<Infinite Dendrogram>~王国の双獣~   作:烏妣 揺

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【Edgarがモンハンワールドの為にアップを始めました】
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第9話「ローグ・フェネクス」

第9話「ローグ・フェネクス」

 

□<イースター平原> 【疾風騎兵】セブン

 

「イベントだと? そんなもの運営に任せとけよ、お前は何様だ?」

 

「そう言われると立つ瀬がないな。でもまぁ、私にそうするチカラがあるのに何もしないのは、むしろ怠慢といえなくもないかね?」

 

「怠慢? 高慢の間違いだろ?」

 

「ははっ、これは手厳しい」

 

 そう言って奴はその手をテーブルにかざす。

 すると、テーブルと椅子はおろか、ティーセットまでもが瞬く間に奴の手の中へ吸い込まれた。

 

「「な!?」」

 

「ん? TYPE:ボディの<エンブリオ>を見るのは初めてかね?」

 

 TYPE:ボディだと?

 そんな<エンブリオ>のタイプがあるなんて聞いたことが無い!

 

「まぁ、私もこのタイプは私含めて三人しか知らないから当然かもしれないが」

 

 そう奴は言って両手を高らかに広げる。

 

「私の【悪性蒐集マモン】は、私自身の身体が(・・・・・・・)容量無限のアイテムボックスと化す(・・・・・・・・・・・・・・・・)<エンブリオ>だ。まぁ、その副次効果の方がメインでもあるのだがね」

 

「副次効果?」

 

装備枠の無制限化(・・・・・・・・)

 

「なんだと!?」

 

 なんだその破格の性能は!?

 弱点をカバーしたり、特殊効果をもたらしたり、状態異常を無効化するマジックアイテムをも無制限に装備できるとか、まさしくチートにもほどがある。

 

「まさか、お前<超級>か!」

 

 <超級>とは、到達形態:Ⅶの所謂<超級エンブリオ>を持つ<マスター>たちの総称だ。その人数は、デンドロ全体の0.01%程度といわれてる。全ての<マスター>の頂点といわれる存在だ。

 

「いかにも、私は<超級>だ」

 

「―――」

 

 ―――勝ち目が、ない。

 今だ<エンブリオ>が上級にも至っていないルーキーには、荷が重すぎる。いや違う、その”荷が重い”だなんて言葉すら生ぬるい。勝負にすらならないし、奴が本気を出せば、逃げることすら叶わないだろう。

 頬を冷たい汗が流れ落ちる。先に動いても後がない、かといって奴の動きを見てからでは致命的に遅すぎる。

 完全な”詰み”だ。一矢報いる術すらない。どうする、どうする―――

 

「さきほども言ったが、私に戦う意思はない。君たちにプレゼントがあるだけだ」

 

「その言葉を素直に信じるとでも?」

 

「私の言葉が嘘でないことは、セブン君が一番よくわかっているのではないかね?」

 

 確かに、言葉に嘘があるなら《真偽判定》に、敵意があるなら《殺気感知》に反応があるはずなのにそれがない(最も俺程度のレベルなら騙くらかすのも容易だろうけど)。

 そもそも、何かしでかすのならとっくにしてるのであろう。

 

「まぁ、警戒自体は間違ってないからそのまま続けてくれ」

 

 そう言うと奴は、手のひらを上に向けこちらへ向かって差し出した。

 すると手の平からにゅるんと赤い水晶のような珠が現れた。

 

「これは、黄河の誇る国宝で中に<UBM>が封じ込められている」

 

「<UBM>?」

 

 コルヴァスは訳が分からないような顔をしていた。

 まぁ、多分訳が分かってないのだろう。アレのヤバさが。

 このデンドロ(ゲーム)には<U(ユニーク)B(ボス)M(モンスター)>というものが存在する。

 世界に一体だけしか存在しないモンスターの突然変異体。例外なく高い戦闘能力を秘めた特殊個体。

 だが、その真価は別のところにある。

 

「君たちには、”特典武具”をプレゼントしよう。なに、私が開いた”殺人鬼討伐イベント”のクリア報酬とでも思ってくれて構わない」

 

 そう、その真価とは<UBM>討伐時に最も貢献度の高い<マスター>に贈られる”MVP報酬”。その<UBM>の能力を本人にアジャストした形で再現された性能をもつ特殊アイテム”特典武具”。

 その破格の性能、そして何より<UBM>自体の強さ希少さによって”特典武具”を欲しがる<マスター>は多い。半ばステータスになっているといっても過言ではない。

 

「―――まぁ倒せればだけどな」

 

 最弱の<UBM>である逸話級ですら上級職と<上級エンブリオ>と互角以上らしい。

 そんなのをいまだ<下級エンブリオ>である俺たちが倒せるのかは甚だ疑問だ。

 

「その辺は考慮してある。珠の中の<UBM>は長い時間封印されていた影響で弱ってるし、クラスも逸話級(最弱)だ。それに君たち―――というかコルヴァス君とは非常に相性がいい」

 

「え、オレ?」

 

「まぁ、”百聞は一見に如かず”かな」

 

 そういうと奴は―――【大怪盗】___(ナナシ)は、珠を地面に叩き落とした。

 すると中から光と共に何かが出てきた(・・・・・・・)

 

「構えろ!コルヴァス!」

 

 ソレは光が収まらないうちにコルヴァスに向かって突進を仕掛けてきた。

 しかし接触する寸前にアタランテが体当たりをかまし、狙いを反らす。

 ソレはコルヴァスのすぐ横を通過し、上昇旋回。俺たちの真上でとうとうその異様を現した。

 

『GuuuuuEeeeeeeeeeeeee!!』

 

 ソレは虹のグラデーションをした真紅の羽を持ち、孔雀のような長く美しい尾羽を持った全長10m前後の酷く醜い(・・・・)巨鳥だった。

 ぎょろりとした濁った眼は二対四つ、アンバランスな太く醜い嘴からは絶えず涎のようなものが垂れている。

 その頭上には【虹羽魔鳥 ローグ・フェネクス】というウインドウがあった。

 

「―――ならず者(ローグ)()不死鳥(フェネクス)

 

「うむ、いいのが出たな」

 

 そういってうんうんとうなずく___(ナナシ)

 

「それでは私はこの辺で失礼するよ。健闘を祈る」

 

 ___(ナナシ)はマントを翻す。するとまるで消しゴムで消したかのように奴の姿は瞬く間に掻き消えた。

 

「え!? な、消えた!?」

 

「おそらく何かマジックアイテムの効果だろう」

 

 いや、それとも”特典武具”か。

 奴ほどの相手なら複数の”特典武具”を所持していても不自然ではない。むしろ、どんなアイテムを所持しているかが強さに直結するのだからそう考えるのが自然な相手だ。

 

「それより先にこのくそ鳥の相手だ!」

 

「あ、あぁ! 初心者の狩場にこんなの置いとけないからな!」

 

 そういって上空の【ローグ・フェネクス】を睨む。

 ヤツもこちらをじっと睨むと、大きく息を吸い始めた。

 

「何か来るぞ!」

 

「任せろ!」

 

 俺は急いでコルヴァスの隣へ―――アタランテの守護圏内へ移動した。

 

「アタランテさん、《ワイド・ガード》!!」

 

『了解です!』

 

 アタランテは俺たちの前に立ち、俺たちを囲むように半透明のバリアのようなものを張った。

 これはアタランテがⅢに進化した時に獲得したスキル《ワイド・ガード》。このバリア内にいる味方への攻撃全てをアタランテが身代わりになって受けるスキル。

 《ワイド・ガード》の展開が完了したのと同時に、【ローグ・フェネクス】は咆哮した。

 

『Gigigigig―――Gieeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!!!』

 

 それはただの咆哮というより大咆哮といった方が差し支えないほどの声量だった。

 

『ぐっ!』

 

 あまりの声量に俺たちが耳を塞ぐ中、アタランテが少しのけぞる。

 

「アタランテさん、大丈夫?」

 

 

『だ、ダメージは伴ってないので問題ないです。それどころか―――』

 

「それどころか?」

 

『―――この攻撃は私たちにとって僥倖(・・)です』

 

「何?」

 

 それはどういうことだと俺が聞き返す前に、【ローグ・フェネクス】が苦しみだし、挙句墜落した。

 

「・・・は?」

 

『今の咆哮には【衰弱】の状態異常を付与する効果がありましたの。ですから―――』

 

「それを反射した、と?」

 

「奴の言を信じるなら、珠の中で弱体化してたのを更に【衰弱】で弱らせたと・・・」

 

『そうなりますわ』

 

 ・・・・・・何だろう、都合良すぎて釈然としないこの気持ち。

 そして名前。”フェネクス”だろ?

 フェネクスってのは、悪魔化したフェニックスをさす言葉だ。それなら咆哮に【衰弱】の状態異常付与があっても不自然ではないが、悪魔(・・)ってことは―――。

 

「アタランテ」

 

『どうしました、セブンさん?』

 

「アイツに《聖なる焔よ、魔を照らせ(セイクリット・フレア)》やってみて、多分効く(・・・・)

 

 《聖なる焔よ、魔を照らせ(セイクリット・フレア)》は、魔属性・アンデット特攻。もし【ローグ・フェネクス】が文字通りの悪魔型だった場合は―――

 

『《聖なる焔よ、魔を照らせ(セイクリット・フレア)》!!』

 

『GuGiyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!』

 

 【ローグ・フェネクス】は瞬く間に蒼い焔に包まれた。

 

「―――ほーら、効いた」

 

「うぁ~、よく燃えるなぁ」

 

 あまりにも簡単すぎてコルヴァスが若干引いてる。

 いやもう、相性いいにもほどがある(・・・・・・・・・・・)

 

 

 そこからは、もう《聖なる焔よ、魔を照らせ(セイクリット・フレア)》を連打するだけの簡単なお仕事だった。

 

 

 ・・・・・・俺、なんもしてねー。

 

 

□<イースター平原> 【従魔師】コルヴァス

 

 アタランテさんのMPが枯渇する寸前まで《聖なる焔よ、魔を照らせ(セイクリット・フレア)》を撃ち続けると、とうとう【ローグ・フェネクス】は動かなくなった。

 

【<UBM>【虹羽魔鳥 ローグ・フェネクス】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【コルヴァス】がMVPに選出されました】

【【コルヴァス】にMVP特典【虹羽蘇生 ローグ・フェネクス】を贈与します】

 

 そんなアナウンスが流れ、アイテムボックスに一個のアイテムが送られた。

 さっそく取り出してみると、それは虹色に輝く羽飾りのついたイヤリングだった。

 せっかくなのですぐにつけてみる。

 

「・・・・・・似合う?」

 

『よくお似合いですわ』

 

「ありがとう、アタランテさん」

 

 今回の戦いは、まさしくアタランテさん様様だった。

 《聖なる焔よ、魔を照らせ(セイクリット・フレア)》しかり《カースド・リフレクション》しかり、完全に依存してしまった。ちょっと反省だな。

 

『いえ、私はコルヴァスのチカラそのものなので反省なんてする必要はありませんよ』

 

「・・・・・・そうかな?」

 

「そうだ」

 

 そこで隣を見ると少し釈然としないような顔をしたセブンがいた。

 

「そこは誇っていい、初”MVP”おめでとう」

 

「・・・・・・ありがとう」

 

「次!次<UBM>とあったら今度は俺がMVP取るから覚悟しとけよ!」

 

 そんな負け惜しみを言うセブンの後ろで今だプスプスと焦げた音を立てる【ローグ・フェネクス】。

 ―――ん? 今だに(・・・)

 

「おい、セブンおかしくないか?」

 

「どうした?」

 

「【ローグ・フェネクス】が、まだ消えない(・・・・・・)

 

 通常のモンスターならとっくに光になって消えてしまうはずなのに・・・。

 

 

 そう思った瞬間、【ローグ・フェネクス】の頭上に新たなウインドウが出現する。

 

 

「距離をとれ!セブン!」

 

「!?」

 

 セブンが慌てて距離を取ったのと同時に、死んだはずの【ローグ・フェネクス】に変化が起こった。

 虹のグラデーションのかかった美しい真紅の羽が、まるで侵食されるかのように黒く染まっていく。

 そして閉じていた瞳がカッと見開かれる!

 

「な!?」

 

「―――そうか、これが不死鳥(フェネクス)の要素か!」

 

 納得したようにセブンが叫ぶ。

 そう不死鳥とは誰かを癒す能力がある幻獣と思われがちだが、その真の特性は別にある。

 ソレは、死した時に(・・・・・)燃え上がり灰となり(・・・・・・・・・)その灰の中から新生する(・・・・・・・・・・・)という生まれ変わり(・・・・・・)のチカラ!

 

 そして再び立ち上がった奴のウインドウにはこう表示されていた。

 

 

【黒羽怪鳥 ローグ・フェネクスⅡ】

 

 

 珠の封印で弱っても居なく、【衰弱】を受けてもいない、逸話級(本来)のスペックを取り戻した<UBM>(バケモノ)がそこにいた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・to be continued

 

 

 




次回、第10話「ローグ・フェネクスⅡ」(1/27 12:00更新予定)
 
 バトルは次回が本番。そして11話で一章が終了します。

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