<Infinite Dendrogram>~王国の双獣~ 作:烏妣 揺
第13話「ビーストモード」
□<ノズ森林> 【疾風騎兵】セブン
「ネメアー、《チェンジ:ビースト》!!」
そのスキルを発動させた瞬間、ネメアーに劇的な変化が現れた。
各装甲や機構が可変し、ホイールは強靭な四肢に、前面の装甲は鋼の鬣に―――
『Gurururu・・・』
―――そして全ての可変が終了した時にそこにいたのは、一機の鋼の獅子だった。
「―――ほう、なるほどTYPE:ガーディアンギアか」
TYPE:ガーディアンギア。
それは、主を守るモンスター型エンブリオであるガードナーの進化カテゴリーであるガーディアと、騎乗できるマシーン型エンブリオであるチャリオッツの進化カテゴリーであるギアの
つまるところ、自立稼働できる騎乗兵器だ。
新たに取得したスキル《チェンジ:ビースト》でガーディアン形態であるビーストモードに変形したネメアー。
この新たなネメアーで挑む!!
「行くぞHERO!!」
「こいや、セブン!!」
「《
『Guraaaaaaaaaaaa‼』
初手から《
その攻撃をHEROは反対側に大きく回避行動をとることでかわす。
いくら速かろうとも、やはり単純な直線攻撃では、ベテランには届かないか。
「なら、これならどうだ!」
この形態になることで得られた高い旋回能力を使い、急速旋回。近くの木に飛び込む。
そのまま、HEROの周囲を回るように木から木へ高速で飛び回る。
「あの図体で、ここまでのスピードと柔軟性をだせるのか―――!?」
そして今度は右斜め後方から飛び掛かる。
今度は右足に爪がヒットし、赤い血がエフェクトと共に宙を舞う。
「―――そこ!」
しかしその瞬間、HEROの双斧が煌めきネメアーの左後脚を切りつけた。
その衝撃に着地の起動がずれて失速するも、すぐさま態勢を立て直して着地し、すぐに近場の木へ飛び移る。
ビーストモードのネメアーはビークルモード時よりも耐久値が低い。通常なら、アレで走行に支障が出たかもしれない。
―――そう、
□<ノズ森林> 【大狩人】HERO
おかしい。
戦いが始まって数分。おれはこの戦いの異常さに段々と気づいてきていた。
まず、セブン。奴はやたらめったら動き回って攻撃を仕掛けてくるが、カウンターをその都度仕掛けているため問題ない。
だが、その攻撃が一向に効いている気配がない。
エンブリオ、本人問わずカウンターで攻撃しているが、その都度赤と青の炎のようなエフェクトが入るだけで、ダメージが通らない。
このデンドロはやたらとリアルで、部位を攻撃して傷を負わせればその分動きに支障は出るし、HP満タンでも首が飛ぶとかの現実でも致命傷になる傷を負えば問答無用で死亡する。
それなのに、左後脚を集中攻撃しているはずなのに、一向に動きが鈍らない。
不可解なことはもう一つある。
それは、もう片方の相手であるコルヴァスだ。
奴はセブンとは対照的に、この戦いが始まってから
相棒である美少女エンブリオすら微動だにせず、こちらの戦いを静観してる。
普通、二対一で戦ってるんだから加勢しないか!?
全く訳が分からない、どうなってるんだこれ??
そんなことを考えているうちにまた、おれにネメアーの爪がヒットする。すかさずネメアーの左後脚にカウンターを当てるがまた赤青の炎がほとばしるだけで何も―――。
―――いや、今視界の端で何かが見えた。
まさか、という考えが脳裏を過る。
確かめねばなるまい。そう考えて次のカウンターを狙う。
―――来た!!
「そこだ!!」
そういって、今度は攻撃を避けネメアーの胴体を袈裟斬りにすると、派手に二色の炎が舞う。
そしてすぐさま視線をコルヴァスたちに向けると―――
―――コルヴァスのエンブリオである少女の身体にも同じ部位に蒼い炎のエフェクトがかかっていた。
「お前! コルヴァス!!」
これで確信する。コイツらの手口を。
「自分のエンブリオに、
□<ノズ森林> 【疾風騎兵】セブン
「ちっ、ばれたか」
HEROがようやくこのからくりに気付いたようだ。
このからくりの正体はコルヴァスもといアタランテの新スキル《ダメージスワップ》。
その効果はHEROが言った様に味方のダメージの肩代わり。ただ、効果範囲は視界で、メイデン形態でしか使えないデメリットがある。
そのからくりが分かったHEROの行動はシンプルだった。
「なら、先にお前を潰す!!」
コルヴァスをさきに仕留めようと駆け出すHERO。
―――が、俺もコルヴァスも焦る様子はない。
何故なら、コルヴァスには―――
『させませんわ!』
―――優秀な守護者が付いているからだ。
即座に聖獣形態に変身したアタランテがHEROに飛び掛かり、行動を阻止する。
少し動きが止まった隙をついてネメアーの豪爪が走る。
「くそっ!!」
双斧によるクロスガードでそれを防ぐHERO。今度はカウンターをかます余裕はない。
そしてまた木々の間へ飛び移り、HEROの周囲を細かく飛びまわる。
「コルヴァス、アタランテ作戦をBへ移行」
「了解! アタランテさん!」
『かしこまりましたわ、《ワイド・ガード》!』
周囲に《ワイド・ガード》の空間が広がる。その空間の範囲は、以前とはくらべものにならない。俺たちの戦闘区域を丸々覆いつくし、空間内で起こる状態異常攻撃と、更に魔法攻撃はすべてアタランテの方へ向く。
・・・まぁ、HEROがその攻撃をするとも思えないが、念のため。
最初の作戦Aは、《ダメージスワップ》を用いた役割分担をした作戦。次の作戦Bは、アタランテも攻撃に参加して積極的に攻撃チャンスを作っていく作戦。
アタランテはスピードこそないもののパワーファイターだ。その一撃は無視できない。
「ぐぉおおおおお!!」
飛び掛かったアタランテを横にいなしたところに、死角から俺が襲い掛かる。
「二対一でこんなに苦戦するとは、正直舐めてたぜっ!?」
「やーいひーちゃん舐めプ乙ぅ!」
「ひーちゃんやめい!」
横でサフィラがヤジを飛ばし、それに返すHERO。
「まだまだ余裕だな! いいぜ、その余裕全部削りきってやる!」
以前、俺たちは
―――そう、アレは事実上の完敗だ。
全て奴の手のひらの上で転がされ、俺たちの意志まで操作され、思惑通りに動かされた。
これを敗北といわずして―――屈辱といわずして何というのだろうか?
奴からの接触は今回で終わりではないだろう。絶対に次がある。
その時こそは、奴の思い通りにはならない。
そのためには力が必要だ。
いきなり<超級>を倒せるだけの力は望まない。だが、せめて二人合わせて上位の<マスター>を打倒できる程度の力は必要だ。
そうでなければ、奴の思惑を越えることなどできない。
だから、これはチャンスだ。
今の俺たちの実力を知るために、あれからの俺たちの成長を知るために、今の俺たちがあとどのくらいでアイツに届くかを知るために!!
だから―――
「―――だから、全力で行くぞHERO。出し惜しみは無しだ、俺たちはお前を越えて、さらなる高みへ行ってやる!!」
そう言って、背後から飛び掛かる。
狙うは首。必殺の一撃を喰らわせる!
「―――ルーキー上がりが調子乗るなぁぁぁあああああああ!!」
「なぁ!?」
その攻撃は見事にガードされる。
そして今度は
紙一重で避けるが、失速。地面に着地する。
「お、やっと地面に足をつけたな」
「―――その姿は」
「―――テセウス・第二形態!!」
・・・to be continued
次回、「テセウス」(2/28 12:00更新予定)。
ちなみに、ネメアー:ビーストモードは、瞬発力と柔軟性、旋回能力に優れ、ビークルモードは、速度と防御力に秀でています。
ビーストモードは上位互換ではないので、使い分けが重要ですね。