そんな世界の表側。
ある所に男がいた。
この男は、所謂ブラック企業と呼ばれる、低待遇で過労を強いられる職場で日夜汗を流していた。
得られる給与は男の苦労に対して報われる額では無かったが、
男の趣味であるネットやゲーム、アニメのクッズを買う程度には収入は存在した。
学歴は高校卒業。
とはいえ、中学校、高校と華やかな学園生活を送った記憶は彼には無い。
クラスでも地味な方…、敢えて言うなら弄られキャラ…もとい理不尽な苛めを受ける対象としては目立っていたかも知れない。
当然、彼女とか全国大会とかそのような青春には縁があるはずも無かった。
そんな彼が帰宅をしている途中、外から中が見えない仕組みになっている車、
所謂マジッ●ミラー号に彼はハネられて、動けなくなったところでその車の中に投げ込まれた。
そして、男は今不思議な状況にいた。
マジ●クミラー号の中は外から視認する事は出来ないが、まさかそのドアの中が異世界へと続く
カントクとかジョユーとか言われる人々では無く神様がいるとは思ってもみなかった。
神様は、神様たちの最近の娯楽文化で、一般人を異世界に飛ばして活躍させることを眺めるのが流行っていると男に説明した。
男はその言葉だけで理解した。
(異世界転移(転生)モノktkr)
神様の説明は、概ね男の想像する通りで、所謂中世ベースのファンタジー世界に男を送って、
その世界でチートな大活躍をする。当然、可愛い女の子たちにはモテモテで、魔法もアニメやゲームの技が使い放題で、
文明も主人公となる男次第だと説明した。
男は元の世界に未練が無かった。
どうせ、男が車に轢かれても心配するのは仕事が遅くなる事くらいな仕事の連中ばかりだ。
プライベートの友達もいない。学生時代の知り合いと遇えば馬鹿にされるから、寧ろ顔も会わせたくない。
そんな世界で生きる事を代償に、自分が主人公な世界での人生へと交換して貰えるなら喜んでいきたかった。
まるで、少し小金を貯めた老人が終の生活を、物価の安い東南アジアで過ごして、その土地では長者扱いされる様な生活が待っている。
それを認識した男は躊躇う事無く異世界の住人になる事を選んだ。
翌日、元の世界では男の存在が消滅したが、大家が部屋を片付けないまま失踪した住人に激怒した事と、
同僚が無断で休んだ男に腹を立てた事以外、世界は変わらずに回って行った。
男が異世界に移ると、そこは見るからに西洋風の王の間のような場所だった。
この世界の主人公となった男の目の前には、美しい少女がいて、その少女に世界を救えるのは貴方だけだと懇願された。
そして、主人公の為に用意された国宝の魔剣が少女によって手渡された。
主人公の容姿は、以前の世界ではボロクソに見下されるものであったが、
イジめられキャラという補正が無い世界では、悪くは無いものだと周囲に受け入れられた。
少なくとも主人公にはそう感じられた。
加えて、主人公の日本人らしい黒目黒髪はこの世界では珍しく、
神に選ばれし者が持ちうる漆黒だと持て囃された。
主人公の皮肉気な性格も、この世界では鋭い捉え方だと人々に認められた。
また、当初の主人公の自信の無さも人々は謙虚だと大いに讃えた。
そして、女性達は男らしくはないが優しい人だと主人公に熱い視線を送った。
主人公が、現代社会では当然の考え方や行動を行う度に、文明レベルの低いこの世界では異端な物だったのか、
人々には大いに驚かれた。
例えば、掛け算の考え方。
この発想はこの世界には無かったようで、人々は難しい難しいと言いながら勉強して習得していった。
主人公は他にも、パンを寝かせると美味しくなる事や、金貨の上位貨幣として、紙のお金を発行する事を提案して、
国外の人々にも大いに驚かれた。
主人公は魔法の剣を振るうと、前世であった様な魔法が再現できた。
と言っても、その魔法の剣に、どのような魔法を実現するかを教え込む必要があり、
対話と実践の繰り返しで剣が覚えた魔法を、主人公が音声で登録するというような仕組みであり、
完全な再現と言う訳でもない。勿論、全ての魔法が再現できるものでは無かったが、
敵となる者を討ち祓うには何の問題も無かった。
所謂、鎧袖一触というヤツで、使った技や魔法にやられた敵は、まるで内側から爆発する様に大体一撃でやられていった。
主人公を召喚した少女は美しく、主人公が元の世界では叶うどころか勝負にもならなかった様なイケメンが、その美少女に付きまとっていたが、
イケメンが愛の言葉を幾ら囁いても、少女は顔を苦しく顰めるだけで受け入れはしなかった。
それを主人公が止めていると、逆上したイケメンは度々突っかかってきて、
最後には魔王の手先と言う裏切り者となって、主人公に切り殺された。
主人公は無限にしつこく表れる、様々な『魔王』と呼ばれる強敵(といっても主人公が本気を出したら敵わない)や、
その配下の魔族やモンスター達を倒し続けて、世界中から英雄と慕われた。
そして可愛らしい女の子たちに囲まれた素敵な生活を送りましたとさ。
―――――――――――――という、極めてご都合主義な世界の裏側には、一体何があったのか?
その裏側を愉しむ神々の目線を貴方に差し上げよう。
この主人公が幸せなままで良い方にとっては、此処でお話はお仕舞です。
『現実』が知りたい方はその次へどうぞ。