やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

152 / 731
奏で…


運命と希望

side比企谷八幡

 

静かな闇のなか、俺はしばらくぼーっと虚空を見ていた。

予言の時は明日の夜…。予言か

成されれば明日の今頃には俺は消えている。

妙にモヤモヤしたものがあるせいで、みんなが静かになってもなかなか寝付けなかった。部屋割りは学生組の男子とエンポリオと仗助だ。寝返りをうつと戸塚の寝顔が見える。

 

仗助「眠れねぇのか?八幡」

 

八幡「ああ。やっぱり予言の時が近づくとな」

 

仗助「俺もだ。少し一緒に夜風に当たってくるか?」

 

八幡「そうだな。たまにはお前と二人きりってのも悪くない」

 

仗助「そうだな。最近では誰かしら近くにいるからな。半年も経っていないのに懐かしいぜ」

 

他の四人を起こさないようにそっと立ち上がり、外へと出た。

高原の夜。静寂と涼しさに俺の心も徐々に落ち着いてくる。もうなるようにしかならない。やれるだけの全てを出しきるだけだ。ザザザ…と葉が鳴る音も心を落ち着かせる。波紋を習得してなければビクビクしたりするかも知れなかったが、気配を探れる俺では周囲に何かあればすぐに気が付く。一生肝試しやお化け屋敷は楽しめないな。

だからこそわかる。陽乃さんと雪ノ下が林立する木々の間に立っている。

二人は小さな声で歌っていた。静寂な闇の中で、囁くような歌声はとても気持ちが良かった。

 

仗助「寂しい、そして綺麗な歌声だな。雪ノ下も不安なんだろう」

 

八幡「………そうだな。俺よりも、運命がわからない雪ノ下にとっては不安なんだろうな」

 

静かな声でいったつもりだが、同じ波紋の戦士である陽乃さんの耳には仗助の気配と共に察知されてしまう。

 

陽乃「社長…それに八幡くん…」

 

雪乃「社長と…誰?」

 

おい…案外余裕あるだろ。

 

雪乃「こんな時間にどうしたの?永眠はしっかりとった方が良いわよ?」

 

八幡「もしかしたら明日の今頃はそうなっているかもな」

 

俺の言葉に雪ノ下は一瞬、目を見開く。そして哀しげな目になって空を見上げる。

 

八幡「お前も…不安なんだよな?運命が…だから星でも見て落ち着きたかったのか?」

 

都会に比べて、ここら一帯は星がよく見える。周囲に明かりが少ないほど星は輝きを放つのだ。もしかしたら明日には消えるかも知れない俺の命の輝きは今、どれだけ輝いているのだろうか…

 

八幡「俺もだ…。神の整地で、原石は消える。波紋の一族に伝わる予言によれば、俺はこの地で消えるらしい」

 

雪乃「!!!」

 

陽乃「八幡くん……その予言は……いつから知っていたの?!」

 

八幡「………由比ヶ浜の誕生日の少し前から知っていました…」

 

仗助「八幡……お前を消えさせねぇ……俺達五人はずっと一緒だったじゃあないか……」

 

八幡「俺だって……消えたくはねぇよ……。だけどな、俺の…俺の前世の罪は重い。俺の命で世界が救えるのであれば………だから、雪ノ下。お前の運命も、俺が肩代わりしてやる………」

 

陽乃「DIO様………八幡くん!」

 

陽乃さんは俺に抱きついてくる。俺の胸の中で嗚咽を漏らす陽乃さん。

ありがとう…こんな俺のために泣いてくれて。アヌビス神……あなたの魂に触れて、今この時だけでも俺は幸せです。

 

雪乃「比企谷君………私だって……あなたを消えさせたくない。どうして……どうして話してくれなかったの?あなたの運命を、アーシスが受け入れる訳がないじゃない。前世の罪ってなに?あなたは既に一度は世界を救っているじゃない…」

 

雪ノ下も涙ながらに訴えてくる。

 

八幡「それだって俺の罪の沿線の上にある。所詮は償いなんだよ……ジョースターの宿命だって、俺の…ディオの罪が狂わせたものだったしな…」

 

仗助「ぐっ………八幡………お前は……まだ……」

 

仗助はギリギリと歯を軋ませる。おい、昔のお前だったら涼しい顔で「バーカ。俺がさせねぇよ」と言って俺の頭をポンポンっと叩いていたじゃあないか。頼りになる兄貴分の顔を見せてくれよ。

 

陽乃「前にも言ったよね?八幡くん……悲しい覚悟だけは決めないで……またひねくれていて、意地が悪くて、徐倫ちゃんをからかって…それでいながら温かい私達の中心でいてよ……」

 

八幡「……………」

 

陽乃さんの懇願に俺は答えることは出来ない。雪ノ下も由比ヶ浜も、罪にまみれた俺よりももっと輝かしい未来があるだろう。葉山も戸部も大岡も相模も…ブラッディ・スタンドが関わっていなければ、間違いを繰り返しながらも徐々に成長し、キラキラした未来があるのかもしれない。汚れた俺は……そんな人柱になることこそふさわしい…。

 

陽乃「いや………消させない……原石はいつか磨かれ、宝石になるべきよ!あなたは砕かれて消えるべき人じゃあない!消えさせないから!私が…いろはちゃんが…小町ちゃんが…社長が……ジョジョちゃんが!」

 

陽乃さんは涙を流しながら、俺に悲しいキスをしたあとに走り去って行った。ん?陽乃さんからかすかな光が出て来て俺に入ってくる。

 

雪乃「姉さん……。比企谷君」

 

雪ノ下は俺に軽いビンタをする。

 

雪乃「私もあなたの覚悟は認めないわ…でも…」

 

雪ノ下は俺の手を取り、握手をした。

そして、美しい笑顔を俺に向けた。

 

雪乃「ありがとう……。あなたは自分を外道と言いながらも、私達姉妹を人の道に戻してくれた。そんなあなたには姉と一緒にこれからもいて欲しい…だから。私も諦めないから、あなたも諦めないで欲しい…」

 

雪ノ下はうっすらと漏れた涙を拭い、ロッジへと足を向ける。

 

雪乃「そろそろ戻るわ。おやすみなさい社長、比企谷くん…」

 

仗助「ああ…おやすみ。しっかりと休めよ。雪ノ下」

 

八幡「………おやすみ」

 

雪ノ下はロッジへと歩き出し、立ち去った。

ありがとな。

その後ろ姿を見送っていると、仗助は俺の肩を叩く。

 

仗助「座ろうぜ。何も考えず、お前と一緒に静かな時間を過ごしたい。良いだろ?八幡」

 

いつもの仗助がそこにいた。

 

八幡「お前がいつも見守っていてくれて、本当に楽しかったよ。仗助」

 

仗助「過去形で言うんじゃあない。乗り越えるんだよ。いつもの俺達らしくな」

 

八幡「……そうだったな」

 

見ると仗助からも光が出て来て、俺に入ってくる。

暖かい光が………。

俺達は日付が変わってしばらく立つまで、思い出話に華を咲かせた。

ありがとう……俺の大好きな兄貴分。

誰もが過去に囚われている。どんなに光に進んだとしても、ふと見上げればありし日の出来事が星の光のごとく、降り注いでくる。笑い飛ばすことも消し去ることもできず、ただずっと心の片隅に持ち続け、ふと瞬間に甦る。

俺も、アーシスのみんなも、ブラッディ・スタンド使い達も、柱の一族も……。

 

side???

 

……あなたの魂に幸せが訪れるように……

……あなたの魂もいつか幸せを願える日が来るように……

……わたしはあなたの幸せを願います……

……比企谷八幡……

 

 

side比企谷八幡

 

夢を、見ていた。

砕かれた俺の心を、みんなが光に包んで集めてくれる。

 

いろは、徐倫、戸塚、川崎、エルメェスさん、アナスイさんが俺達でありながら俺達ではない誰かと共に…

 

小町、ジョセフ、大志、材木座、けーちゃん、由比ヶ浜、ペットショップがやはり俺達ではない俺達と別の本物達と共に…

 

ジョジョ、承太郎、ポルナレフさん、三浦、海老名、サブレ、ミドラーさんが承太郎に似た誰かと巫女服の女やその仲間達と共に…

 

仗助、億泰さん、康一さん、露伴先生、音石さん、城廻先輩、カマクラが知らない悪魔の翼を持つ知らない人達と共に…

 

陽乃さん、ジョルノ、留美、ミスタさん、トリッシュさん、雪ノ下があいつとあいつの本物と共に…

 

光が集まり、砕かれ、冷たくなった俺の体が形を成していく…。ゆっくりと形を取り戻す俺の体を包む暖かく、柔らかい手と俺の名前を呼ぶ甘やかな声。誰もが涙を流しながら俺の目覚めを笑って喜ぶ。

辛く、苦しい運命の先にあるわずかな希望…。それは悲しみを乗り越えたみんなの愛が俺を包んだ、とても幸せな夢のように思えた。

もしかしたら最後かも知れない朝を迎える夢としては悪くない、俺の願望が見せた幸せの光景。

それが叶わない事だとは知っている。予言だと俺の運命は次の朝を迎える事はない。これが最後の目覚めだと解っている。だから…まだ覚めてほしくない。この幸せな朝をまだ堪能していたい。

 

小町「お兄ちゃん……良いんだよ。辛いなら、全てが終わるまでずっと眠っていても……」

 

そうか。現実で俺に暖かさと幸せを与えてくれていたのは小町だったのか。一緒のベットに入り、俺の背中に抱きついて暖かさを与えてくれる小町。

夏の暑さもこの高原の朝では少し肌寒い。タオルケット一枚では少し寒かったが、小町の温もりが冷えた俺の心と体に温もりを与えてくれる。

このまま温もりを感じながら全てを委ねたい。だが、そんな溺れそうになる弱い俺に、別の俺が喝を入れる。

 

八幡「おはよう。こま……」

 

小町「起きないで……お兄ちゃん。陽乃さんから聞いたよ。神の聖地で原石は消える…波紋の一族の予言でそう出ていたって……お兄ちゃん…運命を受け入れ無いよね?死なないよね?」

 

八幡「………」

 

小町「イヤだよ……前世から小町はジョナサン・ジョースターを求めてた……。生まれ変わってもお兄ちゃんをずっと求めてた……。離したくない。やっと手に入ったのに…お兄ちゃんを離したくない!起きないで!お兄ちゃん!小町を残して行かないで!だって……」

 

小町は俺の腹に回した腕をより強く力を込め、更に体を密着させる。絶対に離さないという強い意思を感じる。

 

小町「だってお兄ちゃん!運命を受け入れちゃうつもりでしょ!死ぬ気なんでしょ!絶対にイヤ!死なないで!お兄ちゃん!ううう……うわぁぁぁぁん!」

 

号泣。俺だって死にたくはない。小町の温もりをいつまでも感じていたい。だけど、それを俺が俺を許さない。

 

八幡「起きるよ。それが俺の目的だったんだから」

 

タオルケットを剥がし、俺の背中に顔を押し付ける小町の頭を俺は撫でる。

 

小町「ううう………お兄ちゃん……。どうしても…起きちゃうの?死んじゃうかも知れないのに……小町を置いていっちゃうの?お姉ちゃんも、陽乃さんも……」

 

八幡「……そうはならないように頑張るさ……小町のゴミィちゃんをまた聞きたいからな」

 

小町「お兄ちゃん!」

 

小町が俺の正面に回って唇を押し付け、しばらくそのままの体勢で固まる。

どのくらいこの体勢でいたか……。

 

小町「お兄ちゃん……お兄ちゃん!うわぁぁぁぁん!」

 

泣きながら小町は走り去って行った。

小町から光が出て来て、また俺の体に入る。

陽乃さん、仗助、小町……夕べから何だろう…。この光は……。

小町と入れ替わりにジジイが入ってくる。ジジイは何も言わない。普段から厳しい顔を、更に厳しくした表情で俺を睨んでくる。

 

ジョセフ「…………」

 

八幡「……………」

 

俺は起き上がり、ジジイの視線を受け止める。色々な感情を圧し殺して震えるジョセフ。

 

ジョセフ「………小町を振り切ってまでも起きるか。お前さんは」

 

八幡「……戦略的に逃げても、戦いそのものからは逃げない。それがジョースターの家訓だろ?」

 

ジョセフは俺の体を掴み、顔を下に向けて震える。

 

ジョセフ「………………また………お前に背負わせてしまうのか……ワシは………」

 

ジョセフから光が出て、俺に入り込む。

 

ジョセフ「ワシは涙を流さん…どんな結末になっても、ワシだけはお前の黄金の精神に敬意を払う。じゃがな、諦める訳じゃあないぞ!ワシが一番嫌いな言葉が諦めるで、次が敗北なんじゃ!最後まで希望は捨てるんじゃあないぞ!」

 

八幡「……ああ」

 

ジョセフ「……今はその返事で納得しよう。では、朝飯じゃ。お前さんとこうして朝飯を食べに行くのも、何度目かのう?」

 

八幡「もう何度も行っているだろ?俺が俺となったときも、最初に飯を食べたのがジジイとだったしな」

 

ホテルロイヤルオークラで、今よりヨボヨボの姿だったジョセフと共にお粥を食べたっけな…丁度12年まえの今頃だったような気がする。

 

ジョセフ「また一緒に食べるんじゃ。良いな?八幡」

 

八幡「ありがとな、ジョセフ。お陰で元気が出た」

 

ジョセフ「らしくない…さて、今日こそ波紋の一族の悲願を果たす時じゃ!しっかりと食べて、力をつけるんじゃ!」

 

八幡「ああ」

 

運命の日の…朝がはじまる。

 

←To be continued

 

 

 




今回はここまでです……

悲しい覚悟ですね。八幡も、周囲も……

原作との相違点

八幡は戸塚、葉山、戸部とバンガローで宿泊➡宿泊している建物が違うため戸塚、材木座、大志、エンポリオ、仗助と宿泊。

入浴シーン及びコイバナのシーンはカット。

八幡は葉山の好きな人の件でモヤモヤしていた➡運命についてモヤモヤとしていた

八幡は一人で夜風に当たりに行く➡仗助と共に夜風に当たりに行く

雪ノ下は三浦と口論の末に泣かせてしまったので夜空を見に外に出ていた➡三浦と口論をする理由がない。代わりにブラッディ・スタンド使いの運命について眠れなかったので、姉の陽乃と共に外に出ていた。

八幡を起こしたのは戸塚➡小町


それでは次回もよろしくお願いいたします。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。