<Infinite Dendrogram>~王国の双獣~   作:烏妣 揺

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第一章”始まり”編
第0話「スタートライン」


第0話「スタートライン」

 

「・・・ここは?」

 

 気が付くと俺は見知らぬ空間に立っていた。

 まるで木造洋館の書斎のような、落ち着いた雰囲気の部屋だ。

 

「やぁやぁ、ようこそ<Infinite Dendrogram>の世界へ~」

 

「あ゛?」

 

 声のした方へ視線を向けると、そこには一匹の猫が木製の揺椅子に座っていた。

 ・・・猫?

 

「そうだよ僕がしゃべってるんだよ~」

 

「悪かった、嫌にリアルでちょっと混乱してた」

 

「別に気にしていないよ~、そんな人も割と多いからね~」

 

 その猫はなんでもなさげにそう言ってふわりとあくびをした。

 

「改めまして<Infinite Dendrogram>へようこそ~、僕は管理AIのチェシャだよよろしく~」

 

「・・・すげぇ、マジでこんなクオリティなのか」

 

 <Infinite Dendrogram>。今世界中で一大ムーブメントを巻き起こしているVRMMO。

 五感を完全再現する究極のリアリティ、億人単位でも全プレイヤーが同じ世界で遊戯可能な単一サーバー、 現実視、3DCG、2Dアニメーションの中から個別選択可能なグラフィックス、ゲーム内では現実の三倍の速度で時が進むという時間の乖離性を謳う常識外れの高性能ゲーム。

 大学進学を推薦で早々にパスし、暇を持て余した俺達(・・)は、結果とうとうこのゲームに手を出した。

 

「じゃあ設定を選択してね~」

 

 そこから始まった設定選択では、アバターは現実と変わらない体格と性別にし、見た目は現実の顔をベースに西洋風にいじった。アイツと待ち合わせているのがアルター王国という西洋世界観の国だからそのへんは世界観に合わせねばと思った。

 グラフィックはアニメを選択し、初期武器は何となく使いやすそうなナイフを選んだ。

 

「最後に名前を教えてね~」

 

「・・・ん、じゃあ”セブン”で」

 

「なんか珍しい名前だね。なにか思い入れでもあるの~?」

 

「いや、ただ本名にかけてるのもあるし・・・」

 

 なんかこの理由言うのは少し恥ずかしい気がするけど・・・まぁいいか。

 

「俺、TRPGが好きなんだけどさ」

 

「うん?」

 

「ダイスの目って1から6までじゃん?」

 

「うん」

 

「だから”運命に左右されない”、”運命を越える”って意味合いで(セブン)。ダイスを越えた数字で」

 

 そう聞くとチェシャはにやっと笑ってこう言った。

 

「いいね、そういう考えは嫌いじゃないよ~」

 

「そうか、ありがとよ」

 

「・・・それじゃあセブン、準備はいいかい?」

 

「もちろんだ!いつでも来い!」

 

「それじゃあ改めて・・・」

 

 

 

 

「<Infinite Dendrogram>へようこそ。“僕ら”は君の来訪を歓迎する」

 

 

 

 

 その瞬間全てが消え去った。

 

「・・・え?」

 

 

 机も、書架も、チェシャも、ついでに床さえも。

 

「この覚悟はできてなかったぁぁぁぁああああ!!」

 

 こうして俺は<Infinite Dendrogram>へ足を踏み入れた。

 

 

□王都アルテア噴水前 セブン

 

「さっきはびっくりしたわ・・・」

 

 まさかいきなり高所からの自由落下を味わうとは思わなかった。

 それで死ぬことはなかったものの心臓に悪い。

 

「さてさて、待ち合わせ場所についたがKJはいるかな~っと」

 

 リアルでのアイツのあだ名を口にしつつ、落ち合う予定だった噴水の前で姿を探す。

 

「いや待てよ、アイツもキャラメイクしてんだからどうやって探せばいいんだ!?」

 

 取り合えず、それっぽい奴にかったっぱしから「KJですか?」って聞いて回るか?

 そんなことをとりとめとなく考えてくると、噴水の前にたたずむ一人の男に気が付いた。

 中背で少しやせ型、おとなしそうな日系の顔立ちに黒ぶちメガネかけた、高校生くらいの男だ。その見慣れた姿に安堵した俺は、さっそく話しかけようとs・・・・・・。

 

 ・・・・・・見慣れた(・・・・)姿()??

 

 その強烈な違和感のなさに違和感を覚えた俺は、一気にその男に詰め寄り、胸倉をつかむ。

 

「・・・おいてめぇ、ちょっとツラ貸せよ」

 

「え!?ちょ、誰!?」

 

 混乱するソイツを無視し、そのままズルズルと手近な路地裏に引っ張っていく。

 そして周りに人眼がないことを確認した俺はこう切り出す。

 

「おいKJ(・・)、リアルの顔のままVRMMO始めるとか、てめぇ馬鹿なのか!?」

 

「・・・え、ひょっとして七崎?」

 

 いやリアルの名前口走ってんじゃねえよ。

 

「ここではセブンと呼べ」

 

「じゃあオレは、コルヴァスと」

 

「OKコルヴァス。じゃあ改めて、お前は馬鹿なのか? リアル割れしたらどうすんだ!?」

 

 この<Infinite Dendrogram>はかなりリアルなゲームだ。その分リアル割れの脅威も高い。それなのにこの馬鹿は!

 

「いや~途中で面倒くさくなっちゃって、キャラメイクが」

 

「あのくそ猫、注意喚起ぐらいしろや!職務怠慢だろうが!」

 

「猫? ウサギじゃなくて?」

 

「・・・あん?」

 

 担当AIが俺とコイツで違ったのか?

 

「いや、もうお前これからどうすんのさ」

 

「このまま始めるよ?」

 

「・・・・・・正気?」

 

「正気」

 

 おい、その「何当たり前のこと聞いてんだよ」的な顔やめろ。

 殴りたくなるだろ。

 

「ささ! さっそくゲームを楽しもう? そんなことに時間割いてないでさ!」

 

「いや、そんなことじゃねえよ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 ―――この物語は、俺の物語ではない。―――

 

 

 

 

 

 

 

 ―――この物語は、俺達の物語だ。―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そして、目の前でアホ面下げてるコイツが、<超級>(エイユウ)へ至る物語だ。―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・to be continued

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、第1話「ランウェイビギナーズ」
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