やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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久々の前回までの奉仕部の活動

由比ヶ浜誕生日プレゼントの買い物の為、雪ノ下雪乃と共に東京BAYららぽーとを訪れていた八幡達幼なじみーズ。エリアを絞り込み、色々と探してついに買うものを決めた雪ノ下雪乃。
それを微笑ましく見ていた八幡達の背後から、魔王の影が伸びていた。


妹は楽しげに、姉は嫉妬する4

side比企谷八幡

 

今、俺はペットショップにいる。今、ららぽの外にいる新しく家族に迎えた隼の事じゃあない。正真正銘のペット用品店のペットショップの事だ。

そこで俺は目的の物を買ったのだが、不可解なのはいつもいろはか小町が占領している俺の左腕を、今は魔王が占領していることだ。

近い柔らかい良い匂い!

置いていった陽乃さんからの要望は、俺の独占だった。もっとも、R18な事は除くが。

そっちの方面は最初はいろはと決めているのでさすがに断った。最初じゃあなければ良いのかというのはまた話は別だけどね!

でも、家から解き放たれ、本来の輝きを余すことなく俺達に見せてくれている陽乃さんの事は、嫌いではない。

 

陽乃「買い物は終わった?じゃあ、みんなのところに戻ろっか♪さぁて、雪乃ちゃんは…多分、あそこだよねぇ」

 

八幡「そうですね、行きますか」

 

陽乃「ゆっくりね♪せっかく自由に八幡君を自由にできる時間なんだし、こんな貴重な時間なんて滅多に無いもの♪有効に楽しまなくちゃ♪」

 

俺達はペットグッズコーナーを抜けてケージの方へ向かう。すると、予想通り雪ノ下はそこにおり、他のみんなもそれを見ていた。

口元に柔らかい笑みを湛えて、膝を抱えるように座り、仔猫を控えめに撫で、時折もふったりしている。さすがに周囲にも人がいるせいか、今日はにゃーとは言わないらしい。

あまりにも真剣な様子で撫でているので、声をかけづらい。他のみんなもそうなのか、その表情は微笑ましく思いつつも、困ってもいるような感じだ。

どうしたものかと思っていると、雪ノ下の撫でていた猫がぴくっと耳だけを俺の方向に向ける。その耳の動きにつられて雪ノ下も振り返った。

 

雪乃「もっと猫もふりたかったのに…」(あら、早かったのね)

 

八幡「取り繕った言葉と本音が逆になってるぞ」

 

陽乃「これでもゆっくり来たんだよ?雪乃ちゃん」

 

いろは「これ以上ハチ君を取られたくないです」

 

八幡「悪い」

 

果たしてそれは待たせてしまって悪いなのか、いろはにたいしての悪いなのか自分でも判然としない。

雪ノ下は最後に名残惜しそうに仔猫を撫でると、声は出さずに口の形だけで「にゃー」と挨拶をして立ち上がる。

 

雪乃「で、何を買ったの?大体想像つくけど」

 

八幡「お前の想像してるものだよ」

 

雪乃「由比ヶ浜さんのプレゼントをあなたも買うなんて意外だったわ」

 

八幡「由比ヶ浜のプレゼントもあるが、イギーへの贖罪でもあるんだよ。陽乃さんに対しても…」

 

いろは「……ハチ君……やっぱりまだ……」

 

小町「お兄ちゃん…」

 

いろはと小町は悲しげに眉をハの字に変える。悪いな、こればかりは治りそうにない。

 

陽乃「…………」

 

雪乃「姉さん?」

 

そんななか、陽乃さんだけは怒ったような表情を作る。

 

八幡「…帰るか」

 

俺は誰の返事を聞かずに帰るべく歩みを進める。

時間にして2時といったところ。手頃な時間だろう。

出口に向かうまでは俺が先導する。

その道すがら、家族やカップル向けのゲームコーナーがあった。そこで雪ノ下がピタッと足を止める。

 

静「どうしたの?ゲームでもしたいの?」

 

雪乃「ゲームには興味ないわ」

 

雪ノ下の視線はクレーンゲームに釘付けになっている。いや、その中の一台の中身だ。見覚えのあるぬいぐるみ。パンダのパンさんが入っている。

 

陽乃「あれは欲しがってるわね」

 

八幡「まぁ、欲しいならやれば良いんじゃあないの?慣れないと取れないがな」

 

雪乃「あら、なかなか挑戦的な物言いね?私を見くびっているのかしら?」

 

かっちーんときたのか、雪ノ下が俺を睨んでくる。

安い挑発に乗りやすいところは今後の課題だな。まぁ、そうなるように今は仕向けたんだけどな。

 

雪乃「なら見てなさい、比企谷くん」

 

雪ノ下が百円玉を入れている間に俺はジョジョに目配せする。ジョジョはすぐに察してくれた。

小町は雪ノ下に操作要領を教える。

そして雪ノ下はクレーンを操作をし、中々の位置に陣取る。

 

雪ノ下「…………もらった」

 

極々小さな声が聞こえた。取ったという確信があったのだろう。だが、普通は取れない。アームがそう簡単には取れないように調整してあるからだ。普通なら。

 

八幡(…………もらった)

 

クレーンはがっちりぬいぐるみを掴むと、そのまま所定の位置に戻り、ぬいぐるみをポケットに落とした。

 

小町「あれ?そんな簡単には……ハッ!もしかして」

 

八幡「へぇ、上手く取れたな。ビギナーズラックってヤツか?」

 

小町が余計なことを言う前に、俺が言葉を重ねる。小町が察した通りだ。

 

雪乃「……運が良かったのね」

 

雪ノ下は嬉しそうにぬいぐるみを抱えた。

 

雪乃「似合わないかしら?こういうのは由比ヶ浜さんや小町さんの方がイメージに合いそうだけれども」

 

いろは「雪乃先輩がぬいぐるみが好きってのは正直意外でしたが、それを言ってしまったらハチ君なんてあの顔で甘党ですから」

 

いろは、あの顔って酷くね?

 

雪乃「………他のぬいぐるみにはあまり興味がないのだけれど、このパンさんだけは好きなのよ」

 

雪ノ下はぬいぐるみの腕を取ってちょこまかと動かす。その度にパンさんの爪がぎちぎちと恐ろしげな音を立てていた。

 

雪乃「小さい頃、原作の原書を貰ったのよ」

 

陽乃「………」

 

陽乃さんは悲しげな顔をする。

 

静「パンダのパンさん、原題は『ハロー、ミスターパンダ』。改題前は『パンダズガーデン』」

 

雪乃「さすがはジョースターさんね。その通りよ。アメリカの生物学者だったランド・マッキントッシュがパンダの研究のため家族総出で中国へ渡った際、新しい環境になかなか馴染めなかった息子のために書いたのが始まりだと言われているわ」

 

ジョジョと雪ノ下はパァン、ピシッ!ガシッ!グッ!グッ!とハンドシグナルをやる。君達ホントに最近仲がいいね。

 

小町「あ、ディスティニー版と少しちがうんでしたっけ?」

 

雪乃「ええ、笹を食べて酔って酔拳するのは原作のごく一部なの。1度読んでみるとわかるわ。翻訳もなかなかの出来栄えだけれど、やっぱり原書で読むのがお勧めね」

 

雪ノ下は実に楽しそうに語る。

好きなものを語るときってこうなるよな。よくいろは達に延々と語って引かれる時があるわ。

こうやって好きなものを好きに語れるっていうのは良いと思う。俺も間田さんと始めると特に延々と語り合い、徹夜してでも語り合う時があるんだよな。今日はエルメェスさんにどこかに連れて行かれてたけど。

自分が大好きなものを取るか、自分の事なんて別に好きでもなんでもない連中と仲良くすることを取るかなんて考えるまでもない。

それで今の俺があるわけだし、間田さんや露伴先生のような理解者が出来たんだから。

そんな俺に付き合ってくれているいろはやジョジョには悪いことをしたとは思うが。

 

いろは「今度読んでみますね?」

 

雪乃「あなた達程、語学が達者なら安心して推薦できるわ」

 

雪ノ下は遥か昔を懐かしむように、優しげな瞳をしていた。

そして、小さな声で囁くように呟いた。

 

雪乃「誕生日プレゼントだったのよ。そのせいで一層愛着があるのかも知れないわね。だから、その…」

 

雪ノ下は恥ずかしそうにぽふっとぬいぐるみに顔をうずめて、表情を隠しながら俺に視線を向ける。

 

雪乃「その……取ってもらえて、ありがとう…」

 

陽乃「気づかれていたみたいだね?八幡くん?」

 

雪乃「でも、イカサマは感心しないわよ?比企谷くん?」

 

八幡「知らないのか?ばれなければイカサマではない。イカサマを見抜けない方が悪。勝負の世界はそう言うものだ。特にスタンド使いの世界ではな」

 

まぁ、手段は簡単なものだ。ジョジョのアクトン・クリスタルでハーミット・アメジストを透明にしてもらい、こっそりアームにくっつけ、掴んだ時に絡めてアームに固定していただけだ。雪ノ下は俺が何をしたのかは多分わかっていない。

多分、小町が気がついた時に察したのだろう。

小町達はすぐに気が付いたのは……まぁ、ぶっちゃけよくやってるからだ。色々とやり口はあるが、一番自然なやり方はこのやり方だ。

 

雪乃「あなたらしい理屈ね」

 

陽乃「イカサマギャンブラーに実力を認められるくらいだからねー。八幡くんは」

 

雪乃「イカサマギャンブラーって…昨日いたあの人?」

 

ああ、トリッシュさんのパーティーにもダービーさんは参加していたものな。しばらく休暇を取ったそうだから、千葉を散策するとか言ってたっけ。

裏カジノとか荒らしそうだから護衛をこっそりつけたけど、ラスベガスからも護衛が来ていたっけ。

 

雪乃「比企谷くん…」

 

八幡「言っておくけど、仕込んだのはジジイだからな」

 

雪乃「そう…師匠の…」

 

師匠とはジジイ…ジョセフの事である。俺や川崎、小町以上に技が多彩なのはジジイだ。なので、奉仕部のメンバーの技量をジジイから見て格闘技が一定の領域に達していないものは稽古の参加を義務付けられている。

屋上にマットを敷いて訓練場として利用して。

雪ノ下もジジイの稽古を自主的に受けている。

あの川崎との戦いで感銘を受けたのもあるが、家業であった不動産・建築業の元令嬢として、一代で世界的企業にのしあげたジョセフ・ジョースターという存在に敬意を抱いているのだろう。

俺達が気分よく話していると…

 

大学生男1「雪ノ下さんじゃあないですか!」

 

大学生男2「今日、急にドタキャンしてどうしたのかと思ったけど、どうしたんですか?」

 

陽乃「ごめんね?妹が高校の友達と出掛けたいって聞いたから、一緒にお出掛けしたくて。ほら、長い間離ればなれだった妹だから、少しでも穴を埋めたいじゃない?みんなには悪いと思ったけど、こんな機会って滅多にないから」

 

大学生男3「そうだったんですか。なら、僕達も一緒に行っても…」

 

陽乃「あ、それは勘弁してくれる?せっかく気の合う同士で行動してるんだから、空気を読んでよ。あなたがよく言うじゃん?せっかく誘っているのにバイトで断るなんて空気を読めって。家計を支えてるわたしをつかまえて。得意なんでしょ?空気を読むの」

 

あー…グループ内でもこの人の事は嫌ってるな?陽乃さん。

 

小町「うわー…たまに陽乃さんが愚痴ってるのってこの人の事だったんだ。やめて下さい。仕事の能率が下がるんで。建設部門はうちの支部の目玉事業なんですから、その部長のストレス管理は重要なんですけど」

 

千葉支部でそんな話があったのか。だから時々癒しが欲しいとか言ってちょっかいをかけてきていたのか、この人。

 

大学生男3「な、何かな?お嬢ちゃん?中学生が大人の話に…」

 

陽乃「SPWジャパンの就職は諦めた方が良いよ?この子、これでわたしの上司で、SPW財団千葉支部の支部長だから」

 

大学生男3「え?」

 

陽乃「紹介するね?わたしの妹と、SPW財団の上司の方々だよ?一番下で千葉支部の支部長だよ?」

 

あ、これはもう人生レベルで潰す気満々だな。

アヌビス神時代から容赦の無いところでペットショップと気が合っていたからかぁ。陽乃さんは。

 

大学生達「ざ、財団の…幹部だって…?」

 

小町「………一応聞きますけど、あなたの専攻は何ですか?希望部署は?」

 

大学生男3「ご、語学で専門は英語。通訳を…」

 

小町『不採用ですね。うちの会社、外資系なので通訳専門とかは要らないんですよ。通訳が必要な人は最初からそういう部署に回しませんし(英語)』

 

大学生男3「え?え?」

 

雪乃「姉さん。付き合う友達は選ぶべきだわ。あなた、それで英語の通訳を考えているなら将来を考えるべきだわ」

 

八幡「マジかー。これで英語通訳とかはないわー」

 

思わず戸部になるくらいには呆れてしまった。

咄嗟とはいえ、それで通訳とかは無理だわ。

 

陽乃「………そうね。わたしの仕事の事もあるし、今後の付き合いは考えさせてもらうわ。じゃ、行きましょう?みんな。不愉快な気分にさせてごめんね?」

 

陽乃さんがそう言い、俺達はその場を離れ、帰路に着いた。

背後から襲撃しようとしていた男三人だったが、甘い。

一般人に紛れて護衛がさりげなく混じっているんだ。

すぐに取り押さえられ、影に引きずり込まれてどこかへ運ばれて行った。

まぁ、ヒットマンとかでは無かったから、命までは奪われないだろうが、適当な罪状を捏造され、現行犯逮捕で前科持ち。大学から退学処分で人生転落ってところだろう。

陽乃さんの敵に回った大抵の人間はこうやって社会的に潰されるか、精神的に潰されるか、もしくは裏の仕事を受け持った場合は…………。

まぁ、彼らは俺の人生においての路傍の石にすらなれない関係ない人物の結末だ。こんなことは日常茶飯事。忘れよう。

 

八幡「まあ、仮面を被った陽乃さんって、男の理想を押さえた完璧超人だから、あんなのが寄ってきて大変ですね?」

 

陽乃「その仮面を一目で見破った君はお姉さんにとっては一番の理想だよ?その敵に対しての容赦のなさや、何がなんでも勝つ精神や、身内には優しいところもね?」

 

気持ちを切り替えた俺達は、指定のレストランで食事を取った後に解散した。

リサリサに寄りたかったが、安全が確保された場所ではなかった為、断腸の思いで断念した。残念だ。

次に来るときは警備部に安全確保をお願いしよう。

こうして俺達と雪ノ下姉妹の初のお出掛けは、最後こそトラブルがあったが、無事に終わった。

最後に雪ノ下が「今日は楽しかったわ」と一言言ってくれた。

雪ノ下姉妹に新たな思い出が出来て良かったと思う。

最近、色々といい思い出が重なっていくなぁ。

 

←To be continued




今回はここまでです。このエピソードは陽乃本来の初登場回でした。
また、アニメ版ではワンニャンショーエピソードが削られ、サプレ初登場回と由比ヶ浜誤解加速回が一緒くたに纏められた回でもあります。
本来は暗雲が差し込む話ではありましたが、本作では最後を除いてほのぼの回に変えました。
もし、第2章で陽乃を出していなかったら、初期の雪乃以上に歪んだ陽乃さんが出ていたでしょう。
そうならずに済んでホッとしています。文化祭とかではかなりの爆弾を落とす人ですから…(^_^;)
もし第6部外伝で先行登場をさせていなければ、間違いなく第3章で敵に回るキャラでしたね…。しかもラスボスクラスとして…。


それでは恒例のアレを。

八幡の買い物は軽く流されている➡少し掘り下げました

クレーンゲームは雪乃が何度か挑戦して失敗した後に八幡が店員に頼んで取らせてクリア➡ハーミット・アメジストをアクトン・クリスタルで取らせてクリア。イカサマはばれなければイカサマではない!(身内全員からバレバレでした)

ユキペディアのパンさん講座➡ユキペディア&ジョジョペディアのパンさん講座

魔王初登場!➡既に四年前に登場しているし、この場にも既にいる。

陽乃は同じキャンパス仲間と行動し、先に行かせた➡キャンパス仲間と偶然遭遇。絡んできた。別にいらなかったけれど、陽乃登場シーンに何か加えたかったことと、魔王アヌビス神・陽乃の片鱗を少しだけ出した。

アニメ版ではサプレ初登場➡出来事だけは原作小説版準拠

陽乃と雪乃の関係は険悪➡良好です。

次回はあの方々が再登場します!
首を洗っとけ、遊戯部!

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