「すみません、何かのジョークか何かですか?」
困惑する真介に、吉田教諭ははっきりと答えた。
「最初にした話を覚えてますか?なんならもう一度説明しますが」
そう言う彼女の言葉に対し、彼は再度彼女が教えてくれたことを思い出す。そう、確かなんか戦争があって、すげえ人が減ったんだっけ。
「戦争で人が減ったんでしょ?でももう戦後だし、車から見た町もあんなに綺麗だったじゃないですか。人だって」
そういう真介に、吉田はかぶりをふった。
そう、つい数日前まで宇宙にいた彼は知らないのだ。
この国、いやこの地球の今が、どれ程不味い状態に置かれているのか。
そのまま、ジェスチャーで左手の腕時計が付いている位置を指す。
「歴史を羅列しても実感がわかないから、一つづつ説明しましょう。まず最初に、今は何年ですか?」
貰ったデジタル時計の西暦に目を通す。四桁の数字は、『2630』を示している。
「そう、今は2630年、戦後ちょうど二十年です。誉めて頂いた町並も、つい二十年前には廃墟でした」
彼女は続ける。
「そこから我々の親世代は必死で立て直しを図りました。私が今二十歳なので、そこまで多くを語れませんが、まあ、かなり無理をして立て直ししたと認識していただければ。こういう事も、当然のように許されてましたからね」
そういうと彼女は上着のポケットから空き缶を取り出した。『スチール』とかかれたそれを、親指と中指で端と端を掴む。
瞬間、空き缶の端と端はピタリとくっついた。
いや、その細い指二本で折り畳んだのか。
「驚きましたか?でも、皆これは当然のようにできるのですよ。あまり私たちには実感はありませんが、これは戦中に開発された薬の副作用なんです。まあ、私の場合、親からの引継ですがね」
そういうと彼女は近くの屑かごに空き缶を捨て、言葉を続けた。
「戦争による人的資源の減少を、無理やり無視して軍を維持する代償に、私たちの親の世代は、疲れて休む時間を減らすために肉体を強化された。まあ改造ですね。」
彼女は淡々と続けた。
「しかし、発達した科学でもどうしても出来ない事があった。いや、正確に言うなら、『やりたくてもできない』ことですか」
そうか、それが……
「その顔をみる限り、分かって頂けたようですね。そう、それこそが『自然授精以外の人類の誕生』でした」
察する自分の顔を満足げに眺めながら、彼女は答えを言った。そう、戦争の発端となったクローン人間作成から、過度に禁止されたそれは、戦争と相まって最悪の枷となった。
「ことわざで、羮(アツモノ)に懲りて膾(ナマス)を吹くとありますが、正にその通りで、約百年前に何も考えず禁止した結果、我々はこの過剰な人口減少に抗う術を自ら無くしてしまったのですよ。そして戦時中は誰も、どの国も研究できなかった。『クローン製造の疑いがある』や『クローン製造の準備をしている』そういって他の全ての国に攻められる訳にはいかなかったから」
勿論、政府も手をこまねいていたわけではない。
「終戦後にせめて体外授精だけでもと設備の作り直しは当然してますが、正直、人口減少のスピードに比べて全く足らない」
結論、このままではどの国も詰む。
「当然、分母の少ない我が国は他と比べても崖っぷち。その時に現れたのが貴方です。正直、頂いた鉱石やデータの全て合わせたよりも、貴方の方が価値がある」
全て言い終えた吉田は、再度頭を下げる。
「強制はしませんし、出来ません。ただ今の国の現実はそのような形であり、先ほど口にした二桁の嫁というのも、洒落や冗談ではなく、積極的に推奨されていることだとは、覚えておいて下さい」
「あー、悪い頭を上げてくれ。流石に何も悪いことしてない人に、頭下げさせ続ける訳にはいかねえ」
頭をかきながら、真介は続ける。
「いっちゃなんだが、俺は浦島太郎みたいなもんで、今の日本の状況がイマイチ分かってないし、実感もない」
でもな、と真介は続けた。
「数日の付き合いだが、あんたが嘘を言う人間に見えないし、騙すにしてもあまりに大がかり過ぎる」
「だからとりあえず、あんたの言う事をとりあえずの常識として認識して生活する。まあ、嫁うんぬんはぼちぼちな」
にへら、と笑いながら真介は彼女の問いに頷いた。
(つーか、頷くしかないんだが)
ここに来てから、覚えていた場所を○ーグルマップで調べたら全部別の建物が見え、電話番号を確認しても同様。正直ここで差し出された手をはねのけるには、あまりに自分は無力だ。
彼女の言葉の真偽はこの際、関係ない。
一番大事なのは……
「一年遅れの高校生活、楽しみにしてますよ。先生」
早く説明回を抜けたい(本音)