『カンパ〜イ!!イェーイ!!』
飲み物が入ったグラスを乾杯の音頭と同時に鳴らし合う。トラック泊地の攻略作戦から帰路に着いて3日、横須賀鎮守府に帰ってきたヒイロ達はパーティーの会場である講堂に引っ張り出されていた。
正直言って、慣れない長時間移動からの戦闘に休みたいのが本音であったが、駆逐艦達の『来ないの?』という上目遣いに折れて、足を運んだ。その時、ヒイロ達はそろって子供には弱いなとそれぞれ自覚したのは内緒である。
「よくあそこまで騒げますね・・。特に出撃した人達は。疲労とかないんですか・・?」」
ヒイロは乾いた笑いをしながら出されたジュースに飲む。
「あの、私がこの場にいてもいいんですか?」
ヒイロにそう聞いたのはアリスだ。いきなりやってきてパーティーに駆り出されれば戸惑いの色を隠せないのは無理もない。
「別に構わないと思うぞ。これは君の着任記念も兼ねていると思う。」
「そうですか。なら別に構わないんですが。」
アムロの言葉に安心し、出されている食事に手をつける。美味しい、とアリスは感想を述べる。その様子は幸せそうだ。ただし、それは全てアリスの全く働かない表情筋のせいで台無しである。ほぼほぼ無表情でやっているそのギャップにハイネが吹き出す。
「ブッハッ!?お前表情筋ついてんのかよ!?いくらなんでも無表情すぎだろ!?」
「ヤバイ・・腹が痛い・・・www」
ツボに入ってしまったのか、ハイネと同じように吹き出した後、腹を抱えて震えているガロード。
「わ、笑わないでくださいよ!?まだ慣れていないだけです!!」
「よっしゃ、ならいま慣れさせてやるぜ!!」
そういいアリスの頰を掴み、横に伸ばす。思ったより柔らかかったのかだいぶ広り、かなりの変顔になる。その様子を見たガロードの笑いが悪化し、机をバンバン叩き始める。
「やめてふださい〜!!ちょ、ほんほにいひゃいれすから・・!!」
そう言われるとハイネはアリスの頰を話し、やりきった顔をする。
若干赤くなった頰をさすりながらアリスはハイネを睨む。
ちなみにガロードはついに声も出せなくなり、プルプル震えるだけになった。
「いきなり何するんですか!?私、何かしました!?」
「ん〜。ま、固かったからだな。」
「か、固かったって・・・表情筋のことですか?」
「まぁ、それもそうだけどよ。俺もこういうところは初めてだからな。いつもの調子を取り戻すためにやった。後悔してないし、反省もしてない。」
「ええ〜・・・」
悪気もなく言い切ったハイネにキラが若干引き気味の視線を向ける。
気にも留めないハイネは調子が戻ったのか、いつも見たいに朗らかな笑みを浮かべる。
「ま、ようするに、お前さんだけが固くなっているわけじゃないってことさ。」
と、出されている料理に手をつけようとしたら、
「あれ、ヒイロ達じゃん。みんなから離れてどうしたの?」
伊勢が声を掛けてきた。しかし、何かを食べていたり、飲んでいたと言う感じはしなかった。
「ああ、伊勢さん。あまり、こういったのはまだ慣れなくて・・・。」
「あ〜、ま、あの有様じゃあねぇ・・・。」
引きつった笑みをあげる伊勢の視線の向こうには酒を飲んで出来上がっている商船改造空母の二番艦などを筆頭にどんちゃん騒ぎになっていた。ちなみにその中に提督が巻き込まれてたりする。
「そういえば、伊勢さんは今来たばかりで?」
「そうね。戦果報告書とか書いていたわ。」
「でしたら、一緒に飲みません?正直にいうとちょっと、状況がカオスすぎてついていけないです・・。」
ヒイロが目を向けると、出された料理を瞬く間に消して行く某一航戦がいたり、いつのまにか服を脱ぎ始めている妙高型と軽空母がいたり、かなり参っていた。
「いいよ。私も巻き込まれてお説教は勘弁だからね。あ、日向とか連れてこようか?」
「ええ、できるだけ見知った仲だと有難いです。」
「それじゃ呼んでくるね。」
伊勢は席を外し、日向達を探しに行った。
「それにしても、かなり酒臭いな・・・。駆逐艦とかは大丈夫なのか?」
今まで黙々と料理を食べていた刹那が口を開く。刹那の言う通り、講堂には酒の匂いが充満しており、匂いを嗅ぐだけで酔いそうだ。
「大丈夫・・みたいですね。平然としてます。」
「なんで耐えられるんだ・・・?」
アムロもだいぶ参って来ているようだ。そこに連合艦隊だったメンバーを引き連れて伊勢が戻ってくる。
「連れて来たよー、って、大丈夫?」
「すまない。酒の匂いに少々当てられたようだ。」
「酒は苦手か?」
「慣れないと言ったところか。すまないな、こんな状態で。」
「ふむ、まあ最初はそんなものだ。気にすることはない。」
「君にも、慣れない時期はあったのか?」
「いや、なかったが?」
日向が酒に口をつけながら、言われた言葉にアムロが呆れ顔になる。
「説得力がなくなったな。なぁ、扶桑。艦娘の皆は最初からこんな感じに酒が飲めるのか?」
アムロは日向から視線を移して、黒髪ストレートで幸薄な雰囲気を醸し出している扶桑に声をかける。
「個人差はあると思うけど・・・。やっぱり艦としての記憶が一番大きく作用しているのかもしれないわね。」
「艦の記憶・・・?つまるところ、前世と言ったところか?」
「ええ。乗員には基本的に飲める人が大半だったから、飲めるのだと思うけど、私はそんなに飲めませんね・・。」
「なるほど、前世か・・・。」
「そういえばあなたはどうなのよ?一応、私たちとおんなじ部類には入るんでしょう?」
扶桑の姉妹艦であり、隣にいた山城がアムロにそう聞くと、
「私か?私は、ダメだな。多分飲めない、というより飲まないが正しいな。そうだな、君たちでいう艦載機だって酒に酔って、平衡感覚を失って、堕ちたり堕とされたりしたら笑い話にもならんだろう?それと同じだ。」
「ふーん、まぁ、わからない話しでもないわね。」
「多分、ほかの皆も同じだと思うぞ。聞いてみるか?」
アムロがヒイロ達に酒を飲まない理由を聞くと、アムロとほぼ同じ理由を言うものが全員だった。
「ところでさ。アムロ、あんた一人で空母棲鬼を倒したんだったな。伊勢から聞いたぜ?」
「空母棲鬼・・・?ああ、あの変わった艦載機を出していた奴か。そういう名前なのか?」
対空砲火が売りの重巡洋艦、摩耶から質問にアムロは質問で返しながら答える。
「あ、そっか。アムロ達は知らないもんな。悪いな。」
「アムロが一人で倒しちゃった空母棲鬼はね、鬼級って呼ばれていて、深海棲艦の中でもトップクラスにヤバイ部類に入る敵なんだよ。似ているのに姫級っているけど基本的に統括とかしていて、こっちでいう提督みたいなものね。」
摩耶の謝罪から間髪入れずに入った伊勢の説明にアムロは納得をする。
「そういえば、私たちが最後に戦ったあの深海棲艦も鬼級、姫級のどちらかなんですか?」
そう質問したのはヒイロだ。それに対し、伊勢は頷き、
「うん。そいつは戦艦棲鬼っていってね。硬くてバカにならない攻撃力が売りなんだけど、つくづく、よく倒せたね〜。」
伊勢がうんうんとうなづく。ほかの艦娘も同様だ。
「確かにあの戦艦棲鬼の硬さには驚きましたね。フェイズシフト装甲が使われているとかと思いましたよ。」
「あの・・フェイズシフトってなんですか?」
摩耶の妹である鳥海がキラに聞く。キラは詳しく説明してしまうと鳥海の頭の上にクェスチョンマークが浮かぶことは目に見えていたためかいつまんで説明した。
「えっと、簡単に言うと物理的なダメージを激減させる装甲だよ。僕と、多分ハイネにも使われていると思うよ。」
「物理的なダメージを・・!?ちなみにどこらへんまで耐えられるんですか?」
「うーん・・。戦艦の主砲、副砲は難しいと思うけど、対空砲火とか、駆逐艦の主砲くらいだったら無効化できるんじゃないかな。とは言うものの衝撃はそのまま受けるけどね。」
キラの言葉に鳥海の目は丸くなった。
「それでも破格な性能ですよ・・。」
鳥海がキラを羨ましげな視線で見る。気づいたキラは困った顔をする。
「付けようとしても無理だと思うよ?根本的なところから艤装をいじらないといけないし。」
フェイズシフト装甲は装甲に電流を流し続ける必要がある。つまりそれを行うための発電装備やコンデンサが必要である。仮にできたとしても電力がなくなった状態、『フェイズシフトダウン』になってしまえば普通の艦娘が扱っている装甲より脆弱になってしまうだろう。
「それに、僕には僕の、君には君のできることがある。お互いにできることを完遂できたらそれでいいと思うよ?」
キラがそう言い聞かすと鳥海は小さく、はいと頷いた。
「そういえば、ヒイロさん達が救助したトラック泊地の艦娘のみんなはどうしたんですか?」
「それなら問題ない。すでに提督が天龍達の入院している病院に移送済みだ。同じような痣が確認されたからな。」
第二艦隊の旗艦を務めていた古鷹から質問に刹那が答えた。
それに古鷹は安堵の表情を浮かべた。
「向こうの古鷹さんのこと、気になっていたんですか?」
「そう・・ですね。やっぱり所属は違えど、同じ古鷹ですから、自分のことのように思えてしまって・・。」
アリスがそう聞くと、古鷹はかなしげな表情をしながら答えた。
「なにかがズレていれば私が向こうの立場になっていたかもしれないって思ってしまって・・。」
伊勢達の顔に影が入る。ブラック鎮守府のことは噂でしか聞いてなかったし、無いものだと思っていた。
だが、実際に現実にあるとわかってしまった時、その残酷さに開いた口が塞がらない程だった。
「もしや、不安なのか?提督があのトラック泊地の提督と同じことをするかもしれないと。」
「う・・・それは・・!?」
アムロがそう問い詰めると古鷹はびっくりした顔する。即座に笑顔に戻すが、手遅れである。
考え込んでいるとそこにちょうどフェネクスがやってきた。
「あ、アムロさん、どうも。」
「フェネクスか。どうしてここに?」
「いや、明石さんと夕張さんの3人で飲んでいたんですけど、明石さんが酔いつぶれて夕張さんがその介抱に行ってしまって暇だったんです。」
フェネクスがあはは…と軽く笑う。余談だが、握られているグラスを見るとアップルジュースが注がれていた。フェネクスも飲めないようだ。
「・・・どうかしましたか?顔色が優れないようですけど?」
フェネクスが顔色が若干青い古鷹達を見て心配そうな声をかける。そこにアムロが話の成り行きを話す。
「・・・そうですか。トラック泊地が・・。」
フェネクスはそれ以上のことは言わなかった。
「うん。古鷹ちゃんの不安も分からないものじゃないけど、大丈夫だと思います。比較的新参者な私が言えるセリフじゃありませんけど、あの人そんな人じゃないと思いますよ?」
フェネクスは続けざまに言う。
「あの人は正義感のとても強い人です。悪いことは悪いと思える人です。だからでしょうけど・・・。」
そこでフェネクスは一度言葉を切った。
「・・・ともかく一度聞いてみたらどうでしょうか?今ならお酒のせい、ということでうまく聞き出せるかもしませんよ?」
「・・ふふ、たしかにそうして見るのもいいかもしれませんね。」
フェネクスの提案で古鷹の顔に笑顔が戻った。
宴会もお開きになり、みんなが各々の部屋に戻り始めたころ、
「やれやれ、艦娘には酒癖が悪いのがいるようだ。」
「まぁ、隼鷹さんとかその最たる例ですね・・。あの人、素面でも酔ってるような喋り方なんですよね・・。」
アムロとフェネクスは静寂な廊下を歩いていた。アムロ達が歩く音だけが響く。
「そういえばさっきなにを言いかけたんだ?」
アムロが突然そんなことを聞くとフェネクスはバツの悪い顔をする。
「う・・やっぱりバレてました?」
「あからさまだったな。もう少しいい隠し方はなかったのか?」
「はうっ」
アムロの言葉にフェネクスは胸を抑える。
「それで、なにを言いかけたんだ?」
「・・・私はニュータイプじゃないのでそれほどはっきりとはいえませんが、
あの人、危ない気がするんです。」
「・・・私も同じだ。私が感じたのは深海棲艦に対する、憎しみ。さながら親の仇でもみているようだった。」
「やっぱり、そうですか・・。」
(・・・本当にニュータイプじゃないのか・・?)
アムロはフェネクスのニュータイプとそんしょくない感覚の鋭さにそう思わざるを得なかった。
今回も楽しんでいただければ幸いです。