自我を手に入れた少女達の翼   作:わんたんめん

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第33話 カムラン半島にて

ヒイロ達が佐世保鎮守府に着任してから、早数週間、開発や建造を繰り返しているうちに部隊が大所帯となっていった。主に、駆逐艦や軽巡洋艦が大半であり、次点で重巡であり、戦艦、空母は少しづつ人数を増やしていった。

中には艤装だけが出てくるパターンもあり、驚いたが、これは既に同じ艦娘が着任しているからとのことだった。

そして、今日の建造で、新しい艦娘が着任した。灰色がかった黒髪を腰まで伸ばし、比叡と同じような服装をしており、おしとやかな雰囲気が出ている。

その艦娘は敬礼をしながら自己紹介を始める。

 

「金剛型三番艦、榛名、着任しました。よろしくお願いしますね。」

「よろしく。ここの提督のヒイロ・ユイです。」

 

服装の感じから、榛名が金剛型であることは察しがついていた。ここまで提督業を続けてきてなんとなく姉妹艦は同じ服を着ていることが多い、ということがわかってきた。

そして、先ほどからドアの前で感じる気配。この主がタイミングを見計らったかのようにドアを思い切り開く。

 

「Hey!!テートクゥ!!ついにワタシ達金剛型が揃ったんデスね!!」

「す、すみません、提督・・・。一応、止めたんですけど・・・。」

「ううん、気にしてないよ。わかりやすい気配がドアから出てたから。いることはわかってたよ。」

 

比叡が申し訳ない様子でヒイロに謝るが、ヒイロ自身は気にしてなかった。それにーー

 

「知り合いがきて、嬉しくない人はいません。それが姉妹であれば尚更です。」

「金剛お姉様!!もういらしてたんですね!!」

 

榛名が金剛を視界に入れると表情に笑みを浮かばせ、嬉しそうに駆け寄る。それは金剛も榛名と同じように朗らかな表情をしていた。

 

「金剛お姉様、榛名との再会を嬉しがるのはいいですけど、本来、提督の元に来た理由を忘れないでくださいね。」

「OK。No problemネ!!テートク、榛名の案内はワタシ達に任せるネ!!」

 

同じく金剛型の四番艦である霧島から促され、提督に榛名の案内役を名乗り出る金剛。

たしかに、金剛の言う通り、姉妹艦で案内させた方が、榛名も変に気を張らずに済むだろう。そう判断したヒイロは榛名の鎮守府内の案内を金剛に任せることにした。

 

「うん。じゃあ、お願いします。」

 

ヒイロに任された金剛は表情を嬉々としながら榛名の手を引っ張り、比叡と霧島も金剛に着いていき、執務室から出ていった。

 

「比叡さん、表情、 嬉しそうでしたね。」

 

本日の秘書艦であった神通がそう言うとヒイロは表情を若干柔らかい表情をしながら答えた。

 

「これで、少しは比叡さんの気が晴れるといいんですが。」

 

比叡は元々、トラック泊地の艦娘である。比叡自身から気を使って聞いてはいないが、おそらくトラック泊地にも金剛達がいたはずであろう。

 

「とはいえ、姿は似ていても、決して同一人物というわけではない・・・。中々、酷なことをしてしまったかもしれません。」

「・・・それは、比叡さん自身の問題です。提督が考えることではない、とは言いませんけど、あまり考えすぎるのも、よろしくないとおもいます。」

「・・・それもそうだね。ふぅ・・・人付き合いというのも、難しいです・・・。」

 

髪をわしゃわしゃと触りながら、ヒイロは難しい顔をするのだった。

 

「あ、そういえば、出撃している艦隊から何か連絡はありますか?大淀さん。」

「今しがた、カムラン半島に到着したそうです。第一艦隊、戦闘海域に突入します。」

 

ヒイロが通信機片手に機械とにらめっこしている大淀に尋ねると簡単で、かつ分かりやすい報告をした。

 

「ありがとう、とは言っても、それほど心配事はないと思うけど。」

 

今回の出撃でカムラン半島へ向かったのはアイオワ、イントレピッド、吹雪、叢雲、漣、五月雨に随伴にアリスを加えた7人だ。しかし、アリスは基本的には戦闘には参加せず危なくなったら援護する程度に抑えさせている。

確かに、ヒイロ達が戦闘を行えば、大半の深海棲艦はすぐさま沈められるだろう。

 

(でも、それだと彼女達(艦娘)のためにならない・・・。)

 

ヒイロ達も戦闘に出る以上、いくら撃墜される可能性が低くてもゼロではない。万が一、ヒイロ達がいなくなった場合、戦力的にヒイロ達に依存した状態だと、確実にパニックになるだろう。そうなっては困るため、この方針をとっている。

 

(さて、書類、片付けましょうか・・)

 

ヒイロは再び、書類に向き直り、ペンを進める。

 

「それでは、私は上空を旋回していますが、基本的には見ているだけなので、戦闘は貴方がたで切り抜けてください。」

 

こちらはカムラン半島、燃料を節約するためにアイオワの艤装に乗っかっていたアリスがブースターを蒸し、上昇しながらアイオワ達に告げる。

 

「No problemネ!!Meのpower、見せてあげる!!」

「航空戦は任せて。ふふっ、腕がなるわね。じゃ、行きましょう!!」

 

ヒイロのおかげで日本語をマスターとは行かずとも日常会話程度なら問題なくなったアイオワとイントレピッドのアメリカ組は気合十分といった感じだが、反面、吹雪達は不安気な表情をしている。初めての実戦だから、無理もないがーー

 

「吹雪ちゃん達はやっぱり、不安?」

 

アリスに突然聞かれたため、顔を驚きの表情にしながら、答える。

 

「・・・正直に言うと、そうですね。やっぱり、演習と実戦とでは訳が違いますもんね・・。」

「むしろ、それでいいと思います。初めての実戦で感じるのは、アイオワさん達のように気合が十分な場合と、君たちのように、不安な気持ちになるのがほとんどです。というか、それ以外だとこちらが逆に不安になります。」

「じゃあ、アリスさんもそういう時が、あったんですか?」

 

五月雨からそう問われるとアリスは少し難しい顔をした。

 

「私自身はあまり参考になりませんので、私のパイロットの話でいいですか?」

「パイロットって、アンタが兵器だったころの?」

「はい、私のパイロット、名前は伏せさせてもらいますけど、結構自信過剰な方だったんですよね。自尊心も高くて、よく上官に歯向かったりしてました。」

「うわ、メンドくさそ。」

 

漣の辛辣な評価に笑いながらもアリスは話を続ける。

 

「で、そんな人が初めての実戦で私に乗ったんですが、その人、コックピットの中で失禁してしまいまして。」

「失禁って・・つまり・・。」

「お漏らしです。全く、あんなにあった自信はどこに行ったのやら・・・。」

 

アリスが呆れたようにため息をつくと、周囲で笑いが起きる。吹雪達が笑ったのだ。

 

「と、とんでもない人に乗られたわね。アンタwwww」

 

叢雲が腹を抱えながら大笑いしている。どうやらかなりのツボにはまったようだ。ほかの艦娘達も同じような反応を見せている。

その様子を見て、アリスは微笑みながら話しかける。

 

「どうやら、いっときの気休めにはなったようですね。それでは武運を祈ります。頑張ってください。」

 

アリスは軽く敬礼をすると、上空へと飛んで行った。

 

「それじゃあ、Are you OK?let's go !!Follow me!!」

 

旗艦であるアイオワが号令をかけ、戦闘海域に突入する。吹雪達もアイオワでついていく形で突入する。

 

「イントレピッド、spy plane(偵察機)、出せる?」

「OKよ。任せて。」

 

イントレピッドがボルトアクション式の銃を上空へ構えて、発砲。

軽快な音が響いて、放たれた弾丸が偵察機『彩雲』へと姿を変える。

 

「周りに敵艦隊がいないか探して。」

 

イントレピッドがそう伝えると彩雲はエンジン音を立てながら素早い速度で偵察へと向かった。

 

「いい機体。さすがはメイドインジャパンね。」

 

程なくして、彩雲が敵艦隊を発見したとの通信を寄越してきた。編成は重巡リ級が二隻、駆逐ロ級が三隻という五隻編成。

 

「それじゃあ、battle start ね!!Open fire!!イントレピッド、お願いネ!!」

「Sure!!Bomer(爆撃機)Torpedo Bomer(雷撃機)、発艦始め!!」

 

アイオワの指示でイントレピッドは発艦用の銃を構える。

相手に空母がいないなら艦戦を出す必要はない。そう考えて、イントレピッドは

艦上爆撃機『彗星』と艦上攻撃機『天山』を発艦させる。

射程内にまで距離を詰めた彗星と天山は対空砲火を潜り抜けながら攻撃を仕掛ける。

 

Mastery of the air(制空権)確保!それと、駆逐艦二隻、デストロイしたわ!!」

 

イントレピッドの報告にアイオワは満足気にうなづく。

 

「OK!!それじゃあ陣形を・・・、Uhh・・・、す、ストレートにして!!」

 

何が悩まし気な表情で指示をするアイオワ、陣形をストレートにしてと言われて、若干、疑問符があがったが、

 

「ストレート・・。真っ直ぐ・・なら、単縦陣ですか?」

「That's right!!そう、それよ!!」

「アイオワ・・・。日本語でなんていうか忘れてたのね・・。」

 

吹雪の指摘に目を輝かせるアイオワ、どうやら、まだ勉強が必要のようだ。

イントレピッドのため息混じりの言葉には舌を軽く出して片目をウインクすることで、ごめんねアピールをする。

 

「それじゃあ、敵艦隊に向かってLet's go!!」

 

改めて、指示を飛ばすアイオワ、艦隊は単縦陣をとり、敵艦隊へと向かっていく。

 

「インレンジに入った!!さぁ、私の火力、見せてあげる!!Fire!!」

 

アイオワの艤装の『16inch三連装砲MK.7』が火を噴いた。

放たれた砲弾はリ級へ飛んでいく。しかし、直撃することはなくかすめる形でリ級の前後に水柱をあげる。

 

straddle(夾叉)ね・・。次はHitさせるわ。」

 

アイオワが次の砲撃の準備をしていると、今度は自身の周囲で水柱が上がる。向こうのリ級が撃ってきたのだ。

 

「ダメージは!?」

 

咄嗟に艦隊の被害を確認する。幸運なことに誰にもダメージはなかった。

 

「 弾幕、張ります!!」

 

吹雪を筆頭に駆逐艦の四人が主砲で弾幕を張る。

リ級は軽い損傷を受け、艤装と思われる部分から黒煙をあげる。

 

続けて、艦載機の換装が済んだイントレピッドが再び、艦爆、艦攻を出撃させる。

狙いは損傷を受けた方のリ級。落とされた爆弾と魚雷のダブルパンチでリ級は大爆発を起こし、海底へと沈んだ。

 

「Yeah!!やったわ!!」

「まだenemyは残っているわ!!フブキ、魚雷、Fire!!」

「了解です!!魚雷、発射します!!」

 

吹雪達四人から放たれた魚雷はリ級とロ級、均等に敵艦隊へと向かっていく。

そして、爆発。駆逐艦は沈んだようだが、重巡は未だ健在。吹雪達に主砲を向けている。しかしーー

 

「今度は外さないわ。Fire!!」

 

砲撃準備を完了させたアイオワの第2射が、今度は正確に重巡リ級を撃ち抜く。

戦艦の火力をまともに受けたリ級も同じように海底に沈んでいった。

 

「お、終わったー・・・。」

 

漣が疲れたように言葉を吐く。それと同時にアリスから通信が入る。

 

『お疲れ様です。それでは針路を北にとってください。前情報だとその先にカムラン半島にいる敵の主力がいるそうなので。』

「OKよ。北に進めばいいのね。」

 

アイオワの先導で針路を北にとる艦隊、暫く進むと電探に敵艦隊の反応が映し出され、イントレピッドが彩雲を射出する。

 

敵の編成は戦艦1空母2重巡1駆逐2の六隻編成。

 

「戦艦がいるんですね・・。」

「戦艦はMeに任せて。それよりもイントレピッド、空母二隻を相手に取れるの?セークウケン、だったっけ?」

 

アイオワが不安気にイントレピッドを見つめる。それにイントレピッドは笑顔で返した。

 

「やってみせるわ。だから、安心して行って。」

 

この言葉に皆の決意が固まったようだ。表情には共通して意を決した雰囲気が出ている。

 

「ま、どのみち敵とは闘うんだし、そもそも逃げるっていう選択肢もないわね。」

「やりましょう!!」

 

叢雲が冷静な口調で言うが、槍を持つ手は心なしか力が入っているように見える。五月雨も気合十分といった感じだ。

 

「ま、これが終わったらご主人様にみんなで間宮券でもせびりに行きますか!」

 

漣がそう言うと皆揃っていいね、と口々に言った。

 

「よーし、それじゃあ陣形を整えて、Here we goーー!!」

 

アイオワ達は敵艦隊に向けて突入を始める。

会話の内容を通信機ごしで聞いてたアリスは、

 

「ヒイロの財布・・持つかな・・・。」

 

そういいながら、艦隊をいつでも援護出来るような位置に移動するのだった。

 

 

 




今回も楽しんで頂ければ幸いです^_^

だいぶ登場人物が多くなってきたなー(白目)

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