オートマトン・クロニクル   作:トラロック

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#000 外界からの来訪者

 

 地球への帰還の為に建造された天体型の宇宙船『地獄の瞳(アイ・オブ・インフェルノ)』は数十万年に及ぶ長い航海の果てに一つの天体を発見する。

 暗い宇宙空間を漂う宇宙船というには巨大な代物だが、移動しながら補修と増殖、時には廃棄を繰り返す。

 資源確保の為にいくつもの星を取り込んだ事もある。

 

「……生命活動を確認」

「……広い宇宙に生命体の発見は稀なもの。……この出会いを祝福する」

「……我らの新たな拠点とするか?」

「……まずは観察。……接触は慎重に」

 

 船を管理するのは『シズ・デルタ』型の自動人形(オートマトン)と呼ばれる者達。

 無表情な人間の少女という外見以外に個性は無く、同じ個体が無数に移動を繰り返していた。

 彼らの目的はただ一つ。

 

 地球への到達。

 

 それは自分(オートマトン)達の目的ではなく、この船と自動人形(オートマトン)達の(あるじ)達のものであり、悲願でもある。

 途方もない旅路につき、不死性の存在以外は時代と共に失い続けている。目的意識を持ち続ける事は容易なことではない。

 それでも自動人形(オートマトン)達は与えられた使命を至上命題と捉えて行動している。

 この旅が無駄に終わるのか、それとも意義ある何かを得られるのか。それらは遥か以前から議論され、今も明確な答えは出ていない。いや、はっきりとした答えを()()()()ことでは一致している。

 

「……停泊位置の選定を開始」

「……了解」

「……滞在日数はどうする?」

「……新たな船を建造し、彼らの歴史を取り込む。その後は星の住人の歴史次第だ」

「……我等が神……『シズ・デルタ』様……。……御身を目覚めさせる時が来ました」

「……至高の御方であらせられるシズ様の目覚めは地球に到達した(あかつき)であった筈……。未だ目覚めは早計だ」

 

 今日も同じ顔の自動人形(オートマトン)達が議論を始めた。

 それぞれの役割を担う彼女達は与えられた作業の手を止めることはない。

 色んな議論が続く中、目的の星に大きな影響が及ばない位置に地獄の瞳(アイ・オブ・インフェルノ)を停泊させる事になった。

 それから数年の時をかけて大気成分、文明、自転速度などを調べ上げる。

 目的の星の近くには地球で言うところの『月』に似た天体があり、降り立つ予定の星からは見えない位置となる月の裏側に地獄の瞳(アイ・オブ・インフェルノ)を忍ばせた。

 そして、それから調査という名目で静かな時が流れる。

 十年以上の外部調査の後で知的生命体が住まう星へ内部調査の為にシズ・デルタ型が降りて行き、誰にも知られる事無く、この物語は(ようや)くにして始まる。

 

 


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