オートマトン・クロニクル   作:トラロック

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#009 正攻法と奇計

 

 伝令管によって『シズ・デルタ』より『アールカンバー』内に居る銀髪の少年『エルネスティ・エチェバルリア』に意見を出すように通達する。

 突然の指名に『エドガー・C・ブランシュ』以下、彼の友人とエルネスティの友人達は驚きの声を上げた。

 物静かで無表情、無愛想な鉄仮面からの指名だ。彼女のことを知る者からすれば様々な憶測が飛び交うほどの意外性に富んでいた。

 

「……エチェバルリア君。この状況下で君が取る……、または取れそうな意見を言ってみて下さい。どんな荒唐無稽でも構いません」

「えっ!? 急に言われても……。ですが、折角のご指名に預かり、しばし思考する時間をいただけますか?」

 

 顔の見えないやり取りに対し、エルネスティは丁寧に対応し、シズも異論は言わなかった。

 

「時間は日が暮れるまで、とします。その間、急かしたりはしませんが……。向こうで作業している者達の安全が確保されている間にお願いしますよ」

「はい。必ずやご期待に沿えるよう努力致します」

 

 バカ丁寧な対応にエドガーと魔法攻撃に特化しているサロドレア『トランドオーケス』を操縦する『ヘルヴィ・オーバーリ』はつい吹き出した。

 エルネスティは口を尖らせるがシズは意に介さなかった。

 

        

 

 謎の魔獣の姿を確認した学生連中は一旦、幻晶騎士(シルエットナイト)から降りて森の中に避難する。

 そこで小さな会議室を作り上げて今後の対策を検討する。――シズはディートリヒの機体から降りなかった。

 エルネスティの邪魔をしたくない、という理由で。

 場が整ったところでエルネスティは『アーキッド・オルター』、『アデルトルート・オルター』の前でコホンと咳払いをする。

 

「……えー、いきなり結論から言えば……、実際に戦ってみないことには始まりません。……おそらく……」

ちょっと待った! えっ!? 議論は出さないのかよ」

「出さない、というよりは出ません、と言っているのですよ」

「……エル君にしては珍しい」

 

 と、アデルトルートが意外そうな顔をする。

 いつも突拍子もないアイデアを言う友人が何の策も講じれない、というので。

 エルネスティとて事前情報のない魔獣に対し、無謀に突っ込みたいとは思わない。

 聞いた範囲で分かった事は幻晶騎士(シルエットナイト)の物理攻撃と魔法をものともしない決闘級であること。

 それは今までの歴史において想定外――規格外の強敵である証拠だ。

 知識だけで魔獣は倒せない。だからこそ実際に戦ってみないことには新たな発見が望めない。その為にはどうしてもエルネスティ自身の手で感じ取るしかない。

 ――それが幻晶騎士(シルエットナイト)に乗る為の口実作りだとしても、だ。

 

「硬い球形の敵に対し、直線的な攻撃は与えにくいものです。対刃外皮(アンティブレード・ハードスキン)とでも名付けておきましょう」

 

 鋭い刃物の弱点は切れる部分の欠如――

 より鏡面然としていれば魔法も通用しにくい。――反射、または逸れやすくなる為だ。

 敵魔獣の外皮は分かっているだけで完全な球面ではなく、ある程度の凹凸がある。そこを狙う以外に突破口は無い、かもしれない。

 それとこうしてただ遠くから分析していても(らち)が明かないのも問題である。

 

「剣による攻撃が駄目なら魔法しかないじゃないか」

「……そうなんですよね。一度は当たった対大型魔獣用破城槌(ハードクラストバンカー)がもたらした結果は魔獣を転がしたことくらい……」

 

 だからこそ今、ヤントゥネンから来た守護騎士団達が魔獣の周りに穴を掘って落とす、という原始的な作戦に勤しんでいる。

 倒せないのであれば動けなくする――または動き難くして時間を稼ぐ。

 エルネスティとしても悪い手とは思わなかった。

 

「……あと、問題なのは……」

 

 決闘級魔獣なのに打倒する手段が無いこと。

 師団級であれば魔力(マナ)切れを狙って、とまで思考が及んだ時、エルネスティは一つの可能性に気がついた。

 

「エドガー先輩」

 

 声を張り上げてアールカンバーに搭乗するエドガーに声をかける。

 外からの音声も伝令管によって伝わる仕組みになっている。だからこそ応答する事が出来る。――つまり機密性はそれほど高くない。

 

「どうしたエルネスティ」

「あの魔獣に魔法攻撃を繰り返して魔力(マナ)切れを狙う作戦は取らなかったのですか?」

「……うん。それに関してだが……。幻晶騎士(シルエットナイト)をあっさり打倒する魔獣を必要以上に刺激しない事に決めたんだそうだ。現行の戦力はあまりにも乏しい」

「……なるほど。単なる戦力不足が原因ですか」

 

 だが、それを責める事は出来ない。

 国が保有する幻晶騎士(シルエットナイト)の数は多くなく、また学生の野外学習に回せる余裕もまた多くない。

 今回来てくれた大都市ヤントゥネンを守っていた守護騎士団とて回せる機体はせいぜい二十機が手一杯だ。

 それらを鑑みても今以上の戦力の要望はエルネスティのみならず、学生の領分を超えてしまう。それに騎士団はあくまで『バルゲリー砦』を破壊したのが師団級魔獣だからこそ来てくれたのだ。

 たかが決闘級相手に今以上の要望は――被害規模から見ても――却下されるのが目に見えている。

 

        

 

 とはいえ、エルネスティの作戦は有効である可能性が高いこともエドガーは認める。

 距離を取って遠距離から間断なく魔法を当てていけば魔獣がまとう『身体強化(フィジカルブースト)』に回されている魔力(マナ)を削れる筈だ。

 基本的に魔獣は体内に『結晶触媒』を持ち、それを用いて身体を強化する傾向にある。

 それが当たり前――または常識――の文化として『フレメヴィーラ王国』では根付いていた。

 その経験則から分析する以外に方法が無く、打倒予定の魔獣に対しても同様の予測を立てるしかない。

 

(その常識があの魔獣にも当てはまるのか……。僕には疑問なのですが……)

 

 疑問視する理由は学園が保有する資料の中で該当する魔獣が現われなかった事だ。

 より専門的な機関が所有する資料には載っているかもしれないけれど、それでも誰もが異質だと言っている相手なので、希望的観測はあまり期待しない方がいいとエルネスティは判断する。

 ――という話しを横で聞いていたシズは彼の賢さに何度か頷いた。しかし、それはあくまで教師としてのもの――

 

(教本に従うならばエチェバルリア君はとても優秀であるといえます。……しかし、それは()()()()()魔獣であれば……、という条件が付きます)

 

 (エルネスティ)の案はかの魔獣には何の意味も無い、と言えばどれだけの人間が絶望するのか――

 それはそれで興味がある、とシズは薄く口角を上げる。

 

(……とはいえ、あのモンスターを現行戦力でどう打倒しようとするのか……。それを見てから色々と判断する事にしましょう。教師として教え子の努力する姿を見るのも一興……)

 

 エルネスティに直接教えを説いた事は無いが、どんな生徒なのか今から確認する事にする。

 敵か味方か――

 どちらでも構わないけれど、将来の不安材料は今からでも選定しておくに越した事がない。

 

(……あるいは……)

 

 と、余計な思考に入りそうだったので急いで脳内から振り払い、状況を静観する事にしたシズは黙ってエルネスティの話しに聞き耳を立てる。

 最終判断を下すのは結局のところシズではない。いや、端末如きに判断できる案件ではない、が正しいか――

 

        

 

 作戦を立てても実行できる余裕が自分達には無く、ただただ目の前で(おこな)われている作業を見ているしか出来ないのはもどかしい限りだった。

 エルネスティの経験則では必要な人材が揃っている今が行動を開始する絶好の機会であるはずだった。

 

(イベントが起きるなら今。……なのですが……、あの魔獣は空気が読めないのでしょうか)

 

 仮に動いたとしても太刀打ちできなければ無駄に犠牲が増えるだけだが――

 それでも何かを期待してしまうのは(エルネスティ)にとっては悪いクセのようなもの。

 自分の知識にあるパターンでは側に控える幻晶騎士(シルエットナイト)が突如として逃げ出し、それを追いかけて乗っ取る計画までは夢想出来た。

 その後は力技で幻晶騎士(シルエットナイト)を動かし、魔獣を撃退して家路につく。

 その中で大事な事は魔獣討伐ではなく幻晶騎士(シルエットナイト)を自分で動かす事だ。

 無理なら撤退する。深追いしてまで倒したいとは思っていない。

 

(……という計画が実行できなければ数年間は学園生活を余儀なくされてしまいます。……安全志向ならそれでも構わないのですが……。やはり僕は幻晶騎士(シルエットナイト)()()乗りたい。いえ、早く操縦したいです)

 

 はやる気持ちも自身の低身長が仇となって結局は徒労であると認めざるを得ない。

 自分が満足に動かせる幻晶騎士(シルエットナイト)は無く、だからこそ自分で作ってしまえばいいと考えた。

 一つ一つ階段を昇りつつある状況で、自分はどうも我慢が足りないようだ。

 エルネスティは魔獣なんかどうでもいいから、どうすれば幻晶騎士(シルエットナイト)を操縦できるのか、に思考が替わりつつあった。

 幻晶騎士(シルエットナイト)を作っても――実際には――そのまますぐに操縦できるわけではない。

 まず最初に騎操士(ナイトランナー)にならなければならない。その為に学園で勉強している最中だった。

 楽して騎操士(ナイトランナー)になったり、幻晶騎士(シルエットナイト)を操縦できるようなら誰も苦労はしない。

 

        

 

 唸るエルネスティにアーキッドとアデルトルートは友人が幻晶騎士(シルエットナイト)に対して様々な思いを抱いていることを感じ、苦笑する。

 人一倍幻晶騎士(シルエットナイト)に拘りを持つエルネスティは何をしでかすか分からない。だから、何が起きても不思議ではないと思っている。

 

(さすがのエルも鉄仮面が居る前では迂闊な事は出来ないと思うけどな)

(どうだろ。エル君なら野望の為なら手段を選ばないと思うけれど……)

 

 二人は互いに顔を見合わせて小声で相談事を始めた。

 緊張感いっぱいの現場で今、エルネスティに暴れられては後が怖い。

 

「武器による攻撃も魔法も駄目と来たら……」

「エル君。打つ手が無くなったよ~。どうするの? どうしたらいいの?」

 

 不安を滲ませるオルター弟妹(きょうだい)は頼りのエルネスティに救いを求めようと試みる。

 彼ならばどんな窮地も突破できると信じて。

 自分達に出来る事は彼に何らかの()()()()を与える事だ。

 

「……そうですね~。どうしたらいいんでしょうか。……いっそ話しかけてみますか? こちらに来ないで下さい、とか」

 

 常識に捉われない方法でなら活路が見出せる、事もあるかもしれない。

 やらないよりは何でも挑戦する方が建設的である。――しかしながら今回の相手は分が悪い。それは認めるしかない。

 

(……ですが、戦う前から敗北決定の雰囲気は打破しなければ……。僕達はまだ目の前の魔獣に対して何もしていません)

 

 相談だけでも突破口が見出せないなら、当たって砕ける事も必要な時がある。

 そう勢い込んでも現場を動かすには様々な材料が足りない。

 まず第一に自分達は学生である。

 第二に騎士団達に命令する権限を持っていない。

 第三は言うまでもなく、中等部一年の自分達が勝手な行動をすれば物凄く怒られてしまう。それはシズに、ではなく様々な人から、だ。

 

        

 

 唸るエルネスティの姿を幻像投影機(ホロモニター)から眺めていたシズはもちろん彼らの言葉も聞いていた。その中で彼が発した対話を模索する部分に頷いていた。

 討伐だけが解決策ではない。時には突飛なアイデアも有効となりうる。その点は褒めなければならない。

 

(……ですが、この世界の魔獣に言葉が通じるものは殆ど居ない、というのが常識となっています。それでも、ですかエチェバルリア君)

 

 打てる手が限られている場合はどんな方法も試みた方が建設的だ。だからこそ、彼の案を否定する事は出来ない。

 だが――ここまでだ。そうシズは結論を出そうとした。――その前に改めて確認しておきましょう、と付け加えて。

 周りを俯瞰すれば現状で彼らに出来る事は遠くで黙って事態の進展を見守ること。

 今はそれくらいしか出来ない。その均衡を破る事は無謀である。

 ――大人としてはその結論に至る。

 

(パラダイム・シフトを起こすほどであれば要警戒対象だが……。教師としてはそれを望まなければならない。……もう少し観察が必要でしょうか。それとも……)

 

 と、思考を続けていたシズはここで今以上の発展は望めないと判断する事にした。

 もうじき夕暮れに差し掛かる。そうなれば謎の魔獣の姿が見え難くなり、次の日の出には姿が()()()掻き消えている事態に陥る。

 

(それと入れ替わるように天からの祝福(ギフト)が舞い降りる、かもしれませんが……。早々の撤退を進言しなければなりません。……さて、どのような理由を用いれば誰も犠牲を出さずに事態が静まるのでしょうか)

 

 理由が出てこなければ甚大な被害が広がり、少なくも死者は確実に出る。

 乱暴な手段であるのは致し方ない。――なにせ、()()はそれ程の質量兵器と言えてしまうのだから。

 細かく砕いてしまうと余計な面倒ごとが発生する。()()()()()()の場合はやむをえない事情となり、現場どころか国が大混乱に陥る事は必至――

 

「……議論は尽くされましたか、エチェバルリア君」

 

 シズは外に居るエルネスティに声をかけてみた。

 自分があまり前面に立てないのであれば彼に――彼らに出てもらうしかない。

 

「そうですね~」

 

 腕を組み、人差し指を顎に当てつつ唸るエルネスティ。それを見守るオルター弟妹。

 正直に言えば手詰まり。だが、それを認めたくない気持ちがある。

 エルネスティは周りから期待されている事を自覚している。だからこそ、その期待に最大限応えたい気持ちは人一倍あると自負している。――有り余るほどに。

 

「正攻法では無理そうですが……。奇計戦略、または奇策などを用いれば可能性があるかもしれません」

 

 聞き慣れない言葉にオルター弟妹他、エドガー達も苦笑する。

 エルネスティはどんな手を使う気なのだ、と物凄く気になってしまった。

 

「……一応、聞こうか。折角、後輩が頭を痛めて考えた作戦だ」

 

 ディートリヒが仲間達に声をかける。

 剣を振るうくらいしか自分には出来ない。ならば、十全に活動する為には優秀な頭脳担当が必要で、今がその時だと確信している。

 正直に言えばグゥエールでもう一度向かえと言われたら拒否する自信があった。現行の装備ではどうしても適わないからだ。それに先ほどエルネスティが言った通り、戦力も足りない。その中で勇者を気取って突っ込んでも結果は芳しくないものになる。

 何故、そう思うのか――

 戦った感触で思い知ったからだ。

 弱点を見出さない限り、今以上に攻める事が出来ない。そして、あの魔獣の攻撃力は本物である。更に奴の攻撃を避けられる自信が無いし、グゥエールの速度もおそらく負ける。

 それくらいの分析は感覚的にだが出来る。だから、今は待機を甘んじて受け入れている。

 

「作戦と呼べるかは……。まずは……守護騎士団が今(おこな)っている作戦を見守ること。あれはあれで有効です。……そうなると僕達の出番がありません」

「……まあ、そうだな。彼らは俺達より経験豊富な騎操士(ナイトランナー)達だ」

「で、僕らに取れる作戦は殆どありません。というより、これが結論でも仕方がない程に……」

「エル君でも諦めてしまうほどなの?」

「……アディ。世の中には無謀に突っ込んでどうにかなる程、都合よく世界は回らないものなのですよ。……時にはそれで回ることもあるにはありますが……」

(確か『コペルニクス的回転』と言いましたか。……哲学者の言葉を真に受けて思考が硬直しても困りますが……)

「……つまり具体的な方法は現時点では無い、と?」

 

 エドガーの言葉にエルネスティは頷いた。

 現行装備を勘案すれば、彼とてそう結論せざるをえない。

 ただし、幻晶騎士(シルエットナイト)を操縦出来ればまた違った答えが導き出せる、かもしれない。というのは思うだけに留めた。

 

        

 

 勝利条件がほとんど無くなった事だけが分かったような結論に対し、エドガー達も頭を痛める。

 とはいえ、撤退することもまた立派な決断であり作戦だ。

 誰も犠牲が出ない方がいいに決まっている。――だが、自分達が下がる事で後方に控える大都市ヤントゥネンが襲われない保証は無く、いずれは首都まで進軍してくるかもしれない。――それは考えすぎなところはあるけれど。

 

「……正攻法が駄目なら……、奇策とは? 具体的な案でもあるのか?」

「まずは対話です」

 

 人差し指を立ててエルネスティははっきりと言い切った。そこに迷いは無い。

 誰もが無駄だ、無意味だと言いそうな言葉に対して反論は今この場において出なかった。――それだけ周りが真剣に聞き耳を立てていた、とも言える。

 

「……聞こえてはいたが……。確かに作戦としての一案ではあるな。騎士団の方々の意見はどうなのでしょうか?」

 

 エドガーが代表して近くに居た騎士団の幻晶騎士(シルエットナイト)に声をかけてみた。

 

「知性がありそうな気配があるというだけで……。我々の言葉が通じるとは……」

 

 というより、この会話が魔獣にも届いている筈だ。それと謎の魔獣は壊れた幻晶騎士(シルエットナイト)の側で触手を僅かに動かすのみで大人しく佇んでいる。

 まるで――人間達の計画している作戦を傍観しているような――

 

「……まさかあの魔獣……、僕らの行動を観察しているんじゃないでしょうか」

 

 エルネスティは今まで想像していなかった結論を近くに居るエドガーに伝えた。

 先ほどから現場を動こうとしない。それは休んでいるようにも見えるのだが、それにしては穴掘りの作業音くらいは届いている筈だ。なのに黙っているのはかえって不自然だ、と思った。

 目や耳が無い生物というのは何かしらの感覚に鋭さを持つと言われている。全く感知していないというのはありえない。その理由として迫り来る幻晶騎士(シルエットナイト)を現に撃破して見せたからだ。

 動いている触手に秘密があるのかもしれない――とエルネスティは分析する。

 

「……壊れた幻晶騎士(シルエットナイト)を側に置いたまま何もしない?」

 

 騎操士(ナイトランナー)は既に脱出しているのは分かっている。それと人間を追おうとはしなかったことも。

 では、魔獣の目的は何なのか。

 まず浮かんだのは時間稼ぎだ。しかし、目的は不明。仲間が居るのかも不明なので、これ以上の思考は徒労だ。

 人間観察。それはそれで色々と納得しそうだが、そうなるとかの魔獣は自分達が思っている以上に賢い、または高い知能を有している事になる。

 そんな知性豊かな魔獣が大人しくしている理由は何なのだろうか、とエルネスティは頭脳を懸命に働かせた。

 

 人間の行動をあえて見逃している。

 

 もし、その仮説が真実ならば次の行動に移る時、何が起きるのか。

 例えば――

 

(僕達側の作戦を全て無にするような、全く異質な行動を開始するとか。……例えば空を飛ぶ。またはそれに類する行動が実は出来る。毒液を吐く。……これは何処から出すのか分かりませんが……。それと全方位に火炎放射。……ありえそうで怖いですね)

 

 まさかと思いつつも念のためにもう少し距離を取ることを提案する。

 エルネスティが想像した常識外れの行動に対し、他の騎操士(ナイトランナー)達も苦笑しつつ、否定できない事実に緊張が走る。

 触手の動きすら想像を絶する速度を有しているのだから、ありえないと言うのは早計だ。

 

「……つまり、ますます我々の言葉を理解している節がありますね」

「ならば対話を試みようか。こちらに攻撃の意志が無い事を伝えれば……」

「その前に私が攻撃したことを恨んでいたりとかあったらどうしようもないぞ」

「その場合、ディー先輩の幻晶騎士(シルエットナイト)を鉄屑にしてもらうことで許してもらいましょう。後で僕達がきっちり直しますよ」

 

 別に中身まで潰そうとは思わない、かもしれませんし、と。

 それに同じく攻撃に参加した幻晶騎士(シルエットナイト)は操縦者まで潰さなかった。少なくとも魔獣は率先して行動を起こそうとはしていない、またはする気が無い、と考えておく事にする。

 

        

 

 壊される予定のディートリヒとしては納得したくない。けれども事態を進展させる為に必要ならば騎士として諦める事も選ばざるを得ない。――それで多くの人民が助かるなら本望だ。それに――死を選ぶわけではない。

 

「まずはギリギリまで近寄って話し掛けてみましょうか。ファーストコンタクトというやつです」

「……エルネスティ。今回ばかりは君に操縦を代わってあげたい気分になってきたぞ」

「それは是非に!」

 

 目蓋を見開き蒼玉の如き瞳を輝かせるエルネスティ。

 鼻息荒く、早く操縦させてくれ、と興奮しつつ全身で訴える。

 彼にとって全てに優先されるのは幻晶騎士(シルエットナイト)だ。

 

「……騎操士(ナイトランナー)ではない君に勝手に操縦されると色んな人に怒られるし、君もそれなりの罰を受けるぞ」

「そんな事は些細な事ですよ」

 

 はっきりと言い切るエルネスティにエドガー達は苦笑を滲ませる。

 幻晶騎士(シルエットナイト)に関して並々ならぬ思い入れがあるのは充分に理解した。その上で気持ちを落ち着けるように――本人には無駄だと思ったので――オルター弟妹に言いつけた。そのオルター弟妹も幻晶騎士(シルエットナイト)バカである彼の制御は至難の業であった。

 

「私の後ろにはシズさんが居る。代われ、と言うのならば彼女が先だ」

「それは残念です」

「一つの結論が出たところで決行はいつにすればいい。今か? 夜になるのも不味いのだが……」

「あたし達もずっと幻晶騎士(シルエットナイト)に乗っているわけにはいかないわよ。休憩が欲しいところよね」

 

 長時間同じ体勢で居ると体調が悪くなるものだ。

 ヘルヴィとしても適度な休息を望む。それと緊張感から身体が汗ばんできているのが気になっていた。

 

        

 

 魔獣に動きが無い内に小休止をとる事にした。それに対し、エルネスティ達は異論を挟まなかった。

 今すぐに動けば解決するのか、と言われれば分からないと答える。

 グゥエールから降りたシズも合流し、簡易的な会議を始める。

 

「そういえば、あの盾は持ってきてないんですね?」

「持ち込む余裕が無いと思いまして」

 

 結構な大きさがあったので幻晶騎士(シルエットナイト)の中に入れるには嵩張る代物だと納得する。

 珍しい武器に興味が行ったエルネスティだがすぐに思考を切り替える。

 学生達に出来る事は殆どない。独断専行もし難い。

 犠牲を最小限に抑えて事態を打開する方法は皆無に近い。

 ここまで絶望的な状況だが、これが師団級の『陸皇亀(ベヘモス)』が相手であればどうなっていたか――

 前方に鎮座している魔獣よりも好戦的で多くの犠牲は確実――

 だが、エルネスティは実際に見たことも戦ったこともないので迂闊な事は言わないけれど、それでも何らかの行動は取っていたと思う。

 もちろん無謀な突撃をするつもりはない。

 

「そもそも師団級に人間がどうこう出来るわけがない。向こうの砦の惨状を見れば明らかだ」

 

 巨体に物を言わせた突進だけで確実に都市は滅びる。

 決闘級規模のあの魔獣ならばやり過ごせば人的被害くらいは防げる可能性がある。しかし、身体は師団級に比べて小さいとはいえ、人間を襲うタイプであるならば非常に厄介なのは変わらない。

 

「話しかけるとして……。なんて声をかける。挨拶からか?」

「挨拶は大事です。まずは意思疎通が出来るか試す必要があります。いつまでも大人しく過ごしている保証がない以上は様々な方法を試すべきです」

 

 一度動き出して都市に行かれてはどんな被害を被るか――出来ればそんな事態は想像したくない。

 触手()()素早い保証もない。

 知性が高い化け物というのは色々と隠し技のようなものを持っていると見るべきだ、とエルネスティは小声で進言する。

 単純行動しかしない化け物ならば頭を悩ませる必要は無い。けれども、こちらの誘導も挑発にも乗ってこないのは生物として疑問を覚えざるを得ない。

 ここに来るまでに戦った決闘級までの魔獣は少なくとも生物の本能に従った行動を取っていた。

 痛みを与えれば怯む。攻撃すれば興奮して襲ってくる。勝てないと分かれば逃げ出す。

 だが、あの魔獣は攻撃をものともしないどころか思考パターンが全く読めないのが大問題だった。

 どうして自分で壊した幻晶騎士(シルエットナイト)を今も側に置いているのか。

 中から出て来た騎操士(ナイトランナー)を敵だと認識しなかった理由も不明。

 周りで今も作業をしているのに動いているのは触手のみ。しかも、攻撃するでも挑発するでもない。不可解としか言いようがない。

 

「人間……というか幻晶騎士(シルエットナイト)を挑発しているようにも見えません。あれは何を意味しているのか……」

「仲間を呼ぼうとしているとか?」

 

 それにしては触手を長く伸ばさないのが解せない、とエルネスティは言った。

 見ている限りだと暇そうにしているように見える。

 虫とか小さいものをただ追っている、ともいえる。

 近くまで行かないと正確な事は分からないけれど、と続ける。

 

        

 

 一応の方向性が固まったところで次は実行案に移る。

 人間のまま向かうのか、それとも幻晶騎士(シルエットナイト)で移動するのか、だ。

 勝手な行動をすれば今も作業を続けている騎士団に迷惑が掛かる。であればどういう方法が取れるのか――

 

「順当に考えて私が行く方が無難だと思います」

 

 物静かにシズが言った。

 この場に居る最年長者にして責任ある大人だ。幻晶騎士(シルエットナイト)こそ持っていないが資格は有している。

 そして、議論は出尽くしたとシズは判断していた。仮にまだあったとしてもこれ以上の時間の引き延ばしは無益ではないかと。

 

「そ、そうですね。我々が無謀に向かっては学園に迷惑がかかりますものね」

 

 検討を重ねたエルネスティは自分一人で解決できるものと頭の片隅では思っていた。けれども、現場を改めて見渡すととても無謀な一手が打てるような状況ではない。

 有名になりたいとか、華麗に魔獣を討伐してみせるとか。思いはしても実行できるかはまた別の話しだ。危険と判断すれば自分も撤退を選ぶ。

 

(学園どころではなくエチェバルリア家や友人まで巻き込みかねません)

 

 場が静まったところでシズは徒歩にて魔獣に向かう。

 学生に期待しても出来る事は少ない。その上で無謀な行動を起こすようでは教師としては困るが学生としては()()期待してしまうのも如何なものかと――

 

(……さて、邪魔者は排除できました。私というイレギュラーが邪魔をしてしまったかもしれませんが……、成り行きであるから致し方ありません)

 

 まずは注意を引き付ける為、持参しておいた『触媒結晶』付きのグローブを嵌める。

 歩きつつ獲物である魔獣に向けて()()として中級魔法(ミドル・スペル)の『爆炎球(ファイアボール)』を放つ。

 この魔法は誘導性が無く、標的をちゃんと狙わないと外してしまう。――()()()()()()()()()()とは些か違っていて、劣化版のような印象を受けたものだ。

 橙色の楕円系型魔力球は炎の尾ひれを引きながら標的へと飛んでいく。その様子を見たエルネスティ達は大層驚いていた。

 対話するんじゃなかったのかよ、と声無き悲鳴が上がった。

 触手をフヨフヨと動かしていた魔獣に爆炎球(ファイアボール)が当たった。――ゆっくりと飛んでいた羽虫が勝手に激突したような様子だったが――

 それだけで動きに変化が生まれ――同時に周りで作業をしていた幻晶騎士(シルエットナイト)達がどよめく。

 人間大の中級魔法(ミドル・スペル)では針で突っつく程度の感触しか与えられないかもしれない。けれども、それだけの事で魔獣は確かに動きを変えた。

 全ての触手をダラリと下げ、身体を微動させる。

 それに対してシズは熱を持ったグローブを軽く振っていた。

 素材が脆い為に中級魔法(ミドル・スペル)を何度も使用できない上に火の基礎式(エレメント)との相性が悪かった。――そんなグローブがいくつかあるので使い捨て程度には役に立つ――

 

        

 

 攻撃を受けた魔獣は地面に下ろした触手を器用に使い、掘られていた溝を()()()()()()()()()突破した。

 それを見たエルネスティはやはり、と思った。

 頭の悪い魔獣なら溝の存在に気を留めず、そのまま動いて(はま)るのがオチだ。だが、かの魔獣は――おそらく最初から気付いていた上で見逃していた、と見て間違いがない。

 それはつまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という意味だ。

 

 ズンっ!

 

 と、大きな一歩でシズに肉薄する魔獣。その相対距離は十メートルも無い。

 すぐさま攻撃に移るのかと危惧した。しかし、魔獣は即座に行動せず、攻撃した人間に興味でも覚えたのか、大人しく佇んでいた。――その様子を見ていた周りは声かけすれば危ないと思ったのか、誰も声を発さない。ともすれば幻晶騎士(シルエットナイト)の駆動音すら消すほどの静寂――

 

(……現地の魔法の威力の程は把握しました。……では、次は応用に行きましょうか)

 

 自分達の知る習得出来る魔法とは違い、現地の魔法は仕組みさえ理解出来れば様々な応用が可能となる。欠点があるとすれば先ほどのような威力不足――

 数も少ない。これは単に使い手があまり育たなかっただけで、まだまだ伸びる可能性を秘めている。ただ、それを成せる人材が多く居ない為に幻晶騎士(シルエットナイト)に頼る文化が優先されてきたと思われる。

 人間は効率を追い求め、その果てで様々なものを取捨選択していく。

 だからこそ、この結果を否定する事はシズには出来ない。

 彼らは自ら選んだのだから。

 

        

 

 シズは『魔術演算領域(マギウス・サーキット)』上で適切な『魔法術式(スクリプト)』を構築していく。ただし、その規模は常人を遥かに凌駕していた。

 本格運用の実績が無いので完璧とは言えないが、見る者が見れば唖然とする事態だ。

 魔力(マナ)を消費する以上、シズでも無限に扱えはしない。これは他の高性能のシズでも至高の御方でも避けられない制限のようなもの。

 利便性の高さは目を見張るものがあると評価され、研究が進められている。

 

(人の身で威力を増大させるにはそれなりに魔力(マナ)が消費されますから……。それを外部から供給できれば理論上は無限行動も可能……、不可能ではない、が正確か……。限度がある以上、それに倣った方が安全度は高くなる)

 

 効率化を追い求めても現時点のシズに出来る事は限られている。それは変わらない。

 もっと拡張するには幻晶騎士(シルエットナイト)の――正確には機体に搭載されている『魔導演算機(マギウスエンジン)』や『魔力転換炉(エーテルリアクタ)』を利用するのが一番の早道だ。

 学生身分ではこの部品を独自に分析したり解析する事は許可されていない。

 国の秘事となっているからだ。

 ――シズは立場的にフレメヴィーラ王国の法律を遵守しているだけで、本来ならば守る必要性は無い。任務だからこそ、だ。

 

        

 

 様々な魔法を構築しても超重量を誇る目の前のモンスターを打倒できるもの、または出来そうなものは見つからない。それはエルネスティ達に配慮しての謙遜ではない。

 このモンスターの強さは本物である。

 そして今は静かに佇むように命令を受けている。

 ――もし、その命令を破棄すればどうなるのか。

 

(相対的に一人での戦闘は無謀……。かといってあっさり倒してはわざとらしく映りますよね)

 

 打倒するにしても、このモンスターには弱点と呼べるものが無い。

 ダメージを与える事は――理論上は――出来る。だが、強固な外皮と尋常ならざる耐久力は群を抜いているので()()()()()ではまず歯が立たない。

 それでも無理に打倒しようとするのならば――強力な魔法による数の暴力を持ってしか打つ手は無い、かもしれない。それと現地の魔獣とは違い、魔力(マナ)切れで無敵性を喪失させる作戦は無意味だ。そもそも触媒結晶を持っていないし、身体強化(フィジカルブースト)という魔法は使っていない。――使えない。

 シズも知識としては知っている。

 単騎で屠れるほど弱いモンスターではないと。それゆえに『決戦級』という特別な呼び方が用意された。

 現地に倣えば一体だけで国を滅ぼせる。ともすれば世界すらも。――やりようによっては出来なくはない。それだけのポテンシャルを秘めているにもかかわらず、世界が平和でいられるのはこのモンスターが通常の生物――ただの魔獣ではないからだ。

 時間制限付きのモンスター――

 ただ、目の前に居るのは時間制限を廃した存在だから脅威度は格段に跳ね上がっている。

 通常であれば放っておくだけでいずれは消えてしまう。対処としては逃走かひたすら攻撃に耐え続けるか、だ。

 打倒しようとするのは無謀な勇者だけ――

 

        

 

 圧倒的な存在感を持つこの魔獣――モンスターの名は『黒い仔山羊(ダーク・ヤング)』という。

 『黒き豊穣の女神(シュブニグラス)』の落とし仔であり、敵を蹂躙するのに打ってつけの壁役(タンク)

 まともに戦う者は殆ど居ない。いや、時間制限があるために徒労だと思われているので挑戦者が少ない。

 

(相対してしまいましたが……。どうしましょう。倒そうとしてみますか。それとも、話しかければいいのか……。それ以前に……)

 

 どうしてすぐに回収しなかったのか、とシズは疑問に思った。

 昼間で人目が多く集まってしまったから回収が延期になった、というのであれば納得出来る。しかし、目の前のモンスターは回収役が中々来なくて寂しがっているように見える。

 他の人間には伝わらないが、見知らぬ土地に残されて退屈を感じ、近寄ってきた玩具のような幻晶騎士(シルエットナイト)と遊ぼうとしたらあっさりと壊れてがっかりしていた。――というのがシズには()()理解出来た。

 すぐさま近寄って慰めたいところ。それが出来ない立場なので、もどかしいかぎりだった。

 

(可哀想な黒い仔山羊(ダーク・ヤング)さん。もう少し待っていて下さいませ。……それとも『転移(テレポーテーション)』に挑戦しますか? 残念ながら上位版は持ち合わせが無いもので……)

 

 モンスターにだけ聞こえる声量で尋ねると触手を横方向に動かす仕草をした。つまり、拒否だ。

 今は目立つ行動は避けるべき、と判断しての仕草だとシズは解釈する。

 

        

 

 普段はその巨体を利用した作業に務めているモンスターだが、知性は人間が想像しているよりも高い。

 人を見分ける事もできるし、手加減も出来る。

 炎を吐いたりするような特殊な能力は無いけれど、力仕事に関してはとても優秀である。

 硬い防御と高い耐久を誇っているのでシズの手持ちの魔法で瀕死になる事は無い。先ほどの魔法にしても挨拶だと解釈できるほどに気にしていない。

 説明だけ聞けば無敵のモンスターに思われるが、ダメージを受ける以上は倒せる可能性がある。要は倒しにくいだけ。

 このまま戦闘に発展しては互いが不利益を被ると判断し、一つの方向を指差す。

 師団級によって破壊されたバルゲリー砦の向こう側を。

 

「ここから立ち去りなさい。……お互いの為にも」

 

 シズの言葉にモンスターは触手を複雑に動かした。

 鳴き声をあげるな、という命令に従っているようで、触手による仕草でシズに伝える。

 会話らしい姿さえエルネスティ達に見せられれば充分だと判断した。細かい解釈は必要ない。それらしい雰囲気だけ演出できれば――

 少しの間、逡巡する黒い球形の魔獣は納得したのか、指示された方向へと歩み始めた。――途中、作られた穴に足を取られてよろめく()()()()を演じたりしながら去っていく。

 

        

 

 脅威の魔獣がゆっくりとした足取りで去る中、騎士団たちはあ然としていた。

 人的被害はほぼ無いので追撃に関しては得策ではないと判断する。

 壊した幻晶騎士(シルエットナイト)を持ち去られるかと思ったが、魔獣は鉄屑に興味をなくしたのか、放置していった。

 

「……助かったのか? あのまま帰して仲間を連れて戻ってくることはないのか?」

「そういう詮索は後だ。現場の調査を始めろ。それと壊れた幻晶騎士(シルエットナイト)を回収しろ」

 

 団長のフィリップがそれぞれに命令を下していく。

 遠くから見守っていたエドガー達も手伝おうかと思って進言してみる。すると快く承諾してくれた。

 動ける機体は何よりもありがたい、という風に。

 

「……シズさんでも倒せませんでしたか、あの魔獣は」

「それはさすがに……。しかし、いきなり魔法をぶっ放すとは驚きました。……僕、シズさんなら本当に会話して仲良くなるんじゃないかと思ってましたよ」

 

 少しだけがっかりしつつ無事に帰ってきた事を喜ぶディートリヒと明るく微笑む銀髪の少年エルネスティ。

 事態が治まったからいいようなものの、もしシズが倒されでもしたら即座に撤退を選んでいるところだ。

 知性のある魔獣に対し、無謀な突貫はエルネスティでもやりたくない。

 もし、仮に幻晶騎士(シルエットナイト)に乗って戦う事になれば――自分は果たしてあの魔獣に勝てたのか、と自問してみる。

 見た目の印象では勝ちにくい。実際に剣を当てていないので。それでもディートリヒの言う通りの強固さであれば――

 

 打つ手なし。

 

 勝てない相手に対して出来る事は逃げること。

 それからじっくりと打倒計画を立てる。それが一番ベストな解答ではないかと愚考する。

 現行の装備や幻晶騎士(シルエットナイト)では無理でも――

 勝てないなら勝てる機体を作ればいいだけだ。

 拳に力を込めて決意するエルネスティ・エチェバルリアの姿をシズは横目で眺めた。

 

 


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