古鷹が走り去ってしまったのち、キラはアムロと話しをしていた。
内容はハイネの突然の戦闘力の向上についてだ。
「それで、ハイネの動きが爆発的に変わったってこと?」
「ああ、島風がやられたと思ったハイネは突然、人が変わったかのようにザムザザーを翻弄し、撃墜していた。」
「それだけ聴くとただの感情が爆発しただけのように感じるけど・・・。他に何かないかな?」
キラにそう尋ねられ、手を顎に当てるアムロ。少し間記憶を思い返していると二つの点に気がついた。
「そうだな・・・。私がハイネに対して、手袋のような兵装について聞いていたのを覚えているか?」
「えっと・・・はい。覚えてます。使い方がわからないから使用できないって言ってましたね。」
「ハイネがあの状態・・・この際だから『覚醒』と言っておくか。覚醒したハイネはその兵装を使っていた。」
「・・・その覚醒した時に使い方を思い出したのかな?」
「いや、その『思い出した』可能性は低いだろう。思い出したということは逆説的に少なからず記憶があったということになる。そうなるとハイネが元々ペーパープランの機体だったという前提が崩れてしまうからな。」
「じゃあ、アムロはどう考えているの?」
アムロは難しい顔をしながら、キラの質問に答えた。
「・・・ハイネは戦ったことがないという割には動きは良いと感じたことはないか?」
「言われてみれば、そうだね。ちょっと血が上りやすいところはあるけど、動きが悪いって感じたことは・・・。」
「推測の域を出ないが、私はハイネ、もといデスティニーガンダムは少なくとも一機はハイネとは別にあったと考えている。」
「デスティニーガンダムがもう一機?でもそれとハイネの動きに何の因果関係が・・?」
「そのデスティニーガンダムが戦場に出撃して戦った記憶、ないし記録がハイネにインプットされていたとしたら、あの動きは納得が行くものだと感じないか?」
「なるほど・・・。稼働していたもう一機の記録がですか・・・。」
アムロの考えに納得しながらもキラはハイネの『覚醒』について一つの可能性を見出していた。それを確かめるため、アムロに一つ、質問をする。
「アムロ。ハイネがその『覚醒』した状態になっていた時、目が変じゃなかった?具体的に言うと、瞳のハイライトが消えていたとか。」
「・・・・まだ語っていないことを言うということは、知っているんだな?ハイネのあの状態について。」
キラにそう尋ねられたアムロはやはりといった表情をする。キラはうなずきながら説明を行う。
「ハイネのあの状態は『SEED』を発現させたからだよ。」
「『SEED』・・・だと?」
アムロは聞きなれない単語に首をかしげる。
「『Superior Evolutionary Element Destined-factor』。直訳すると 優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子。その頭文字をとって『SEED』だよ。」
「優れた種・・・・か。宇宙世紀でいうニュータイプみたいなものか?」
「ううん。ニュータイプとは全然違うよ。確かに感覚とかは数段鋭くなるけど、他者との感覚を共有するとかそういうことはできない。完全に戦闘向きの代物だよ。」
「なるほど・・・。戦闘力の爆発的な向上はその『SEED』の発現が理由か。『SEED』の因子を持っているのはもう一機のデスティニーガンダムのパイロットが持っていたからか?」
「そう考えるのが妥当だと思うよ。」
「そういえば、『SEED』の発現に条件などは存在するのか?」
「確か・・・感情の爆発とか、かな。あとは危機的状況に陥るとか。」
キラの『SEED』に対する博識さにアムロは一つの可能性を思いつく。
「・・・私の思い違いなら聞き流してかまわないのだが。」
「・・・どうかした?」
「君のその『SEED』に対する博識さ。私が第二次アクシズ抗争の時の記憶しか持ち合わせていないことを鑑みてのことなんだが。君のパイロット、キラ・ヤマトも『SEED』因子を持つものだったんしゃないのか?」
アムロからの指摘にキラはうーん、と少し困惑した表情をする。
「もしかして、隠してるって思ってた?べつにそんなつもりはないんだけど・・・。」
「・・・・そうか。それは悪いことを聞いた。忘れてくれ。」
若干赤らめながら顔を下に向けるアムロ。その様子を軽く笑いながら言葉を続ける。
「アムロの言葉は事実だよ。僕のパイロット、キラ・ヤマトは確かに『SEED』の因子を持っていた。」
「なら、ハイネの例もある。君も持っているんじゃないのか?」
「・・・どうなんだろうね。それは僕も分からない。」
キラは首を振りながら表情を微笑みのものにする。
「ただ、持っているからって必ずしも守りたいものが守れるわけじゃない。必死に守りたいって思って、手を伸ばしても届かないものが必ずある。」
その顔はどこか悲しげな表情をしていた。キラが見つめているのはどこか遠いところを見ている。その気がアムロには感じられた。
「さて、どうすっかな。これ。」
ところ代わってガロードは鎮守府内の廊下を歩いていた。手にはガロードが使用していたシールドである『ディフェンスプレート』があった。攻守の両立ができる上にブースターの補助にもなる『ディバイダー』を作ってしまったため、いらなくなってしまったのだ。
「このまま捨てるってのももったいねぇし・・・。」
「あれ、ガロードさんじゃないですか。何してるんですか?」
あてもなく彷徨っているとガロードに声をかけられる。声のした方向に振り向くと金髪の髪をお団子の形にしつつ、ツインテールにし、なおかつ身に何となく似合わぬ子供臭い声の持ち主、長良型軽巡、阿武隈がいた。
「・・・なんか急にディスられた気がしますぅ・・・。」
「・・・いきなり頰を膨らませて何やってんだ?」
「私のことはいいんですぅ。それより何やってるんですか?」
突然の阿武隈の奇行に首を傾げながらたずねるガロード。阿武隈は表情を戻すとガロードに再度何をやっているのかを尋ねた。
「・・・まぁ、いっか。開発してもらったんだけどよ、いいのができたはいいんだけど、おかげでこいつがお役ご免になっちまってな。」
「えっと、盾ですよね、それ。ガロードさんが使ってたやつ。前から思ってんですけど、小さすぎませんか?それ。」
阿武隈の指摘にガロード自身もそういった意識があったのか頰をかきながら乾いた笑いをあげる。
「・・・まぁ、ごもっともだわな。あ、そうだ。」
ガロードはなにか思いついたのかのような声をあげるとディフェンスプレートを阿武隈に差し出す。阿武隈は突然のことに顔をキョトンとする。
「え?どうしたんですか。いきなり。」
「やるよ、これ。捨てるには惜しい代物だしな。」
意味を察した阿武隈は遠慮がちな表情に変える。
「え、そんな、いいですよ。それはガロードさんの身を守るものですよ。あたしなんかが貰っても・・。」
「悪いが、私にはコイツができちまったんでな。」
ガロードはそういい、ディバイダーを取り出す。身の丈ほどあるディバイダーの大きさに阿武隈は呆気に取られる。
「お、おっきい・・・!?」
「そういうこった。コイツはお前が使ってくれ。硬さも私とおんなじ装甲使ってっからお墨付きだぜ?」
「・・・・あ、あの。どうしてあたしなんかに?」
阿武隈は気になったことをガロードに聞く。なにか大きな理由があるのだろう。阿武隈はそう思っていたがーー
「たまたまお前が目に入ったから。」
「え」
「あとお前、結構ドジ踏むタイプだろ。そんだけ。」
「ひ、ひどいですっ!!あたしだって頑張ってるんですよ!!」
「ならその頑張りをソイツに付き合わせてやってくれ。」
ガロードは屈託のない笑顔を阿武隈に向けながら言った言葉に、阿武隈は言葉を詰まらせる。
「さっきも言ったが、ソイツの硬さは私のお墨付きだ。魚雷や砲撃なんかじゃビクともしねぇと思うから存分に使ってやってくれ。じゃあな。」
ガロードは手を振りながらその場をあとにした。阿武隈はガロードの背中を見つめながら言葉を零した。
「・・・も、貰っちゃった・・・。本当に・・・。」
阿武隈はガロードにもらったディフェンスプレートをどうするか悩むのであった。
その日の夜、ヒイロは約束通り、陸奥と加賀と共に外食に来ていた。
町の商店街にある洋食店、それほど人目につかない席で三人は外食を楽しんでいた。
注文して程なくして出された料理はヒイロは手慣れた手付きでナイフとフォークを使い、口に運ぶ。他愛もない話で盛り上がっている中、
「提督って、もしかしてこういうテーブルマナーとか慣れてるの?」
ヒイロのナイフとフォークの扱いの上手さにふと陸奥に質問されたヒイロはうーん、とうなりながら答えた。
「なんというか・・・わたしのパイロットはそういった機会も多かったので・・・。」
「それほどに戦果をよく挙げていたのですね。」
「戦果、ですか・・・。そういった訳ではないんですよね。」
「というと?」
ヒイロの言葉に疑問符をあげる陸奥。ヒイロはそのまま言葉を続ける。
「私のパイロットは潜入工作員、いわゆるスパイ活動をやっていたのでそういったパーティー会場でのマナーも施されていたんですよね。それが私にもうつっていたというか・・。そんな感じです。」
「なるほど、そういうことね。」
陸奥が納得した表情をしたのを確認すると、再び料理を口に運び、舌鼓を打つのだった。
「提督、おかわりください。」
「・・・加賀さん、それは私じゃなくて店員さんに言って・・・。」
既に5皿ほど積み重ねながらも未だおかわりを要求する加賀の姿を見ながら苦笑いをするヒイロなのであった。
「提督、今日はありがとうございました。」
ヒイロに対し、夕食のお礼を述べる加賀、その様子はどことなく申し訳なさがにじみ出ていた。おそらく、ヒイロの財布事情を察しているからだろう。
「いえいえ。お礼として誘っただけです。あと、そんなに申し訳なさげな雰囲気はよしてください。」
「ですがーー」
「まぁ、財布はこの通り。だいぶ薄くなってしまいましたが、それに見合うものもありましたし。」
「・・・あったんですか?本当に。」
ヒイロの言葉に加賀は訝しげな視線を送るが、それに気にすることもなくヒイロは言葉を続ける。
「ええ、本当ですよ。加賀さんの食べる姿とってもいい笑顔でしたので。それを見てしまえば何か財布の事情を考えるのは憚られてしまいますね。」
「て、提督・・そんなところまで見ないでください。」
口調は淡々としているが顔を少し赤らめながらヒイロを軽く睨む。
ヒイロは特に気にした様子もなかったが。
「あらあら、加賀がそんな顔をするなんて珍しいわね。」
「陸奥も茶化すのはやめてください・・・。」
陸奥に援護攻撃を食らった加賀はあえなく精神的に撃沈するのだった。
陸奥と加賀が仲睦まじく話している中、ヒイロは一人、心の中に不安を抱えていた。
(艦娘のみんなは、深海棲艦の真実を知った時、戦う意志を持ち続けていられるのでしょうか・・・?」
今回も楽しんで頂ければ幸いです^_^