さんさんと照らしつける太陽の下、ヒイロ達は船に揺られていた。船体に打ち付けられる波で起こる揺れは心地よさを感じさせる。
「なんか、新鮮だな。こういうの。」
「だな。大抵、宇宙船に乗ってたおかげでこういう、海を征く船っつうのは初めてだ。」
船で出されたジュースを口に含みながら甲板で外の風景を楽しむガロードとハイネ。楽しみ方はそれぞれで、日光浴などであった。
「ごめんね。こんなこと頼んじゃって。」
フェネクスも船に同乗していた。転落防止用の柵から身を乗り出し、声をかけているのは護衛で来ているのだろう横須賀鎮守府の艦娘達であった。
フェネクスに声をかけられた艦娘、如月はフェネクスに顔を向け、首を振る。
「いいえ、フェネクスさん達が頑張ってくれたおかげで如月たちの今があるんです。これくらいはお礼としては安いくらいです。」
如月以外の護衛の艦娘達もフェネクスにお礼を言うように笑顔を向ける。
その様子を見てフェネクスも笑顔になる。
「はぁ・・・まさか、こんなことになるとは・・・。」
「その・・ホントすまないな。俺自身まさかヒイロが・・。」
ヒイロがため息をすると、隣にいた天龍が申し訳なさそうに謝る。ちなみに同乗者には天龍、龍田や第六駆逐隊の面々の他に、比叡達トラック泊地組もいる。
実はもう一グループあるのだが、それはまた後で。
「いや、大体何かしらの形でツケは来るとは思ってたんですが・・。まさかこんな形で払わされるなんて・・。」
きっかけは宴の翌日、いつもどおりに起き、朝食をアムロ達ととっている中、提督から声がかかった。
「ヒイロ君。唐突で申し訳ないのだが、今日君たちに大本営から出頭命令が下った。」
「はい?」
唐突すぎて朝食を食べていた箸が止まる。それはアムロ達も同様だ。
「・・・・何かやらかしたっけ?」
ガロードは顔に冷や汗を流していた。だがガロード自身理由はなんとなく察していた。あんまり認めたくない心情から来たのだろうか。
「ガロードの件も可能性はあるが、それだったらガロードだけ呼べば済む話だろう。」
アムロにそう言われ、とりあえずホッとするガロード。だが、そうするとヒイロ達全員が呼ばれた理由がわからない。
時間も時間だったため朝食を取ったら程なくして大本営に向かった。その出頭命令にはフェネクスも入っており、彼女も同行していた。
横須賀から大本営自体がそれほど離れていないため小一時間ほどでついた。
だが、さすがは鎮守府の総本山、大本営だからかかなり巨大な施設だった。深海棲艦との戦争中だからかそれほど煌びやかではなかったが。
「うわー・・とても関わりたくないです・・・。」
「ぼくたち、どうしてこんなとこに来てしまったんだろう・・・?」
「あれこれ言っても仕方ないだろう・・。」
すでに軽く『燃え尽きたぜ・・・真っ白にな・・』。見たいに白くになっているヒイロとキラにアムロは諦めの入った声をかける。
「中は思ったより綺麗だな。」
「・・・純粋に言ってるのはわかるが、何故か別な意味を感じるのだが・・。」
「ヤバい・・。真面目に嫌な予感が・・・」
「ガロード、震えすぎて携帯のバイブレーションみたいになってますけど・・?」
入った瞬間に戦々恐々な反応を見せるヒイロたちを温かい目で見ながら先導し、一つの部屋に入るように促す。
部屋に入るように促されたヒイロ達は部屋の雰囲気からなんとなく感じ取ってしまった。
入ってきたヒイロ達を囲むように用意された机に厳かな雰囲気を醸し出してる白い軍服の人物達。おそらく、他方面の提督だろう。
「元帥殿、ヒイロ・ユイ以下9名、お連れしました。」
「うむ。ご苦労。君も席に着くといい。」
元帥と呼ばれた高齢の男性に敬礼をし、席に着く提督。だが、それにも目にせず、他の提督達はヒイロ達に視線を集中させている。
(・・・これって、軍法会議・・・ですかね?)
(本当に軍法会議だとすれば不味いぞ。私達はこちら軍のルールなど知らないから仮に有る事無い事言われれば、私達にはそれを覆す手段がないぞ・・・)
アムロは歯噛みをしながらヒイロに小声で話す。すると、ちょうど提督が元帥と呼んだ高齢の男性からヒイロ達に声がかけられる。
「さて、立ち話にしては少々長くなるのでな。そこの椅子に座ってくれ。」
思ってたより柔らかい物腰だっためヒイロ達は若干拍子抜けしながら用意された椅子に腰掛ける。
「それで、今回私達を呼んだのは何用ですか?」
「ふむ・・・。君たちのことは元木君・・横須賀鎮守府の提督から聞いている。確か、モビルスーツ、と言ったかな?ビーム兵器など、我々の技術体系とは大きく逸脱しているが、先の深海棲艦の大規模な攻撃を防いでくれて感謝している。特にヒイロ君・・だったかな?君に至ってはある程度予想していたそうじゃないか。」
「・・・あれはたまたま側に資料があったからです。私の功績ではありません。」
ヒイロの謙虚な姿勢に元帥は微笑ましい顔をする。
「して、今の君たちの現状だが。一応、横須賀鎮守府に居候の形でこちらに手を貸してくれているのだろう?」
「そうですね・・・。行くあてもなかったですし。何より、彼女たちのこともありましたし。」
「トラック泊地の艦娘たちのことだな。トラック泊地の提督に関してはこちらの監督不行き届きだ。提督代表として、謝らせてほしい。」
もう少し細かい話をして行くと、トラック泊地の艦娘たちの治療費は大本営が負担してくれているそうだ。容体も段々安定していき、全員程なくして退院が予定されているそうだ。
しかし、退院したところで、彼女たちには行くあてがほとんどない。比叡達トラック泊地から直接救出した艦娘達に至っては艤装が完全に破壊されていて艦娘として復帰するのはほとんど不可能だ。
「そして、彼女たちのこれからに関してだが・・・。彼女たちは再び戦う道を選ぶそうだ。」
「そうですか・・・。」
ヒイロは軽い反応しかしなかった。いくら心の中では戦って欲しくないと願っていても、それを彼女たち自身に押し付けることはしない。今回の決断は彼女たちが考えて決めたものだ。これ以上、とやかく言うようでは逆に天龍たちに失礼だ。
「艤装はどうするつもりなんだ?主に比叡達だが・・。」
「それに関しても問題はない。各地の鎮守府から余っている艤装を譲渡してもらう。」
軽くしか反応を示さなかったヒイロの代わりにアムロが気になったことを聞くと、ヒイロが予想していた通りの対処だった。それしかないだろうな。と納得し、それ以上は聞かなかった。
「・・・それで、我々を直接呼んだ理由はなんだ?それだけならば、わざわざこちらに呼び寄せる必要はないはずだ。」
「そうですね。それだけであれば別に後で文面だけ送れば済むはずです。話してもらいましょうか?」
刹那が鋭い視線を元帥に向ける。ヒイロも目を鋭くし、元帥を睨みつける。それに元帥は変わらず柔らかい物腰で答える。しかし声には若干の驚きが入っているようだ。
「さすがにわかってしまうか。しかし、どの道話すつもりだったから変わらんか。」
少し間を空けて元帥は神妙な面持ちで話し始めた。
「実は、彼女たちが闘う道を選んだにあたって、一つ、条件を突きつけてきたんだ。」
「条件・・・?それは一体・・・?」
ヒイロが怪訝な表情をしながら聞くと元帥は少し困った顔をして答えた。
「・・・自分たちの提督を指定してきたのだよ。」
言われた言葉にヒイロたちは疑問符をあげる。予想外だった上に理由がわからなかったからだ。
「その条件を聞いて我々は納得せざるを得なかった。何故なら彼女らは少々男性に抵抗を覚えるようになってしまったからな。」
ガロードやハイネなど8人のうち半分はわからなかったが、ヒイロや刹那は勘付いたようだ。苦々しい表情をした。
「見ての通り、提督には男性がほとんどだ。士官学校にはボチボチ女性の志願者はいるが、未だ女性の提督はいない。そこでなんだが・・。」
そこまで言われたところでガロード達も気づき、驚愕の表情をあげる。
「ヒイロ・ユイ。君に、鎮守府の提督をお願いしたい。彼女たちは、君をご所望のようだ。」
元帥の言葉にヒイロは唸るしかなかった。その時、アムロ達から選ばれなくて良かった・・・(汗)みたいな感覚がしたのは気のせいだろうか?
「・・・拒否権は?」
とりあえず開いたままの口をかろうじて動かしたが、元帥は残念そうな顔をする。
「そうか・・。であればいつも通り男性の提督を送るしかあるまい。しかし、彼女達の気苦労もどれほどかは分からないがな・・。」
元帥の言葉に心に罪悪感が蔓延る。それと同時にヒイロは大本営が自分に天龍達を助けた責任を取らせようとしていることも勘付いた。ある程度の責任の追求はあると思っていたがまさか自分が提督にさせられるとは思いもよらなかった。
だから、ここで拒否をしてしまえば、天龍達の身に何が起きるかわからない。元帥の言った通りであれば確かに彼女達の気苦労は計り知れない。
つまり、ヒイロの取る道はーー
「・・・ああ、もう。そんなの、やるしかないじゃないですか・・!!」
苦渋の決断だった。ヒイロにはそれしか道がなかった。だが、それを黙って見ているほど、薄情な者はいない。
「ヒイロが提督になるにあたってだが、こちらからも条件を提示させてもらう。唯々諾々とはい、そうですかと言うわけには行かないからな。」
アムロがヒイロに対し、援護射撃を行う。アムロが皮切りとなってほかの面々からも声が上がる。
「と、言っても条件は一つです。ヒイロが着任する鎮守府には私達もご同行させてください。」
キラが条件を提示すると、元帥は少し、考え込むような仕草をする。
「ふむ・・・こちらとしては戦力をなるべく等分にするために別々にしたいのだが・・。」
「戦力の分散はよく愚策だと言われないか?それにだ。」
「いつ俺たちがアンタらの戦力になるって言った?まだ俺たちはうんともすんとも言ってないぜ?」
「悪いけど、ハイネの言う通りだな。」
刹那とハイネとガロードがヒイロを守るように言葉を投げかける。
続けてフェネクスがヒイロの前に立ち、元帥達を見据える。
しかし、その表情には困った感じが出ている。
「あまりこういった手は最後にとっておくべきなんでしょうけど・・。」
フェネクスはビーム・マグナムを手に取り、元帥達に銃口を向ける。これには予想外だったようで、全員驚いた表情を前面に出す。
「あ、今は撃つ気はさらさらありませんので、安心してください。今は、ね。」
最後に含みを入れた口調で元帥に伝える。つまり、元帥達が取る行動によっては撃つ、そうも捉えられる。
「でしたら、私も。ことさら撃つ気はありませんので、ご安心を。」
アリスも無表情のまま、ビーム・スマートガンを構える。
「ヒ、ヒイロ君、さすがにやりすぎな気がするのだが・・!?」
「いや、私にアムロ達を止める権限はないですよ。」
堪らず元木提督はヒイロに止めるように伝えたが、調子を取り戻したのかこれをやんわりとスルーするヒイロ。提督達全員の顔に冷や汗が流れる。
「きょっ・・恐喝ではないか!!これでは!!」
「おや、私達はお願いしているだけですよ?フェネクスもアリスも撃つ気はないそうですし。」
ニヤリと口角が上がる。この時ばっかりはヒイロはものすごく悪い顔をしているという自覚があった。
紛糾しかけた状況下のなか、元帥は軽く、ため息をついた。しかし、その表情はどこか穏やかだ。
「ふ・・・本当に一筋縄では行かない者達だ。なぁ、元木君。」
「も、申し訳ないです・・。」
元帥が元木提督と軽く会話をすると、ヒイロ達に向き直る。
「わかった。君たちはヒイロ君と共に行かせるとしよう。」
「・・・そう言ってもらえるとありがたい。」
元帥がそう言ったのを確認すると、フェネクスとアリスは銃口を下に降ろした。
張り詰めた空気がなくなり、緊張から開放されたからか椅子に座り込む提督もいた。
「そういえば私達はどこに配属されるんですか?」
「ああ、そういえばまだだったな。君たちが向かってほしいのは、佐世保鎮守府だ。」
今回も楽しんで頂ければ幸いです。