最近は毎日、暑い日が続いている。
あまりにも暑いので私は短いズボンに大きめのランニングシャツを着ている。
汗で肌に引っ付いたら気持ち悪いし。
ウチの家ではあまり冷房を付けない。
お父さんやお母さんがいれば話が変わるけど、トシ兄ぃが人工的な風を凄く嫌うのである。
冷房が効いている部屋には入りたくないというほど嫌いなのだ。
だから私も基本的に冷房は使用せず、大好きなアイスを食べて過ごしている。
そんな今日も大好きなアイスを食べながらリビングでテレビを見ていた。
「今頃、トシ兄ぃとララさんは臨海学校の準備か・・・・・・」
そう言葉にしてみると、この家で数日間は一人でいることになると実感出来た。
「お父さんは最近帰ってこないし、お母さんも相変わらず海外にいるんだろうし」
いつもはトシ兄ぃがいてくれるけど、学校の行事なので仕方がない。
多分、優しいトシ兄ぃのことだからお願いしたら普通に家に居てくれると思うけど。
「・・・・・・言えないよね、そんなこと」
トシ兄ぃにはトシ兄ぃの都合がある。
いくら私でもそこまで我儘なんて言えない。
そんなことを考えながらテレビを見ていると、天気予報で台風が近づいていると言っている。
「・・・・・・伝えた方がいいよね。 ララさん、楽しみにしてたし」
つい先日から一緒に住むことになった宇宙人で自称トシ兄ぃの婚約者。
ララ・サタリン・デビルーク、ララさんの顔を思い浮かべる。
可愛いらしい顔にスタイルもよくて宇宙のお姫様、きっと世の中の男の人の理想に違いない。
それに比べて私は。
「なに考えてんだろ、私」
首を振って、先ほどまで考えていた思考を打ち払いトシ兄ぃの部屋にたどり着く。
トシ兄ぃの部屋ではララさんが笑顔で鞄に荷物を積めていた。
けど、そんなにたくさん入らないと思うのだけど大丈夫かな。
「ララさん、楽しみにしているところ悪いんだけど、中止になるかもよ? 臨海学校」
「へっ?」
私の言葉に素っ頓狂な声を出してこっちを見たララさん。
トシ兄ぃは最初から知っていたみたいで、特に驚いた様子はなかった。
「台風が近づいてるんだって。 しかも、明日辺り直撃って言ってるよ?」
それから三人でリビングへ向かい、天気予報が映し出されているテレビを見る。
「えー!? そんなのヤダよ! せっかく色々準備したのに」
宇宙人のララさんにとって、学校の行事である臨海学校は余程楽しみだったようだ。
でも、私としては中止の方が嬉しい。
「私としては中止のほうがいいかな、トシ兄ぃが家にいるし」
思ったことが口に出てしまい、慌てて口を塞いで二人を見る。
ララさんはテレビに向かって台風を何とかしてとお願いしていて聴こえてなかったようだ。
「・・・・・・頼むな」
肝心のトシ兄ぃを見ると、誰もいない空間に話しかけていた。
時々思うのだけど、トシ兄ぃのアレって変な病気とかじゃないよね。
だけど、そのおかげでトシ兄ぃにも聴こえていなかったみたいで私はホッと胸を撫で下ろした。
「心配するな、ララ。 寝て起きたら行けるようになってるから」
もし、トシ兄ぃに聴こえていたら本当に学校を休んで家に居てくれるだろう。
昔から私の為に学校を休んだり、家事を色々と頑張ってくれているのを知っている。
「ホントに?」
それだけにトシ兄ぃにはなるべく学校行事や友達との遊びを楽しんで欲しいと思う。
「あぁ、大丈夫だ。 俺を信じろ」
というか、トシ兄ぃの真剣な表情で言った言葉は私も頷いてしまうと思う。
それを見ているララさんの顔も真っ赤だし。
「・・・・・・うん、わかった。 トシアキのこと信じる」
「それじゃあ、風呂に入って早く寝ろ。 明日は早いんだから」
いくらなんでも寝るには早すぎると思う、まだお昼だし。
「うん、わかった! それじゃ、行ってくるね!」
しかし、ララさんはそんなことを気にせず、トシ兄ぃに言われた通りに風呂場へと向かって行った。
「・・・・・・いいの? トシ兄ぃ。 あんなこと言って」
丁度食べていたアイスを食べ終えたので、棒を咥えたままそう尋ねてみる。
いくら真剣は表情で言ったとしても台風は自然現象だ。
トシ兄ぃ、個人の力でどうにかなるとは思えない。
「いいんだよ。 どうせ台風は逸れる、美柑には悪いけどな」
このまま行けば明日には直撃の台風が逸れるらしい。
でも、不思議トシ兄ぃがそう言うならそんな気がしてくる。
「私?」
だけど、どうして私に悪いのかわからず、首を傾げてトシ兄ぃを見つめる。
「さっき言ってたろ? しばらく一人になるけど泣くなよ」
まさかさっきの言葉が聴こえていたとは思わなかったので、慌ててそっぽを向いた。
私の表情を見て臨海学校に行かないと言われないようにするために。
「な、泣かないよ、トシ兄ぃのバカ」
けれど、私の行動が照れ隠しだと勘違いしたのか、トシ兄ぃは私の頭をポンポンと撫でてくる。
頭を撫でて貰うのは恥ずかしいけど、同時に嬉しさも感じられるので私は結構気に入っていたりする。
「寂しくないように今日はなんでも一つだけ、望みを叶えてやるよ」
微笑みながら私にそう言ってくれたトシ兄ぃ。
きっとここで、臨海学校に行かないでと言えば本当にいかないような気がする。
なので、先ほどの仕返しも込めて前から言いたかったことを言ってみた。
「・・・・・・じゃあ、一緒にお風呂に入ろ?」
今までは兄妹でも男と女だからダメだと思っていたけれど、最近ではララさんがいる。
このままじゃ、ララさんにトシ兄ぃを取られそうな気がするので、私も負けるわけにはいかない。
「なん、だとっ!?」
普段は出さないような声色で驚くトシ兄ぃ。
私がこんなことを言ったのがそんなに予想外だったのだろうか。
でも、ララさんには負けたくないのでトシ兄ぃから視線を逸らさない。
「・・・・・・ダメ?」
自分でも頬が赤くなっているのがわかる。
ララさんが来るまでは兄妹でずっと一緒にいれればいいと思っていた。
でもそれは私がトシ兄ぃのことを異性として好きだからそう思っていたのだ。
「わかったよ。 けど、美柑もそろそろ兄から卒業しような?」
そう言えば昔、お母さんからトシ兄ぃと結婚してもいいと言われたけど、あれってどういうことなのかな。
兄妹じゃ結婚できないってことは、もしかして私とトシ兄ぃは。
「・・・・・・うん、わかった」
兄からは卒業するけど、トシ兄ぃからは卒業出来そうにない。
だって私はトシ兄ぃが、結城トシアキが大好きだから。
~おまけ~
ララさんが部屋に戻ったあと、トシ兄ぃと一緒にお風呂に入ることになった。
と言っても私がお願いしたことなのだけど。
「ト、トシ兄ぃ、入るね?」
「あぁ」
先にお風呂に入ったのはトシ兄ぃで、私は後から入ることになっていた。
流石に一緒に服を脱いだりすることは出来そうもなかった。
「お、おじゃましまーす」
ゆっくりドアを開けると湯船に浸かっているトシ兄ぃが私に視線を向けてくる。
「っ!? ば、ばか! タオルを付けろ!!」
私を見たトシ兄ぃが慌てた様子でそう言い放つ。
「えっ!? でも、お風呂場でタオルを付けるのはマナー違反だって・・・・・・」
小さいときに一緒に入ったときはタオルを付けなかったし、銭湯だとタオルを付けるのはマナー違反だったはずだ。
「それはタオルを湯船に浸けるのがマナー違反なんだよ! 身体に付けても問題はない」
「そ、そうなの? あっ・・・・・・」
そう言われて改めて自分の身体を見降ろすと何も付けていない。
そう考えてしまうと一気に恥ずかしさが込み上げて来る。
「・・・・・・タオル、取ってきます」
脱衣所まで一度戻った私はタオルを身体に巻き付け、再び風呂場へ向かった。
その後の詳しいことはあまり覚えていない。
ただ、久しぶりにトシ兄ぃと一緒に入ったお風呂は、明日から一人で留守番することの寂しさを忘れさせてくれるものだった。