神の一手を極める者   作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?

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 レポート書かずに次上げる。ハイ! ハイ! ハイハイハイ! 現実逃避し隊! 現実逃避し隊!

 モンハンの小説面白いね。あの世界に幻影旅団入れたりとか、工場にオリ主とか入れてみたい。書ける気しないし、モンハン分からんけど。


第七局

 学校が終わるや否や、友達たちのサッカーの誘いを断って、俺はあかりと共に図書館へと囲碁のことを調べに来ていたのだが、手に取った囲碁雑誌を見て、俺は顔色を変える。

 

(なんで、塔矢名人よりも桑原のじーちゃんの方が有名なんだよ……)

 

 それもコレも、図書館の囲碁雑誌の七割強が、桑原仁本因坊の○○! と言った内容の雑誌だったから。中には、囲碁界最強の男! とまで書かれた物まで。

 

「へぇー。この桑原って言う人が一番凄いんだぁ。あ、本因坊って書いてる」

 

【桑原……本因坊の名は続いているのですね】

 

(いや、続いてるのは続いてるけど、21世本因坊が、『本因坊』っていう囲碁の位を日本棋院に名跡を譲って、そこから世襲じゃなく選手権制の大会に作りかえたんだよ)

 

 本因坊秀策。佐為に関するタイトルというのもあり、三大タイトルの他二つである名人位や棋聖位には興味がなかったため、俺的には囲碁界最強の棋士を決める戦いだと思っている。

 

(今は、挑戦者を決める大会に入りやすく、またそこから落ちやすい厄介な形式の大会だよ)

 

 現に、北斗杯のあと15歳のころに本因坊リーグに入れるようになって18になる3年間をかけてやっとタイトルに着いたのだ。

 

(俺の時は、この桑原って人が負けて緒方って言う棋士に移って、次の年に桑原のじーちゃんが意地で取り返して、それを俺が取った)

 

【それじゃあ、かなり本因坊の名は移るのですね】

 

(まあ、1年に1回しか戦わないけど、それ以外でも名は賭けずに別の形で対局してる人が相手になることが多いしな)

 

「って、桑原のじーちゃん! 本因坊と天元と碁聖まで持ってんじゃん!」

 

「しーっ! ヒカル! 声大きいよ」

 

「ごめんごめん」

 

 記事に載っていたプロフィールをちらっとめくると記されていたその保持タイトルに驚きを隠せず、思わず大声を出してしまった。それもそのはず、桑原も桑原で俺と同じように本因坊のタイトルが一番だったから。緒方を倒して棋聖の挑戦権は手にしていたが、その時は勝っていなかった。

 

「あかり、ちょっとパソコンで調べたいことがあるんだけど良いか?」

 

「ん? 私も見て良い?」

 

 俺は勿論と答えを返すと、そそくさとパソコンがあるコーナーへと向かい、今のタイトル保持者を調べてみる。そこには勿論馴染みの名前があるが、記憶にあるそれとは少しばかり違う。

 

 棋聖  一柳

 名人  塔矢行洋

 本因坊 桑原仁

 王座  座間

 天元  桑原仁

 碁聖  桑原仁

 十段  塔矢行洋

 

 何より違うのは、もう年老いているのに三冠になっている桑原仁と、それに比例してか、まだ三冠を手にしていない塔矢行洋の2人。

 

「凄いねヒカル。この桑原って人凄いおじーちゃんなんだね」

 

「そうだな。けどこの棋譜……」

 

【凄く強い棋譜ですね……】

 

(マジかよ。俺の知ってるじーちゃんよりも数段強いぞ。多分、あの五月の佐為と同等レベル。俺じゃあ、五分に持って行けるか?)

 

 開いた棋譜は、今期の本因坊戦挑戦手合の第五戦。桑原本因坊が塔矢名人に対し防衛を決めた対局の物。どう見ても、年齢による衰えは見えず、また、自分が知ってる彼の棋力よりもかなり高いところにその実力があることが伺える。

 

「キレイだね。この人の囲碁」

 

「黒と白のどっち?」

 

「えっと、白の人」

 

 結果は負けてるけど。とシュンと悲しそうな顔しているあかりの頭にポンっと手を乗せ、そのまま頭を撫でる。自分の方が身長が低いせいでやりづらいが気にしない。

 

「この2人は、今の囲碁界での一位二位を争う棋士が戦ってるんだぜ? 凄いよなぁ」

 

 三敗していて後がない塔矢名人は、退路などないと言わんばかりに愚直にただただ真っ直ぐ進むような攻め手を繰り返しており、それに対して桑原のじーちゃんは耐え忍ぶようできっちりと、それでいてハラリと鮮やかに躱し続けている。そして所々に散りばめられた綿中蔵針の一手たち。

 

「こっちの黒の方は、なんて言うか……キレイなんだけど楽しい? おもしろい? 感じ。なんか好きじゃないなぁ」

 

「桑原のじーちゃんの囲碁がおもしろい? ははは。あかりの感覚もおもしろいな」

 

(けど、俺の棋風はオールラウンドだけど、どちらかというと先にある程度形を作って荒らしまくる実利派。そう言えば、塔矢とやるときはいつも盤全体を使ってた気がする……。となるとあかりは、模様派の感覚かな?)

 

【どちらにしろ、基礎があればこそのものですよ】

 

(分かってるよ。だからこそ俺がいるし、佐為もあかりの隣に居る)

 

「あかりは何か調べたいことがあるか? 無いんだったら、碁会所とか囲碁教室の事調べたいんだけど……」

 

「あ、ありがとう。ごめんね私ばっかりぼーっと見ちゃってて」

 

 マウスをクリックして一手ずつ見るようにパソコンのモニターを食い入るよう見ていたあかりは、俺の声で我に返ったのか、急いでパソコンの正面を明け渡してくれる。おおかた、佐為が駄々でもこねて棋譜を見ていたのだろう。

 

「葉瀬、囲碁教室っと……あったあった。あ、近所だ」

 

 ネットの検索エンジンにかけて調べてみると、出てきたのは森下九段の門下生である白川道夫というプロ棋士が講師をしている囲碁教室。

 

「ここは日曜だから俺たちでも行きやすいな」

 

「そうだね。碁会所も駅から近いところにあるって」

 

 今度の週末を使って行ってみるかと誘ってみると、すぐさま勿論と答えを返してくれる。

 

「じゃあ、囲碁教室に行く前に、簡単なことを教えていかないとな。この白川先生を驚かせるぐらいにはしてやるよ」

 

「うんっ! お願い」

 

【(さて、僕もそろそろ動かないと。佐為は僕のこと見えていなさそうだし、確認しないと……)】

 

 よし、じゃあ帰るか。そう笑顔で手を差し出すと、あかりも笑顔で手を握ってくれた。

 

((これまでと違う。これからが違う。あかりには佐為が、俺には虎次郎が))

 

「まずは碁石に触れて、九路盤で遊ぶところから始めないとな。特訓は明日から、碁盤とかが手元にないからじーちゃん家でやるぞ?」

 

 肯定の意味を持つ頷きをくれたあかりの頭をもう一度撫でてやると、ランドセルを背負って席を立つ。さーて、頑張るか! だなんて声に出してみると、控えめにオォー! とノリに合わせてくれる。こんな世界もおもしろいだなんて思えない。だって確かに違うものが確かにある。だけど、

 

((悪くない。かな))

 

 図書館の外の空は、少しばかり赤くなっていた。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『さてあかりちゃん。ヒカルはああ言ってましたが、囲碁は簡単に学ぶ事ができます。何か大きな紙はありますか?』

 

「画用紙とかでいいならあると思うけど......。それで良いの? 佐為」

 

 ヒカルに家まで送ってもらった私は、自室に入るや否や佐為にそう言われた。なので、学校の図工の時間で使った画用紙を引っ張り出す。

 

『そこに、縦と横に九本ずつの路と呼ばれる物を書いて欲しいのです。正方形を作って中に七本ずつですね』

 

 三〇センチ物差しを取り出した私は、佐為が空中に書いた書き方を真似て、それと同じように書くと、佐為が言うには、『九路盤』と呼ばれる碁盤のモデルが出来た。

 

『次は、両端の線を含めて左から三つ、上から三つなの交差するところに点を』

 

「一つ二つ三つ、一つ二つ三つっと、ここだよね?」

 

『はい。そのまま、7の三、5の五、3の七、7の七の四つにも点を入れて下さい、数え方は先程と同じで、左からの後に上からです』

 

「一つ目、二つ目、三つ四つと」

 

 分かりやすいようにと、縦と横に数字を入れていく。佐為曰く、横には数字、縦には漢数字を入れるらしい。そう言えば、図書館で見た棋譜にも似たようなものが書いてあった。

 

『それでは、ヒカルに教えて貰う前に、私が簡単にお教えしましょう』

 

 碁盤の種類は大体四つ。私が今作った9×9の九路盤。続いて13×13の十三路盤。そして、15×15の十五路盤。最後に、プロの対局で使われる19×19の十九路盤。ただし、十五路盤は基本的に使わないらしい。

 

『そして、先程入れた五つの点が星と呼ばれるもので、一つの目印です。ちょうど碁盤の真ん中にある星を天元とも言います』

 

 用具の説明としては、黒と白の碁石。それらを入れる碁笥。今は紙だが碁盤の三つ。そして、基本的なルールとしては、

 

『覚えることはたった三つです。その三つが基本になっています』

 

「三つ?」

 

『はい。ですが大前提に、碁石は線が交差しているところ、目に打つこと。例えば星ですね。今は手短にあるものを置きましょう。消しゴムはありますか?』

 

 私は筆箱から消しゴムを取り出すと、佐為に言われたように人差し指を下、中指を上にして消しゴムを指をトングにしたつもりで挟み、天元に置く。

 

『そして覚えることの一つ目は、絶対に自分と相手で交互に打つことです。コレをしなければ、反則負けとなります』

 

 後の二つは、石の周りを囲まれたら取られる事。そして、自陣の交点の数が多い方が勝ちということ。

 

「けど、何がどうなって終わるか分からないよ」

 

『囲碁の終わり方、終局には、中押しによる終わり方ともう一つ、お互いに打つところが無くなるかの二つあります』

 

 中押しは、劣勢の者が打つ手が無いとして負けを認めること。もう一つは、対局者二人が互いにどこも打つ場所が無いとするもの。

 

『最初は分かりにくいかもしれませんが、打ち慣れていけばすぐに分かるようになりますよ』

 

「うん。ヒカルより上手になる!」

 

 藤崎家の子供部屋。その灯りは、普段よりも少しばかり遅くまで着いていたとか。まあそれは余談である。


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