<Infinite Dendrogram>~王国の双獣~ 作:烏妣 揺
第6話「ボーダーライン(中)」
□王都アルテア 宿屋一階酒場 【騎兵】セブン
「―――うまかったな、薬草粥」
「え、そんなこと思ってたの!?」
俺たちが一時拠点としてる宿屋の一階、そこでやってる酒場の片隅で、今日あったことを二人で話し合っていた。
「少々薄かったが、うまかったじゃないか? お前もそういってたろ?」
「いや、そうだけどさ。セブン、ずっと仏頂面だっだじゃん」
「マジで? うまそうな顔してなかった?」
「・・・・・・今度行ったとき、ちゃんとそのこと言えよ?多分不安がってたから」
―――今度。今度か。
「この野郎、また勝手に約束取りつけやがって」
そう、コイツはまた懲りずに帰り際にまた約束を取り付けた。「また今度遊びに来るよ」って。
勝手に約束とかマジやめろ。あとまたしても俺を巻き込むな。
「でも、楽しかっただろ?」
「―――う」
「だから、なんだかんだ最後まで付き合ってたんだろ?」
――――――。
「別に。ただ途中で投げ出すのは性に合わなかっただけだ」
「・・・・・・お前は真面目だもんなぁ~」
そういって、ニヤニヤと笑いだすコルヴァス。
この野郎、殴り倒してやろうか?
「さ~て、次はいつ会いにいこうかな~っと」
「・・・・・・おい」
「ん?」
「次は手土産持ってくぞ。また薬草粥薄くさせるわけにはいかねぇからな」
ニヤニヤの加速するコルヴァス。
あ、もうダメだ。我慢できない殴る!!
そう思い、コルヴァスの胸倉をつかみ上げたところで、隣の席から気になる会話が聞こえてきた。
「―――そういや、あの話聞いたか?」
「あの話?」
「ティアンだけを執拗に狙ってる<マスター>の話」
聞き捨てならない単語が聞こえてきた。
思い返すは、今日であったあの<マスター>。
理由は不明だが執拗にソフィを狙っていた。
「あぁ、最近近衛騎士団が探し回ってるやつだろ?」
「そうそう、”監獄”送りになるのが怖くないのかねぇ」
通常、<マスター>は死んだ場合デスペナで24h(ゲーム時間で3日)ログイン不可になるだけだが、犯罪行為を行って指名手配された<マスター>が死亡するとリスポーン地点が"監獄"と呼ばれる隔離エリアに固定され、自由に出られなくなる。
それが所謂”監獄”送り。凶悪な<マスター>からティアンを守るためのシステム。
「多分、事の重大さに気付いていない馬鹿か、知ってても弱い者いじめがやめられない馬鹿か・・・」
「どっちにしろ馬鹿じゃん!」
そういってけらけら笑う二人組。
しかし、俺たちはそれを聞いて押し黙る。
それは嫌な心当たりがあるからであり、そして話の続きを良く聞き取るため。
「それで、近衛の連中はどこまでそいつの情報掴んでるのさ?」
「ああ、なんでも
その時、嫌な予感がした。
「<エンブリオ>までわかってんなら時間の問題だな!」
「ま~な!」
そういってガハハと楽し気に笑う二人組の隣で俺たちは黙りこくっていた。
執拗にティアンを狙う糸使いの<マスター>。その人物に大いに心当たりがあったからだ。
「―――なぁ、セブン」
「・・・なんだ」
「大丈夫、だよな?」
不安そうにコルヴァスが問う。
”大丈夫だ、心配ない”、”あいつは所詮小物だった、そんなことが出来る様にはみえなかった”、そんなことを言おうとして、だがしかし何故か口にすることが出来ない。
「悪い、コルヴァス。ちょっと様子を見に行く」
「お、俺も!?」
そういって俺らは、王都郊外を目指して宿を出た。
□王都アルテア郊外 【騎兵】セブン
ネメアーの後ろにコルヴァスを乗せ、可能な限り全速力で飛ばす。
そのおかげで、宿を出てから数分でソフィの家にたどり着く。
「・・・ソフィ、寝ているのかな?」
家の窓には明かりがついておらず、暗い。
今が遅い時間ということもあり、その可能性も高かった。
「いや、その時は謝ろう」
そう言ってドアをノックする。
・・・返事はない。
「や、やっぱり寝てるんだよね?」
「・・・・・・ならいいが」
そう言ってもしかしてと思い、ドアノブに手をかける。
するとそれは、いともたやすく回った。
「―――開いてる」
「え、え⁉︎」
コルヴァスが動揺したように声を上げる。
正直、俺も同じ気持ちだ。嫌な予感が、加速度的に増していくのが分かる。
「ソフィ、入るぞ―――」
そして俺は絶句する。
暗い室内、窓から差し込む月明りに照らされて見えたものは―――
―――血まみれで転がる、
「う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
隣でコルヴァスが、崩れ落ち絶叫する。
そして、俺は酷く後悔した。
『・・・・・・ぜぇぜぇ、この野郎覚えていやがれよ』
『よし、デスペナなるまで引きずり回すか!』
『す、すいません!そ、それだけは勘弁してください!』
『ほら、もう弱い者いじめすんじゃねーぞ』
『は、はいすいません!――――――くっそ、覚えてろよ!!』
「―――これは、俺のせいだ」
あの時、しっかりと殺しておくべきだった。
そうすれば、この子は―――ソフィは死なずに済んだのに。
しかし、そこで俺はあることに気が付く。
「―――おい」
ソフィの胸が、まだかすかに上下していることに。
「まだ生きてるぞ!!」
「ふぇ!?」
急いで駆け寄り、口元に手を当てると、微かな息を感じた。
「コルヴァス! 《ヒール》だ! 急げ!!」
「ひ、《ヒール》《ヒール》!《ヒール》!!」
慌てて駆け寄ってきたコルヴァスが《ヒール》を重ねがけするが、ソフィは目を覚まさない。
ならば、次の手は・・・。
「おい、アタランテ聞こえているか!?」
『はい! 私にできることは!?』
コルヴァスの紋章の中からアタランテがそう答える。
「今すぐ近衛騎士団の屯所に行って助けを呼んで来い!」
この国の近衛騎士団はほぼ全員が騎士系上級職の【聖騎士】についている。【聖騎士】なら《ファーストヒール》か、より上位の《フォースヒール》を使える奴がいるはずだ。
『了解ですわ!』
そういって聖獣状態で出てきたアタランテは、猛スピードで王都へ駆けていく。
「せ、セブン。オレは?」
「お前は《ヒール》をかけ続けろ!」
そこで、俺はふと家の壁をみる。
するとそこには―――。
「おい、コルヴァス。ここは任せる」
「せ、セブン? どこに行く気だ?」
「ん、俺か?俺は―――」
―――壁にはソフィの血でこう書かれていた。
『コウギョウク3バンチ、ハイコウバでマつ』
「―――ちょっと、行ってくる」
・・・to be continued
次回、第7話「ボーダーライン(後)」(1/19 12:00更新予定)
次でボーダーラインシリーズは完結。