<Infinite Dendrogram>~王国の双獣~ 作:烏妣 揺
□王都アルター南門前 【斥候】セブン
「よし! ジョブにも就いたしさっそくレベル上げに行こうぜセブン!」
そう意気揚々と言ったのは【司祭】ジョブについたコルヴァスだ。
「『直接戦闘は怖いから最初は回復職で』って言った奴のセリフじゃねぇな」
「そうか?それと、お前はなんで【斥候】?もっと戦闘向きのジョブ就かなくてよかったの?」
「それもお前が言えた義理じゃねぇな」
そう言って俺は嘆息し、自分の左手の甲を指さす。
そこには卵型の宝石が埋め込まれていた。
「結局最終的な戦闘スタイルは<エンブリオ>を前提にしたものになるんだから、どんな<エンブリオ>になってもいいように汎用性の高いジョブに就いておこうかと思ってな」
「・・・<えんぶりお>?」
・・・え、なにその初めて聞いた的なリアクション。
「あ゛?マジで言ってんの?」
「漬物のこと? いぶりがっこ的な?」
うっそだろ!?チュートリアルで説明されなかったのかよ!
ウサギ杜撰すぎるだろ!
「これだよ、これ!この卵型の宝石が<エンブリオ>。その第0形態」
「え、これ?」
そういってコルヴァスは自分の左手を指さす。
そこには俺と同じ卵型の宝石があった。
「何ながんだかわからないままつけられた」
「・・・ほんと、お前担当の奴に文句言っていいよ」
ゲームの中なのに頭痛を感じた気がして、頭を軽く振る。
「簡単にいうと、俺達固有の武器か能力のことだ。能力なしの第0形態から孵化するとそれぞれ固有の姿になるらしい」
「ほぇ~」
「孵化やその先の進化には、経験を積まなきゃならないみたいだから結局はなんか行動起こさなきゃならないんだけどな」
「なるほどな。兎にも角にも取りあえずバトルバトルっと・・・」
コルヴァスがうんうんとうなずく。
・・・コイツ、本当にわかってるんだろうか?
「お前はなんでも知ってるな」
「何でもは知らない。お前が無知なだけ」
「はははは」
いや、笑い事じゃなくてさ。
情報は武器なんだからちゃんと集めようぜ?
「ところで早速レベル上げ行くってことだが、行く当てはあるのか?」
「うん。<旧レーヴ果樹園>ってダンジョンが近いみたいだし、そこに行ってみようかと」
お、コイツにしては珍しくリサーチが早い。
なんだかんだで、コイツもデンドロを楽しみにしてたんだなって思う。
「OK、お前が良ければ異論はないよ」
「それじゃあ、レッツゴー<旧レーヴ果樹園>!!」
□<旧レーヴ果樹園> 【斥候】セブン
さっそく<旧レーヴ果樹園>に到着したはいいものの、何かがおかしい。
「? どうしたんだ、そんないぶかしげな顔して?」
「いや、おかしくないか?」
「何が?」
伸び放題の植物たち、朽ちかけの案内看板、道とそれ以外が完全にわからなくなった地面をぐるりと見まわす。
「・・・俺たち以外に人が一人もいない」
そう、この<旧レーヴ果樹園>には人が―――プレイヤーたる<マスター>が一人もいないのだ。
「ん~、気のせいじゃない?」
「いや、それはないだろ」
そんなやり取りをしつつ、周りを警戒しながら進んでいくと、前方でガサガサと音がした。
「! セブン!」
「・・・ああ、モンスターだ!」
そこから現れたのは2m近い体躯のアリ型モンスターだった。迫力がやばいな。
人によってはSAN値チェック案件かも知れない。
「よし、まずは俺が《看破》で相手のステを見てみる」
《看破》は【斥候】が初期に覚えられるスキルで相手のステータスを見ることが出来る。これでステータスをまず把握してから攻撃しよう。
「お願いします」
「《看破》!」
ジャイアント・トル―パー
レベル:■
HP:■
MP:■
SP:■
「・・・・・・・・・・・・・・は?」
「何、どうした?」
「なにも、何もわからない」
「え?」
《看破》で何もわからないとかどういうこと?
あ、そういえば相手とのレベル差でどの程度見えるかが変わるらしいって言ってたな・・・。
・・・ってことは!
「やべぇ! 逃げるぞ!」
「え!え!?」
「あのアリやばいレベルたけぇ!!」
慌てて逃げようとしたのがいけなかったのだろう。
ジャイアント・トルーパーがこっちに気付いた。
「「・・・・・・」」
『KIKIKI・・・』
「「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!?!」」
・・・あとで知ったが、この<旧レーヴ果樹園>スタート地点に程近い場所に立っているせいで初心者用だと勘違いしたプレイヤーが真っ先にぶっ殺される、トラップダンジョンだったそうな。
別名『初心者殺し』。
セブン・コルヴァス デスペナルティ
次回ログイン可能時間まで残り―――23時間58分
□王都アルター噴水前
「・・・あの、セブンさん」
「なんだいコルヴァスさん」
「もしかして―――いや、もしかしなくとも、怒っていらっしゃる?」
「いやいや、これっぽっちも怒ってないよ」
「・・・ほんとに?」
「ほんとほんと」
「そっかよかtt・・・」
「お前を信用した俺が馬鹿だった」
「う!?」
「いやいや、本当にさ。お前の持ってきた情報を鵜呑みにしてなんど失敗したことがあったか忘れてた俺も悪いなぁってさ。楽しみにしてたゲームをログイン一時間で強制退去されたことも、アリに食われる貴重な体験をプレゼントしてくれたことも全く怒ってないヨ?」
「マジでごめんなさい!!」
・・・・・・土下座させてしまった。
や、そこまでさせる気はなかったから少し反省。
「まぁ、全く怒ってないのは本当」
「嘘だ!?」
「ほんとだって、何故ならほら」
そういって俺はコルヴァスにもわかるように左手の甲を見せる。
そこには依然あった卵型の宝石はなく、代わりに”星座と獅子”をかたどった入れ墨があった。
「え、あれ? なにその入れ墨? 卵ってか<エンブリオ>は?」
「
「マジで!」
今回の経験が良かったのか悪かったのか、怪我の功名的に今回ログインしたら<エンブリオ>が孵化していたのだ。
「見せて見せて!」
「まぁそう焦るなって」
俺も一緒に開封しようと思ってまだ出してないんだから早く見たい。
それじゃあ、さっそく行ってみようか!
「いでよ、我が<エンブリオ>!【装甲車騎ネメアー】!!」
そう言うと、俺の声に合わせて入れ墨が光り輝き、何かか飛び出した!
「・・・・・・え?」
コルヴァスの唖然とした声が漏れる。
「・・・・・・マジか!」
そこにあったモノは、バイクだった。
しかもただのバイクではない。近未来的なシルエット、金色のフレーム、真紅のホイール、そして何よりも特徴的な黒く
そうそれは装甲車ならぬ、
「そうきたか<エンブリオ>!俺の趣味わかってる!」
「え~、このゲームファンタジーだよね?世界観ぶち壊しじゃない?」
大興奮の俺とは対照的にどことなく納得していないコルヴァス。
実際、このアルター王国の世界観には合わないが、隣国には機械の国であるドライフ皇国があるんだから、ゲーム的には全然ありな部類だと思う。
「でもまぁ、かっこいいよな」
「だろ!?」
それに納得の孵化である。
俺のパーソナリティから生まれるものだからか、俺の趣味に寄りそったモノが出てきたし、なによりこの装甲バイクなら群がるアリたちを弾き飛ばしつつ、フルスロットルで逃げられる。
まさしく経験にのっとった孵化だった。
「けがのこうみょう?って奴だな、オレに感謝するといい」
「いや、調子乗んな」
ことわざの意味を多分わかってないで使ったコルヴァスの頭を軽く小突き、ステータスウインドを開き詳細を見てみる。
【装甲車騎ネメアー】
TYPE:チャリオッツ
到達形態:Ⅰ
装備攻撃力:10
装備防御力:50
ステータス補正
HP補正:G
MP補正:H
SP補正:G
STR補正:E
END補正:c
DEX補正:H
AGI補正:C
LUC補正:G
「・・・なるほど、こいつはやっぱ見た目通り硬くて速いのか」
「え、でもそれって・・・」
「あぁ、ゲーム的には
このデンドロに限らずこの手のゲームでのビルドは大きく分けて二つだ。
一つが、相手の攻撃を躱す為に必要なAGI(速度)を中心に上げたAGI型。
もう一つは、相手の攻撃を耐えるために必要なEND(耐久力)を中心に上げたEND型だ。
これ以外のステータス(例えばSTR(筋力)とか)に特化させてしまうと、”強いけど防衛初段がない”というピーキーを通り越した、破綻ビルドになってしまう。
つまり何を言いたいかというと、AGEとENDはどちらかを上げればいいのであって、どちらも上げるのはステータスの無駄なのだ。
もういっそ
「まぁ、出てきてしまったモノはしょうがない。今後の成長と進化に期待だ」
「で、スキルの方は?」
「待て、今見てみる」
見た結果、現状持っていたスキルは下記の二つ。
《インパクト・レジスター》Lv1:パッシブ
自身が受ける衝撃ダメージを軽減する。
《ランウェイ・ブースト》Lv1:パッシブ
自身の攻撃時、その時の最高速度の分だけ与えるダメージを上乗せする。
「よかったじゃん、攻撃力問題ちょっと解消!」
「まぁな」
「・・・でもさ、オレ思ったんだけど」
「・・・多分俺も同じこと思ってる」
このステータス補正、このスキル構成。ぶっちゃけやることできることがめっちゃ限られてる。特化型といっても過言ではないくらいに。
つまるところ、コイツは―――【装甲車騎ネメアー】は・・・
「「・・・・・・”ひき逃げ特化”?」」
悲報:俺のパーソナリティから生まれたものが犯罪すれすれな件について
・・・to be continued
次回、第2話「ボーイズミーツガール」