変化とは起こるべくして起こるものもあれば突然起こるものもある。
佐世保鎮守府ではヒイロ達、艦娘達共に束の間の平和を過ごしていた。
「あー、あっついわー。最近気候がおかしいんちゃうかー。」
暑さを少しでも和らげるため服でパタパタと仰ぎながら埠頭でごちているのは軽空母、龍驤だ。時節は夏本番と差し掛かり、同時に暑さも佳境を迎える。
「うーん、やっぱ釣れへんなぁ。何かしら釣れると鳳翔はんのとこで作ってもらえるんけどなぁ。」
龍驤は現在釣りを行なっているが、海面へと吊るしている糸が微動だにしない様子をみて、フラストレーションが若干溜まっている。
「あー!!やっぱ釣れへんー!!日差しもきっついし止めややめー!!海風で涼しくなる思っとったけどさっぱりや!!」
気持ちが爆発したのか釣りをやめ、用具を片付ける龍驤。片付けながらこんなことをこぼす。
「やっぱ涼しくなるんは怪談か何かやな。今夜祥鳳や瑞鳳あたりを誘って怪談話でもしようかなっと。けど千歳はダメやな。絶対酒飲んで途中でおっちぬわ。
鳳翔さんに見つかった時には説教もんやしなぁ、バレへんようにせなあかんわ。」
そんなことを考えながら屋内へ戻ろうとすると、背後から何か音がしたような気がした。龍驤が振り向くが映った視界には何も見えない。気のせいかと思って再び歩を進めるがーー
ヒタ・・・ヒタ・・・・
と濡れた足で歩いた時に発するような音が龍驤の背後で鳴った。
思わず足を止める龍驤、しかし振り向くことはない。
(じょじょじょ、冗談やろ?まっさか後ろにいるなんて・・・ましてや今真昼間やで。)
あまり想像したくないことに顔が青くなり自然と足が震えてくる。しかし、若干の好奇心があるのも事実だ。振り向いてみようかなとも思ってる。
(待て待て待て、待つんや!!好奇心猫をも殺すっちゅうことわざもある!!今の自分はその猫や!!下手に振り向いて死ぬのはまっぴらごめんや!!)
恐怖心からか汗を額から垂れてくる。そうこうしている間にも濡れた音は龍驤に近づいてくる。
(ど、どうする、どうするんや自分。そもそも考えると昼間からその類のものが出てくるっちゅうのはおかしうないか?)
若干の冷静を取り戻したのか、常識的なことを考えれるようになった龍驤。しかし、それでも混濁した頭の中で彼女が出した結論はーー
(ええい、ままよ!!覚悟を決めるんや!!)
「何もんや!!幽霊ならさっさと成仏しなはれや・・・・!!?」
出した結論は振り向くことであった。意を決した龍驤はそこにいたであろう幽霊に怒声をあげるつもりでいたが、その声色しだいには色を失い、言葉が続くことはなかった。
なぜなら、そこにいたのは各所から血を流し、足取りは重く、今にも倒れそうな様子の深海棲艦、それも姫級か鬼級の人型だったからだ。
「え、は?う、嘘やろ?」
言葉を失い、それしか声を出すことができない龍驤を尻目に、その深海棲艦は途切れ途切れの口調で言った。
「オ願イ・・・タス・・・ケテ・・・!!」
その言葉を最後に深海棲艦は倒れ伏してしまった。
倒れてしまった深海棲艦に対し、思わず側に駆け寄ってしまう龍驤。
「ど、どないしよ思わず駆け寄ってしもた・・!!しゃあない、やってしもうたことだし、ちょい大丈夫か!!?」
自分の思わずとってしまった行動に後悔しているが、やってしまったことはしょうがないと割り切り、深海棲艦に声をかける龍驤。
「こ、この出血、素人のウチから見ても大分やばいで・・・!!」
龍驤はだれかいないかとあたりを見回そうとするが、果たしてほかの艦娘に見せても大丈夫だろうかという疑問が吹き出る。相手は本来敵であるはずの深海棲艦だ。
「どど、どないしよ・・。ホンマに・・・!!」
「龍驤か?そんなところで何をしているんだ?」
「あ、アムロはんっ!?」
龍驤が困惑しているところにアムロが現れた。驚いた龍驤は思わず深海棲艦を隠すように反応する。が、アムロはあたりに立ち込める血の匂いを嗅ぎとり、龍驤の後ろに隠しきれないほどの血が広がっているのを見つける。
「龍驤、どいてくれ!!」
「あ、アムロはん!!待ってーー」
龍驤の制止の声も届かず、アムロは龍驤をどかし、倒れ臥す深海棲艦を見つめる。その顔は厳しいものをしている。
「龍驤。」
「な、なんや。」
アムロからトーンの低い声で話しかけられて、萎縮した態度をとる龍驤。怒られるかなにかされると思っていたがーー
「こういう時はすぐに人を呼べ。手遅れになる。」
アムロは厳しい表情を保ったままだったが、龍驤を怒ることはなく、一言嗜めると、迅速に深海棲艦の傷を見る。
(これは・・・砲撃によるやけどではないな・・・。火傷の範囲が狭すぎる。そもそも体を貫通するほどの砲撃、駆逐艦ならともかく、姫級か鬼級の装甲にできるのか?・・・ん?この腕は・・?)
傷を診ている中ふと目に入ったのは深海棲艦特有の身体が肥大化している箇所であった。しかし、その箇所は左腕。アムロの頭に一抹の不安がよぎり、深海棲艦の顔を確認する。
「き、君は、あの時のかっ!?」
そこにいたのは、アイアンボトム・サウンドで会った吹雪とよく似た深海棲艦の姫級であった。
「龍驤、ドックは空いてたかっ!?」
「は、はぁ!?た、確か空いとったと思うけど、どうするんや?」
「無論、助けるに決まっている。それに君も助けたいと思っていたからこの子の側に駆け寄ったんじゃないのか?」
「み、見とったんか!?人が悪いでアムロはん!!」
深海吹雪をお姫様抱っこで抱えると走り出すアムロ、龍驤もそれについていくがーー
「あ、アムロはん、速すぎや!!島風より速ないかっ!?」
「悪いが一刻を争う!!質問には答えかねる!!龍驤、君はドックから高速修復材を持ってきてくれ!!」
アムロの走力についていくことが出来ずに徐々に距離が離れていく。アムロは走りながら龍驤に頼みごとをする。
「こ、高速修復材やとっ!?効くんか深海棲艦に!!」
「やってみなければ分からん!!とりあえず早く持ってきてくれ!!」
「わ、分かったわ!!」
アムロの剣幕に押されて、承諾する龍驤。そのまま高速修復材が置いてある倉庫へと向かう。
アムロはドックへと向かうために全力で走る。途中何人かの艦娘とすれ違うが、構うものか。1分、1秒が惜しい。
程なくして着いたドックの扉を蹴破り、深海吹雪を入渠させる。溢れ出る血のせいで入渠施設内の水が赤く染まってしまう。
(くっ、かろうじて脈はあるが、このまま入渠させても失血死するのが先か・・!!)
このまま見過ごすしかないのかと、アムロが思い始めた時、
「アムロ!!高速修復材だ!!」
刹那が高速修復材を手に持って入渠スペースに駆け込んできた。おそらく龍驤から事情を聞いて代わりに持ってきたのだろう。お礼も言う時間も惜しかったため刹那から受け取ると間髪入れずに深海吹雪に高速修復材を浴びせた。
「事情は龍驤から聞いた。だが、治るのか?」
「分からないが、可能性に賭けるしかあるまい。彼女が言ったことが真実であれば・・・。」
アムロは願うような口調で深海吹雪を見つめる。深海吹雪は自分には艦娘が使われていると言っていた。それならば高速修復材が効く可能性もゼロではないはずだ。
するとーー
「傷が、塞がっていく・・・。」
刹那がポツリと零した通り、深海吹雪の傷が徐々に塞がっていき、最終的に傷跡は見えないほどにまでなった。しかし、深海吹雪は目を覚まさない。
「目を覚まさないが・・・。大丈夫なのか?」
「おそらく、血を出しすぎたことによる貧血状態に陥っているからだろう。時間が経てば起きるはずだ。」
刹那が心配気な視線を送るが、アムロの言葉により、視線を元に戻す。
アムロは再度脈を確認し、しっかりと脈があることを認識する。
「彼女、なぜこの鎮守府に来たんだ?」
「分からない。だが、彼女に付けられていた傷は少なくとも砲撃のものではなかった。」
刹那の問いにアムロは首を振りながら答えたが、続けた言葉に刹那は疑問符を挙げた。
「砲撃ではない?なら一体、誰に付けられた傷なんだ?」
「・・・話は後にしよう。続きは彼女が快方に向かってからだ。」
「・・・・分かった。」
深海吹雪を抱え、アムロと刹那は医務室へと向かった。
深海吹雪をベットに寝かせて、側で見守っていると、ヒイロを含んだMS勢が部屋に駆け込んできた。
「アムロさん!!深海棲艦を救助したって、本当ですか!?」
「見ての通りだ。しかも、顔見知りと来た。」
「顔見知り・・・?」
「あっ!!コイツ、アイアンボトム・サウンドで会った吹雪似の深海棲艦じゃねぇか!!」
ハイネの驚きの声に流されるように確認するヒイロ。ハイネの言うとおり、深海吹雪がそこにいたことにヒイロも驚いた表情をする。
「ど、どうして彼女がこんなところにっ!?」
「事情は彼女から聞いた方がいいだろう。起きるまでは私がそばにいる。」
「そう・・・ですか。」
「ああ、そうだ。第1発見者は龍驤だから、彼女にも話しを聞いておいてくれないか?」
「龍驤さんが?分かりました。」
医務室を出たヒイロ達は近くに龍驤の姿を見かける。おそらく深海吹雪が心配になってみに来たのだろう。
「提督・・・その・・・あの深海棲艦、どうなったん?」
「結論から言えば一命はとりとめたと言った具合です。」
「よ、良かったぁ・・・。流石に敵とはいえ目の前で死なれたら後味悪かったからなぁ・・・。」
「そういえば、君が第1発見者らしいけど、話しを聞かせてくれない?」
キラがそう尋ねると龍驤は乾いた笑いを出しながら気まずそうに視線を逸らした。
「い、いやぁ〜。ウチもだいぶ気が動転してたから、あんまり覚えてぇへんのや。」
「何か少しでも覚えてないですか?」
ヒイロが続けて尋ねると龍驤はう〜んと唸り声をあげた。
「そもそも、何か情報になり得そうなことは何も喋ってなかったわ。精々助けてって懇願されたぐらいやな。」
「・・・となると、あとは彼女の回復を待つしかありませんね・・・。」
「ごめんな。ウチがもうちょい落ち着いていられたらなんか掴めたかもしんないのに・・。」
「貴方の責任ではありませんよ。気にしないでください。」
「・・・提督にそう言われっと、こっちも気が楽だわ。ありがとな。」
龍驤と話したのち、ヒイロ達は情報がなさすぎるためどうすることもできずに解散した。
深海吹雪が目覚めたのは丸一日経ったころであった。
「彼女が目を覚ましたって本当ですか!?」
執務室にヒイロの驚きの声が響いた。アムロが執務室に訪れ、深海吹雪が目覚めたことを報告しに来たのだ。
「ああ、とりあえずまだ医務室に居てもらっているが、会話も可能なほどに回復した。ただ、本人は何か焦っているような感覚があったがな。」
「焦っている、ですか?」
「ああ。それと出来ればあの光の柱に居合わせたメンツで来て欲しいとのことだ。」
「あの、提督?深海棲艦を拾ったと聞いてましたが、その深海棲艦と何か関係をお持ちで?」
会話についていけていない大淀がヒイロに質問をする。しかし、ヒイロは難しい表情をする。
「・・・ごめんなさい。まずは彼女のところに向かわせてください。本当のことは必ず話しますので。」
ヒイロは大淀に頭を下げた。大淀は困惑顔でそれを見つめた。
「・・・分かりました。それほど込み入った事情がおありなんでしょう。」
「ありがとう。」
ただ一言だけお礼を言うとヒイロはアムロとともに執務室から出ていった。
「あの人は・・・本当に提督らしくありませんね・・・。」
大淀は笑みを浮かべながらそう言った。元々、特に止めるつもりなどなかったが、ヒイロに頭を下げるという予想外のことがあったため思わず狼狽えてしまったのだ。
ヒイロが医務室に着くとそこには既に刹那達MS組が揃っていた。
「お久しぶりです。といいたいところですが、貴方はそうは言ってはられないらしいですね。」
「話シガ早クテ助カル。単刀直入ニ助ケテ貰イタイ者ガイルンダ。」
深海吹雪は光の柱の内部でヒイロ達と出会い、そして別れたあと世界を放浪していたとのことだ。
そこら辺をうろついていても深海棲艦だから見逃されるのが功を奏したらしい。
ヨーロッパなどを点々としていたらしいがやはりほとんどが好戦的な深海棲艦がほとんどだったらしく若干の諦めも入っていた。そんな中、ついに人間に対し、恨みを持ち合わせていない深海棲艦と出会えたとのことだ。その深海棲艦の名は、『港湾棲姫』と『北方棲姫』。北方の名前の通り、アリューシャン列島よりさらに北、ロシアやアラスカに近い海域で出会えた。ひっそりと日々を過ごしていた二人に対し、接触を行い交流を深めた。そんな中、ヒイロ達の存在を伝えたところ一度会ってみたいとのことで南下してきたとのことだ。
「わたし達に会いに、ですか?」
ヒイロがそう言うと深海吹雪は頷くがその表情は暗かった。
「タダ、途中デ謎ノ人型飛行物体ノ襲撃ヲ受ケテ、私ダケ逃ガサレタトイウ訳ダ。」
「人型飛行物体・・・?待ってください、それってまさかーー。」
「モビル、スーツか?」
ヒイロとアムロが顔を青くしながら聞くと、深海吹雪は頷いた。
「確カ、二人の側ニ居タ用心棒ガ、ソウ言ッテイタ気ガスル・・・。」
モビルスーツ、この単語にヒイロ達の間で戦慄が走った。モビルアーマーだけでなく、モビルスーツまで深海棲艦にいるとは、あんまり考えたくないことだったからだ。
「待って、その用心棒ってモビルスーツを知っているんだよね?となるとーー。」
キラの指摘に全員の間で一つの可能性が出てくる。期待を込めながら深海吹雪に尋ねるとーー
「ソノ二人ハ貴方ガタト似タヨウナ兵装ヲ持ッテイタ。名前ハーー」
「『シーブック』ト、『スウェン』ダ。」
今回も楽しんで頂ければ幸いです^_^