やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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妹は楽しげに、姉は嫉妬する1

side比企谷八幡

 

トリッシュさんの誕生パーティーが明けて日曜日。

梅雨の晴れ間とも呼ぶべき晴天だった。今日は雪ノ下雪乃と出掛ける事になっている。

幼なじみーズと。

海浜幕張駅。ホテルロイヤルオークラに宿泊した俺達が待ち合わせしている最寄り駅だ。

時刻は10時ちょうどになろうかというところだ。少し早く来すぎただろうか。どうやらあまりの出来事に動揺しているらしい。

まさか小町やいろははともかく、俺やジョジョが雪ノ下に「付き合って欲しい」と言われる事になるとは。

どうしよう。……やっぱり断ろうかな…。あのときの俺達は動揺していたのだ。まさか俺達が幼なじみーズやジョースター家関係者以外から買い物に誘われる日が来ようとは思っても見なかったせいで、正常な判断力を失っていたのだ。

逃げるなら今だ。うがああああ!と叫び出したくなるのを抑えながら、頭を抱えるくらいなら、逃げる事を選択するべきではないだろうか?ちょうどいろはも小町もコンビニに行っていないことだし。

俺とジョジョは互いの顔を見合わせると、ゆっくりと…ゆっくりと後ずさる。

 

雪乃「お待たせ。あなた達、逃げようとしていなかったかしら?」

 

涼やかな一陣の風を引き連れ、同時に冷ややかな視線を俺達に送りながら雪ノ下雪乃がゆっくりと歩いてくる。

よく俺たちの気配察知を掻い潜って接近できたな。

ましてや俺たちの逃亡を察知するとはやるな!

 

八幡「別に、逃げようとしてねぇよ?なぁ、ジョジョ」

 

静「そうそう。決して幼なじみやジョースター家やアーシス以外のメンバーとお出掛けなんて初めてで、どうしていいかわからないから、イーハやマーチに丸投げしようだなんて思ってないよ?雪ノ下さん」

 

雪乃「逃げ出そうとしていたのね…付き合いの狭さは私も人の事は言えないのだけれど。せめて今日一日は付き合ってくれるとありがたいのだけれど」

 

静「んー…私達で役に立つのかなぁ」

 

八幡「だな、いろはや小町ならともかく、俺達は世間一般の流行りや廃りはわからんぞ?」

 

雪乃「それでも、一人で悩むよりは現実的だわ。三人集まれば文殊の知恵とも言うじゃない。それでは行きましょう?」

 

雪ノ下は藤編みのバックを肩に担ぎ直しながら誰かを探すようにキョロキョロとし始めた。

 

八幡「小町といろはなら今はコンビニに行っているから待っていてくれ」

 

雪乃「そう…でも休日に付き合わせてしまって申し訳ないわね。本当は三浦さんと海老名さんも来る予定だったのだけれど…」

 

八幡「仕方ないだろ、家の用事が入っちゃったって言うんじゃあ。それにしても、いつぞやのファッション雑誌で三浦と相談していたのはそう言うことだったのか。由比ヶ浜の誕プレ探しにねぇ…」

 

雪乃「三浦さん達があんなに親身に見てくれるとは思わなかったわ」

 

静「パパから聞いたけど、三浦さんの前世ってすごい面倒見が良かったんだって。だからじゃあないのかな?ましてや三浦さんにとっても由比ヶ浜さんは友達だから、雪ノ下さんの相談に親身になってくれたんだと思う。それに、財団見学の時でも真っ先にあなた達を助けたようだしね」

 

雪乃「ええ。彼女には感謝しているわ」

 

と、ここでネタばらし。

付き合って欲しいというのは由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買いに行くのを付き合って欲しいのだとか。

それも、俺やジョジョではなく小町やいろはに付き合って欲しいのだとか。

じゃあ、うちら二人は要らなくね?

とは言え、懸命な判断とも言える。今までは由比ヶ浜に頼るんだろうが、今回はその由比ヶ浜の為なのだから頼るわけにはいかない。となると、交遊関係の狭い雪ノ下では奉仕部のメンバーしかいないという訳だが…。

徐倫もいるし、陽乃さんに頼ってもよくね?

2分間だけお互い無言でいる。ジョジョと二人だけなら沈黙なんて別に慣れているからいいが、そこにいつもの人間以外が混じると途端に気まずくなるのは何故だ?

そうしているうちにいろはと小町が戻ってきた。

今日は雪ノ下とお出掛けだとわかっていた為か、清楚系のコーディネートをしている。お嬢様仕様とでも言うのだろうか。何気に姉妹ファッションだ。相変わらず仲が良いね?

リアルお嬢様であるジョジョが大人スーツ系のファッションなのに。

 

小町「およ?雪乃さんだ、こんにちは」

 

いろは「こんにちはー。今日は結衣先輩の誕生日プレゼントを買いに行くんですよねー?」

 

雪乃「ごめんなさいね?休日なのに付き合わせてしまって」

 

いろは「いえいえー、わたし達も結衣先輩の誕生日プレゼントを買いたかったですし、みんなでお出掛けもたまには良いじゃあないですかー」

 

八幡「むしろ俺と相棒が要らんよね。特に俺一人だけ男なのが居たたまれないんだが?帰っていい?」

 

いろは「はあ?何を言ってるんですか?私達がお出掛けするのにハチ君がいないなんてあり得ないんですけど?ハッ!まさかここで帰ろうとして気を引こうだなんてしていますか?すいませんちょっと黄昏ているハチ君の背中の哀愁にちょっとだけキュンとしちゃいましたけどそういうの狙いすぎなので二人きりの時にしてくださいごめんなさい」

 

八幡「リアルに指摘しただけなのに何で振られるの?もうホントに帰って枕を濡らすよ?」

 

ここはチャンスと逃げ出そうとする俺達だったが、案の定小町といろはにあっさり捕まった。

 

いろは「バカやってないで行きますよー?」

 

小町「もうすぐ電車が来るんだから、往生際の悪いことをしないでよ」

 

小町にずるずる引きずられて俺とジョジョは改札をくぐらされた。

今日の目的地は千葉の高校生がデートスポットに使う東京BAYららぽーとである。

さまざまなショップが入っており、映画館もあればイベントスペースもある県下最大のレジャースポットだ。

車内もそこそこの混雑具合だ。俺達はつり革に捕まって5分ほど電車に揺られていた。

俺と雪ノ下だけだったら恐らく何も話さないのだろうが、今は幼なじみーズがいるのでなにくれなくいろは達は雪ノ下に話しかけていた。

 

いろは「雪ノ下先輩はもうなに買うか決めたんですか?三浦先輩にも相談に乗ってもらっていたみたいですし」

 

雪乃「いえ、色々アドバイスは貰っていたのだけれど私にはよくわからなくて」

 

三浦も由比ヶ浜の好みについてはいくつかのアドバイスはしても、最終的にはあくまでも本人が決めるというスタンスで教えていた。三浦も中々奉仕部の理念をよく理解しているじゃあないか。ただ、雪ノ下と由比ヶ浜はセンスが合わなそうだよなぁ。

 

雪乃「それに私、友達から誕生日プレゼントを貰ったことが無いから…」

 

少しだけ陰鬱な顔をして雪ノ下はこぼした。それを聞いていろはも小町も物憂げな顔をして黙ってしまう。

なんと言っていいか困っているようだ。

俺もジョジョも困る。少なくとも幼なじみーズ同士ではプレゼントのやり取りをしているからなぁ。

 

いろは「でも、わたし達も人の事を言えないんですよね?」

 

小町「うん。この四人の間ではプレゼントのやり取りはあるけれど、同世代の友達からは康穂ちゃん以外ないよね?小町以外は」

 

た、確かに!

小町はコミュ力高いから友達(仮)はそこそこいるけれど、俺とジョジョは壊滅的にお互い以外に友達は幼なじみーズと康穂だけだ!いろはもごく少数しかいないよなぁ?

 

八幡「あ………俺、同い年の男子から誕生日プレゼントもらったことないわ。意味不なトウモロコシ以外」

 

いろは「ああ、あの高津とかいう人の…あれを誕生日プレゼントとカウントしちゃう?」

 

八幡「うん………。言ってて悲しくなってきた。所詮、親同士の付き合いで無理矢理成り立っていた関係だったし、その頃には幼なじみーズ完成していたし」

 

雪乃「意外だったわ。あなた達も意外に友達がいなかったのね…あと、確かに親の付き合いでってのはあるわよね…。親同士で話している間、子供達をひとまとめにするの、あれは本当にやめて貰いたかったわ」

 

静「あるよね、そういうの。子供会とか学童保育とかうざかったなぁ。同学年でさえ仲良くないのに他の学年までいるの。私達ずっと四人で固まっていたよね?」

 

いろは「うんうん。変に気を引こうとして苛めてきたりとかホントにウザかったです」

 

雪乃「それで無理矢理交流させようとして収集付かなくなって、エンジェル・ダストで仲間割れさせたわ。最後だけはスッとしたわね」

 

八幡「雪ノ下…」

 

雪乃「なにかしら?」

 

八幡「よくやった!」

 

yeah!パシッ!ピシッ!ガシッ!グッ!グッ!

 

小町「う、うわぁー、外いい天気だなぁ!」

 

うんうんと頷くか謎のハンドシグナルをやる俺達。

暗く重苦しい雰囲気に耐えかねたのか、小町が唐突に窓の外を見始める。

青空はどこまでも澄み渡り、夏の始まりを予感させていた。

今日は暑くなりそうだ。

 

← To be continued




はい、今回はここまでです。


それでは原作との相違点を。

買い物に出掛けたのは雪乃、八幡、小町➡+いろは、静。

雪乃は独学でファッション雑誌で探す➡三浦にいくつかのアドバイスを受けた。

高津くんと新ちゃんのエピソードは原作通り。

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