やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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導かれし…


こうして比企谷八幡の夏休みは過ぎていく4

side比企谷八幡

 

露伴先生達とすれ違い、エスカレーターは三階まで俺を運び、人の流れにそのままついていくような形で俺は書店へと入る。ち…あまりにもスムーズ過ぎる。こいつらも護衛というか監視だな。

ここにはちょくちょく来ているので店内を見渡すまでもなく、書棚の位置関係は把握している。

入って右がコミック、その奥がライトノベル。通路を隔てたところにノベルズがあり、裏の棚が文庫の書棚だ。反対側が科学や専門書。レジを挟んで反対側が専門雑誌などがある。

完璧だな…で、R-18な亀仙人の愛読書はどこ?

普段はその手の本を読まないので、とんと見当が付かない。人間興味があるものしか視界に入れないし認識しない。だから認識するはずなのだがおかしい。

だって翌日には梱包されてんだもん!そして必ず幼なじみ達は一週間は口を聞いてくれなくなる。まさか店員に聞くわけにもいかないので店内を探し回る事にした。まだ年齢が達していないからどのみち買えないがね。いや

あれね、内容が内容なだけに勇気がいるしさ。この程度のことで煩わせちゃ悪いという俺の優しさね。

なんか見知った四人の冷たい視線から逃れたいからじゃあないよ?

 

ジョルノ「………」

 

トリッシュ「………」

 

雪乃「………」

 

陽乃「………」

 

やっと見つけた目的のコーナーの本はあれです!夏休みの大人の自由研究なんです!エッチなのはいけないと思います!と弁解しても無駄だよね?特に最初と最後の同名の親戚さんたち。

雪ノ下はわかるとして、何で他の三人は書店にいるの?

 

八幡「………」

 

ジョバァーナ一家「………」

 

お互い声も掛けず、雪ノ下と見つめ合うこと2秒。つなみのような恋しさなど生まれず、雪ノ下は取っていた本をそっと棚に戻すと、そのままスタスタ店の外に出ていった。

MU☆SHI!

いっそ清々しい程の無視だった。おいおい、これはもう無視の領域じゃあねぇぞ、黙殺だ黙殺。ポツダム宣言並みに黙殺されたよ、今。

トリッシュさんは一度ゴミを見るような目で俺を見た後に雪ノ下を追った。

 

ジョルノ「驚いたよ。最近の様子を見る限りではこういうのに興味がないように思えたのに。本能かな?」

 

逆に優しいその瞳が怖い。

 

ジョルノ「今夜、ミスタもツアー中だった音石明を連れてこちらに来る。君の事を聞いたら大層怒っていたよ。億泰くんも来ると言っていたし、君は知るべきだ。自分がどれだけ愛されているか」

 

陽乃「お姉さんには知られていないからわからないけど、そういうことに興味があって、それが八幡くんの考えていることを止める事になるのならば…わたしはいくらでも身を出すよ?いろはちゃんには内緒にしておくから」

 

二人とも本気だった。特に陽乃さんは敵以外に最近では被ってなかった心の仮面まで付けて……。

 

陽乃「八幡くん…わたしは本気だから。だからこそわかるの。君が……取り返しのつかないことをやるつもりなんだって…ねぇ八幡くん。わたしの体で八幡くんが止まるなら…わたしは…」

 

いつもの冗談めかしていってくるのとは違う。本気だ…本気の気持ちをぶつけてくる陽乃さん。やめてくれ。溺れそうになってしまうじゃあないか。

 

八幡「溺れちゃいそうで怖いですよ。陽乃さんにとっての川のように」

 

陽乃「良いんだよ?溺れても……溺れちゃってよ。八幡くんまで仮面を被らないでよ!」

 

その本気に今は応えられない。応えてはいけない。その陽乃さんの涙に後ろ髪を引かれてしまう。

 

八幡「千葉村から無事に帰れたら。溺れるのも良いかも知れませんね」

 

わりかし本気だ。幼なじみーズ、ジョースター家と同じくらい、俺はこの人が好きだ。仲間としても、友人としても、女としても。

 

ジョルノ「………僕は許さないからな。君が……」

 

八幡「じゃあな。ジョルノ、陽乃さん」

 

ジョルノの言葉を遮って、俺は歩き出す。

 

陽乃「八幡くん!」

 

陽乃さんは俺を後ろから抱き止め、無理矢理俺の顔を横に向ける。一般人に扮している護衛達が一斉に銃口を陽乃さんに向ける。それでも構わず陽乃さんは俺の唇を無理矢理奪う。陽乃さんとの二度目の口付け。しかし、ロマンチックなものも昂るものも何もない四方八方から銃口を向けられた…ただ悲しいだけのキス。

 

陽乃「このキスを少しでも気にしてもらえるなら…わたしの事を少しでも気にかけてくれるなら…悲しい覚悟だけは、決めないで…お願い…」

 

陽乃さんは涙を拭って雪ノ下やトリッシュさんを小走りで追った。

 

ジョルノ「ここでの撮影は終わりです。次の現場へいきますよ!SPW財団プロモーションビデオの撮影です。お騒がせして申し訳ありませんでした」

 

護衛達はハッとなって銃を懐にしまい、「はい!監督」と言ってさささっ!と移動を開始する。

 

一般人「何だ、撮影か」

 

一般人「あまりの緊張感に本物かと思ったよ」

 

一般人「さすがはSPW財団!役者も一流だ!うちのような三流企業には出来ないような事を平然とやってのける!そこに痺れる憧れるぅ!」

 

いつの間にハンディカメラを用意した、ジョルノ。

多分、護衛の一人が記録映像用に持っていたのを咄嗟に奪ったんだろうけど。

 

ジョルノ「僕も行くよ。連絡は受けていたけど、ここにいたのは本当に偶然だ。今日は3人と一緒に家族サービスってところかな?それと、これはこんな事もあろうかと思って常に護衛に持たせてるんだ。こんな事もあろうかと思って」

 

さすがはジョルノ!その用意周到さに痺れる憧れるぅ!

だけど最近のお前のキャラクターがますます掴めなくなったのは八幡的にポイント低い。

 

ジョルノ「弱ったな。僕はいろはと君のやり取りも好きだし小町も好きだ。陽乃の事も家族として応援したい。誰も泣くところも見たくはないから、君は三人とも囲んでしまうってのはどうだい?」

 

八幡「サラッと法律を無視しようとすんな」

 

ジョルノ「知ってるかい?僕はギャングだ。法律ならほとんど毎日無視しているよ」

 

八幡「知ってるよ」

 

ジョルノ「なら、覚悟するといい。僕はどうあっても君のまちがっている覚悟を止める。真実から出た真の答えなら、きっと滅びたりはしない。まだ諦めるな八幡」

 

八幡「ああ…。心に留めておくよ。ジョルノ」

 

ジョルノ「それでいい。なら僕は行くよ。チャオ」

 

ジョルノは陽乃さん達の後を追った。

 

ジョルノ「そうだ…真実から出た真の答えなら、滅びたりなんかしない…。決して八幡を滅ぼさせたりはしないぞ…母よ」

 

ジョルノは呟きながら去っていった。

ありがとな。もう一人の俺の兄貴分…。

ちなみに雪ノ下が見ていた本は写真集だった。猫の。

陽乃さんのマンションはペット禁止らしいからなぁ。

 

 

 

買い物を済ませ(エロ本じゃあないよ?)、建物から出る。俺は再び太陽の光に晒される。

日は傾き、夕焼けに染まりつつあるが、まだまだ暑い。

だが、この暑さがまた、いい。べとつくような生ぬるい潮風はちょっときついけどな。

何時間か経ったけど、承太郎はまだ第7倉庫前かな?

あそこまでやられた以上はもう諦めるしかないっていうのに疑り深い。

今日は何かと知り合いに会う。謹慎以降、第7倉庫以外のところ以外は大人しく家にいる。

今は一人でいい。一人がいい。

今日も世界は俺が関わらずとも正常に回っている。

そんな比企谷八幡がいなくても、ちゃんと回っている世界、というのを実感する。その事に密やかな安心感を覚えるのだ。

かけがえのない存在なんて作るべきじゃあなかったのかもしれない。失ってしまったら取り返しが付かないだなんて。失敗することも許されないだなんて。二度と手に入らないだなんて。

二度と手に入らない物に俺がなるなんて…。

なんでもっと早くわからなかった。もっと早くわかっていたら、雪ノ下や由比ヶ浜とは和解しなかった。材木座、戸塚、三浦、海老名、川崎兄弟とも距離を置いていた。関係性とも呼べない関係性で満足していた。何かあればたやすく切れて、誰も傷つかないで済んだのに。

脳裏にはいろはの顔が浮かぶ。

口許に指を当てて、コテンと顔を横に倒す仕草が好きだった…。何かが成功したとき、胸の前で握り拳をつくって大きく頷く姿が好きだった…。イタズラが過ぎて軽く怒らせてしまったときのハコフグのようにプックリと頬を膨らませる姿が好きだった…。

 

くそっ!やっぱり外出するんじゃあなかった。

 

結衣「あ、ヒッキー!おーい!」

 

相変わらずよく通る声だった。誰にも会いたくない。神がいるなら教えてくれ。何で誰にも会いたくない時に限って次々と知り合いに会わせるんだ!

 

八幡「おう……」

 

結衣「ヒッキー?泣いてたの?目が赤いよ?」

 

八幡「夕陽が目に染みてな…」

 

三浦「ごまかすなし。泣くくらいなら運命なんか受け止めるなし」

 

一緒に遊んでいたのだろうか、後ろから声をかけてきた奴がいる。チッ……三浦か。総武高校のスクールカースト最上位にいながら、ほぼすべての男子が恐れを抱く、極炎の魔術師の赤の女王。

背中がばっくりあいたミニスカワンピを艶やかに纏い、踵のかなり高いミュールが不機嫌そうにかつかつと地面を打つ。

薄いナチュラルメイクとでも言うのだろうか。城廻先輩の中に眠る辻彩さんの魂の影響なのか、先輩は三浦のメイクを前のキツメのメイクから今のメイクに指導して変え、以前よりはホンワカした柔らかい雰囲気になった。前はデストラーデみたいだったもんな。

今の世代に通じるか?デストラーデ。清原、工藤、秋山と共に西武ライオンズ黄金時代を築き上げた選手だ。

そんな柔らかなメイクの三浦でも、はっきりわかるほど不機嫌さを醸し出している。

 

三浦「海老名に電話している間にユイがまたナンパされてるのかと思って急いで戻ってみればヒキオじゃん…と、声をかけてみれば…」

 

三浦は俺の胸ぐらを掴んで捻り上げる。

 

三浦「また、第7倉庫に行ったんだってね?たった今、海老名から聞いたよ。第7倉庫前で弁慶みたいに仁王立ちしながら眠気と戦っていた承太郎のところにいたらしいし」

 

八幡「すっげー説明台詞」

 

三浦「ほっとけし!憎まれ口で誤魔化そうとすんなし!誤魔化し方が雑だし!」

 

結衣「優美子もヒッキーも…おかしいよ?何で二人とも涙目なの?せっかく優美子と遊ぼうと思ってたのにさ…ヒッキーはどうしたの?何してんの?」

 

由比ヶ浜に悟られたくはない。ヒートアップしている三浦にアイコンタクトを送る。

 

八幡『合わせろあーしさん』

 

三浦『仕方ないけどわかった』

 

八幡「あー、買い物?今日は幼なじみーズ達も用事でいないしさ。女子会ってやつか?あと仗助も仕事だし、ジョルノは雪ノ下姉妹とお出かけだし、承太郎はなんだか会社のあるところで仁王さましてるし。寂しくて涙を流していた。せめてジジイでも捕まえれば良かったんだけどな」

 

逃げてきたけど。

 

三浦「だったら泣く前に材木座とか連絡しろし。材木座も露伴先生の家に入り浸ってばかりして、城廻先輩の邪魔するくらいならヒキオの相手すれば良いし」

 

八幡「自分が相手してくれるって発想はないんでしょうか?あーしさん」

 

三浦「はぁ?何であーしがDIOの転生と遊びに行かなくちゃあならないんだし。あり得ないっしょ?あと、あーしさん言うなし。大体ヒキオ、今謹慎中じゃあないん?なにうろちょろしてるんだし。承太郎が仁王様してるんもヒキオが原因じゃあないの?」

 

八幡『おいこらあーしさん(# ゜Д゜)謹慎の事を言うなし』

 

三浦『ある程度事実を混ぜないとヒキオ、結衣に遊びに連れ出されるじゃん?』

 

うん。それは勘弁だ。俺のために…。

 

八幡『ありがとよ』

 

三浦『いや、普通に承太郎の為だし。そろそろ休憩させてやれし』

 

違った。承太郎の為だった。

 

結衣「何やったのヒッキー!謹慎だなんて!って言うか謹慎中に外に出ちゃダメじゃん!早く戻れし!」

 

八幡「そうする。じゃあな、三浦、由比ヶ浜」

 

素直に帰ろうとすると…

 

三浦「あ、もしヒキオに会ったらで海老名から伝言。社長とジョースターさんと一色と小町ちゃんが激おこで家で待ってるから覚悟しとけって。ジョジョハチのおいしいの期待してるって言ってた」

 

急に帰りたくなくなったし。

ぐいぐい背を伸ばした入道雲が、茜に染まっている。

涼しい風が吹き始めた。色々な感情を吹き飛ばすにはちょうどいい。夕涼みがてら歩いて帰ることにした。

ただ、仗助達が待っている以上、体感時間はゆっくり歩きながら、時間を止めて現実時間は急いで帰ることにした。

藍色と茜色が入り交じる黄昏時。その境目を見極めるにはまだしばらくの時間がかかりそうだ。

 

 

 

side空条承太郎

 

野郎……八幡。

さっきから時間が止まったり動いたりを何度も繰り返しやがる…。その度にこっちは緊張が高まる。

しかも厄介なのは…。

 

護衛『ーがや関東支部支部ちー』ブウウン(時が止まる)

 

8秒後…ブウウン(時が動き出す)

 

護衛『ーょうをロストしました!次のしー』ブウウン(時が止まる)

 

8秒後…ブウウン(時が動き出す)

 

護衛「ーじを願う!」

 

承太郎『済まん、もういちー』ブウウン(時が止まる)

 

承太郎「ーど………野郎……何を聞いて何を言いかけたのかいちいちメモをー」ブウウン(時が動き出す)

 

承太郎「取るのが………」

 

護衛「は?位置をとるですか?」

 

承太郎「……それでいー」ブウウン(時が止まる)

 

承太郎「………………」

 

八幡をロストしたという報告が入っている間にも時間を止めやがるから、時が止まる前後の会話をイチイチメモらなくちゃあならねぇ…最後の最後で最大級の嫌がらせをしてくるじゃあないか。

 

ブウウン(時が動き出す)

 

護衛『は??』

 

承太郎「任せる」

 

護衛『は、はぁ……』

 

ボケ老人になった気分だ…やれやれだ。

 

←To be continued




はい、今回はここまでです。

原作の相違点

八幡は理系の本を探していたが場所がわからない→アレな本を探していた。

雪ノ下と遭遇したのは原作通り→陽乃もいた。

灼熱の暑さがイヤ→それすら心地良い

かけがえのない存在なんていない→作りすぎたことを後悔している

由比ヶ浜との関係リセットを思い出す→いろはの何気ない仕草にいとおしさを思い出す

三浦のメイクは色々キツイデストラーデだった→めぐりの能力(を持っている人の前世の経験)が早速役に立ちました。

由比ヶ浜と長々と話す→予定が押しているのでカット。ネタになりそうなものを見つける度にネタに走るので。

三浦は基本、八幡を無視→話しかけてきた。

それでは次回もお願いします。


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