side比企谷八幡
小町「うわぁ………」
小さなうめき声をかき消すかのようにガタガタと最近調子が悪いエアコンが風を送っている。小町はそんな室内でゆっくりと首を横に振る。
小町「お兄ちゃん……これはない。これはないよ……」
日に焼け、色褪せた原稿用紙をそっと俺の事務机に置く小町。この原稿は中学の時に夏目漱石のこころを読んで書いた原稿だ。もちろん高校生活を振り替えってばりにふざけて書いたのは言うまでもない。
小町「お兄ちゃんがアレなのは知っていたけど、この作文はないわー……ないわー……何でこころがボッチ小説なのかなー」
八幡「うるせ。お前が作文を興味本意で見せろと言ってきたから出したんだろうが」
いろは「この当時はハチ君は荒れていたから…」
肩に停まっているペットショップに餌をやりながら、空いている手で小町の手から原稿用紙をひったくった。
小町「いやいやごめんって。読書感想文がめんどくさいから使えそうな所を使おうかなって思ってたけど、ヤッパいいや。お姉ちゃんのを貸してよ」
いろは「マチちゃん?正座したい?」
小町「やば………エリナお母さんモードに入っちゃった!お兄ちゃん、助けて!」
余計な事を言うからだ。そしてさりげなく俺を盾にして体を押し付けるな。ジョースケになる。
その仗助はヤレヤレという感じで俺を見ている。表向きは昨日の事など何もなかったように振る舞っている。
小町が今やっているのは夏休みの宿題だ。
小学生の頃は「夏休みの友」というお勉強冊子が配られるところもあるらしい。
……っていうか、俺とジョジョはそれを「夏休みの友」にしていなかった。速攻で夏休みの友は終わらせ、すぐに縁は切れた。
貴様など、この比企谷八幡の友には相応しくない!ちょいとでもこの俺にかなうとでも思っていたのかぁ!貧弱貧弱ぅ!モンキーなんだよぉ!
そして、中学以降はそれもなくなる。つまり、夏休み、友達ゼロ。まぁ、夏休みなんて無かったに等しかったけどなぁ!なんかこの社長室に籠ってるかイタリアで修行してるか空条家の朋子さんにしごかれていた気がするけどね!
そのネタはしっかり露伴先生の資料になったさ!
露伴先生と言えば相変わらず城廻先輩にベッタリされているらしい。
で、小町が今やっているのは読書感想文だ。
楽しようとしたのを諦めたのか、「何でこんなめんどくさい宿題があるのさ!ゴミゴミゴミゴミゴミゴミぃ!」とか言って人の机を占領して書き始めた。
問題を解くだけで済む宿題ならともかく、読書感想文とか自由研究とか図画工作とかはマジで面倒だったからな。俺は川尻隼人さんのロボット研究をまるパクリして両方の課題をクリアしたけど。後で教師に呼び出されたっけ。
あと小町…自分の机でやれよ。俺が仕事出来ないじゃあないか。あ、今度は陽乃さんの建築に関する論文の資料を書棚から出してレポート用紙に書き始めた。自由研究をそれで終わらす気だな?陽乃さん、怒るぞ?
いろはは頭を押さえて(=`~´=)となっている。エリナお母さんモード継続中。まぁ、いろはも人の事は言えないんだけどね?
俺は秘書室にインターホンでマッカンかき氷を出すように伝える。そして、ペットショップの前にかき氷用のデザート皿を差し出すと、ペットショップはホルス神で器用にかき氷を作って山盛りのかき氷が出来上がる。そしてそれに届けられたマッカンをかける。マッカンはかき氷のシロップ代わりにも最適だ。そしてペットショップは最高の製氷機とかき氷メーカーだ。
去年まではかき氷も秘書に頼んでいたからな…。自分で取ってきたり、かき氷を作ろうとすると秘書室に怒られるし。仕事させろと。
メンドクサ!
机に広げられているのは数々の引き継ぎファイル。
俺がいなくなった後にいろはに引き継いでもらう為の書類だ。そうとわからないように表紙だけは別物のように偽装してあるけど。
小町「はぁ……ちゃっちゃっと終わらせないと。自分の仕事もあるのに……月末の決算報告が間に合わないよー!何でボランティア活動があるのさー!」
ズキリ…と胸が痛む。ボランティア活動が俺の最後の仕事になるかもな…。
八幡「そういうのは普段からの積み重ねだからなぁ。締め切り間近でやってるからそうなる」
小町「だから、小町もちゃんと積んで重ねてたよ?」
八幡「それで出来たのがあの山か…貯めすぎだろ仕事。というか早く処理しろっつーの。関東支部の仕事が遅れるだろ」
関東支部の遅れは日本支部の遅れだ。そしたら支部長が不在のイタリア支部に怒られる。
八幡「一応聞くけど、お前、本気でうちの高校受けるつもりなの?」
少なくともブラッディ・スタンドの件はもうすぐ終わる。総武高校がアーシスの前線基地の役目も間もなく終わるはずだ。
小町「お兄ちゃん。何もアーシス前線基地だから小町は総武を受ける訳じゃあないよ?少しでも長くお兄ちゃん達と一緒にいたいもん。仗助お兄ちゃんやジョジョお姉ちゃんはいずれアメリカに帰るかも知んないけどさ…それでも一緒にいたいもん…」
小町………。思わずうるっと来た。
こんなに熱い家族愛を感じる事が嬉しい。
そして、ズキリとも来た。もう、いなくなるかもしれないのに……。
小町「………お兄ちゃん。何で?何で最近、みんなを見る目がそんなに哀しいの?」
八幡「!!………小町の愛情を感じてウルッと来たんだよ。な?ペットショップ?」
ペットショップ「クルルルルルル」
ペットショップの頭を撫でると、ペットショップも俺の顔に甘えて来た。鳥ってこんな甘えかた立ったっけ?
ペットショップ「クルルルルルル…」
………動物の方がそういうのは敏感だって話だからな。
ペットショップが最近、俺から離れない。俺になついていないカマクラも、何故か最近は俺の回りをウロチョロすることが多い。
小町「………お兄ちゃん………」
八幡「ほれ、早く宿題終わらせろ。ボランティアを兼ねたキャンプ旅行に間に合わなくなるぞ?小町の水着姿を楽しみにしてるんだからな」
半分冗談だ。だが、少しでもお前と……お前達と長くいたい…消える前に……。
読書感想文の題材は「こころ」か。確か新装版になったとき、表紙を露伴先生が書いたから買った覚えがある。
仗助は嫌そうな顔をしたけどな。
コアな露伴先生のファンはこぞって買い、売り上げが格段に上がったのだとか。もちろん俺とジョジョもコアなファンだから買った。
何で同じ兄妹でこうも違うんだ?
さっき小町が漁った書棚に並んだ背表紙に指を滑らせる。
「アクトン・クリスタルを使った一発芸のネタ帳」
ジョジョ…何を作ってるんだお前は。
気になったのでパラパラとめくってみる。
「パパごっこ」…腕だけ消して、俺の腕が…ある!
「花京院ごっこ」…お腹を消してアルミ板にめり込んでみる。ブラックユーモアなので没。
「DIOごっこ」…来たかボディ。ハッチ以外はなかなか受けた。2度目以降はワサビごっこに改名。
「徐倫お姉ちゃんごっこ」…胸を∞にする。かなり難しいし、服を透明にするから失敗したら単なる痴女。没。
八幡「……………」
俺はその本を手に取り、珍しく真面目に数字と格闘しているジョジョの肩をぽん♪と叩く。
静「???」
八幡「………」
スッと本を差し出し、優しい目でジョジョを見る。
静「!!!!」
声にならない悲鳴を上げるジョジョ。顔がみるみる赤くなる。涙ぐましい努力だ……。わざわざ宴会とかで使うネタを一生懸命考えていたに違いない。
ジョジョの机の上にネタ帳をそっと置いて……逃げるんだよォォォー!good-bye!ジョジョォォォ!
静「待てっつぅぅぅぅのぉぉぉぉぉ!ハッチぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
八幡「共用の資料棚にそんなもん入れとくお前が悪いんだろうがぁぁぁぁ!」
普段は材木座に向ける嫌な笑顔で振り返りながら逃げる。
静「だからって発掘すんなっつーの!しかもわざわざ取ってくんなぁ!」
社内で追いかけっこを始める俺とジョジョ。
小町「こうして見るといつも通りなんだけどね……」
いろは「ハチ君…」
仗助「ジョジョ……たまにイラストみたいな物を書いていると思ったら…」
静「見ないでぇぇぇぇぇ!お兄ちゃぁぁぁん!乙女の秘密を見ないでぇぇ!」
乙女の秘密なら共用の書棚に入れるなよ。入れるにしてもタイトルを誤魔化せよ。
まぁ、忘年会の一発芸で研究していたのだろうけど、多分、副社長が芸をすることはあまりないと思うんだけどね?
まぁ、とりあえず小町が宿題を終わらせ、月末の書類が終わるまでは俺の仕事はとりあえずない。なので臨時の修行に時間を当てる。今は屋上ヘリポートで追いかけっこ、じきに擬似ドンパチになるだろう。
今日も夏日だ。俺の残された時間は少ない。
←To be continued
八幡、消える気満々です。
運命を知ってからこの一月、色々探っていたのでしょうね。
それでは恒例の。
こころの作文のネタはカット➡この八幡とは大分違う内容だが、改編も難しいため
税の話もカット。
宿題をやっていたのは家のリビング➡会社の執務室
小町は八幡の宿題を写そうとしていた(学力不足)➡八幡の宿題を写そうとしていた(面倒だから)
小町が積んでいたのはやっていなかった宿題➡小町が積んでいたのは未処理の書類(大問題)
新装版の表紙の絵は有名漫画家➡といえば露伴。最近出番が多いですね。
マッカンは自分で用意。かき氷はネタだけ➡ペットショップがいるので即用意可能。
書棚にあったのは父親の忘年会の科学手品本➡静のネタ帳
それでは次回もよろしくお願いいたします。