<Infinite Dendrogram>~王国の双獣~ 作:烏妣 揺
TYPE:ガーディアンギア 到達形態:Ⅳ
固有スキル
《インパクト・レジスター》Lv4:パッシブ
自身が受ける衝撃ダメージを軽減する。
《ランウェイ・ブースト》Lv4:パッシブ
自身の攻撃時、その時の最高速度の分だけ与えるダメージを上乗せする。
《
使用後、瞬時に自身の最大速度に達する。
《チェンジ:ビースト/ビークル》:アクティブ
形態をビーストモード/ビークルモードに変形する。このスキルの使用にSPは消費しない。
第14話「テセウス」
□ 数日前 王都アルテア 宿屋 【疾風騎兵】セブン
「―――いいか、コルヴァス。アタランテの種が割れたら奴は必ずお前を狙いに来る」
「うん」
「だからその時は迷わずアタランテ、お前が守れ。そんでもって《ワイド・ガード》を戦闘区域いっぱいに広げながら戦え」
「そうすれば、セブンさんの状態異常も肩代わりしながら戦えますわね」
「あぁ、あのくそ怪盗のことだ。状態異常系スキルぐらい持ってるだろう」
「でも、アタランテさんに状態異常効かないのは向こうもわかってるはずだよね?」
「それでも、牽制にはなる」
「なるほど」
「そしてこっからがこの作戦の肝だ。アタランテが致命傷を受けそうになったら―――」
□<ノズ森林> 【大船長】サフィラ
「―――テセウス・第二形態!!」
<ノズ森林>で行われている入団試験(という名のHEROのわがまま模擬試合)は、とうとうクライマックスに差し掛かった。
終始劣勢だったHEROが攻勢に出るためにテセウスを変化させたのだ。
HEROの<エンブリオ>である【轟天戦斧テセウス】はその進化に応じて新たな姿に―――武器種になっていくタイプのエンブリオだ。
テセウスの到達形態はⅤ。つまり5つの姿を有している。
一つは手数とスピードに優れる第一形態・双斧、もう一つは攻防のバランスの取れた第二形態・片手剣。
「―――っ!」
セブン君が咄嗟に距離を取ろうとネメアーで大きくバックステップを取ろうとする。
「させるか!」
それを感じ取ったHEROは盾をブーメランのように投擲する。
足元を狙ったそれは見事に命中し、逃亡を阻止。
その間に走ったHEROはセブン君に肉薄、首元にその刃を突き付ける―――!
「ぐっ!?」
それをセブン君は、《瞬間装備》で手にした鎖鎌のような武器で紙一重に防ぐ。
ギリギリとつばぜり合いを演じている二人。・・・これは非常にまずい。
「セブン君が圧倒的に不利だ」
セブン君のジョブ運用はエンブリオに特化していて、エンブリオ抜きの生身のステータスはレベルに比べて下回っている。
生身で戦うことを前提のビルドをしているHEROとの自力の差は天と地ほどにある。
それでも今まで優勢でいられたのは―――
「おい、どうした後輩?さっきより攻撃に威力もキレもないぜ?」
「うるせぇな!」
「もしかして、
「―――!」
―――そう、その通りだ。
事前に手の内を聞いていたから知っていたが、ネメアーの攻撃は《ランウェイ・ブースト》というスキルに依存している。これは速度が出ているほどに攻撃力が上がるスキルだ。
だからこそ、今のような足を止めての斬りあいには致命的に向いていない―――!
「ならその隙をつかせてもらう! テセウス・第3形態!!」
HEROのその声に合わせて、盾と剣が光り、可変し一つになる。
光が収まった時にそこにあったのは巨大な―――HEROの身の丈ほどもある大剣だった。
そしてHEROはその大剣を大きく振りかぶり―――。
「まずい! ネメアー!!」
―――振り下ろした瞬間、咄嗟にセブン君はネメアーを紋章に収納し、自身は大きく横へ横転して避ける。
大剣はそのまま、ドゴンという大きな音を立てて地面を大きく抉る。
もし、今ネメアーをしまわずに防御しようとしてたら、ネメアーごと真っ二つになっていたことは明白だった。
『!? セブンさん!』
コルヴァス君のエンブリオであるアタランテが、ピンチのセブン君のフォローをするためHEROに飛び掛かるも、HEROは体幹をずらしただけで易々と回避し、その動きから流れるような動作で遠心力を用いた重い一撃を喰らわせる。
『ぐぅあああああ!!』
その攻撃は脇腹に命中し、獅子の巨体を易々と吹き飛ばす。
「アタランテさん!!」
吹き飛ばされたアタランテは、木の幹に激突。それと同時に【骨折】の状態異常を得てしまう―――!
「よし、先にてめぇを仕留める」
そう宣言してHEROは大剣を引きずりながらゆっくりとアタランテの方へ歩みを進める。
その姿はまるで死刑執行人の様だ。
「―――これで終わりだ!」
そして必殺の間合いにたどり着いたHEROは、大剣を大きく振りかぶり袈裟斬りに振り下ろす―――!
―――その瞬間!
「【キャスリング】!!」
突如コルヴァス君が【キャスリング】を発動。
コルヴァス君とアタランテの場所を入れ替える!?
「―――え?」
「なぁ!?」
大剣はそのままコルヴァス君をたたき切り、コルヴァス君のHPが全損した―――。
□<ノズ森林> 【疾風騎兵】セブン
「・・・まさか、こんなことになるとはな」
うずくまるコルヴァスを見下しながら、HEROはそう言った。
「うん、咄嗟に庇ってしまうお前の気持ちはわかるが、そいつはお前のエンブリオだろ? エンブリオをマスターがかばってどうすんだよ」
その眼には呆れと失望が浮かんでいた。
「さて、セブン。頼りの相棒はいなくなっちまったけど、まだ続ける? 正直興が削がれちまったんだが?」
「―――いや、最後までやるよ」
「ほう?いい心がけだな」
「それに―――」
「それに?」
「
そう言って俺は獰猛に笑う。
「ほう、言うじゃねぇか!気に入ったぜ!」
返す言葉でHEROも不敵に笑う。
そう、これは勝てる試合だ。
何故なら、俺の―――いや、俺たちの作戦はまだ頓挫していない。
むしろここが大詰めだ!!
俺は『ハーフマンティス』を構えてじりじりと間合いを見極めながら少しずつ横に移動する。
それに合わせて、大剣を構えたHEROも対角線上にじりじりと移動する。
ここが勝負の正念場だということを俺もHEROも感じていた。
―――まぁ、その意味は俺とHEROでだいぶ違うがな!
「今だ! やれ
「・・・は?―――なぁぁぁあああああああ!!」
HEROの背後から突如襲ってきた白い雌獅子は容赦なく無防備な首筋に嚙みつき―――
―――それをへし折った。
□<ノズ森林> 【高位従魔師】コルヴァス
「―――あ、終わった?」
「おう、勝ったぞ」
うずくまっていた地面から顔を上げると勝負は決していた。
アタランテさんがHEROの首に嚙みつき、へし折ったことによる即死。それによる救命ブローチの発動がこの勝負の決着だった。
「―――いやいやいやいや、待て待て待てやゴルァ!!」
その結果に納得いかないのは不意打ちでブローチを砕かれたHEROだ。
「反則じゃん!死んでたじゃんコルヴァス!」
HEROはカンカンに怒っていた。
何故?・・・とは、とぼけていられないな。
「コルヴァス、ネタ晴らしするぞ」
「あいあい」
そう返事して立ち上がり、HEROに見えやすいように胸を反らす。
「―――あ、あれ?」
そこには、
「い、いや確かにHP削りきったはず・・・」
困惑するHEROとは対照的にサフィラさんは、はっとした顔をしてポンっと手を叩いた。
「あ、私わかった」
「な、なにぃ!!」
「じゃあヒント、コルヴァス君をよく見て」
「・・・ん?」
「
あ、どうやらサフィラさんは本当に理由に気付いたっぽい。
「・・・あ、イヤリング」
「正解」
HEROが気づいたように、オレがつけていたイヤリングが砕けていた。
そのイヤリングの名は【虹羽蘇生 ローグ・フェネクス】。
あの不死の魔鳥、【虹羽魔鳥 ローグ・フェネクス】の特典武具。
「効果は、『死亡時に、HP三分の一の状態で自動蘇生する』ことです」
全てはセブンの考えた作戦だった。
アタランテさんがとどめを刺される直前で【キャスリング】で庇ったのは、【虹羽蘇生 ローグ・フェネクス】を発動させるため。
倒された後うずくまっていたのは、胸の救命ブローチが砕けていないことを隠すため。
セブンが強気な発言をして挑発したのは、オレとアタランテさんをHEROの眼中から完全に消し去るため。
にらみ合いながらじりじりと移動してたのは、自然なていを装ってHEROを【キャスリング】で移動していたアタランテさんの間合いに誘導するため。
―――全部、セブンの考えた作戦だった。
「――――――」
そのことに気が付いたHEROは絶句する。
「・・・まぁ、HEROはハンデつけてたし、今回はコルヴァス君たちが一枚上手だったということで」
サフィラさんがそういってまとめようとしたその時だった。
「―――は」
「「「は?」」」
「ははははははははははははははははははははは!!!!」
突如、HEROが壊れたかのように笑い出した。
「―――いいじゃねぇか、セブン!コルヴァス! 二人とも合格だ!!」
「あ、ありがとうございます・・・?」
「よし、じゃあ
「なぁ!?」
そういって大剣を構えなおすHERO。
「ちょ、ちょっとHERO!これで終わりでしょ!?」
「あん? あぁ終わったよ、だからまた始めるんだろうが!」
「え、えぇ!?」
その眼は血走り、今にもオレたちに飛び掛かる寸前といった様子だ。
「待って、HEROの分のブローチないんだよ? デスペナなったらどうすんの!?」
「構うものか!!」
HEROは叫ぶ。
その声には戦いの高揚が―――歓喜がにじんでいた。
「血沸き肉躍る戦いが目の前にあるんだ、ここで黙って引けるか!! ここで引いたら男が廃るわ!」
「HERO今女じゃん!?」
「うるせぇ、こまけぇこたぁいいんだよ!!」
「え、えぇ!?」
HEROの暴走に困惑するサフィラさん。
正直、オレも困惑してる。
「なぁ、どうするセブーーー」
「―――やってやんぞゴルァ!!」
あ、ここにも頭に血が上ってるのが一人。
「テセウス!! 変形! 必殺形態!!」
HEROの持つ大剣が光に包まれ、また姿を変える。
そしてその光の中から現れたのは、先ほどまでの大剣と遜色ないほど巨大な戦斧。
しかし、その戦斧から放たれる威圧感、圧迫感は今までのどの形態ともくらべものにならない。
「ちょ、HEROそれシャレになんない!
「知ったことかぁぁぁあああああああ!!」
駄目だ、サフィラさんの言葉が完全に届いていない。
完全な暴走状態である。
「・・・アタランテさん、あれ受けきれると思う?」
『ちょっと厳しそうですわ』
「ダヨネー」
所詮オレらはまだ上級上がりたて。できることと、できないこと。限界は結構早く来るのである。南無~。
「なら、発動前にデスペナにしてやんよ、ネメアー!!」
そしてここに爆心地に突っ込もうとしているのが一人。
そしてHEROが必殺スキルを発動させようとしたその時―――
「おら、《
「《クリムゾン・スフィア》!!」
「「ぎゃー!!」」
突如、巨大な火球が出現し激突寸前だった二人を飲み込んだ。
「―――ほっ、間に合ったかコロネさん」
「間に合ってよかったですねコロネ先輩」
「一応火加減はしたから死んでないはずー」
「ナイス」
そういって森林の影から二人の人物が現れた。
一人は、派手なフリルのあしらわれた原色のドレスを着て、お菓子のようなデザインの杖を持った少女。
もう一人は、前者と比べるとインパクトが薄めの、RPG初期主人公みたいな普通の格好をした大柄な青年。
「・・・あの、サフィラさんこっちの人達は?」
するとサフィラさんは、はっとした顔をしてこう紹介した。
「こっちの派手なのがチョココロネ、地味なのが
「初めましてー、ボクは【紅蓮術師】をしてるチョココロネですー」
「えっと、初めまして。【養蜂王】の黒郎賛です」
『! 貴方が噂の―――』
アタランテさんがそう言うと、【養蜂王】黒郎賛は何故か申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「いやまぁ、そうなんですが。周りが勝手に騒いでるだけなので、ちょっと噂って苦手です」
・・・なんだろう、何となくだけどこの人とは仲良くなれそうな気がする。
「もしもHEROが暴走した時に私だけじゃ止めきれないかもって思って呼んどいたの」
そういうサフィラさんの予感は的中したのか。
若干一名、巻き添え喰らった気もするが―――
「―――ま、いっか」
「兎にも角にも、HERO先輩のこじつけ入団試験ご苦労様でした」
「いや、まぁ楽しかったから大丈夫」
黒郎賛のねぎらいの言葉に、そう返す。
実際、マスター相手にここまで本気の戦いってしたことなかったから新鮮で楽しかったのは事実だったり。
でもまぁ、しばらくはいいや、うん。
「それじゃあ、障害もなくなったところで―――」
「ようこそ、クラン”クイーンホーネッツ”へ! 私たちはあなた方を歓迎します!!」
こうしてオレたちはクラン”クイーンホーネッツ”に所属することとなった。
閑話休題。
そんな会話をしてる後ろで、プスプスと音を立てて焦げてる二人に気が付いて、慌ててヒールをかけに行ったのはもう少し後のことだった。
・・・to be continued
次回、第15話「クローズドシティー」(3/10 12:00更新予定)
ちなみに今回の戦いでHEROがエンブリオのスキルを使用しなかったのは、テセウスには使い勝手のいい小技的なスキルがほとんどなく使いどころがイマイチなかったから、そしてMPが少ない関係上温存してたからでもあります。
HEROや他メンバーのエンブリオに関しては次回以降をお楽しみに。