一から始めるカオスウォーズ 作:Salvo11y
事の発端は、二日前まで遡る。
その日は、俺の誕生日だった。
両親と義姉とに、ささやかに祝ってもらい。
養母の作った、少し豪華な家庭料理で幸せな満腹感をソファーで満喫しながら、ゆったりと過ごしている時の事。
「ねぇ、蒼。これ、あげるわ…」
唐突に楓姉さんが、テレビから視線を外さないまま、スッと俺にラッピングされた箱を差し出した。
「え?…ええっと、誕生日のプレゼントをくれる…で、いいんだよね?」
「…他に何があるの?」
「え?ええっと…う、うん。ありがとう。」
楓姉さんは、俺の自慢の家族である。
勉強もできるし、運動神経もいい。
見てくれだって、含みなしに美人であると断言できる。
そんな自慢できる義姉だが、強いて言えばその言葉の少なさが欠点だろうか?
義姉さんの言葉少ない振る舞いは、どうにも冷たい印象を振り撒きがちだ。
いや、学校で姉さんのファンクラブやってる奴らにとってはそんな所も素晴らしい美徳らしいのだが。
それに、俺だって楓姉さんが冷たい人間などとは毛頭思っていない。
冷たい人間が、毎年忘れずに誕生日プレゼントを贈ったりするわけがない。
ただ…毎年高額なプレゼントを贈られる身としては否が応でも身構えずにはいられないというだけ。
去年の誕生日には、腕時計を貰った。
ラン○ウント○ーネとか言う海外メーカーの…ちょっと普段使いを躊躇う価格の腕時計。
一昨年には、とてもかっちょいいロードバイク。しかも、海外の有名な自動車メーカーのやつ。
…しかし、女子高生が何故二桁万円の腕時計や自転車を弟に贈れてしまうのか…コレガワカラナイ。
最初に、高額なプレゼント(推定6万円、東北の皮革職人謹製の一品モノの長財布だった)を貰った時は、確か両親が大騒ぎして家族会議へと発展した。
当時、俺が10歳で楓姉さんは12歳。
両親の気持ちを考えてみてほしい、12歳の娘が自分達が用意したよりも高額な商品を弟の誕生日プレゼントに買ってきたらどうなるか…
そりゃ、何か危ないことをやってるんじゃないかって心配する。
家族会議にもなる。
案の定なった。
まだ小さかった俺は、参加させてもらえなかったが、それはそれは侃々諤々の追及にも似た家族会議になったらしい。
翌朝、煤けた顔で
『そうかぁ…楓もそんな歳かぁ…』
と寂しそうに呟く養父と、
妙に明るい養母の姿を今でも覚えている。
そのとき以来、楓姉さんからのプレゼントについての両親からの追及は無くなっている。
まぁ、両親が姉のプレゼントに見劣りしないプレゼントの選定に苦慮するようになった様だけれども。
ともあれ、そんな義姉からのプレゼントである。
期待四割、不安四割、覚悟を決めるためのリソース二割で身構えずにはいられない。
「開けてみて?」
「う、うん。」
サイズはそこまで大きくない。
いや、サイズが価値の判断基準にならないことは去年の腕時計で思い知らされたのでまだまだ油断は出来ない。
ラッピングを丁寧に剥がして…何これ?
真っ黒な外箱に、妙に攻撃的な赤いロゴ。
そこはかとない中二病の雰囲気を漂わせるそれの正体が、俺には今一分からない。
意を決してぱかりと蓋を開けると、プラスチックとおぼしきパーツが付いた妙にゴツい手袋が出てきた。
「こ、これ何?」
「マウスよ。」
「マウス…」
手袋からは連想されないであろう言葉を受けて呆けた様に呟く俺。
そんな俺を置き去りにして、楓姉さんは話を続ける。
「そう。装着式操作端末だったかしら…プロ仕様のやつよ。」
「プロ仕様…」
確かe-Sportsのナイター中継で、こんな感じのグローブを選手が着けているのを見か気がする。
「ええ。蒼はパソコン持ってなかったでしょう?パソコンに詳しいクラスメイトに聞いたら、これが一番良いやつだって。」
「パソコン…」
「だからプレゼントすることにしたの。使いやすそうなやつ。一式。」
「プレゼント…一式………一式!?」
「残りは部屋に運んで貰ったわ。」
「運ぶ!?これだけじゃないの!?」
「何いってるの?パソコンはマウスだけじゃ使えないのよ?」
「知ってる!知ってるけど!」
「ふふ、喜んでくれてるみたいね。」
ち、違うんだ楓姉さん!
これは、喜びというか、驚愕というか!!
「良いわ、蒼。今年のプレゼントは、お姉ちゃん一生懸命頑張ったもの。蒼の部屋に見に行きましょう。」
「!?!?」
そうして、義姉に連れられて向かった俺の部屋。
そこには、見たことのないモノがいくつも置かれていた。
というか、俺の部屋が様変わりしていた。
使い慣れた勉強机や椅子なんかが見当たらない。
そして、部屋の中央に鎮座するデカイ椅子。
「え、えぇー……」
「大丈夫よ。心配しなくても、セットアップは一緒にやってあげるわ。」
そうして、あれよあれよと言う間に楓姉さんと一緒に各種設定を済ませた俺は、一段落した辺りで気になっていたことを聞いてみた。
「ねぇ、楓姉さん。その…何で今年はパソコンを?」
今まで、楓姉さんがプレゼントは実用…というか、チャラチャラしてない物がほとんどだった。
財布、万年筆、自転車、腕時計等々…
…いやまぁ、高級ブランドの自転車や腕時計が、俺のような子供にとって本当に実用的なのかは置いておいてだ。
ともかく、そんな楓姉さんのプレゼントが突然ゲーム特化のパソコンである。
一体どんな心境の変化だ。
「………最近、あまり蒼と話が出来てないじゃない。」
「へ?」
「だからよ。」
…う、うん?
いや、まぁ確かに高校入学直後で高校生活に頭が一杯で楓姉さんと話をするような機会が減ったような気もするが…いや、そこまで減ったか?
それに、だからパソコンをプレゼントってよくわかんない!
俺が怪訝な表情で居ると、俺の理解状況を察した楓姉さんが言葉を続けた。
「…どうすれば良いのか、先生やクラスメイトに聞いたのよ。」
「うん。」
「そしたら、先生も最近息子さんと会話が少なくなったって。で、今度グローブをプレゼントしてキャッチボールをするって言っていたわ。」
「は、はぁ。」
「クラスメイトの男子は、男ならゲームを貰うと嬉しいって言っていたの。」
「う、うん。」
「それを踏まえて、お姉ちゃんなりに蒼の役に立つものを考えて、パソコンにしたの。ただのゲーム機じゃあ、
遊ぶだけになっちゃうじゃない。」
…ふむ。
つまりは、息子との距離に悩むお父さんの結論と、同じ年頃の男子生徒の欲しいものとを楓姉さん的な価値観で合体させた結果のプレゼントが、このごっついゲーミングPCだったと。
「で、そういうのに詳しい知り合いに一番良いパソコンを聞いたら、これが一番だって。」
「…詳しい知り合い?」
「関西ナインライヴズの監督よ。」
「は?」
関西ナインライヴズ…俺の記憶が正しければ去年のe-Sports日本リーグの優勝チームですよね?
「知らない?」
「いや、知ってるよ!いや、知ってるけど………姉さん、変なことしてないよね!?」
知ってるけど、我が義姉との日本リーグ一位関係が解らないのですが。
「まぁ、とにかく知り合いなのよ。で、その人と同じ職場の人にも話を聞いたらこれをオススメされたのよ。」
………それって、要するにプロの選手達ですよね。
「で、その人たちや、そういうのに詳しいクラスメイトにオススメのゲームを聞いたわ。」
「は、はぁ。」
「そしたら、『war all grands』良いって聞いたの。蒼は、飛行機好きだったわよね。だから、今年のプレゼントには、既にそれがインストールされているわ。」
「う、うぉー……何??」
「『war all grands 』よ。コンバットシミュレータゲームね。男の子なら皆戦闘機とか戦車が好きだってクラスメイトが言ってたわ。それに…まぁ、とにかく色々聞いたのよ。」
…色々………色々かぁ。
楓姉さんの言う色々に若干不安を覚えないでも無いけど、要するに
「つまりは、一緒に遊ぼうってこと?」
「ええ。そう言うこと」
まぁ、楓姉さんはこんな人だよなぁ。
割りと突拍子もないことを、差も当然かの様に周囲に押し付けてくる。
理路整然としている訳ではなくとも、姉さんの自信たっぷりな態度が、無い筈の説得力を付け加えてしまう。
そんな楓姉さんに押しきられるように、あれよあれよとゲームのインストールを済ませて、起動する。
「一時間もあればチュートリアルも終わるって聞いたから、私も今からやってみるわ。じゃあね、ゲームの中で会いましょう?」
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その後アカウント作成やら何やらを、ヘッドマウントディスプレイに表示される内容に従って進めていく。
ユーザー名は、本名を適当にもじって『
これでも本名直結で不安になったので、三島の所をひっくり返して『isl_3』にする。
使用言語は日本語、自動翻訳もONの設定っと。
その他、動作環境なんかについての設定項目は………推奨と、自動識別で良いのかな?
まぁ、間違ってても後から変更出来るでしょ。
そうして、すべての設定が完了したところで、司会に『ゲームスタート』のアイコンが現れる。
こいつをクリック。
そして数秒後、唐突に視界が開けた。
周囲はだだっ広い平原で、かなり広い道路が目の前にある。
キョロキョロと周辺を見回していると、これまた唐突に声が聞こえてくる。
「ようこそ『war all grands 』へ、ミスター。これより、チュートリアルを開始します。」