<Infinite Dendrogram>~王国の双獣~ 作:烏妣 揺
第8話「ファーストコンタクト」
□王都アルテア 商業区 【疾風騎兵】セブン
「・・・え、今なんて言いました?」
「うん、だから<イースター平原>。そこで最近新手の初心者狩りみたいなのがあるみたいなんだ」
今日、俺とコルヴァスそしてアタランテの三人は、先日知り合ったスバルさんの店に呼ばれていた。
理由は二つ。一つは、以前俺がスバルさんに頼んで取り寄せてもらったネメアーにあった武器の受け取り。この武器『ハーフマンティス』は柄同士を長い鎖で繋がれた鎌と短剣の武器だ。・・・この武器のどこがネメアーにあっているかは、実際に使うまでコルヴァスにも内緒だ。
もう一つの理由とは、その武器を格安で譲る代わりに一つ頼み事を聞くことだった。
「てっきりまたきよひー絡みかと思ってましたわ」
「・・・・・・うん、違います」
スバルさんはややひきつった顔で答えた。
そのきよひーは、店で給仕をしていた。
俺たちに出されたお茶も無論きよひーが淹れている。
・・・・・・よく、お前ら普通に飲めるな。俺は無理だ、なんか入れられてそうで怖い。
「な に も は い っ て い ま せ ん よ ?」
「ひぇ!?」
そんなこと考えていたら、急に背後から現れたきよひーにそんなこと言われた。そういえば人の考えが読めるんだったか、怖い。
「ごほん。話を戻していいですか皆さん」
「どーぞ、どーぞ」
「初心者の狩場として有名な<イースター平原>で奇妙な初心者狩りが流行ってるそうで、初心者たちが利用できなくてこまってるみたいなんですよ」
「・・・・・・奇妙なっていうと?」
「なんでも変な格好をした男で、会うたびに『違う』だの『お前じゃない』だのといってPKをしてるみたいなんです」
「変な格好というと?」
「赤い礼服に黒マント、仮面にシルクハットだそうで」
「なんじゃそりゃ?」
「本当に、なんじゃそりゃ、ですわね」
するとズルズルとお茶をすすっていたコルヴァスが口を開く。
「それで、オレたちはその人を退治しればいいの?」
「そこまでは望みません。ただ、少し調べてくれるだけで結構ですので」
少し調ベてくれたら、あとはしかるべきところに連絡します。と、スバルさんはいった。
「だが、何故商人のあんたがそんなことをする必要があるんだ?」
この件で困っているのは初心者だけで、商人であるスバルさんは関係ないはずだ。
「―――私、この国が好きなんです」
「ん?」
「最近起こった戦争に負けて、この国からティアン<マスター>問わずいろんな人が出て行っていますよね?」
「まぁな」
閉店セールとかでしか、まだ実感沸いてないけどな。
「そんな中でもこの国を選んできてくれた<マスター>には、感謝しているんです。”見捨てないでくれてありがとう””選んでくれてありがとう”って」
そうか。だからスバルさんはこの国を見捨てずに、居座って商売を続けてるのか。
確かにティアンの商人と違って、<マスター>の商人はいくらでも立て直しがきくが、わざわざ商売しづらい国にいる意味はないからな。
「だから、少しでもそういう方たちの力になりたいんです」
「・・・あんた、いいひとすぎね?」
「ははっ、よく言われます」
「だからきよひーに付け入られるんだ」
「・・・・・・・・・・・・ははっ」
さて、いい感じで落ちが付いたところで、その思いに報いるために重い腰を上げる。
「いくぞ、コルヴァス、アタランテ」
「はいはい」
「あ、そういえば一つ疑問なのですが」
そこでふと思い出したかのようにアタランテはこう質問した。
「おふたりはどうして王国を選んだのですか?」
「ん、オレはセブンが王国で始めようっていったからだからだけど?」
「・・・・・・」
言えない。
実は<レジェンダリア>以外だったらどこでもよかったからなんて言えない。
しかも決め方がくじ引きだったなんて、死んでも言えない。
□<イースター平原> 【疾風騎兵】セブン
さてところ変わってここは<イースター平原>。
件の初心者狩りのせいで全然人がいないこの平原でネメアーを突っ走らせて数分。
変な格好の初心者狩りはいずこかと探しまわっていた―――いや違うな。
さぁこれから探すぞ!と意気込んだ時だった。
「なぁ、セブン。あれって―――」
―――いた。
「言うな」
―――発見した。
「いやでも、あれだよね?」
―――見つけてしまった。
平原のど真ん中、そこでその不審者を見つけてしまった。
真紅の礼服に黒い外套、シルクハット。そしてその顔には、あざ笑っているような、もしくは憤怒の形相のような不思議な表情の仮面が張り付いていた。
ここまではまだ、百歩譲っていいとして、問題は奴が今していることだ。
奴は、あろうことか白い椅子に腰かけていた。傍らには同じく白いテーブル。その上にはスコーンなどが置かれた英国式ティーセット、奴の手には無論ティーカップ。
・・・そう、奴はこの<イースター平原>のど真ん中で、ティータイムを楽しんでいやがった。
そして更に不自然なことがある。
円卓状のそのテーブルには、他に三脚の椅子が用意されていた。
まるで、
「確かに不自然ですわね」
いつの間にか紋章から出たアタランテが、俺の考えに同調する。
そうやって、少し離れたところから様子をうかがっていると、奴が声を上げた。
「いい加減、こちらに来たらどうかね?
「せ、セブン!? なんでアイツ俺たちの名前を!?」
「アホ、落ち着け。多分《看破》だ」
いや、違う。取りあえずコルヴァスを落ち着けるためにそうはいったが、おそらくは違う。
奴は、俺たちがここに来ることを知っていた。それが自然な推理だ。
・・・・・・まさか、スバルさんが仕向けたのか?
「いんや、スバル君は関係ないよ。だからこっちへ来ないか、ゆっくりと話しをしようじゃないか?」
どうやら俺の考えもすべてお見通しらしい。
このままじゃらちが明かない。・・・”虎穴に入らずんば虎子を得ず”かな?
「いくぞ、コルヴァス」
「え!?」
「ただし油断はするなよ?」
「お、おう」
そういって、俺たち三人は奴と話をするために同じ席に着いたのだった。
~数分後~
「いや~、この前なんか岩影にあった【グリーン・ワスプ】の巣にセブンが間違って突っ込んでいってさ~」
「ほ~、それは大変だったね? それでそれで?」
「オレとアタランテさんで急いで助けに行ったら―――」
「おい」
「ちょっと涙目になって『おい、おm―――え?なに?」
「―――なに普通になじんでるんだよお前!!」
あろうことか、馬鹿と不審者が意気投合していた。
油断すんなよって言った端から何陥落してんだよてめぇ!
「得体のしれない相手になに世間話してんだ!」
「得体が知れないだなんてセブンも失礼だな~、もうこんな仲良しなんだから十分得体が知れてるって―――ところでお名前なんでしたっけ?」
駄目だコイツ、早く何とかしないと。
「おぉっと失礼しました。私は
その不審者―――
これは、まずい。非常にまずい。何故なら、その場合俺たち二人がかりで挑んだとしても、勝ち目なんてないからだ。
「・・・【大怪盗】?」
「怪盗系の超級職だ」
「ごめん、まず超級職って何?」
「・・・そっからか」
ひとり会話についていけないコルヴァスの為に説明する。
まず、レベル上限がない。これにより上級よりも上がり幅の大きいステータス上昇値を際限なく受けられる。更には各々チートじみた固有スキルや奥義がある。非戦闘職の超級でさえ、並みの戦闘特化上級職より戦闘力が高い。
つまるところ、奴らは―――目のまえにいるコイツは正真正銘の
「へー、じゃあ
「ははは、すごくはないよ。ただ運が良かっただけだよ」
「・・・・・・運だけでたどり着ける領域じゃないんだがな?」
それこそ執念や、ある種の異常性―――普通じゃなければ、たどり着けない頂きが超級職だ。
「・・・・・・あの、よろしいでしょうか?」
「どうぞ、お嬢さん」
「そろそろ本題に入ってよろしいでしょうか?」
「「あ!」」
俺としたことが、すっかり場の雰囲気に流されて忘れてしまった。
「あんた、理由は知らんが初心者狩りをしているようだな? やめてくれないか? みんなが迷惑してる」
俺がさっそく単刀直入に切り出すと
「あぁ、了解した」
「・・・こういうのもなんだが、いいのか?」
「大丈夫だ。もともと
「え?」
「・・・それじゃあ何か? 俺たちとここでお茶するのが目的とか抜かすのか?」
そんな俺のふざけた問いに奴はあっさりと首肯した。
「半分正解だ。もう半分は、街中でやると邪魔が入る可能性がある上に、迷惑になるからだね」
迷惑、だと?
コイツ、
「そう警戒しなくてもいい。 なぁに、君たちにとってプラスになる事柄だ」
【殺気感知】は反応しない。おそらく、いってることに敵意は感じられないから、嘘はないのだろう。
だが、如何にも解せない。端的に言ってコイツを信用できない。
それは”嘘を吐いているから”だとか、そういう信用ではない。コイツからは
「私はね、将来有望な若者に投資するのが趣味なんだよ。以前投資していたシグマ君は残念だったが、彼の尊い犠牲のおかげで君たちのような新たな”金の卵”を見つけられて、私は大満足だ」
シグマ?誰だそれは?
そう思いコルヴァスに視線を向けるが、コルヴァスも心当たりがないようで首をかしげていた。
「なんだ、名前を知らなかったのかね。そうさな、彼はアレだよほら―――」
「―――以前ソフィ君を襲った、殺人鬼RPの彼だよ」
そのセリフを聞いた瞬間、俺たちの反応は劇的だった。
アタランテは即座に聖獣形態になりコルヴァスを庇える位置に移動し、コルヴァスも
俺もまた椅子から飛んで距離を取り、《瞬間装備》で『ハーフマンティス』を構える。
「―――道理でおかしいと思ったんだ」
「何がかね?」
「あのサイコ野郎のことだ。俺らにやられるくらいのルーキーの癖に異様にティアン殺しの手際が良かった」
そうだ、あの廃工場にあった沢山の死体。アレを全部ひとりでやったなら、やけに手際が良すぎる。本物の殺人鬼顔負けだ。
だから考えられる理由は3つ。
ひとつは、奴が
二つ目が、アイツのほかに第二の殺人鬼がいた可能性!
そして最後が―――
「
「実に良い推理だ。 如何だいセブン君、私専属の
「とぼけたこと抜かしてんじゃねぇ!! 答えろ!!」
「
隣でコルヴァスがぎりっと奥歯を噛みしめ、叫ぶ。
「な、なんでそんなことを、そんなひどいことを!!」
「それはだね、
「・・・なに?」
そして奴は―――【大怪盗】
一人の<マスター>として、この<Infinite Dendrogram>を愛するプレイヤーとしてさも当然の如くこういった。
「私はこの<Infinite Dendrogram>を愛しているし、他の<マスター>にもより愛してもらいたい! だから行動を起こすのだ! この世界には、より多くの喜劇が悲劇が必要だ!! 何故ならば―――」
「――――――”イベント”は多い方が面白いだろう?」
これが、俺たちとコイツの出会い。
俺たちがこれから先幾度となくぶつかる、最高にして最低最悪の”遊戯派”プレイヤー、【大怪盗】
・・・to be continued
次回、第9話「ローグ・フェネクス」(1/24 12:00更新予定)
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