「ここが私の部屋だよ」
「家に誰もいないみたいだけど?」
腕を引かれたまま籾岡の家に上がった俺だが、人の気配を感じなかったのでそう尋ねてみた。
「あぁ、親は共働きだから帰り遅いの」
そんな家に男の俺を連れ込んでいいのかと思ったので踵を返して出て行こうとするが籾岡が立ちはだかっていて部屋から出られない。
「おい、籾お・・・・・・」
「そんなにさ、素気なくしなくてもいいじゃん?」
行く手を阻まれた俺をそのままベッドに押し倒した籾岡はそう言いながら頬を赤らめる。
「あんたはドキドキしてなかったかもだけど、私は結構ドキドキしてたんだよ?」
そのまま顔を近づけた彼女は俺の耳元でそう囁いた。
「・・・・・・籾岡」
「私も最近ご無沙汰でさぁ、寂しい夜もあるんだよねぇ」
俺の声を無視して、彼女は俺のことを見つめながら身体に触れてくる。
「大丈夫、手取り足取り教えてあげる。 だから、私で試しときなよ」
「ふむ。 なら、そうしようか」
「へっ? きゃっ!?」
俺は勢いよく身体を起こして、籾岡の両手を取って壁に押しつける。
いくら身体が鈍っているとしても女の子の両手を片手で押さえつけることは余裕だ。
「何が試しときなだよ、初めてなんだろ?」
「な、なに言って・・・・・・」
身動きが取れない籾岡の足は若干震えており、言葉も動揺していることを表していた。
そんな籾岡の言葉を遮るかのように俺は空いていた右手を壁に強く叩きつける。
「ちょ、ちょっと、結城・・・・・・」
「安心しろ、痛いのは最初だけで直におさまる」
そのまま顔をゆっくり近づけていく俺を怖がってか、ギュッと目を閉じて俯く籾岡。
俺はそんな彼女の額にソッと右手を近づけていき。
「った!?」
指で素早く籾岡の額を弾いた。
「バカなこと言ってないで、寂しい夜があるなら彼氏でも見つけろ」
籾岡を解放した俺は美柑から頼まれていた買い物袋を持って出ていく。
「あ、でも」
「・・・・・・なによ」
両手を額にあてて座り込む籾岡がコチラを睨むようにしながら返事をする。
「さっき俺にビビって目を閉じてた時、なかなか可愛かったぞ?」
「バカ!」
俺がそう言った直後、顔を真っ赤にしてクッションを投げられたのでそのまま籾岡の家から出ていくことになった。
「少しからかい過ぎたか。 今度あったときに謝っておくか」
先ほどの彼女の反応を思い出して、少し反省した俺はもう一度買い物袋の中身を確認する。
「忘れ物は・・・・・・ないな」
美柑から頼まれていた食材などを確認し終えた俺はそのまま帰路につく。
「ただいま」
「あっ、トシ兄ぃ、遅いよ!」
美柑がそう言いながらお玉を片手に玄関までやってきた。
「悪い、ちょっと色々と寄り道してしまったから」
「もぅ。 足りないから買い物をお願いしたのに、ご飯作れなかったじゃん」
「悪かったって」
少しご機嫌斜めな美柑の頭をソッと撫でてから、買い物袋をキッチンまで運ぶ。
「じゃあ、晩御飯楽しみにしてるから」
俺はそう美柑に告げて、自室へと戻る。
ちなみにその日の晩御飯はいつもより遅い時間帯ではあったが、とても美味しい料理だった。
***
「ようこそ皆さん! 我が天条院家の別荘へ!!」
沙姫先輩に招待された俺たちは専用の船で別荘がある島に連れてきて貰った。
「沙姫様のご友人の方々ですね、よくぞいらっしゃいました」
「あなたは?」
一緒に来た古手川が皆を代表してそう尋ねる。
確かに、こんな島で突然現れた男性に警戒心を持つのは悪くない。
「この屋敷を管理している執事の嵐山です」
もっとも、沙姫先輩の別荘なので不審者などが出てくるはずもないんだが。
「今日は皆さんのために海の幸をたくさん用意してあります。 どうぞごゆっくりおくつろぎください」
「あっ、どうも、お世話になります」
「よろしくお願いしまーす!」
執事という言葉を聞いて安心したのか、古手川はペコペコと頭を下げている。
そんな古手川の後ろでララも笑顔で元気にそう返事していた。
「サキ! 招待してくれてありがとね!」
「トシアキ様には家出のときにお世話になりましたから、天条院家は受けた恩は忘れませんのよ」
チラチラとコチラを見ながらそう言う沙姫先輩。
後ろに控えていた凛先輩や綾先輩も俺の方を見て頭を下げていた。
「そんなの気にしなくてもよかったのに。 でも、他の皆も一緒に招待してくれてありがとうございます」
恩を返すという言い方では俺だけでも良かったはずだが、気を利かせてくれた先輩は美柑やヤミまで呼んでくれていた。
「れ、礼には及びませんわ! トシアキ様が喜んでくれるならそれで・・・・・・」
「沙姫様、そろそろ皆さんをご案内した方がよろしいかと」
俺の言葉を聞いた沙姫先輩は嬉しそうに微笑みながら話してくれていたが、凛先輩に遮られて途中までしか聞き取れなかった。
「そうですわね・・・・・・嵐山、皆さんをお部屋へご案内して」
「はっ、沙姫様。 それではコチラになります」
嵐山さんが皆の先頭にたって別荘の奥へと歩きだす。
「リサとミオやお静ちゃんも来られたらよかったのにね」
「急な話だったから残念だったね」
ララの言葉に西連寺がそう言いながら嵐山さんの後についていく。
ちなみに他はナナとモモ、セリーヌと美柑にヤミ、そして古手川に俺の計九人が招待されている。
「って、よく考えたら男って俺だけじゃないか」
「トシ兄ぃ、なにしてるの?」
衝撃の事実を口にして立ち止まっていると前を歩いていた美柑とヤミが首をかしげながら俺を見ていた。
「いや、なんでもない。 で、俺の部屋はどこだ?」
さすがに一人での部屋はもったいない気がするが他は皆、女性なので仕方ない。
「トシ兄ぃは私とヤミさんと一緒だよ。 セリーヌは古手川さんが見てくれるって」
「なん、だと!?」
いくら義兄妹だからってそれは問題あるんじゃないだろうか。
「私はマスターの傍を離れるわけにはいきませんのでそう希望しました」
「私もトシ兄ぃと一緒なら別にいいかなって、兄妹だし」
「・・・・・・」
この二人は俺を一体何だと思っているのだろうか。
異性である俺に対してもう少し危機感を持つべきだと思う。
「わーーー! いい眺め!」
「結構広い部屋ですね」
俺が色々と考えているうちに美柑もヤミも宛がわれた部屋に入ってしまった。
「ほら、トシ兄ぃもおいでよ! とっても綺麗だよ!」
「あっ、おい、ちょっと美柑!」
俺の前までやってきた美柑は笑顔で俺の手を取り室内まで引っ張って行く。
そのまま俺は部屋に入り、窓際から景色を見ることになった。
「・・・・・・確かに綺麗だな」
「でしょ! 来てよかったね」
美柑の嬉しそうな笑顔に部屋割のことはもうどうでもよくなってきた。
「そうだな。 二人とも、夕食まで時間があるし風呂にでも行ってきたらどうだ?」
「お風呂ですか、いいですね」
ベッドに腰をおろしていたヤミも風呂の話に興味が引かれたのかスッと立ち上がる。
「いこいこ! トシ兄ぃも一緒に入る?」
「私も別にかまいませんよ?」
美柑の言葉に返事する間もなく、ヤミからそんな言葉を掛けられる。
しかし、二人が良くても他のメンバーがいたら駄目だろう。
「他にもいるんだから駄目に決まってるだろ」
というか、他の人がいなくも駄目だろう。
前に一緒に入ったことはあるが、好んで俺と入るようにはならないでほしい。
「あっ、そうか。 じゃあ、ヤミさん行こ」
「ですが・・・・・・」
俺の方にチラリと視線を寄こしたヤミにヒラヒラと手を振り美柑と行くよう指示する。
恐らく、守護者として傍にいないと駄目だとか考えているのだろう。
「俺のことは気にせず行って来い」
「・・・・・・わかりました」
「じゃあ、トシ兄ぃまたあとでね」
二人が部屋から出ていったのを確認して、俺は窓際にある椅子に腰掛ける。
「たまにはこういった感じでのんびりするのも悪くないな」
何気なく外を眺めていると一匹の黒い猫と視線があった。
「・・・・・・」
お互いに視線を逸らすことなく、俺と黒い猫はしばらく見つめ合う。
「・・・・・・ん? 雲行きが怪しくなってきたな」
雲の色が暗くなり、雷の音まで聞こえ始めてきたので視線を空へ移す。
そして、再び視線を戻すと既にそこに黒い猫は居なくなっていた。
「気のせいか」
あの猫は普通の猫ではないと直感が告げていたが、姿が見えなくなってしまってはどうしようもない。
「少し横になっとくか」
居なくなってしまった猫についていつまでも考えていても仕方がないので、ベッドに横になる。
外では雷や雨の音が聞こえているが、部屋に居ればそれほど気にならない。
そして、一人静かな部屋で俺はそのまま眠りにつくのであった。
~おまけ~
「やっぱり広いお風呂は気持がいいわね」
「ホントだね」
目の前でそんな話を姉上とコテ川がしているけど、それよりあたしは気になることがあった。
「コテ川、けっこう胸おっきいな」
「へっ!?」
自分の胸と見比べて思わず口に出してしまったが、言葉を戻すことはできない。
「どうやったらそんな風になるんだ?」
言ってしまったので、ついでにそう尋ねてみる。
もしかしたら、あたしもコテ川みたいになれるかもしれないしな。
「ど、どうやったらって、ナナちゃん!」
「私も知りたい・・・・・・」
「西連寺さんまで!?」
一緒に入っていた春菜もあたしと同じことが気になっていたようでコテ川の胸をジッと見つめていた。
「お子様ね、ナナ。 胸なんて気にするようなことじゃありませんよ?」
「な、なんかモモに言われるとスゲー腹立つ!」
モモはあたしより大きいからってこんな風に悩まなくて済むんだ。
「・・・・・・でも、アイツもやっぱり大きい方がいいのかな」
そんなときに頭に浮かんだのは姉上の婚約者候補のアイツ。
「えっ? ナナ、何か言いました?」
「べ、べつになんでもない!」
自分でそんなことを考えてしまった恥ずかしさを隠すようにお湯に口まで浸かり、ブクブクと息を吐いて心を落ち着かせるのであった。