「ふ、吹雪・・・なのかっ!?」
ハイネが驚愕の表情を上げながら目の前の少女に聞いた。
目の前の少女は真紅に染まった視線をヒイロ達に向けながら確認するような口調で言った。
「ソウネ・・・。貴方タチカラ言エバ、私ノ存在ハ吹雪デ間違イナイ。」
「・・・どういうことだ?君のようなタイプには初めて会う。」
吹雪によく似た少女の言葉にアムロは疑問符をあげた。
今まで深海棲艦と戦ってきたが艦娘とよく似た姿形を持つタイプは初めてだ。さらに言うと、この吹雪に似た深海棲艦から敵意を感じないことを刹那とアムロ、そして、フェネクスが感じ取っていた。そのことがアムロ達の困惑度に拍車をかけていた。
「少し確認だ。お前からは我々に対する敵意を感じなかった。お前は敵なのか?」
刹那の質問にヒイロ達は固唾を呑んで見つめた。吹雪に似た深海棲艦は一度目を閉じ、思案に入る。
そして、目が開かれるとーー
「広イ範囲デ言ッテシマエバ、敵デ違イハナイ。ダガ、私ハ人類に対シ、憎シミヲ覚エテイル訳デハナイ。」
「って、あれ?深海棲艦ってさ。恨みやらそう言った黒い感情が具現化したものとか言われてなかったか?」
吹雪に似た深海棲艦ーーもうこの際深海吹雪に呼び名統一するが、ハイネの言葉に頷きを示した。
「ソノ認識デ間違イハナイ。ダケド、ドンナモノニモ、イレギュラーハ付キ物ダ。私ハソノカテゴリーニ入ッタノダロウ。」
「イレギュラー・・・か。まるで僕達見たいだね。」
キラがそのように感想を述べるとヒイロは深海吹雪に質問をぶつける。
「イレギュラー、ですか。つまり深海棲艦側にとって貴方は異端分子だということですね?」
「ソウイウコトダ。外ノ陣形が私ヲ、トイウヨリ光ノ柱ヲ取リ囲ムヨウニナッテイタノハソノ為ダ。」
ヒイロは質問を続ける。
「では君が生まれた経緯とかは分かりますか?」
深海吹雪はヒイロの質問に対し、首を振った。つまり知らないということだ。
「ダケド、ヒトツダケ感覚的ニ分カッテイルコトガアル。コレハ私ガ
深海吹雪はそこで一度言葉を切り、ヒイロ達を確認するように視線を動かすと言葉を続けた。
「艦娘ト深海棲艦ハ姿形ハ違エド、同ジ存在デアル可能性ガ高イ。」
「艦娘と深海棲艦が・・・」
「同じ存在・・・だとっ!?」
アムロと刹那が驚きの声をあげれたがそれ以外の者は言葉を失った。
「貴方ガタハ、『ドロップ』トイウ単語を知ッテイルカ?」
「い・・いえ、初耳です。」
ヒイロが首を振ると深海吹雪は「ソウカ・・。」というとドロップについての説明を始めた。
ドロップとは深海棲艦が倒された後、ごく稀にであるが深海棲艦が倒した地点から艦娘が生まれてくる現象だ、とのことだ。
「おいおい・・・冗談じゃねぇぞ。どう考えたって、その現象はさっきの言葉の裏付けになんじゃねぇか!!」
ガロードが声を、荒げながら言った。
「・・・待ってください。それは逆説的に言ってしまえば、深海棲艦の元って・・・。」
フェネクスが血の気が引いた顔をしている中、深海吹雪は代弁するように言った。
「・・・恨ミ、妬ミノ感情ガ、深海棲艦を構成シテイルノハ事実。デモ、鬼級、姫級を構成するには材料はモウ一個イル。」
「嘘・・・。まさか、そんなことが・・!?」
アリスが目を見開いて驚愕の表情をあげる。
「轟沈シタ艦娘。ソレガ姫級、鬼級ノ重要ナファクターにナッテイル。事実トシテ、私ハ轟沈シタ艦娘トシテノ吹雪ガ使ワレテイル。」
「それじゃあ、この戦争を終わらせるには艦娘の轟沈をゼロにしつつ・・。」
「・・・全ての戦いで、勝利を収めなければならない。そういうことですか?」
キラとヒイロがそういうと深海吹雪が口を開く前にーー
「いや、その必要はないかもしれない。」
刹那が口を挟んだ。突然の否定の言葉にその場にいる全員の視線が向けられる。
「人類と、深海棲艦が相互理解、つまりわかり合うことができれば、これ以上、戦争を行う必要はなくなる。」
刹那のスケールの大きい言葉にヒイロ達は何も言うことができなかったが、深海吹雪は首を横に振った。
「ソレハ難シイ。知ッテノ通リ深海棲艦は恨ミ妬ミの凝リ固マッタ連中ガホトンドダ。」
「ほとんど、か。いるにはいるんだな?君のような存在が、君以外にも。」
アムロの指摘に深海吹雪はわずかにだが、首を縦に振った。
「深海棲艦も一枚岩ではなかったというわけですか。」
アリスが普段の無表情に戻りながら言っている中、ヒイロは刹那の顔を見つめながら言った。
「刹那。貴方の言っていることは茨の道。最悪、普通に深海棲艦と戦っていくことより難しいことかもしれません。」
「それでも、これ以上艦娘を轟沈の危険にさらすわけにはいかない。いくらその道が厳しくとも、これが最適解だと私は考える。」
刹那はヒイロの目線から逃げる事はなく、しっかりと見つめて言い切った。
その言葉を聞いたヒイロは表情を緩め、フッ、と軽く笑った。
「分かりました。まぁ、どの道、刹那の言うことには賛成しましたが。私もこれ以上、戦いの歴史を繰り返させるわけにはいかないと思っていたので。」
ヒイロがそう言うと深海吹雪は困惑するような口調で質問をぶつける。
「貴方ガタハ戦争ヲ止メタイノカ・・・?普通ニ我々ヲ倒シタ方ガ手早イト分カッテイテモカ?」
「確かによ、そっちの方が早いかもしれないし、簡単かもしんねぇ。でもそれだと私達がやってきた戦争と何も変わんねぇ。どっちがいなくなるまで戦うなんざより刹那の言う通りわかり合った方がいい。どんな時、時代であろうと『いい戦争』なんざありゃしねぇんだよ。」
「それに、深海棲艦にも君のように話の通じる者がいるのも分かった。であれば可能性はいくらでもある。」
ガロードとアムロの言葉に目を見開く深海吹雪。
その言葉を屈託のない目で言い切ったことに深海吹雪はガロードとアムロに畏敬の念を向ける。
「そういえば、貴方は私達にこう尋ねましたね。『どうして戦うのか』と。」
深海吹雪はその言葉に無言で頷いた。
「結論から言ってしまえば、私達が望んでいるのは平和です。でもその平和はどちらかに与えるものではなく、どちらにも等しく与えられるものだと思います。」
「ま、その中には私達の世界のようになってほしくないっていうのが一番の根っこにあるんだけどさ。」
ヒイロとガロードの言葉に深海吹雪は静かに下を向いた。
「ヤッパリ、貴方ガタハ強イ存在ダ・・・。ソノ力モ、心モ・・。」
「そんなことはありませんよ。人類に強者などどこにもいません。むしろ人類全てが弱者なんです。それは私達だって例外ではないですし、君もそうですよ?」
ヒイロが俯く深海吹雪に近づき、頭を軽く撫でる仕草をした。
アムロ達の表情が柔らかいものに変わっている中、反面、何かを考えるような表情をしているハイネがいた。
「あのさ。すっごくいい雰囲気になってる中悪いんだけどよ。」
ハイネが手を上げながら発言を行う。怪訝な表情をしながらハイネに視線を向けるとーー
「こっからどう出るんだ?出口らしいものが全く持って見当たらないんだけどよ。」
爆弾を投下した。ヒイロ達は揃って口を開けたままになる。
「わ、忘れてた・・・。」
「・・・どう出る?物理的な手段は無理だと感じるが・・。」
内心、ものすごく焦っているアムロ達を見て、深海吹雪はクスッと微笑んだ。
「問題ハナイ。ココハ私ノ心情風景ノヨウナ物。私ガ念ジレバ、ココカラ出ラレル。」
「ま、マジで?お前、そんなことできんのかよ!?」
深海吹雪が祈るように手を重ねるとヒイロ達の視界が白く染まっていく。
「あ、最後にもう一ついいでしょうか?」
「・・・ドウカシタカ?」
「ザムザザーやゲルズゲー、外にいたMAですが、貴方に見覚えは?」
ヒイロがそう聞くと深海吹雪は首を横に振った。
「イヤ、アンナ兵器は見タコトガナイ。ソモソモ、ザムザザーッテイウノカアノカニモドキハ。」
「そうですか・・・答えてくれてありがとう。」
「そういえば、お前はこれからどうすんだ?」
「私カ?私ハ、アマリ戦イニ関ワラズ生キテイクツモリ。」
ハイネからの質問に深海吹雪がそう言った瞬間、ヒイロ達の視界は真っ白に包まれた。
気づくと先ほどの黒い空間から脱出していて、海の上にいた。
向こうから、長門達が駆け寄ってくるのが見える。
「急に光の柱が消えたからどうなったのかと心配したぞ!?」
心配そうに声をかけてくる長門を尻目にヒイロが辺りを見渡すと確かに光の柱は消え去り、空は紅い曇天から青く輝く晴天へと変わっていた。
「ヒイロさん、あの光の中には何があったのですか?」
「まぁ・・・、新たなタイプの鬼級の深海棲艦を確認しましたが・・・。」
大和が光の柱についての質問を聞かれ、ヒイロが素直に言うのかと刹那達が焦ったような雰囲気を出したがーー
「なんとか制圧しました。あとはこの通りですね。」
ヒイロは嘘を言ったことに刹那達は安堵した。
(嘘は言ってないもんな。うん。)
(それに彼女の話したことはまだ大和達に伝えるのは早すぎる)
ハイネと刹那がひそひそ声で話す。
「そうですか・・・。わかりました。では、これで作戦は完遂、ですね。」
大和がそういうと艦娘達の間で歓喜の渦が巻き起こった。
その喜びを噛み締めながら大和達は帰路へとつく。
長門の艤装に乗せてもらったヒイロは深海吹雪と話したことを思い返していた。
(艦娘と深海棲艦が同じ存在・・・。さながら、表と裏のような存在ですね・・・)
(こんなことが知れてしまえば、彼女らの戦意に関わるでしょう・・。)
(私達は、人間と深海棲艦、両者の相互理解のために、どうすればいいんだろう・・?)
ヒイロが見上げた太陽はヒイロの疑問など知らないというように嫌というほどさんさんと輝いていた。
今回も楽しんで頂ければ幸いです^_^