美柑に顔を覗きこまれて私は意識を戻します。
そういえば、玄関にずっと立ちっぱなしでした。
「いえ、なんでもありません。 お邪魔します」
私も金色のヤミという名で呼ばれるまで色々な惑星を彷徨っていました。
他の惑星で主に使える従者が行う主従の誓いというものがあったはずです。
しかし、主従の誓いはお互いの了承のもとで主人となる人からの贈品に誓いを立てるはず。
「・・・・・・たいやき」
彼からもらったものと言えば初めて会ったときのたいやきしか思い浮かびません。
他にも何かないか考えてみましたが、思い当たるのは食べ物ばかりでした。
「・・・・・・」
仕方がないのでソファに座りながらテレビを眺めていましたが、地球のことはよくわかりません。
チラリと美柑を見てみると台所で歌を口ずさみながら料理を作っていました。
「?」
よく見ると、美柑がいつも髪を纏めているときに使っている髪留めが違っていることに気付きます。
「ヤミさん、お待たせ。 ご飯できたよ」
「ありがとうございます。 ところで美柑、その髪留めは?」
料理を笑顔で運んできてくれた美柑にお礼を言いつつ、いつもと違う髪留めについて聞いてみます。
「あ、コレ? コレはトシ兄ぃがくれたんだ」
髪留めに触れながら嬉しそうに話す美柑。
美柑が触れている髪留めには銀色の十字架がキラリと輝いて見えました。
「そう、なのですか。 しかし、十字架の飾りは邪魔になるのでは?」
「そうなんだけど、トシ兄ぃが絶対に外すなって。 見える絆がとか言ってたけど」
「おっ、今日も美味そうだな。 いつもありがとな、美柑」
そんな話をしていると結城トシアキが料理の匂いに釣られてか、コチラへやってきました。
「どういたしまして。 じゃあ、運ぶの手伝ってね」
「任せとけ」
そうして三人で食卓を囲み、美柑の手料理を一緒に食べることになりました。
ちなみに料理はご飯に味噌汁、肉じゃがと焼き魚、きんぴらごぼうという和食尽くしです。
「「「いただきます」」」
三人で声を合わせて料理にそれぞれが手をつけ始めようとしたときに彼が思い出したようにお箸を置きます。
「そうだ、ヤミにコレを渡そうと思ってたんだ」
そう言って結城トシアキがとりだしたのは小さな黒い箱でした。
「いつも協力してくれているお礼だよ。 気に入ってもらえると嬉しいかな」
彼の言葉を聞きながら渡された黒い箱を開けると、そこには二つの髪留めが入っていました。
「わぁ! ヤミさん、それ私と同じやつだよ。 銀色の十字架」
隣で箱の中を覗き込んだ美柑が嬉しそうにそう言って自分の髪留めを触ります。
確かに美柑がつけているものと似ていますが、全く同じというわけでもなさそうです。
「一応、俺が認めた奴に銀色の十字架のアクセサリーを渡すことにしてるんだ。」
そう言いながら彼は首から下げているネックレスを見せます。
そこには同じ銀色の十字架がキラリと輝いていました。
「それを持ってる奴は皆で助け合う。 どんな場所でも、いつだってな。 まぁ、見える絆のようなものと思ってくれ」
「・・・・・・」
私は結城トシアキの言葉を聞きながら、静かにその髪留めを箱から取り出しました。
そして、自分のつけているものを外し、彼から貰ったものをゆっくりと一つずつつけます。
「おっ、似合ってるな。 やっぱそれにしてよかったよ」
「ホント! ヤミさん可愛いよ。 これで私とお揃いだね」
二人の笑顔を見て、私は心が温かくなるのを感じました。
「・・・・・・ありがとうございます。 そして、これからよろしくお願いします」
私はゆっくりと結城トシアキの前まで移動して静かに頭を下げます。
「ん? おう、これからもよろしくな」
彼はそう言いながら微笑み、私の頭を優しく撫でてくれました。
「・・・・・・見える絆。 いいものですね」
小さく呟いた私の言葉は二人とも聞こえていなかったようです。
私は髪に付けた二つの飾りをソッと触れたあとに美柑の料理を頂きます。
そして、その時の料理は今まで食べた中で一番の美味しさと温かさをくれるのでした。
~おまけ~
美柑の料理を頂いた後、私はこの家の屋根に登りました。
「主従の誓いとはあのような感じでよかったのでしょうか?」
周りに誰もいないことはわかっていますが、自分の行動で正解なのか自信がありません。
「・・・・・・地球には答えを知っている者がいないはずです」
ということは、自分がそのように振舞っていれば問題ないはずです。
「これからは結城トシアキをマスターと呼ぶことにします」
そう言って呼び方を変えれば周りもそのように認識していくでしょう。
これで彼、マスターと私は主従の誓いを結びました。
「これからはどこに行くときも私も傍であなたを守ります」
髪についている銀色の十字架を外して、手に取りそう誓います。
月明かりでキラリと輝いた銀色の十字架が私の誓いに答えてくれたような気がしました。