やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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前回までの奉仕部の臨時活動。

とうとうエンジェルラダー入り!
と、思いきや、いきなり戸塚が年齢コードで引っ掛かってしまう。
しかし、そこは静の大人の対応で双方に特に問題になることもなく、事なきを得る。
その様子を見て、雪ノ下雪乃はまた少し成長するのであった。


新・思い出のエンジェルラダー1

side比企谷八幡

 

下の階でジョースター家が乱闘を始めた。ガラスが割れる音とか、何かを壊す音がイヤホンごしに聞こえるけど、ホントに雪ノ下ヤツ、エンジェル・ダストは使ってないよな?

 

八幡「アイズ・オブ・千葉に新たなステージが加わったな」

 

雪ノ下がオロオロしているが、この程度の騒ぎは日常的で、どうせ明日には…というか、数分後にはケロッとしているんだ。そこがジョースター家の良いところだしな。「放っておけ。どうせ仗助が後で直す」と言って、川崎さん(・・)が立つカウンターに座った。他の仲間達も既に座っている。

川崎さんはキュッキュッとグラスを磨いている。

………というか、グラスが轆轤廻しのように独りでに回ってる。く……ここまでか…。教室でオーラを出していたり、わざと防げる程度の波紋で力量を隠していたな。それにしても、川崎さんの表情って、この店の雰囲気に合っている。あの人がこうまで美人になるとはな。

学校で見る表情とは違って、長い髪は纏め上げられ、ギャルソンの格好をし、流麗に動いて足音一つもたてていない。

 

沙希「思ったより、遅かったわね。ジョジョ。いえ、ディオ…かしら?」

 

川崎さんはコースターとナッツを素早く滑らせ、それがそれぞれの場所で止まる。

そして、片足立で半身にし、俺に腕を向けて手のひらを内側にして構えた。もう隠す気はないようだな。

それにしても、随分と怒っている。俺がディオだからか?でも、何でこの人は俺の正体を知っている?

ジョナサンの方は波紋の質でわかるだろうが、ディオの方はわからないはずだぞ?

 

八幡「………120年ぶりですね。ツェペリさん。お気付きとは思いませんでした」

 

俺は中国の拳法家が取るような礼をする。

拳包礼。波紋の戦士がする礼式だ。

それにしても、ジジイや承太郎相手でもふてぶてしい態度を取る俺でも、この人にだけは頭が上がる気がしない。

 

沙希「あんた達の事は最初から知っていたよ。まだまだあまい。免許皆伝とは聞いていたけれど、エア・サプレーナー島も質が落ちたものだね。波紋の量は一級品だけれど、それだけ…って感じじゃん?」

 

この人からしたら、俺達のレベルはそう見えるのか…。この人のレベルで育てられているのに、弟の方は何であんななんだろうな?

あっちも実力を隠していたのか?

 

小町「今、何て言ったの?」

 

小町が反応した。そうだろな。エア・サプレーナー島をバカにすると言うことは、小町のすべてをバカにすると言っても過言じゃあない。

 

沙希「バカ力を振るうしか能が無いって言ったの。エリザベス・ジョースター。ジョセフ・ジョースターやあたしの前世の孫、シーザーはあたしが育てるべきだった。ジョセフ・ジョースターを見ていればわかるよ。よくぞあの天才を、凡愚にできたものだと感心した。前世は産まれる時代を間違えたと本気で神を恨んだ。あんたがストレイツォの後継者?ストレイツォは何を教えたのやら…一度いたこでも呼んで聞いてみようかと思ったくらいだよ」

 

小町が波紋をバチバチさせながら、ツェペリさんを威嚇する。小町の前世を知っていて、挑発するなんて…普通ならば、命知らずだと思うが、この人がそう思ったのならばそうなのだろう。

 

沙希「そうやって簡単な挑発に乗る。質が落ちたと言われても仕方がないんじゃあないの?ここは一般のお客さんもいる場所。12年前、随分と派手に暴れたみたいだけど?」

 

小町は言われて歯噛みをしながら席に座り直す。

 

小町「う~…お兄ちゃん、この人は何者?ツェペリって言ったよね?もしかして、シーザーのおじいさんの転生なの?生きていたら、小町の先代はストレイツォ様じゃあ無くて、その人だったと言われていた…」

 

そうだ。お前の前世、エリザベスの先代になると言われていた天才波紋の戦士…

 

八幡「ああ…この人の前世はウィル・A・ツェペリ…。俺のせいで…ディオの所業と、未熟なジョナサンのせいで死なせてしまった…ジョナサン・ジョースターの師匠だ…。この人にケンカを売るのは止めておけ、小町…お前の方が波紋の力は上だが、多分お前ではツェペリさんには勝てない…今までの動作でわかる…」

 

小町「!!!」

 

いろは「ハチ君!」

 

静「……言うとおりにして、マーチ。イーハも…」

 

ダラダラと大汗をかきながら、ジョジョは二人を制する。

見ると、陽乃さんも戸塚も汗が滝のように出ている。

小町が裏切られたと言わんばかりにショックを受けたような顔をする。だが、この俺をもってしても、この人から感じる威圧に気圧される。

波紋の力ではない。本能的にわかってしまう。この人は強い。この人に戦いを挑んでしまったら、負けるのは小町の方だ。本能的にそれを悟り、俺の体からは嫌な汗が止まらない。

ハハハ…なんて人に挑もうとしてるんだ…俺達は…。

 

八幡・静・陽乃「………」

 

沙希「へぇ……ジョセフ・ジョースターは大したものだね。バカではないけど、猪突猛進だったジョジョをここまで成長させるなんて。それとも、ディオと混じったから?あの悪魔の知能にジョジョの精神。うん。面白い組み合わせじゃん」

 

八幡「ジョセフ・ジョースターは戦いにおける俺の師匠ですよ、ツェペリさん。戦いにおいては相手を分析すること、相手をかき回すこと、卑怯と罵られようとも何が何でも勝つこと。工夫することを教わりました。強いですよ。力の強さとかそういうのが意味をなさない強さをジョセフ・ジョースターは持っています。ディオもジョセフの策士ぶりには一目おいていましたから」

 

沙希「是非とも、会ってみたいね。ジョセフ・ジョースターに」

 

く…完全にツェペリさんに呑まれている。

 

雪乃「……探したわ。川崎さん」

 

俺達がツェペリさんに呑まれている中、雪ノ下が話を切り出す。すると、ツェペリさんの顔色が変わる。

 

沙希「雪ノ下…」

 

雪乃「…………っ!!!」

 

その表情はディオに「お前はこれまで食べてきたパンの枚数を覚えているのか?」と言われた時に見せた憤怒の表情だった。はっきりとした敵意が込められている。二人の間には接点がないはずだ。校内では有名な雪ノ下だから、その容姿や少し前までのあの性格もあって快く思わない人間はいるだろう。

そして、俺たちでさえ呑まれるツェペリさんの威圧に雪ノ下が耐えられる訳がない。

 

八幡「……ツェペリさん。その殺気を引っ込めてくれませんか?俺達ですら呑まれる威圧を食らったんじゃあ、一般人の雪ノ下じゃあ耐えられませんよ。一応、今日は話し合いに来たんで」

 

沙希「そうだったんだ。てっきり集団で仕掛けに来たのだと思ったよ。店で暴れられちゃ敵わないからね。少し強めに威圧したんだけど、失敗しちゃった。ごめんね」

 

シャレになりませんよ。ツェペリさん。表情の鋭さ弱まり、威圧が最小限になる。

 

雪乃「こ、こんばんわ」

 

沙希「こんばんわ。それで?ジョジョとエリナ・ジョースター、エリザベス・ジョースター、静・ジョースター、雪ノ下姉妹はわかるとして、この二人は?」

 

ツェペリさんの目がスッと細くなり、由比ヶ浜と戸塚を射ぬく。どこまでこちらの事情を知っているんだ?

 

結衣「ひぐっ!ど、どうも…」

 

沙希「由比ヶ浜か…一瞬わからなかったよ。じゃあ、彼も総武高の人?ひどく懐かしいかっこうしているね。まさかとは思うけど、スピードワゴン君?」

 

戸塚「お、お久しぶりです。ツェペリのおっさん。今は戸塚彩加と言います。よく女の子と間違われるんだけど、よくわかったね?」

 

沙希「その格好と雰囲気……気配かな。いやいや、前世も含めて君には謝らなければね。君はいざとなったら逃げ出すなんて精神じゃあない。勇気をもった気骨あるバイキング。太陽の精神に満ち溢れている。あたしの威圧を正面から受けてもまだ、にらみ返してくる勇気を持てる奴なんて中々いないよ。また会えてうれしいよ。スピードワゴン君。だけど、おっさんは止めてくれない?それじゃ、あたしがおっさんくさい枯れた女みたいじゃあないのさ」

 

懐かしそうにフッと笑ったツェペリさんだが、次の瞬間には顔をしかめた。

 

沙希「それにしても、イヤな攻撃だよ。接触してくるなら学校かと思ったけど、秘密のバイト先とはねぇ…バレちゃったか。いや参った参った。降参だよ」

 

何がですか?むしろ「ヤレヤレだぜ」はこっちですよ。別段隠し立てするまでもなく、ツェペリさんは肩を竦めた。そして、壁にもたれかかり腕を組んで浅いため息をついてから、俺達を一瞥する。

 

沙希「何か飲む?」

 

雪乃「私はペリエを」

 

炭酸水か。うまいのかな?それ。

 

結衣「あ、あたしも、同じのを」

 

舌が肥えている雪ノ下ならともかく、味のわからない普通の人からしたらナチュラルミネラル炭酸水がうまいかなんてわからない。普通にオレンジジュースでも頼んでおけよ。後悔するぞ?

 

八幡「MAXコー…」

 

雪乃「彼には辛口のジンジャエールを。MAXコーヒーがあるわけ無いでしょ?」

 

ふ……。愚かなり雪ノ下。

 

八幡「甘いな雪ノ下。MAXコーヒーがメニューになければ加えれば良いじゃない。自分の店なんだから」

 

雪乃「なっ!そんな利益に繋がらない事を…」

 

八幡「その無駄無駄無駄無駄ぁな事も、ここでならふんだんに権力を使いまくるさ。それが、俺達の思い出のエンジェルラダーの醍醐味。それに、千葉県なのにMAXコーヒーがないなんて許さん。そんなの山しかないのに山梨県と言っているようなものだ!」

 

千葉県と山梨県の関係者はごめんなさい。

 

淳「まったくだ。山梨県に謝れ。その通りだけどさ」

 

隣のジョースター家ばりにデカイおっさん、山梨県民でしたか。すみません。

 

戸塚「……ノンアルコールのワインを」

 

それって渋めの葡萄ジュースとどう違うの?

あるけどね。いろはの好物だし。

 

いろは「同じものを」

 

陽乃「普通のワインを。ツェペリ印なら安心だわ」

 

沙希「ワインは温度管理が重要。前世から心得ているよ」

 

小町「ミルク…砂糖入り甘めで」

 

沙希「ミルクセーキでも作ろうか?ベイビー」

 

小町「………くっ」

 

静「ブラッドオレンジジュース」

 

険悪な二人をジョジョが注文して止める。

ブラッドオレンジジュースって、イタリアのオレンジジュースじゃあないか。

乳強化期間でなければ小町の好物だ。

 

川崎「かしこまりました」

 

ツェペリさんは人数分のシャンパングラスにそれぞれを注ぐと波紋を使ってなのかパッパッと投げる。しかし、それは一滴もこぼさす、そして音もなく、コースターの上にピッタリと収まる。

この技量……この大胆かつ繊細な技術。これが波紋の量では小町が勝っていても、ツェペリさん…いや、川崎に勝てないと評する理由。多分、小町の技は川崎の繊細な技術の前には通用しない。

通用しないがな?ツェペリさん………ん?

隣の席のいろはがスッと手で俺を制した。

 

いろは「ここは堪えて、ハチ君。ハチ君の見せ場は今じゃあないですよ」

 

そうだった。今、ここで俺が動いたら、せっかく見せた不肖の弟子の小さな勇気を踏みにじってしまう。

さぁツェペリさん。アンタにとっては小さいかもしれないが、日溜まりから北風厳しい北欧の地となった奉仕部の日々が生んだ、俺達の育てたバイキング…。俺達が大好きなドンパチにはまだまだ未熟だが、ドンパチとは違う意味での見えない戦いのバイキングを威力を…ゆっくり味わうんだ。

 

沙希「それで、何しにきたのさ?男二人と女六人のハーレムデート?確かにそういうお客さんもいるけれど、誇り高いジョースターの血統はどこにいったのかね?」

 

雪乃「比企谷君と?彼の争奪戦に参加する勇気はないわ」

 

八幡「わりかし真面目な話をしに来たんですけどね。ところでツェペリさん。最近家に帰るの遅いんですってね?弟が心配してましたよ?」

 

俺が言うと、ツェペリさんは例のハッとした癪に障る笑いをした。

 

沙希「そんなことをわざわざ良いに来たんだ。ごくろうさん。未熟な君達にそんなことを言われたくらいで辞めると思っているの?それと、ツェペリさんは止めてくれない?今は川崎沙希なんだけど。あと、敬語も」

 

八幡「了解だ。川崎」

 

沙希「ああ、最近やけに周りが小うるさいと思ったらアンタ達のせいか。大志が何か言ってきた?あいつ、アンタらの噂を聞いたら飛び出して行ったけど、波紋の勝負に行ったと思ったら、そんな余計な事を言ってたんだ。あたしから大志に言っておくから気にしないでいいよ」

 

川崎は俺を睨み付けてきた。

どうしてこんな手段にこだわるのかねぇ?

 

雪乃「理由ならあるわ。あなたの事情なら私達はもう知っている。お金が必要な理由も。だけどこんなやり方は間違っている。SPW財団にも、学校にも、あなたの家族にも迷惑がかかるわ。事実、もうSPW財団には迷惑がかかってる」

 

沙希「だから何?アンタらに関係あるの?」

 

静「大有りです。だから私達が動いているんですけど?川崎沙希さん」

 

毅然と振る舞うジョジョ。この話の段階になれば、話は静・ジョースター個人ではなく、SPWジャパンの副社長の話となる。そうなれば、頭のスイッチはそちらに移行され、川崎の威圧に呑まれなくなる。

 

沙希「………どういうこと?」

 

静「ここにいるのは雪ノ下さんと由比ヶ浜さんを除いては全員、SPW財団の関係者です。普通気が付きませんか?ジョースター家と前世が財団の創始者、スピードワゴンさんが来ているのですよ?不祥事の原因を作っておきながら、随分とふてぶてしいんじゃあないですか?」

 

沙希「そ、だったらここを辞めればいいだけだし」

 

八幡「そう来ると思って、既に手は打ってある。川崎沙希という高校生を雇わないよう、深夜のバイトを募集しているこの関東圏内の企業には赤紙を配信しておいた。黒社会も含めてな」

 

沙希「……アンタにそんな力があるの?」

 

八幡「こと関東一円であればな。財団関東支部の支部長をなめんな」

 

沙希「あんなふざけた、人生なめすぎな進路を書くアンタが、店長なんかが足元にも及ばない地位にいるなんてね」

 

雪乃「当たり前よ。比企谷君は、もう12年もこんな仕事をやっていたの。勤続年数ならもう三十代半ばと同じだけ働いている。波紋じゃあ川崎の方が強いかも知れないけれども、社会の事では川崎さんが比企谷君に…いえ、さっきあなたがバカにした小町さんの足元にも及ばないわ。だって、このバーは財団の千葉支部の…小町さんが支部長を務めている部署の管轄なのだから」

 

沙希「何でアンタがシャシャり出てきてんの?雪ノ下」

 

雪乃「財団の権限が必要な部分以外、何故比企谷君や小町さんが黙っていたのか…それは私や由比ヶ浜さんが相手をしている内は、個人が話をしているくらいで済むけれど、戸塚君以上が口を開けば、それは財団の言葉になる。だから、彼らは私に任せてくれた。なるべく事を大きくしない為に。覚悟することね、川崎さん。私はできているわ。お互いに触れられたくない部分を抉り合う覚悟を…」

 

←To be continued




はい、今回はここまでです。

原作にはないけど、数あるアンチSSでよく出てくる雪ノ下の「川崎さん、覚悟することね」を別の形で使ってみることにしました。
そして、皆さんが予測されたとおり、ついに登場しました。ツェペリサキサキ!そしていきなり小町をディスってます!この不敵な態度…果たしてサキサキの実力はいかに!そして、おのずと大志は誰だかわかりますよね?

しかし、バトルよりも先にユキノンVSサキサキです。
一体、どうなるんでしょうか?!

それでは次回もよろしくお願いいたします!

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